大学は「授業科目を自ら開設」せずともよくなるのか
大学の授業科目の相乗りが可能に、再編にも影響か(ニュースイッチ) - Yahoo!ニュース
文部科学省は各大学の独自開設が原則の授業科目に対し、連携する他大学の科目をそのまま活用できる新たな仕組みを始める。この「連携開設科目」は1法人傘下の大学間か、新制度で文部科学相認定の「大学等連携推進法人」に参加する大学間が対象だ。
大学等連携推進法人に関するニュースが出ていました。これは、7月15日に行われた中央教育審議会大学分科会(第115回)を受けての記事だと思います。今回は、この件について考えてみます。
1.現行法令
本件に関連する現行法令は、以下の通りです。
(教育課程の編成方針)
第十九条 大学は、当該大学、学部及び学科又は課程等の教育上の目的を達成するために必要な授業科目を自ら開設し、体系的に教育課程を編成するものとする。
ここにある通り、”大学は〜〜必要な授業科目を自ら開設し”とされており、基本的には授業科目は各大学にて開設するという前提で運営されています。今回のニュースは、この制限を緩和することと理解しています。
2.新たな仕組みの概要
大学分科会の資料では、大学等連携推進法人や同一法人内の授業解説に関する特例は、以下の通り示されています。
一定の要件を満たす認定一般社団法人の社員が設置する大学(専門職大学及び短期大学を含む。以下同じ。)間及び複数大学設置法人が設置する大学間において、➀他の大学が当該大学と連携して開設する授業科目を当該大学が自ら開設したものとみなすことができる特例措置を設けるとともに、②共同教育課程を設ける場合の各大学で修得すべき単位数の緩和を規定。
①及び②いずれの教育上の特例にも共通する要件として認定一般社団法人及び複数大学設置法人に求める事項
(1).認定一般社団法人
ア 法人の教学面の代表者が参画する組織(理事会)の設置
イ 同理事会における大学等連携推進方針の策定・公表
ウ イの大学等連携推進方針の文部科学大臣への届出
(2).複数大学設置法人
ア 法人の教学面の代表者が参画する組織(連携推進管理体制)の設置
イ (1).イの大学等連携推進方針に準ずるものの策定・公表
ウ イの大学等連携推進方針に準ずるものの文部科学大臣への届出
①連携開設科目に係る規定等の整備
(1).認定一般社団法人の社員が設置する大学間及び複数大学設置法人が設置する大学間において、他の大学が当該大学と連携して開設する授業科目を当該大学が自ら開設したものとみなす特例措置を設けること
(2).(1).の場合において、大学は、以下のア及びイの要件を満たさなければならないものとすること
ア 当該大学が自ら開設したものとみなす授業科目(以下、「連携開設科目)」が、大学等連携推進方針(複数大学設置法人が設置する大学間の場合にあってはこれに準ずるもの)に沿って開設されていること
イ 連携開設科目を自ら開設したものとみなす大学及び当該科目を開設する大学等は、当該連携開設科目を開設し、実施するため、以下に掲げる事項の協議の場(教学管理体制)の設置を義務付けること
(ア) 授業の方法及び内容並びに年間の授業計画
(イ) 学修の成果に係る評価に当たっての基準
(ウ) 連携開設科目の履修に係る学生の利便及び移動等への配慮
(エ) その他連携開設科目の開設・実施に必要な事項
(3).大学は、学生が他の大学等において履修した連携開設科目について修得した単位を、当該大学における授業科目の履修により修得したものとみなすものとすること
(4).卒業の要件として修得すべき単位数のうち、連携開設科目の履修により修得したものとみなす単位数の上限は、30単位とすること
(5).当該大学以外の大学が開設する授業科目を連携開設科目として当該大学が自ら開設したものとみなす場合には、当該大学は、連携開設科目に係る以下の事項を公表しなければならないものとすること
• 授業科目、授業の方法及び内容及び年間の授業の計画
• 学修の成果に係る評価
②共同教育課程の修得すべき単位数の緩和について
(1).共同教育課程の全ての構成大学の設置者が同一である場合、又は認定一般社団法人の社員である場合であって、当該設置者又は認定一般社団法人が上記の要件を満たすときは、共同教育課程に係る授業科目の履修によりそれぞれの大学で修得すべき単位数について、学士課程で「31単位」又は「32単位」とされているものを「20単位」とするものとすること
(2).それぞれの大学において当該共同教育課程に係る授業科目の履修により修得すべき単位数のうち、連携開設科目の履修により修得した単位は除くこととする。
緩和の特例(連携開設科目)を受けるためには、まずは、体制の整備や方針の策定が必要です。さらに、会議体で検討しなければならないこともあります。ただ、上記の文言だけ読むと、それほど難易度が高いとは思えません。むしろ、既存の教育課程にどのように連携開設科目を位置付けるかが難しそうだと感じます。
3.懸念
まだあまり詳細な内容が明らかになっていないところもありますが、本件についていくつか懸念があります。
3−1.他の条文との関係はどうなるか
大学設置基準には、第19条の他にも、教育課程に関する条文があります。
(授業科目の担当)
第十条 大学は、教育上主要と認める授業科目(以下「主要授業科目」という。)については原則として専任の教授又は准教授に、主要授業科目以外の授業科目についてはなるべく専任の教授、准教授、講師又は助教(第十三条、第四十六条第一項及び第五十五条において「教授等」という。)に担当させるものとする。
第10条では、主要授業科目は原則として専任の教授又は准教授に担当させるとしています。この点は連携開設科目と相容れないものになる可能性がありますので、第10条も改正されるのでしょうか。個人的には、大学には教授が多いという批判は第10条に影響されているとも感じていますので、第10条の改正には注目しています。
併せて、連携開設科目の内容によっては運動場や校地校舎の基準が緩和されるのか、(おそらくないでしょうか)気になります。
3−2.適用範囲はどうなるか
すでに、各大学にて、他大学の授業を履修してその単位を認定する単位互換が行われています。ただ、選択科目として認定されている場合が多いのではないかと思っています。
今回の連携開設科目については、必修科目まで他大学の開設科目で代替できるのか、その適用範囲は気になるところです。
3−3.質保証はどうなるか
他大学の授業科目を流用するわけですので、その質保証をどのように行うのかは難しいと感じています。「協議の場」にて行うのでしょうが、教育課程は「みなす大学:授業流用大学」が、当該授業は「みなし大学(みなされる大学):授業開設大学」が責任を持つことになるのでしょうか。
一応、大学分科会の資料では、以下の通りとなっています。連携開設科目の開設に自ら開設したものとみなす側の大学の強い関与を法令上担保する観点から、連携開設科目の実施状況に係る自己点検・評価や認証評価における適切な指針となるよう、大学間の協議事項を告示で要件化するとともに、みなす側の大学に連携開設科目の情報公表を義務付けること。一方、みなし側の大学数の上限については法令上一義的に決定することが困難であること、他の類似する制度(共同教育課程等)において規定していないことから法令上上限を設けることはしないが、施行通知等において上限の目安を示すことを検討。
また、「みなす大学」が学修の成果に係る評価を公表となっている点は気になります。評価の基準ではなく評価を公表となると、成績評価の分布などを公表するということでしょうか。
3−4.設置申請等が大変そう
実際に連携開設科目を用いて設置申請や課程認定申請などを行うとなると、他大学との調整が必要なので、結構大変そうだなと感じました。
3−5.学生への配慮をどうするか
他大学の授業科目を授業するため、学生への説明や理解を得ることがどこまでできるのかという点も気になります。特に、遠隔授業が(予期せぬ事態により)普及しているとは言え、図書館などの施設面も含めてどこまで学生の学修に配慮できるかは考えなければなりませんね。