単位互換事業の難しさと効果的な利用方法について
最近何件か、遠方の大学の方とコンソーシアムにおける単位互換事業の運用について話をする機会がありました。近年の高等教育政策においても大学間連携の重要性が大きくなっており、その具体的な事業の一つとしても単位互換事業を実施は例に挙げられています。各大学間や大学コンソーシアムなどにおいてもすでに単位互換の取り組みは発達しているわけですが、改めて、単位互換事業の難しさと効果的な利用方法について、考えてみます。
単位互換とは何か
単位互換の関連法令
大学設置基準 抄
(他の大学又は短期大学における授業科目の履修等)
第二十八条 大学は、教育上有益と認めるときは、学生が大学の定めるところにより他の大学又は短期大学において履修した授業科目について修得した単位を、六十単位を超えない範囲で当該大学における授業科目の履修により修得したものとみなすことができる。
(大学以外の教育施設等における学修)
第二十九条 大学は、教育上有益と認めるときは、学生が行う短期大学又は高等専門学校の専攻科における学修その他文部科学大臣が別に定める学修を、当該大学における授業科目の履修とみなし、大学の定めるところにより単位を与えることができる。
2 前項により与えることができる単位数は、前条第一項及び第二項により当該大学において修得したものとみなす単位数と合わせて六十単位を超えないものとする。
(入学前の既修得単位等の認定)
第三十条 大学は、教育上有益と認めるときは、学生が当該大学に入学する前に大学又は短期大学において履修した授業科目について修得した単位(第三十一条第一項の規定により修得した単位を含む。)を、当該大学に入学した後の当該大学における授業科目の履修により修得したものとみなすことができる。
2 大学は、教育上有益と認めるときは、学生が当該大学に入学する前に行つた前条第一項に規定する学修を、当該大学における授業科目の履修とみなし、大学の定めるところにより単位を与えることができる。
3 前二項により修得したものとみなし、又は与えることのできる単位数は、編入学、転学等の場合を除き、当該大学において修得した単位以外のものについては、第二十八条第一項(同条第二項において準用する場合を含む。)及び前条第一項により当該大学において修得したものとみなす単位数と合わせて六十単位を超えないものとする。
単位互換とは、自大学以外の教育により習得した学修を自大学の単位として見做すことができる制度のことです。大学設置基準第28条から30条を根拠としています。 なお、本稿では、大学設置基準第30条にある入学前の学修における単位互換について、言及しません。
単位互換制度の経緯
制度・教育改革ワーキンググループ(第16回) 配付資料には、単位互換制度の経緯が整理されています。上限単位数等徐々に拡大されてきました。
単位互換の実態
制度・教育改革ワーキンググループ(第16回) 配付資料には、単位互換制度の実態が整理されています。大きく分けると、
- 大学等の間の単位互換
- 大学等と放送大学との間の単位互換
- コンソーシアムや大学間連合など3以上の大学等の間の単位互換
でしょうか。本稿では、特に3.について、考えます。
単位互換事業の難しさ
加盟機関が増えれば調整の手間が急増する
単位互換の協定に参画する機関が増えれば増えるほど、各大学間の調整は加速度的に増えていきます。ちょうど、点が増えるごとに、各点を結ぶ線分が指数関数的に増加するイメージです。(下記の線分の数を示す数式では、yが調整経路の数、nが加盟機関数と考えることができます。)
事務局を設け、各大学間ではなく事務局を経由した調整を必須化する事も考えられます。その場合も、事務局に掛かる負担は一定程度以上でしょう。単位互換に申し込む学生数規模にもよりますが、もし多数の学生が単位互換を利用するのであれば、調整の手間は無視できるものではありません。
履修登録期間や成績確定日をどのように調整するか
単位互換を利用する学生は、科目開設大学において学籍を発生させるため、科目開設大学への履修申込が必要です。また、科目開設大学で成績が確定した後、所属大学内の然るべき会議体にて、単位の読み替えを確定させなければなりません。そのため、履修登録期間や成績確定日(科目開設大学から学生所属大学への成績通知日)は非常に大切です。
大学コンソーシアム等における単位互換事業の履修登録期間は、以下の3つに大別できると考えます。
それぞれにデメリットがありますね。1.は学生にとってわかりにくく、2.は学内調整が非常に大変です。3.は、おそらく単位互換用の履修登録期間が各機関の履修登録期間よりも短くなることが予想されます。
ポイントは加盟機関の属性と予想され得る申し込み学生規模でしょう。特に、大学のみではなく短期大学や高等専門学校、あるいは医療等資格系の学校が加盟している場合には、学年暦が各機関全く異なることが予想されます。申し込み方法や広報手段を統一し、履修登録機関は無理に統一しないというのが無難なところなのかもしれません。
e-Learningを行うだけでは教育効果が上がらない
特に機関間の距離が離れている場合は、対面授業ではなく、同時配信による遠隔やe-Learningによる授業も考えられます。単位互換における授業の形態を大別すると、概ね以下のような感じでしょうか。
- 対面受講
- 同時配信による遠隔受講
- e-Learning
- 科目開設機関の学生は対面で受講し、その様子を録画して単位互換学生用に配信
- 科目開設機関、単位互換ともにネットで受講
- 対面とe-Learningを組み合わせたBlended Learning
個人的には、最もリスクが高いのは2.の同時配信だと考えます。インフラの整備とともに、受講側でも人員の配置等が必要です。ネットワーク環境により意図せずに切断される(接続できなくなる)事もあり得ます。また、3.1.についても、対面受講の学生とe-Learningの学生への対応に差が出てくる事も懸念したい点ですね。教育効果を考えると、単純に遠方から受講できるようにするだけではなく、インストラクショナル・デザインをしっかり検討しなければならないと感じます。
なお、文部科学省告示第114号では、大学設置基準第25条第2項(※大学は、文部科学大臣が別に定めるところにより、前項の授業を、多様なメディアを高度に利用して、当該授業を行う教室等以外の場所で履修させることができる。)の規定に基づき、大学が履修させることができる授業等について定める件として、以下の通り規定されています。
通信衛星、光ファイバ等を用いることにより、多様なメディアを高度に利用して、文字、音声、静止画、動画等の多様な情報を一体的に扱うもので、次に掲げるいずれかの要件を満たし、大学において、大学設置基準第二十五条第一項に規定する面接授業に相当する教育効果を有すると認めたものであること。
一 同時かつ双方向に行われるものであって、かつ、授業を行う教室等以外の教室、研究室又はこれらに準ずる場所(大学設置基準第三十一条第一項の規定により単位を授与する場合においては、企業の会議室等の職場又は住居に近い場所を含む。以下次号において「教室等以外の場所」という。)において履修させるもの
二 毎回の授業の実施に当たって、指導補助者が教室等以外の場所において学生等に対面することにより、又は当該授業を行う教員若しくは指導補助者が当該授業の終了後すみやかにインターネットその他の適切な方法を利用することにより、設問解答、添削指導、質疑応答等による十分な指導を併せ行うものであって、かつ、当該授業に関する学生等の意見の交換の機会が確保されているもの
最低限、この告示に書かれたことは遵守しなければなりません。
単位互換事業の効果的な利用方法
共同授業の開発
大学コンソーシアムでよくあるのが、加盟機関が連携してご当地に関する共同授業を開発し、複数の機関の学生が履修することです。例えば、大学コンソーシアム鹿児島では、「授業交流コーディネート科目」として、加盟機関の教員が共同で授業を形成しています。この場合、大学コンソーシアムが授業を開講することはできないため、加盟機関のいずれかを授業開設機関として指定する必要があります。
単科大学における組織的な履修指導
単科大学が近隣の総合大学の授業を単位互換事業により履修することで、単科大学のみで困難な多様な授業(特に教養科目)を学ぶことができます。大切なことは、それを組織的に行うことです。ガイダンスや履修の手引きでの言及や、場合によっては卒業必要単位数に含めることができるなどの対応を行うことで、より意味のある形で単位互換事業を学生が利用することができるようになるでしょう。
履修登録に失敗した学生の救済手段
履修登録期間が加盟機関で異なっている場合、条件が合致する(卒業要件として認めれるのか、履修登録が間に合うのか、など)のであれば履修登録に失敗した学生に対して、単位互換を利用して他機関の授業を履修・単位修得するという選択肢を示すことができます。この場合も、学生所属機関にて履修指導を行う職員が単位互換事業について理解し、説明できることが必要です。