兵役に伴う休学の対応について

※個人的なメモです。

1.背景

 2019(令和元)年度外国人留学生在籍状況調査結果*1によれば、韓国からの留学生は18,388人であり、国別でみても第4位の多さである。一方、韓国には徴兵制が存在し、検査に合格した者は定められた年齢までの一定期間中に兵役に従事しなければならない*2。本邦に入学している韓国人留学生においても同様に兵役に従事する義務があり、対象となった学生は休学等により一時帰国し兵役に従事しているものと推察される。また、韓国以外に徴兵制度が存在する国からの留学生においても、在籍期間中の兵役については同様に対応していると思われる。

 昨今の新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、本邦では、出入国管理及び難民認定法第5条第1項第14号に指定する外国人として、特段の事情がない限り、上陸の申請日前14日以内に所定の国・地域に滞在した者の上陸を拒否している*3。各大学においては、上陸拒否の対象となっている国・地域からの留学生に対し、インターネットを活用した教育・研究指導活動を行うとともに、場合によっては当該者を休学として学籍を維持しているものと思われる。この休学措置について、一部の大学においては、入国拒否期間が長期化するに伴い、本人の責に帰さないものとして、当該休学期間を各大学が定めた休学期間の上限に算入しないこととしている*4

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う上陸拒否と各国が定めた兵役とは本人の責に帰さず本邦に滞在することができないという点では同意であり、兵役に伴う休学においても新型コロナウイルス感染症に係る上陸拒否に伴う休学と同様に休学期間の上限に算入しない取り扱いとすることができる可能性があると考える。

 本稿では、その判断のための予備的調査として、各大学における兵役に伴う休学の対応を確認するものである。

2.方法

 ウェブ検索において「○○大学」「兵役」「休学」と検索し、各種規定類を確認する。対象はすべての国立大学(86大学)とする。

3.結果

 上記2.の結果、長岡技術科学大学及び東京工業大学広島大学において、兵役に伴う休学は学則が定める休学期間の通算年数に算入しない旨の規定を確認した。

国立大学法人長岡技術科学大学学則第27条第2項ただし書き及び第59条第2項ただし書きに規定するその他の別に定める理由による取扱いを定める細則 抄

(休学の理由)

第1条 国立大学法人長岡技術科学大学学則(以下「学則」という。)第27条第2項ただし書き及び第59条第2項ただし書きに規定するその他別に定める理由は次の各号のいずれかに該当するものとする。

三 学生が本籍国において兵役に服するため

(休学期間の取扱い)

第2条 2 前条第2号及び第3号の理由により許可された休学期間のうち、3年を超える期間については、学則第27条第2項本文及び第59条第2項本文に定める通算年数に算入するものとする。

東京工業大学学則第17条及び東京工業大学大学院学則第21条の規定に基づく休学等に関する申合せ 抄

1 休学の事由について

東京工業大学学則(平成23年学則第3号。以下「学則」という。)第17条及び東京工業大学大学院学則(平成23年学則第4号。以下「大学院学則」という。)第21条の規定に基づき休学を許可するに当たっては,次の事由のいずれかに該当する場合に限るものとする。ただし,次の事由に該当する場合であっても卒業又は修了の見込みがない者については,原則として休学を許可しない。

(5) 外国人留学生が,出身国における兵役に就く必要のあるもの。(事情を証明する書類を必要とする。)

4 休学の期間について

休学の許可に当たっては,休学期間の終期を学期の末日までとする。なお,第1項(5)の事由に該当する場合の休学期間は,学則第17条第4項及び大学院学則第21条第4項の規定にかかわらず,2年6月以内とする。また,第1項(5)及び前項の事由による休学期間は,学則第17条第4項ただし書及び大学院学則第21条第4項ただし書に規定する休学期間の通算年数に算入しない。

広島大学通則 抄 

 (休学)

32条 学生が疾病その他やむを得ない事由により引き続き3月以上修学できないときは,当該学部長の許可を得て,休学することができる。

2 休学の期間は,引き続き1年を超えることができない。ただし,特別の事情があるときは,更に1年以内の休学を許可することがある。

5 第1項及び第2項の規定にかかわらず,文部科学省が実施する日韓共同理工系学部留学生事業により受け入れた韓国人留学生が兵役に服するときは,当該学部長の許可を得て,休学することができる。

6 前項の休学期間は,兵役に服する期間とする。

第33条 休学期間(前条第4項及び第6項に規定する休学期間を除く。)は,通算して所属学部の修業年限を超えることができない。

 長岡技術科学大学においては、兵役に伴う休学が3年を超えない場合には休学期間の通算年数には算入しない取り扱いとなっている。3年を超えた場合は、3年を超えた年月のみを算出するものと考えられる。

 広島大学においては、「文部科学省が実施する日韓共同理工系学部留学生事業*5により受け入れた韓国人留学生が兵役に服するとき」という限定的な取り扱いとなっている。このような限定的な取り扱いとしている背景には、政府の交流に基づき受け入れた留学生に対する特段の配慮が必要と大学側が判断したためと推察される*6

 その他、私立大学で同様に休学期間に通算しない取り扱いとしている主な大学は、以下のとおりである。また、一部の私立大学においては、兵役に伴う休学の場合、休学期間中の費用(在籍料等)を免除している場合も存在する*7

早稲田大学 兵役義務による休学願

5. 兵役による休学期間は、通常の休学期間には算入しません。

東京造形大学学則 抄

(休学の期間)

第25条 2 休学の期間は、在学期間内に通算して、4年を超えることはできない。ただし、休学の理由が本籍国での兵役と認められた場合は(以下、「兵役による休学」という。)は、当該の期間を、第14条に定める在学期間、及び休学の期間に算入しない。

4.考察

 Web検索結果より、兵役に伴う休学を休学期間の上限に算入しないとしている国立大学は少数であることが推測された。また、一部の私立大学においては、兵営に伴う休学者に対して徴収費用を免除することで、経済的な支援を行っていることもわかった。

 一方、今回の調査はWeb検索でのみ行ったため、内規等Webに掲載されていない規定類を確認することはできなかった。網羅的に調査を行うのであれば、各大学への調査依頼が必要である。

 兵役に伴う休学を休学期間の上限に算入しない場合は、休学期間の管理が通常よりも困難になることが想定されるため、学籍管理上の適切な取り扱いについて方策を検討する必要があると考える。

*1:2019(令和元)年度外国人留学生在籍状況調査結果|外国人留学生在籍状況調査|留学生に関する調査|日本留学情報サイト Study in Japan

*2:参考情報として、徴兵制~韓国の軍隊制度 | 韓国の軍隊 | 韓国文化と生活|韓国旅行「コネスト」またはKポップファンのための兵役知識1「兵役延期」

*3:新型コロナウイルス感染症の拡大防止に係る上陸拒否について

*4:例えば、筑波大学関西学院大学など

*5:岡山大学基幹教育センターのWebページでは「日韓共同理工系学部留学生事業は1998年の日韓共同宣言に基づき創設され、2000年に開始されました。これは、高校を卒業した韓国人学生を日本の国立大学の理工系学部へ招致し、日本の大学の学部生として4年間学ばせるという事業です」とあります。

*6:千葉大学の報告書では、「日韓共同理工系学部留学生事業では、長い間、学部在学中に兵役に行くために休学することが認められていなかったが、変更があり、千葉大学では、2012 年度より兵役休学が可能となった。」とある。

*7:例えば、青山学院大学など。