兵役に伴う休学の対応について

※個人的なメモです。

1.背景

 2019(令和元)年度外国人留学生在籍状況調査結果*1によれば、韓国からの留学生は18,388人であり、国別でみても第4位の多さである。一方、韓国には徴兵制が存在し、検査に合格した者は定められた年齢までの一定期間中に兵役に従事しなければならない*2。本邦に入学している韓国人留学生においても同様に兵役に従事する義務があり、対象となった学生は休学等により一時帰国し兵役に従事しているものと推察される。また、韓国以外に徴兵制度が存在する国からの留学生においても、在籍期間中の兵役については同様に対応していると思われる。

 昨今の新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、本邦では、出入国管理及び難民認定法第5条第1項第14号に指定する外国人として、特段の事情がない限り、上陸の申請日前14日以内に所定の国・地域に滞在した者の上陸を拒否している*3。各大学においては、上陸拒否の対象となっている国・地域からの留学生に対し、インターネットを活用した教育・研究指導活動を行うとともに、場合によっては当該者を休学として学籍を維持しているものと思われる。この休学措置について、一部の大学においては、入国拒否期間が長期化するに伴い、本人の責に帰さないものとして、当該休学期間を各大学が定めた休学期間の上限に算入しないこととしている*4

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う上陸拒否と各国が定めた兵役とは本人の責に帰さず本邦に滞在することができないという点では同意であり、兵役に伴う休学においても新型コロナウイルス感染症に係る上陸拒否に伴う休学と同様に休学期間の上限に算入しない取り扱いとすることができる可能性があると考える。

 本稿では、その判断のための予備的調査として、各大学における兵役に伴う休学の対応を確認するものである。

2.方法

 ウェブ検索において「○○大学」「兵役」「休学」と検索し、各種規定類を確認する。対象はすべての国立大学(86大学)とする。

3.結果

 上記2.の結果、長岡技術科学大学及び東京工業大学広島大学において、兵役に伴う休学は学則が定める休学期間の通算年数に算入しない旨の規定を確認した。

国立大学法人長岡技術科学大学学則第27条第2項ただし書き及び第59条第2項ただし書きに規定するその他の別に定める理由による取扱いを定める細則 抄

(休学の理由)

第1条 国立大学法人長岡技術科学大学学則(以下「学則」という。)第27条第2項ただし書き及び第59条第2項ただし書きに規定するその他別に定める理由は次の各号のいずれかに該当するものとする。

三 学生が本籍国において兵役に服するため

(休学期間の取扱い)

第2条 2 前条第2号及び第3号の理由により許可された休学期間のうち、3年を超える期間については、学則第27条第2項本文及び第59条第2項本文に定める通算年数に算入するものとする。

東京工業大学学則第17条及び東京工業大学大学院学則第21条の規定に基づく休学等に関する申合せ 抄

1 休学の事由について

東京工業大学学則(平成23年学則第3号。以下「学則」という。)第17条及び東京工業大学大学院学則(平成23年学則第4号。以下「大学院学則」という。)第21条の規定に基づき休学を許可するに当たっては,次の事由のいずれかに該当する場合に限るものとする。ただし,次の事由に該当する場合であっても卒業又は修了の見込みがない者については,原則として休学を許可しない。

(5) 外国人留学生が,出身国における兵役に就く必要のあるもの。(事情を証明する書類を必要とする。)

4 休学の期間について

休学の許可に当たっては,休学期間の終期を学期の末日までとする。なお,第1項(5)の事由に該当する場合の休学期間は,学則第17条第4項及び大学院学則第21条第4項の規定にかかわらず,2年6月以内とする。また,第1項(5)及び前項の事由による休学期間は,学則第17条第4項ただし書及び大学院学則第21条第4項ただし書に規定する休学期間の通算年数に算入しない。

広島大学通則 抄 

 (休学)

32条 学生が疾病その他やむを得ない事由により引き続き3月以上修学できないときは,当該学部長の許可を得て,休学することができる。

2 休学の期間は,引き続き1年を超えることができない。ただし,特別の事情があるときは,更に1年以内の休学を許可することがある。

5 第1項及び第2項の規定にかかわらず,文部科学省が実施する日韓共同理工系学部留学生事業により受け入れた韓国人留学生が兵役に服するときは,当該学部長の許可を得て,休学することができる。

6 前項の休学期間は,兵役に服する期間とする。

第33条 休学期間(前条第4項及び第6項に規定する休学期間を除く。)は,通算して所属学部の修業年限を超えることができない。

 長岡技術科学大学においては、兵役に伴う休学が3年を超えない場合には休学期間の通算年数には算入しない取り扱いとなっている。3年を超えた場合は、3年を超えた年月のみを算出するものと考えられる。

 広島大学においては、「文部科学省が実施する日韓共同理工系学部留学生事業*5により受け入れた韓国人留学生が兵役に服するとき」という限定的な取り扱いとなっている。このような限定的な取り扱いとしている背景には、政府の交流に基づき受け入れた留学生に対する特段の配慮が必要と大学側が判断したためと推察される*6

 その他、私立大学で同様に休学期間に通算しない取り扱いとしている主な大学は、以下のとおりである。また、一部の私立大学においては、兵役に伴う休学の場合、休学期間中の費用(在籍料等)を免除している場合も存在する*7

早稲田大学 兵役義務による休学願

5. 兵役による休学期間は、通常の休学期間には算入しません。

東京造形大学学則 抄

(休学の期間)

第25条 2 休学の期間は、在学期間内に通算して、4年を超えることはできない。ただし、休学の理由が本籍国での兵役と認められた場合は(以下、「兵役による休学」という。)は、当該の期間を、第14条に定める在学期間、及び休学の期間に算入しない。

4.考察

 Web検索結果より、兵役に伴う休学を休学期間の上限に算入しないとしている国立大学は少数であることが推測された。また、一部の私立大学においては、兵営に伴う休学者に対して徴収費用を免除することで、経済的な支援を行っていることもわかった。

 一方、今回の調査はWeb検索でのみ行ったため、内規等Webに掲載されていない規定類を確認することはできなかった。網羅的に調査を行うのであれば、各大学への調査依頼が必要である。

 兵役に伴う休学を休学期間の上限に算入しない場合は、休学期間の管理が通常よりも困難になることが想定されるため、学籍管理上の適切な取り扱いについて方策を検討する必要があると考える。

*1:2019(令和元)年度外国人留学生在籍状況調査結果|外国人留学生在籍状況調査|留学生に関する調査|日本留学情報サイト Study in Japan

*2:参考情報として、徴兵制~韓国の軍隊制度 | 韓国の軍隊 | 韓国文化と生活|韓国旅行「コネスト」またはKポップファンのための兵役知識1「兵役延期」

*3:新型コロナウイルス感染症の拡大防止に係る上陸拒否について

*4:例えば、筑波大学関西学院大学など

*5:岡山大学基幹教育センターのWebページでは「日韓共同理工系学部留学生事業は1998年の日韓共同宣言に基づき創設され、2000年に開始されました。これは、高校を卒業した韓国人学生を日本の国立大学の理工系学部へ招致し、日本の大学の学部生として4年間学ばせるという事業です」とあります。

*6:千葉大学の報告書では、「日韓共同理工系学部留学生事業では、長い間、学部在学中に兵役に行くために休学することが認められていなかったが、変更があり、千葉大学では、2012 年度より兵役休学が可能となった。」とある。

*7:例えば、青山学院大学など。

文科大臣の言う「余地」とはなにか。

mainichi.jp

萩生田光一文部科学相は19日、国立大学協会など国公私立の大学4団体の会長らと東京都内で面談した。新型コロナウイルス感染症の影響で中退した学生に配慮し、復学できる余地をつくるよう要望。各大学の事情に応じて対面授業を実施することも改めて求めた。面談後、記者団に明らかにした。

 この記事を読んで、あれっと思った箇所があります。それは「復学」です。

1.復学とは

東京大学学部通則 抄

(復学)

第22条 休学期間内に、その理由がなくなったときは、学部長の許可を得て、復学することができる。

  大学において復学とは、一般的には、休学が解消された学生(場合によっては、停学が解除された学生)が正課教育に復帰することを指します。そのため、元記事にある

新型コロナウイルス感染症の影響で中退した学生に配慮し、復学できる余地をつくるよう要望。

について、そもそも退学した学生は復学できません。

2.正しくは再入学である

東京大学学部通則 抄

(再入学)
第9条 本学を退学した者、第24条若しくは第25条の規定により退学を命ぜられた者又は第49条第7項の規定により学生の身分を失った者が、再び同一学部に入学を志願したときは、選考のうえ、再入学を認めることができる。

 退学した学生が再び同じ大学の同じ学部等に入学することを再入学と言います。おそらく、元記事の文科大臣の発言はこのことを指していたのでしょう。

弘前大学再入学に関する規程 抄

(再入学志願の手続)

第3条 再入学を志願する者は,次の各号に掲げる書類に学則に定める額の検定料を添えて,学長に願い出るものとする。

(1) 再入学願書

(2) 履歴書

(3) その他別に指定する書類

(再入学許可)

第5条 前条の選考の結果に基づき合格の通知を受けた者は,学則に定める額の入学料を納入しなければならない。

2 学則第35条第3号又は第4号の規定により除籍された者にあっては,前項の手続きのほか,未納の入学料又は授業料相当額を納入しなければならない。

(再入学年次)

第6条 再入学年次は,退学時又は除籍時の年次とする。ただし,第8条で認定された単位数により退学時又は除籍時の年次に再入学させることが適当でないと認められる者については,学長は,相当年次に再入学させることがある。

(既修得単位の取扱い及び在学期間の通算)

第8条 既修得単位の取扱い及び在学期間の通算については,教授会の議を経て,学部長が認定する。

(修業年限及び在学期間)

第9条 再入学を許可された者の修業年限は,学則第9条に定めるところによるものとし,在学期間は,退学又は除籍以前の在学年数を差し引いた年数とする。

 再入学時には、退学等前の履修単位の認定が行われるとともに、それを踏まえた学年への編入が検討されます。

3.余地は何か

 元記事では「復学できる余地をつくるよう要望」とありますが、この「余地」とは何を指すのか、はっきりしません。前述のとおり学修上の配慮はある程度可能となっていますので、可能性としては、コロナで退学した学生が再入学する際に検定料や入学料を再徴取しないことでしょうか。

 ただ、最近の文科省等の調査でも「コロナを原因とした退学~~」と言われていますが、退学等の要因をコロナに限定することは退学願い等を精査しても容易ではないと感じています。この点で、もし前述のような不徴収対応を求められた場合、コロナを原因とした退学等者からの再入学希望とそうでない者からの再入学希望をどのように分けるのか、難しい対応となりそうです。

国立大学の学長選考はどのように在るべきなのか。

www3.nhk.or.jp

任期満了に伴う筑波大学の学長選考が20日行われ、永田恭介学長が再任されることになりました。この選考について、一部の教員グループは「過程が不透明だ」と訴えていて、有識者などで作る会議が21日午後、選考の理由を説明することにしています。

www.tokyo-np.co.jp

東京大の来年度からの学長(総長)を決める選考会議で「選考プロセスの透明性や公平性に疑義がある」として、教員有志6人が大学側に公開質問状を出した。5人まで選べる最終候補者が理系の男性ばかり3人とされたことや、氏名が30日の学内投票終了まで外部には非公表となっていることなどを問題視している。

 国立大学法人の学長選考が(悪い意味で)話題になっています。特に、平成27年国立大学法人法改正から、学内の投票の取り扱いなどを巡ってニュースになることが増えてきたように感じています。今回は、国立大学法人の学長選考を考えてみます。

なぜ混乱が生じるのか

 なぜのこのような事態が生じるのか、これは国立大学法人の学長という地位が持つ2面性が原因ではないかと考えています。

国立大学法人法 抄

(役員)

第十条 各国立大学法人に、役員として、その長である学長(当該国立大学法人が設置する国立大学の全部について第三項に規定する大学総括理事を置く場合にあっては、理事長。次条第一項並びに第二十一条第二項第四号、第三項及び第五項を除き、以下同じ。)及び監事二人を置く。

(役員の職務及び権限)

第十一条 学長は、大学の長としての職務(大学総括理事を置く場合にあっては、当該大学総括理事の職務に係るものを除く。)を行うとともに、国立大学法人を代表し、その業務を総理する。

2 理事長は、国立大学法人を代表し、その業務を総理する。

 大学総括理事を置いていない限り(現時点では東海国立大学機構(岐阜大学及び名古屋大学を設置する法人)のみ設置)、国立大学の学長は、国立大学法人の理事長と国立大学の学長を兼ねることになります。つまり、法人の経営者としての姿とファカルティーの代表としての姿の2面が一人の学長に同居しています。

 ということは、どちらが正しいというわけではありませんが、学長選考会議は経営者としての姿を、学内意向聴取(学内投票)は従前の通りファカルティーの代表としての姿を評価している可能性を考えています。学長選考会議が学長としての資質を公表してはいるものの、国立大学の学長が内包する多重性のため、結果としてすれ違いが生じているのかもしれません。(ただ、国立大学法人における経営の本質は私もまだ理解できてないところです・・・)

 この考えを検証するためには、国立大学の理事長と学長との選考方法の違い等を検討する必要があり、それが叶うのは現時点では東海国立大学機構のみです。しかし、現時点では東海国立大学機構の理事長は名古屋大学総長(学長)が兼ねているため、今後の同機構の理事長及び学長選考の状況に注目していきたいです。

では、どうすれば良いのか

 では、どのようにすればより良い国立大学法人の発展に繋がる学長選考が実現できるのでしょうか。以下は、現行法をベースにした私案です。

<学長選考会議の権限を強化し、構成員からの評価も踏まえ学長を評価する機能を実質化する>

 国立大学の学長は、学長選考会議が選出し文部科学大臣に申し出るとともに、文部科学大臣が任命することになっています。また、同会議は、学長選出の際の基準を定めることになっています。 法改正時の通知においても、同会議は学長の業績を確認(評価)することになっています。

国立大学法人法 抄

(役員の任命)

第十二条 学長の任命は、国立大学法人の申出に基づいて、文部科学大臣が行う。

2 前項の申出は、第一号に掲げる委員及び第二号に掲げる委員各同数をもって構成する会議(以下「学長選考会議」という。)の選考により行うものとする。

一 第二十条第二項第三号に掲げる者の中から同条第一項に規定する経営協議会において選出された者

二 第二十一条第二項第三号又は第四号に掲げる者の中から同条第一項に規定する教育研究評議会において選出された者

3 前項各号に掲げる者のほか、学長選考会議の定めるところにより、学長又は理事を学長選考会議の委員に加えることができる。ただし、その数は、学長選考会議の委員の総数の三分の一を超えてはならない。

4 学長選考会議に議長を置き、委員の互選によってこれを定める。

5 議長は、学長選考会議を主宰する。

6 この条に定めるもののほか、学長選考会議の議事の手続その他学長選考会議に関し必要な事項は、議長が学長選考会議に諮って定める。

7 第二項に規定する学長の選考は、人格が高潔で、学識が優れ、かつ、大学における教育研究活動を適切かつ効果的に運営することができる能力を有する者のうちから、学長選考会議が定める基準により、行わなければならない。

8 国立大学法人は、第二項に規定する学長の選考が行われたときは当該選考の結果その他文部科学省令で定める事項を、学長選考会議が前項に規定する基準を定め、又は変更したときは当該基準を、それぞれ遅滞なく公表しなければならない。

9 監事は、文部科学大臣が任命する。

学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律及び学校教育法施行規則及び国立大学法人法施行規則の一部を改正する省令について(通知) 抄

2.国立大学法人法及び同法施行規則の一部改正

 国立大学法人法及び同法施行規則の改正は,全ての国立大学法人等に適用されるものである。

(1)学長又は機構長の選考の透明化(国立大学法人法第12条及び第26条関係)

④ 学長等選考会議は,選考した学長又は機構長の業務執行の状況について,恒常的な確認を行うことが必要であること。業務執行の状況についての確認を行う時期については,各国立大学法人等の実情に応じて,学長等選考会議において適切に判断すべきものであること。

3.改正の基本的な考え方

(2)権限と責任の一致

② 学長に対する業績評価

 校務に関する決定権を有する学長が,その結果について責任を負うことは当然であり,学長の業務執行の状況(副学長等への指示・監督状況,意思決定の手続を含む。)について,学長選考会議や理事会等の学長選考組織,監事等が恒常的に確認すること。

 特に国立大学法人の監事については,独立行政法人通則法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備に関する法律(平成26年法律第67号)により国立大学法人法が改正され,監事機能の強化が図られたところであり,適切な予算・人員面の手当をするなど,その機能が適切に発揮されるようにすべきこと。

1.学長選考会議委員の任命権者を文科大臣にする。

 今回の様々な騒動は学長を監視する者がいないという点が問題だとも言われています。株式会社ならば株主により執行部が監視されているが国立大学ではその仕組みが働いていない、とのことです。国立大学と株式会社を比較する意味はあるのかという疑問もありますが、まぁ話はわかります。

 選考した学長に責任を持つのは、任命権者は文科大臣ですが、やはり学長選考会議だろうと思います。しかし、現実には、学長選考会議にはそこまでの責務を負うことができる機能はなかろうと思います。法令上も、学長選考会議委員の任命権者は明確ではありません(一部の国立大学法人の規定を確認したところ学長になっています)。

 学長を監視する力を持たせるのであれば、最低限、学長と同等の任命権者でなければなりません。そのため、まずは学長選考会議の委員の任命権者を文科大臣にし、それを法令上も明記すべきです。

2.学長選考会議の委員の資質能力を明確にする。

 現在の学長選考会議は、お付き合いで委員になった者が、総務部署が作成し事前に学長まで了解をとった資料に基づき、粛々と議事を進行していく場なのかもしれません。それは言い過ぎにしても、選考した学長の行動に責任を持ってもらうためには、学長選考会議の委員に対しても、それなりの資質能力が求められるのは必然です。また、なぜのその学長が選ばれたのかだけではなく、なぜ他の候補者が選ばれなかったのかも学長選考会議の各委員が説明できなければなりません。学長選考会議の委員としてふさわしい資質能力を明確にして、委員を選出すべきだと考えます。

3.学長選考会議が学内構成員の学長への評価も踏まえ学長を評価する。

 学内意向聴取(学内投票)は学長選考の時点でしか行われませんが、常々私はそれが不満でした。学長の任期中においても、学長選考会議が主体となり学長の働きを学内構成員(学生を含む)に意見聴取する機会を設けるべきであり、また、学長選考会議はそれ(またはそれへの対応状況)を踏まえて学長の業績評価を行うべきだと考えます。

 学長を解任できるのは学長選考会議のみであり*1、学長と学長選考会議は良い緊張関係・牽制関係を維持していかなければなりません。学内の評価が低い学長には、はっきりとそれを言って自覚させるべきなのです。

 また、この業績評価の際には、当然、監事も加わる必要があります。監事の任命権者は文科大臣であり、国立大学法人内で唯一、監事は学長と同等の立場にあるのですから*2

 

と、私案は以上なのですが、これを果たすには現在非常にエフォートの少ない委員の雇用(委嘱)の在り様も検討しなければなりません。

学長の任期は無限になるのか

 冒頭の記事にあった筑波大学のケースでは、学長の任期上限が撤廃されたとなっていました。この言い方は若干不正確であり、国立大学法人法では学長の任期上限に関する規定があるため、恐らく、筑波大学内規の再任上限回数が撤廃されたのだろうと思います。(改正前の規則は見つけることができませんでした。)

国立大学法人法 抄

(役員の任期)

第十五条 学長の任期は、二年以上六年を超えない範囲内において、学長選考会議の議を経て、各国立大学法人の規則で定める。

5 役員は、再任されることができる。この場合において、当該役員がその最初の任命の際現に当該国立大学法人の役員又は職員でなかったときの前条の規定の適用については、その再任の際現に当該国立大学法人の役員又は職員でない者とみなす。

国立大学法人筑波大学の学長の任期に関する規則 抄

(任期)

第2条 学長の任期は、国立大学法人筑波大学(以下「法人」という。)の運営における中期計画の重要性に鑑み、その策定及び実施と連動させることを基本とし、その始期は中期計画期間開始の1年前とする。

2 学長の任期は、3年とし、引き続き再任されることができる。

 なお、国立大学協会の平成29年の提言では、各国立大学の学長の任期について、以下の言及があります。当時の状況ですが、学長の在任期間の上限が6年間を超える大学は一定数存在しています。

国立大学のガバナンス改革の強化に向けて(提言)平成29年5月23日一般社団法人国立大学協会

(学長の任期)

今回の調査結果では、任期4年が53大学(62%)で最も多く、次に6年が18大学(21%)、3年が15大学(17%)となっている。再任については、4年任期の場合は54%が2年、3年任期の場合は全大学が3年であり、6年任期の場合は3大学を除いて再任なしである。再任回数は1回がほとんどであるが、2大学が2回、6大学が無制限としている。これらの結果、再任を含めると、学長の在任期間の上限は3大学が4年と短期間であるが、6年が66大学、6年を超えるのが17大学となっている。

また、各大学の考える望ましい学長任期としては、基本の任期を6年に延長したり、再任期間・回数の制限を緩和したりするなど、現在よりも若干の長期化を図る意見が比較的多かった。また、中期目標期間との連動を意識し、学長の選出時期について、次期学長が次期中期目標の策定が行えるよう、就任1年前に次期学長を選出することが望ましいとの意見もあった。(P5)

  一番怖いのは、本人も周りの者も辞め時がわからなくなることでしょう。今回の筑波大学のケースではひとまず3年間の再任ということで、そこでさらに再任か否かを判断されるのだろうと思います。 

学内選挙による学長選考は復活するか

 平成27年国立大学法人法改正以降、学内選挙はどんどんなくなっています。大学教員は言われたことを素直にやらない人間が多いのでリスクヘッジも兼ねて学内選挙があったのだろうと思いますが、学内選挙がないと学問の自由が〜〜大学の自治が〜〜と言われると選挙以外の方法で学長を選考していることが多い私立大学*3のことを思い出してモヤっとします。国立大学は特に国の統制を受けやすのでよりシビアに考えなければならないと言われれば、はぁそうですかと言う程度ですが。

 私個人としては、国立大学法人の発展により資する学長の選考方法であるべきだと思いますが、それが選挙によるものか選考会議によるものかどちらなのかはよくわかりません。最近は申し出のあった学長候補者を文科大臣が任命しない可能性もあると言われていますし・・・

*1:国立大学法人法第17条第4項 前二項の規定により文部科学大臣が行う学長の解任は、当該国立大学法人の学長選考会議の申出により行うものとする。

*2:国立大学法人法第12条第9項 監事は、文部科学大臣が任命する。

*3:文部科学省資料では、平成25年8月の段階で、7割程度の私立大学が選挙以外の方法で学長選考を実施していると回答

教育再生実行会議第1回高等教育ワーキング・グループでの議論に思う

www.kantei.go.jp

 あまり話題になっていない感もありますが、9月から教育再生実行会議に高等教育ワーキング・グループが設置されています。総理が変わってどうなるのかなと思っていたのですが、どうも継続されるようですね。

 近年の高等教育政策では、中央教育審議会文部科学省よりも教育再生実行会議が果たす役割が大きくなっていますので、こちらにも注目していきたいところです。今回は、9月14日に開催された第1回ワーキング・グループの議事録について、いくつか注目していきます。相変わらず何の根拠もない各委員のエピソードトークが多く、コロナ対応ですさんだ心がほっこりしますね。

【検討事項例】

1.ニューノーマルにおける大学の姿とはどのようなものであるべきか

● 時間・場所にとらわれず、社会人のリカレント教育も含め、多様な学修者が学び合い、高め合うことのできる知的創造空間の提供

● 対面とオンラインとのハイブリッドによる学修者本位の効果的な教育実践と学修の実質化

● 学内における教育資源の重点化を通じた多様な学びを後押しする体系的できめ細かな教育の提供

2.グローバルな目線での新たな高等教育の戦略はどうあるべきか

ニューノーマルに対応する国際学生交流の展開手法

● 留学生30万人計画の振り返りと今後の留学生政策

● 日本の優位性を引き出し、国際競争力の向上に資する教育研究の在り方

3.それらを実現するために必要な方策とは何か

● 対面とオンラインとのハイブリッド化など、ニューノーマルにおける大学教育を実現するための仕組みの構築や環境の整備、質保証の在り方(大学設置基準の弾力化など)

● 社会との接続の在り方や学事暦・修業年限を含めた学びの多様化・複線化(通年入学・卒業・採用など)

ニューノーマルにおけるグローバルな目線での新たな高等教育の戦略を踏まえた支援方策(国際JD制度の柔軟化など)

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/jikkoukaigi_wg/koutou_wg/dai1/siryou4.pdf

ニューノーマルにおける大学の姿との矛盾 

萩生田文部科学大臣教育再生担当大臣

コロナ禍においても質の高い学修機会を確保することは、まさに大学の使命であり、合理的な理由や事情がない限りは、対面授業の実施や学生による施設の利用について積極的に検討いただくことが必要であると考えています。(P2)

 最近も対面授業の実施割合が低い大学を公表することが話題になっていました。ニューノーマルにおける大学の姿と対面授業を行っていない大学の公表とは、政策的に相容れないものだと思うのは私だけでしょうか。学生が対面授業を望むからという話もわかりますが、それでは、ニューノーマルにおける大学の姿とは一体誰から望まれているものなのでしょうか。

課題地獄という必然

喜連川委員

デメリットは何かというと、先生が宿題をよく出し過ぎるという問題で、これは後ほど申し上げますけれども、「課題地獄」と。それと、今、言われていますような友達がつくれないというような問題、目が痛いとか、中には物すごくひどい先生がいて資料を配るだけしかやってくれないとか、こういう文句が多々出てきたわけです。

(中略)

これは先ほど言いました課題地獄で、東大では修学時間がかなり延びたと。ここは先生がいい意味でどんどん問題を出してしまうということです。ちょっと面白いのですけれども、外国の事例も聞こうといって、この間メキシコに聞いたのですけれども、メキシコも課題地獄と言っていましたので、これは世界中同じ問題が出ているのだと思います。 

 課題の件については以前も弊BLOGでも言及し、課題が多いことは本来的な大学教育の在り方であるが、それを友人とともに乗り越えていけないことなどが本質的な課題であると説明しました。

kakichirashi.hatenadiary.jp

 文部科学省の通知においても、遠隔授業による課題による出席状況の把握が明記されています。

大学等における新型コロナウイルス感染症への対応ガイドライン(令和2年6月5日)

・ 授業担当教員が,オンライン上での出席管理や確認的な課題の提出などにより,当該授業の実施状況を十分把握していること(P14)

 繰り返しになりますが、大学設置基準等を踏まえると、そもそも大学での学修は課題地獄であり、今までが異常であったところそれが慣例化しているのでしょう。金子(2020)*1では、10年の間をおいて実施された調査結果を比較し、学生の学修時間の変化について、以下の通り説明しています。

しかし、学生の学習時間は2010年台を通じてほとんど変わっていない。それは一方で学生が一学期に平均13コマを履修し、個々の授業に教室外で学習することを考えないという習慣が一般化していること、他方で教員はそうした学生の行動を感じ取り、通常の授業では教室外での学習を多く期待しない、という、教員と学生の相互の期待が一つの構造的なカルチャーともいうべきものを作っているからである。そうしたカルチャーが頑健であり、学生本位の授業とすることによっては改編することはできない。(P59)

(中略)

上の分析はそれを現代日本の大学の学部間の相違の統計的な分析によって見出したわけだが、日本の大学全体をとってみても、いわば日本的な教育・学習カルチャーの構造があり、それが例えばアメリカの対応する教育・学習カルチャーとは大きく異なる。それが彼我の学習時間の大きな差をもたらしているとみることができる。(P60)

大臣の謎のエピソードトーク

萩生田文部科学大臣教育再生担当大臣

一方、私の地元は八王子市というところなのですが、22の大学がある学園都市と言われていまして、各大学で授業を公開して、単位も互換できるようにしてほかの大学の授業も受けられるスタイルを取っているのですけれども、コロナ禍でオンライン授業が盛んに行われましたら、結局、自分の学校よりあっちの学校の先生の方が良いという評価が学生の中で上がってしまったり、あるいはOBがオンラインの映像を懐かしく見てみたら、20年前と同じ授業をやっている、ほとんど進化していないみたいな書き込みがあって、これは大学の先生方にとってもある意味ではレベルを上げるいい機会なのかなということも期待をしているところでございます。(P17)

 これは大学コンソーシアム八王子のことでしょうか。ちょっと特殊事例すぎてエピソードトークが過ぎるなと思いますが、地元の様子を入れ込んでくるあたりに政治家を感じますね。

通信容量制限の緩和措置はなぜ年齢上限があるのか

萩生田文部科学大臣教育再生担当大臣

そのためにも、大学の現場の先生方にも頑張っていただいて、なかなかメーカーさんも非常に謙虚であまりアピールしていないのですけれども、実は8月末まで大手キャリア3社の皆さん、25歳以下の契約者に対してギガの開放をしていただいて、授業などに対応できるようにしてくれたのですけれども、もしかすると後期の授業が始まると、今までは見られた授業が、画像が止まってしまうみたいなことも出てくると思うので、この点も高等教育局とよく相談しながら対応していきたいと思っています。(P18)

 前から思っていたのですが、携帯キャリアの通信容量制限の緩和措置はなぜ25歳という制限があるのでしょうか。若年層への支援も理解できますが、学び直し社会を推進している中で、年齢上限についても検討いただきたいところです。なお、この点については総務省の一部部局が動いているという噂もあるようですので、そのうち何からの発表があるのではないかと思っています。

授業時間は各大学で決めてください

秋田委員

特に、高校を卒業して高大接続を考えたときに、高校は50分授業です。それが一気に 90 分のオンライン授業に変わるということがどれだけ新入の大学1年生にとって負担かということも考え、より柔軟なことが大事だと思います。(P19)

 何度も言っているような気がしますが、1回の授業時間に法令上の定めはなく、各大学は1単位45時間の規定に沿って対応しています。1回の授業時間を何分にするかは各大学の裁量ですので、そう思うのならば、まずはご所属の大学にて対応いただくのがよろしいかと思います。

どこでもいつでもで学習できるのか

出口委員

そういう面では、リカレントも含め、学生にとっても場所の制約がなくなる、場所の制約が外れたことはかなり大きくて、これはこれからの大学あるいは高等教育を考える上で、場所と時間の制約がないということは、従来の大学のイメージをかなり変える可能性があると思います。(P23)

柳川委員

時間がありませんので、そういう意味でオンラインが、感染の可能性の心配がなくなったときにどういうふうにオンラインを使うのかという話で行けば、今、皆さんが御指摘になったように、時間と場所にとらわれないで学ぶことができるというのは非常に重要なところでございまして、これは今の教え方をどうやってオンラインにしていくかという以上に大学の教育の在り方、あるいは入試の在り方、こういうものを大きく変えていくのだと思います。(P25)

 時間や場所にとらわれないで学ぶことができるのは確かですが、一方でメンタル不調を訴える学生等も出ています。特に学部教育の初年次においては、単純に考えることはできないと思います。時間と場所にとらわれない中で学ぶことができるのは強い学ぶ意思と自律が必要でしょうし、すべての大学生にそれが備わっているとは限りません。

 時間や場所の制約がない学びの場といえばMassive opne online courses(MOOCs)ですが、Feng et al.(2019)*2では、MOOCsのプラットフォームの一種であるedXの完遂率が5%程度であり、中国のプラットフォームであるXuetangXも同程度であったと報告しています。このような状況の中で、単純にいつでも学べるからという理由のみで導入することは慎重に検討すべきだと考えます。

入試の趣旨とはなにか

柳川委員

そういう意味では、入試というのも、入試はそもそもキャンパスのキャパシティーに制約があって、教室に入り切れないから教室に入れるだけの人数をセレクションして制約する必要があったわけですね。その制約がないのであれば、まずはオンラインで、まずはビデオを聞いてもらうのでもいいかもしれませんけれども、大勢の人に聞いてもらって、その中で、成績がよかった人にリアルな授業を施すというのも十分可能なのだと思います。(P26)

 この発言は意味不明です。そもそも、「教室に入り切れないから教室に入れるだけの人数をセレクションして制約する」ということが入試の趣旨であれば、レジャーランドと言われていた時代に定員を大幅に超過し教室に入りきらないくらいの学生を入学させていた私立大学はいったい何だったのでしょうか。また、東京大学でもあるだろうと推測しますが、仮に現時点で教室に入りきれる人数を定員として設定しているとしても、履修登録の際に抽選が発生していることの整合性が取れません。さも学術的な背景があるような発言ですが、これが正しいのかよくわかりません。

定員管理はなくなるか 

柳川委員

入試をある意味で極端に言うとなくしてしまってでもいいから、大勢の学生に聞いてもらった上で、その代わり卒業はしっかりちゃんとした能力を持って、ちゃんとした学力を持ったしっかりと成果を得た人に卒業してもらう。これが本来ある姿だと思いますので、ある意味で、そういう本来ある姿に戻していくうえで、オンラインというのは非常に有効な手段になるのではないかと思っております。(P26)

 この発言を実行するためには、現在の定員管理及び国による定員充足率及び標準修業年限内卒業率等の罰則等を改正(あるいは撤廃)する必要があり、併せて、大学中退を当たり前のこととして受け止める社会的な認識も変える必要があります。

 なお、現行の体制のままご提案のあった入学者の自由化を行った場合、学生一人当たりにかけられる教育コストやサービスの質は間違いなく低下し、大学教育が破綻するものと思われます。

大学は何を担保するのか

大野委員

2点目、オンライン教育に関して、もう既に出口委員からも御発言がありましたように、授業だけが大学ではありません。オンキャンパス、そして、オフキャンパスの経験総体が大学だと考えています。(P26)

 話はわかりますし、対面授業を求めている学生は実は授業ではなくキャンパス体験を求めていたという話も伝え聞いているところです。ただ、大学側が正課の授業以外の活動にどれほど関与すべきかは考えなければなりません。個人的には、正課以外の諸活動はあくまで学生の自主的な活動であり、大学側の関与は最小限にすべきだと思っています。極論を言えば、部活動やサークル活動等の諸団体は一般社団法人化し大学と切り離した方が良いとも感じています。

個人が学びに責任を持つ

熊平委員

個人が自己成長に責任を持つ時代になり、学びに対する心得を、大学の間にしっかりと習得することが大切になります。時代の変化に合わせて、大学教育の役割が変わってきていることを認識する必要があります。(P27)

 個人が自己成長に責任を持つ時代ならば大学が学生の成長そのものに責任を持つ必要はないのか、とも感じます。いずれにしろ、大学は従前より学生の自己責任において対応してきたところが多く、引き続き自己成長できる学生を育てていく環境整備が必要です。”面倒見がいい大学”と言われている大学の”面倒見の良さ”が何を指しているか、ということですね。

アウトカム測定は簡単にはできない

森田委員

そのことは2点目と関連しておりまして、今の大学教育の場合には、何を何コマ何時間教えたかという言わばプロセスといいましょうか、インプットの方の管理が非常に厳しいわけですけれども、本当にそれで教育効果が出ているかどうかというアウトカムにもっと着目すべきではないかと思います。

ただ、大学教育でアウトカムの測定は非常に難しいのですけれども、私の知る限り、喜連川委員もおっしゃいましたけれども、オンラインのメリットといいますのは、学生が何を学んだか、どうしたかということのログが取れるわけですから、個人情報の問題はありますけれども、それを活用してきめ細かく教育の効果をアウトカムレベルで評価すべきではないかと思います。(P29)

 さもLMSのログ等でラーニング・アウトカムズが評価できるような口ぶりですが、ログ等で判断できるのは断片的な学習行動だけであり、やはりそれは簡単ではなかろうと思います。

 各受業の学修成果はDPに即した到達目標の達成度、カリキュラムの学修成果はDPの達成度やDPに関連する資格の合格率等で判断できるものと考えています。その前提に立つと、まずは各授業がDPに応じた到達目標を設定できているか、各到達目標の達成度を測定できる成績評価を行っているかが肝要でしょう。

学生のメンタルヘルス対応

大橋副主査

急に自分を傷つけるみたいなことを書いて、フェイスブックのアカウントを閉じてしまって、コンタクトが取れなくなるということで、我々の方でその子の家まで行って確認したところ、憔悴はしていましたけれども、生存を確認したという学生は何名か出てきて、オンラインをずっと続けているとかなり秋は厳しいかなという思いを持っています。そうした学生は入学生が実は多くて、そうしたこともこのアンケートで見てとれるのかなと思います。(P14)

日比谷委員

2点目は、一人で下宿していて、オンラインで誰にも会わなくてメンタルがやられてします。(P23)

髙島委員

友達ができないということがあるのですが、すごく大きい。この1年間の谷に落ち込んでいる新入生たちをどう救うのか。来年以降になると、きっとハードもソフトも制度もいろいろなものが整ってくると思うのですが、今年の新入生をどう救うかは喫緊の課題ではないか。(P30)

佐々木委員

特に新入生の人たちは、大学がないためにコミュニケーションを取る機会がなく、孤立化するということがあるようですが、これは本当に大きな問題です。(P33)

 学生のメンタルヘルスの問題は、コロナ禍において生じたものと、遠隔授業において一般的に生じるものとを分けて考えなければなりません。極論ですが、ニューノーマルにおける大学教育とは学生自身が学びや成長に対して責任を持つものであれば、一人でも学びを進めていける者、ある意味では、高校からのストレート進学者ではない者が学ぶ場として位置づけることはあり得るかもしれません。

???

衆議院議員

2点目は、日本高等教育評価機構における大学評価と公表であります。(P34)

 これは何を言っているのか全く分かりません。公益財団法人日本高等教育評価機構のことではなく、大学評価全般の話でしょうか。

 

「国立大学法人の戦略的な経営実現に向けて~社会変革を駆動する真の経営体へ~中間とりまとめ」への2,3の所感

国立大学法人の戦略的な経営実現に向けて~社会変革を駆動する真の経営体へ~ 中間とりまとめ(令和2年9月):文部科学省

国立大学法人の戦略的経営実現に向けた検討会議では、令和2年9月に「国立大学法人の戦略的な経営実現に向けて~社会変革を駆動する真の経営体へ~中間とりまとめ」を取りまとめました。

 国立大学法人の戦略的経営実現に向けた検討会議の中間まとめが公表されました。これに対し、所感を記しておきます。

1.そもそも誰に向けた会議体なのか

 この中間まとめは、「国立大学法人の戦略的経営実現に向けた検討会議」が作成しています。同検討会議は、令和2年1月28日高等教育局長決定のもとに設置されており、

1.趣旨

骨太の方針2019」に則り、指定国立大学が先導して、世界の先進大学並みの独立した、個性的かつ戦略的大学経営を可能とする大胆な改革を可及的速やかに断行することが重要。そのため、より高い教育・研究に向けた自由かつ公正な競争を担保するため、国立大学と国との自律的契約関係を再定義し、真の自律的経営に向け、国立大学法人法等関連法令の改正や新規創設を含めて検討を行う。併せて、各大学においてグローバル人材を糾合できる世界標準の能力・業績評価制度とそれに基づく柔軟な報酬体系の確立などにつき検討する。

また、各大学が一貫性ある戦略的経営を実現できるような学長、学部長等の選考方法の在り方について検討する。加えて、新たな自主財源確保を可能とするなどの各種制度整備の具体策、さらに、現行の「国立大学法人評価」「認証評価」及び「重点支援評価」に関し、廃止を含めた抜本的簡素化や、教育・研究の成果について、中長期的努力の成果を含め厳正かつ客観的な評価に転換することを検討する。

https://www.mext.go.jp/content/20200226-mxt_hojinka-000005220_2.pdf

となっています。

 中間まとめを見ると「国は~~が必要である。」「国立大学法人は~~べきである。」という勇ましい言葉が並びますが、そもそもこれは誰に向けた言葉なのかがわかりません。中央教員審議会であれば文部科学大臣に向けて答申を行うという形ですが、同検討会議はその枠組みの外に置かれています。おそらく、文部科学省はこの中間まとめを踏まえて制度改正等を行うものと思われるため、間接的には文部科学大臣や行政・立法組織に対しての言葉だとは思いますが、なかなか判然としないところです。

2.一部の事項は明記されていない

 当初予定されていた検討事項と今回公表された中間まとめを比較すると、以下の事項への言及がないことがわかります

  • 文部科学省職員現役出向等の今後の在り方
  • 学部長等の選考方法の在り方
  • 世界標準の教育研究実現に向けた教育研究評議会の在り方
  • 世界標準の能力・業績評価・報酬体系の確立
  • 授業料の自由化の是非
  • 日常的な英語による教育研究の早期実現(JDが代用?)

 このうち、授業料の自由化については、どこで見たかは思い出せませんが、今回の審議で結論を出すのを断念したという記事を見た気がします。いずれにしろ、この社会状況では授業料の自由化(おそらく「高くなる」方の自由)は打ち出しにくいところです。実際、先行大学の事例を受け、コロナ以前の2019年12月から1月にかけて授業料の値上げを検討していた国立大学は一定数存在していたと思います。その検討はコロナのためにいったん棚上げになった状態でしょうね。

 また、「文部科学省職員現役出向等の今後の在り方」はぜひとも最終まとめに盛り込んでほしいところです。

 なんにせよ、まだ中間まとめですので、年内に作成される予定の最終まとめを待ちたいと思います。

3.各論

 以下、本文中で気になった記載を抜粋し列挙します。

法人化当初に描いていた姿

一方、国の一組織であることを前提としたかのような国の管理の仕組みや大学間の結果の平等を偏重するマインドが国に残っていることも否めない。また、各大学においても、大学内部における横並びの慣習などにより、法人化当初に描いていた、「競争的環境の中で、活力に富み、個性豊かな魅力ある国立大学」の姿は未だ実現しているとは言い難い。(P2)

 言っていることはわかりますが、法人化当初に描いた姿に言及するのならば、法人法制定時の付帯決議の実現にも言及いただきたいところです。

財政的な責任

なお、ここでいう「自律的契約関係」とは、以下で述べる新たな中期目標及び中期計画により、国と国立大学法人それぞれの責任を明確にすることで、その関係性を自律的なものにすることを企図しており、公共的価値の創出を期待されている国立大学法人が、国から財政的に自立することを表現しているものではないことに留意が必要である。(P3)

(中略)

加えて、国は、国立大学法人に負託する役割や機能が発揮される環境構築に責任を持つ意味において、法人が予見可能性を持った財務運営に基づき業務を確実に遂行出来るよう、十分配慮する必要がある。(P4)

 国の責任は財政面であることを、回りくどく言っていると理解しました。

中目中計の在り方

国は、これまでの中期目標の在り方を見直し、総体としての国立大学法人に求める役割や機能に関する基本的事項を国の方針として提示するべきである。(P3)

(中略)

国立大学法人は、国が示す大枠の方針を踏まえ、それぞれの組織の特性を生かした6年間のビジョンや行動計画等を作成すべきである。これは、国立大学法人がその大学経営の目標に照らして、国が方針で示した役割や機能のうち自身のミッションとして位置付けるものについて自ら選択し、それを達成するための方策について、自らの責任で6年間で達成を目指す水準や検証可能な指標を中期計画に明確に規定することが不可欠である。(P4)

 中目中計の在り方が大きく変わりそうです。国が示す基本的事項も、おそらく、現在の3類型に沿ったものになる気がしています。

法人評価の在り方

こうした社会への説明責任が十分に確保されることを前提とした上で、新たな中期目標・中期計画に基づいて構築される自律的契約関係も踏まえ、国(国立大学法人評価委員会)による法人評価について、毎年度の年度評価を廃止し、原則として、6年間を通した業務実績を評価することとすべきである。(P4)

 法人評価の在り方も大きく変わりそうです。

事務職員の育成

具体的には、国立大学法人は、専門性の高い事務職員の育成を進めるとともに、公務員型から脱却した、能力や業績に応じた弾力的な人事給与システムを整えるべきである。(P5)

 事務職員に関する言及もありますね。専門性の高い事務職員の育成は結構ですが、当該職員の専門性に応じた専門性の高い業務があるかどうかがポイントだと思っています。

理事の定数

さらに、戦略的な経営実現やコンプライアンス強化の面から、新たに実施する業務に最適な外部人材の適時登用を可能とするなど、国は、国立大学法人が置くことができる理事の員数について柔軟性を持たせることが必要である。(P5)

 国立大学法人法別表第一に関する案件ですね。国立大学で唯一法人統合を果たした東海国立大学機構(岐阜大学及び名古屋大学)を除き、多くの国立大学では同じ組織のなかで理事と副学長が兼務されている状態です。法人の理事としての役割を果たせるように権限(資金など)が委譲できているのか、そうでなければ外部人材を理事として適時登用したとしても、満足な効果が上がるのかどうか疑問です。

学長選考会議

このように、 国立大学法人は 、学長が真にリーダーシップを発揮し、世界に伍する大学へと飛躍を遂げるため、 学長選考会議が自らの権限と見識において、法人の長に求められる人物像に関する基準をステークホルダーに対して明らかにするとともに、広く学内外から法人の長となるにふさわしい者を求め、主体的に選考を行うべきである。(P6)

 最近何かとお騒がせな学長選考ですが、学長選考会議がちゃんと選考をやれよと言ったことが書かれています。たしかに他の委員会も含め特に学外委員はお付き合いで委員に就任していた例もあるでしょうし、担当部署が作成した案を無言で承認するだけではなく主体性を持って役割を果たせということだと思います。

 本邦でも学長のリーダーシップに関する研究は進展中だという認識ですが、パートタイム委員が多い学長選考会議にその重責がどの程度果たせるのか、学長選考委員に求められる資質を明らかにしたうえで委嘱することも必要ではないかと考えています。また、学長選考に際し、最大のステークホルダーである学生に関わってもらう方法もあり得るのではないでしょうか。

内部留保

したがって、国は、国立大学法人自らの判断で戦略的に積立てができる内部留保の仕組みを作るとともに、法人が自ら獲得した多様な財源を、戦略的に次期中期目標期間に繰り越すことができるよう、目的積立金の見直しを行うべきである。(P7)

 これは弊BLOGでも従前から言及している仕組みです。現在の目的積立金及び積立金のようなものではなく、一般家庭における当座預金に近い形で余剰資金をキープできなければ、節約へのインセンティブは働きません。一方、過去にあった特別会計の積立金、いわゆる「埋蔵金」に近い形でもありますので、この建付けは財務省の説得が困難かもしれません。

債券の発行

そして、国は、この活用拡大のための要件緩和を行うべきとの本検討会議の議論を踏まえ、大学の先端的な教育研究の用に供するための「コーポレート・ファイナンス型」の活用を可能とする政省令改正を、令和2年6月に行っている。しかしながら、国立大学法人が発行する債券が、市場との対話でさらに魅力的な商品として高い価値を生み出していくことが、今後、より一層期待される。(P8)

最近では、東大が発行した大学債がニュースになりました。

www3.nhk.or.jp

東大のプレスリリースでは、大学債の使途は以下の2点です。

  1. 「ポストコロナ時代のグローバル戦略」としての最先端大型研究施設の整備(候補として、ハイパーカミオカンデ等)
  2. 「キャンパスの徹底したスマート化の促進」としてのウィズコロナ及びポストコロナ社会におけるキャンパス整備(学内オンライン講義スペースの拡充等の施設改修、セキュアなネットワーク及びデータ活用環境整備、キャンパス隣接地の取得による利活用等)

第1回国立大学法人東京大学債券債券内容説明書

債券の発行については、文部科学省HPに解説資料があります。

2 資金調達手段としての債券発行の意味:文部科学省

2資金調達手段としての債券発行の意味

(1)債券とは何か

(2)債券発行の実際

 債券を発行するとなると、投資家に対し、年々金利を支払うとともに、償還期間を終えた償還金を支払う必要があります。今回の東大の大学債は200億円発行し利率は0.823%(年)なので、支払う金利は年1億6千万円程度です。これだけの金利を毎年(40年間で66億円程度)支払いつつ、40年後には200億円を償還しなければなりません。

 東大の令和元年度財務諸表では、キャッシュフロー計算書上は資金期末残高が532億円程度ありますので、これが維持できるのであれば金利及び償還には十分に対応できるでしょう(おそらく償還金を積み立てるのだろうと思いますが、償還金の原資には制限があったようにも記憶していますので制度との兼ね合いでしょうね)。一方で、これだけキャッシュがありながら、なぜ大学債の発行を行うのかという疑問もありますが、現行の積立金制度のようにあらかじめ使途が限定された資金では運用上不都合が生じるため、自由度が高い債権発行による資金調達に踏み切ったと推測しています。

設置審査

このため、国は、学位の分野に変更がなく、収容定員の総数が増えない場合において、学部・学科の再編等を伴う定員変更に必要な手続きについて、抜本的に簡素化するべきである。(P9)

 弊BLOGでも従前から言及してきたとおり、国立大学と公私立大学では設置審査の手続きが大きく異なります。設置審査の簡素化は全設置者に共通した流れではありますが、国立大学のみ何らかの措置があるのか、気になるところです。

学部定員の柔軟化

したがって、国は、文理の枠にとらわれないSTEAMスティーム人材の育成や、地域の特性やニーズを踏まえた質の高い人材育成やイノベーションの創出、社会実装に本気で取り組むような場合に限り、これまで抑制的に取り扱ってきた国立大学の学部収容定員の在り方を柔軟に取り扱うことも含め、魅力的な地方大学の実現に向けた取組を強化するべきである。(P10)

 ありがたい話ではあるのですが、学部定員を増やすとともに、増員分を支援できる教育研究環境の整備を行わなければなりません。また、この前段にある

しかし、知識集約型社会への転換の中で、国立大学が知のインフラ基盤として果たすべき役割が増大し、例えばリカレント教育の重要性なども指摘されている状況下で、収容定員を18歳人口との関係のみで決めるのは、必ずしも合理的ではない。

という話について、現状で学部に入学する25歳以上の者の割合は極めて低く、現時点でこの話がどの程度説得力を持つかは未知数だと感じています*1

*1:文部科学省資料では、平成29年度で大学(通学)に在学する25歳以上の者は全体の1.1%

授業目的公衆送信補償金制度に関する留意点

 文化庁と一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(以下、「SATRAS」という。)が開催した授業目的公衆送信補償金制度の説明会(以下、「説明会」という。)に参加し、何点が気になる点があったので、ここに記録しておきます。なお、今回の記事には誤りが含まれる可能性がありますが、それにより生じた損害には当方は一切責任を負いません。 

1.従前の取り扱いはほぼ変わらない

 SATRASの説明ではさもすべての著作物の利用について補償金が発生するような口ぶりにも感じられましたが、これは授業目的公衆送信保障金制度(以下、「本制度」という。)の前提に立っているからです。学校その他の教育機関における複製等や、引用など著作権者の許諾を得ずに著作物を複製等できる取り扱いは、従前から変更ありません。

平成30年著作権法改正による「授業目的公衆送信補償金制度」に関するQ&A(基本的な考え方)(令和2年4月24日文化庁著作権課)

問1 平成30著作権法改正により「授業目的公衆送信補償金制度」を創設した趣旨と制度の概要を教えて下さい。この制度により、教育現場で新たにどのような行為が行えるようになるのでしょうか。

(答)

1.教育現場での著作物利用に関しては、従来から、対面授業のための著作物のコピー・配布や、対面授業の様子を遠隔地に同時中継する際の著作物の送信は、権利者の許諾なく行えることとなっていました。

 本制度は、他人の著作物を授業等において公衆送信を行う際に適用される制度です。それは、平成30年度法改正時の新旧対照表を見れば明らかだと思います。そのため、そもそも公衆送信を行わないのであれば、本制度には該当せず、補償金支払いは発生しません。ただし、当然ながら、法令に定める著作権者の許諾を得ずに複製等できる範囲を逸脱すれば、各著作権者の許諾が必要になります。

改正前 改正後

(学校その他の教育機関における複製等)
第三十五条 学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における使用に供することを目的とする場合には、必要と認められる限度において、公表された著作物を複製することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。







(新設)



2 公表された著作物については、前項教育機関における授業の過程において、当該授業を直接受ける者に対して当該著作物をその原作品若しくは複製物を提供し、若しくは提示して利用する場合又は当該著作物を第三十八条第一項の規定により上演し、演奏し、上映し、若しくは口述して利用する場合には、当該授業が行われる場所以外の場所において当該授業を同時に受ける者に対して公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行うことができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

(学校その他の教育機関における複製等)
第三十五条 学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、公表された著作物を複製し、若しくは公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。以下この条において同じ。)を行い、又は公表された著作物であつて公衆送信されるものを受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該複製の部数及び当該複製、公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

2 前項の規定により公衆送信を行う場合には、同項の教育機関を設置する者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。

3 前項の規定は、公表された著作物について、第一項教育機関における授業の過程において、当該授業を直接受ける者に対して当該著作物をその原作品若しくは複製物を提供し、若しくは提示して利用する場合又は当該著作物を第三十八条第一項の規定により上演し、演奏し、上映し、若しくは口述して利用する場合において、当該授業が行われる場所以外の場所において当該授業を同時に受ける者に対して公衆送信を行うときには、適用しない

 また、説明会資料では、今回の法改正に伴い著作権者の許諾なしに利用可能になった行為がわかりやすく示されています。

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 自分の頭の中にある補償金制度に該当するかを判定するイメージをフローチャートとして作成しました。大まかには、これに従って判断しています。「許諾なしに利用できる範囲」とは、著作権法に定める著作権者に許諾を得ることなく複製等が可能な行為や範囲を指します。

著作物が自由に使える場合は? | 著作権って何? | 著作権Q&A | 公益社団法人著作権情報センター CRIC

定められた条件で自由利用

著作権法では、一定の場合に、著作権を制限して著作物を自由に利用することができることを定めています。しかし、著作権者の利益を不当に害さないように、また著作物の通常の利用が妨げられないように、その条件が厳密に決められています。 なお、著作権が制限される場合でも、著作者人格権は制限されません

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 また、各授業形態との対応は、文化庁が作成した「授業の過程における利用行為と著作権法上の扱いについて」がわかりやすいです。

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 著作権法第35条のみではなく、他の取り扱いも含め、従前のとおり適切に権利対応に取り組んでいく必要がありますね。

2.対象者数をどのように算定するか

 前項では、必ずしもすべての著作物を利用する授業が本制度に該当するわけではないことを示しました。ということは、申請の際に補償金の算出根拠となる対象者数も各授業の実施状況(受講状況)によりある程度は抑えられる可能性があります。

 しかし、この実際の受講者数を基にした申請は、少なくとも大学では現実的ではないと考えます。理由は以下の3点です。

  1. すべての授業に対して本制度の対象となる著作物の利用をしているか詳細な確認を行うことが困難であること
  2. 各授業の各回に誰が受講(アクセス)するのか/したかを把握することが困難である可能性があること
  3. 該当するすべての授業のすべての受講者を把握できる段階が遅いこと

 1.について、小規模大学では数十から数百程度、中大規模大学では数千程度の授業が開講されていることと思います。それら各授業の各回において、本制度の対象となる取り扱いを行っているか詳細に調べることはなかなか大変です。特に、学期初めに調査したとしても、13,14回程度のスライド内容はまだ不明という場合もあり得るでしょう。とりあえず、遠隔授業を行っているかで大きく網をかけて、そこから詳しく調べていくことになりますが、相当程度の時間を要することが想像できます。

 2.について、1.で対象となる授業を同定したとして、その授業の各回の出席者を把握する必要があります。LMS等である程度把握できる可能性がありつつ、各授業により異なるプラットフォームを用いている場合は若干出席者把握の困難性が高まるかもしれないな、と感じてます。

 3.については、例えば後学期の15回目に同制度の対象となる取り扱いを行う授業があった場合、対象者数は15回目の授業が終わらなければ確定しません。説明会では、申請・補償金支払いの前であっても著作権法第35条に沿った対応が可能と言われましたが、さすがに年度末近くなっての申請対応はいかがかとも感じます。

 これらを踏まえると、遠隔授業を行う可能性/予定があるのであれば、5月1日時点全学生(非正規生を含む)を対象者として申請することが無難なように思えます。各学部により対応が異なる場合であっても、教養教育など学部を超えて履修する科目の存在を考えると、あまり単純化はできないかもしれません。

 かといって、少なくない金額が動くにも関わらず、さも全学生を対象とすることが当然のように感じた協会の態度には思うところがありました。

3.実態調査はどのような内容か

 説明会では、著作権者への補償金の分配のため実態調査を行うといった話がありました。前項の通り、各授業の実態調査はそう易々と行えるものではないでしょう。どの大学が調査対象となるのか、調査内容や調査項目はどのようなものかを早めに提示いただかなければ、大学としての対応もなかなかむつかしいと感じています。

4.公開講座には対応する必要があるか

 説明会では公開講座に関する補償金の要件も言及がありましたが、この話は今までの取り扱いと異なる部分があると感じています。

 改正前著作権法第35条の学校での著作物の利用では、「授業の過程における使用」とはあくまで正課の授業での利用に限定されていたと解釈していました。例えば、「学校その他の教育機関における著作物の複製に関する著作権法第35条ガイドライン」(平成16年3月著作権法第35条ガイドライン協議会)では、「同条第1項に関するガイドライン」として、以下の記載があります。

事項 条件 内容
授業の過程における使用 「授業」は、学習指導要領、大学設置基準等で定義されるもの 授業の過程にあたるかどうかは、左記条件に照らして授業を担任する者が責任を持って判断すること。
○ クラスでの授業、総合学習、特別教育活動である学校行事(運動会等)、ゼミ、実験・実習・実技(遠隔授業を含む)、出席や単位取得が必要なクラブ活動
○ 部活動、林間学校、生徒指導、進路指導など学校の教育計画に基づいて行われる課外指導
×以下の場合は、「授業」にはあたらない。
 ×学校の教育計画に基づかない自主的な活動(例:サークル・同好会、研究会)
×以下の場合は、「授業の過程」における使用に当たらない。
 ×授業に関連しない参考資料の使用
 ×校内 LAN サーバに蓄積すること
 ×学級通信・学校便り等への掲載
 ×教科研究会における使用
 ×学校ホームページへの掲載

 ここから、公開講座や教員免許状更新講習などは「授業」や「授業の過程」に該当しないのではないかと思われたため、予防線として、担当教員には適正な引用の範囲内において著作物を利用するようお願いをしていました。

 一方、「改正著作権法第35条運用指針(令和2(2020)年度版)(2020年4月16日著作物の教育利用に関する関係者フォーラム)では、「授業」の例として以下の項目が挙げられています。

  • 講義、実習、演習、ゼミ等(名称は問わない)
  • 初等中等教育の特別活動(学級活動・ホームルーム活動、クラブ活動、児童・生徒会活動、学校行事、その他)や部活動、課外補習授業等
  • 教育センター、教職員研修センターが行う教員に対する教育活動
  • 教員の免許状更新講習
  • 通信教育での面接授業、通信授業、メディア授業等
  • 学校その他の教育機関が主催する公開講座(自らの事業として行うもの。収支予算の状況などに照らし、事業の規模等が相当程度になるものについては別途検討する)
  • 履修証明プログラム
  • 社会教育施設が主催する講座、講演会等(自らの事業として行うもの)

 「授業」の法解釈に変更がないとすれば私の解釈が誤っていただけなので別にそれはいいのですが、公開講座や教員免許状更新講習でも著作物の無許諾利用が一定程度可能であるのは私の中では大きな変化です。

 本制度への対応については、遠隔で行う可能性があるならば授業と合わせて申請といったところです。対象人数は講座の定員とするにしても、例えば年度途中で新たにオンラインで行う公開講座が発生した場合はどうするのかという点は明らかではありません。

5.大学コンソーシアムは「学校その他の教育機関」に該当するのか

  近年は大学間連携が推進されており、その場として各地に結成された大学コンソーシアムが活躍しています。インターネットを利用した講座等も行われる中、大学コンソーシアムが主催するオンライン公開講座は本制度に該当するのか、言い換えれば大学コンソーシアムは「学校その他の教育機関」に該当するのか、気になるところです。

授業目的公衆送信補償金制度のオンライン説明会に参加しました

 令和2年10月7日に行われた文化庁著作権課及び一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS)主催の授業目的公衆送信補償金制度のオンライン説明会に参加しましたので、記録を示しておきます。なお、私が理解できた範囲での記録ですので誤りが含まれる可能性があり、本記事の内容に起因する行為への責任は当方は一切負いません。

制度の概要説明(趣旨と目的など)【文化庁著作権課】

・ 授業目的公衆送信補償金制度は著作権法に定められた制度であり,著作物の利用円滑化と著作権者の利益保護のバランスを図ったものである。他人の著作物は無料で使用できるわけではなく,基本的には利用において対価が発生する。教育活動での利用においても,基本的には同様である。

著作権制度は,流通・利用と権利制限とのバランスが重要である。

・ 権利者であれば,利用条件を決めることができ,他人の無許可利用を禁止できる。他人の著作物を利用する際には,原則として,著作物の利用ごとに許諾を得ることが必要である。

・ 公益性の高い利用や権利者の利益に与える影響が少ないなど,一定の条件下において,権利者の権利が制限される場合がある。これは著作権法第35条に明示されている。

著作権法第35条では,対象施設・対象主体・目的限度・行為・権利者利益への影響を整理し,学校その他営利を目的としない教育機関であること,教員を担当する者と授業を受ける者であること,授業の過程における利用に必要と認められる限度であること,複製・公衆送信などが対象となっていること,著作権者の利益を不当に害しないことであれば,権利者の許諾を得ずに著作物を利用できる。

・ 平成30年度に改正された著作権法における授業目的公衆送信補償金制度により,従来は個別に許諾が必要であった非同期型の授業利用等においても,補償金を支払うことにより各権利者の許諾を得ることなく著作物を利用することができる。

・ 補償金制度では,あらゆる種類の著作物についてワンストップで一括処理が可能となっている。教育機関は指定管理団体に補償金を支払うことで,各著作権者に補償金が分配される。非営利の教育活動であっても,創作者の対価還元を維持することで,創作の活性化や質の高いコンテンツの産出につながることにご理解をいただきたい。補償金については,文化庁の定める審査基準にのっとり,料金が設定されることになる。

・ 本年度は補償金額を無料としているが,次年度は有償での制度運用としている。年内を目途に文化庁で金額の審査を行う予定である。各機関の補償金負担の軽減のため,政府方針にのっとり,概算要求への財政措置の計上など,支援に取り組んでいる。設置者においても,支払い義務を適切に果たすことが大切である。

制度の運用等(運用指針やライセンス,来年度からの補償金額案と規程案等)の説明【一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会】

・ SATRASは2019年1月に設立された日本で唯一補償金の収受が許可された団体である。教育分野の著作物等の利用の円滑化を図ることが目的であり,幅広い分野の著作者団体により構成されている。

・ これまではインターネットを用いた著作物の利用に大きな手間があったが,制度改正により補償金が設定され円滑な著作物の利用が可能となった。

・ 補償金額の算出根拠として,高等教育では学術論文の公衆送信時の使用料を,初等中等教育では教科書の使用料を参考にした。意見聴取を経て,当初の提案額から一律して80円減額することになった。大学等は「720円/一人・年」として文化庁認可申請を行った。

・ 補償金の支払いは教育機関の設置者が行う。また,支払う補償金額は,公衆送信を利用した人数によって包括的に算出する。全校生徒の数を必ず根拠としなければならないわけではなく,利用状況を把握してもらうことになる。公開講座の算出方法について,算出単位を変更し,30名1単位として10単位3,000円を算出単価としている

・ 補償金の権利者への分配について,教育機関への実態調査を行い,それに基づき権利者へ分配を行う予定である。教育機関の負担軽減を図ったうえで,サンプリング調査を行う。各機関への調査は数年に一度等の頻度で行うことを検討している。

・ 著作物の教育利用については,関係者でフォーラムを結成し,著作物の利用推進を検討している。運用指針も同フォーラムで検討している。

・ 補償金の対象とならない著作物の利用(教材の共有や授業外会議,履修期間終了後の学生に対する公衆送信など)についても,ライセンスを付与できるよう準備をしている。

・ 現在は文化庁に対して補償金の認可申請を行っている。認可審査により補償金の金額が上下することはないと思われる。12月には金額が認可される見通しであり,次年度から各機関からの申請を受け付ける予定である。5月1日時点の学生数を基準に申請してもらうことになる。

・ 今後ICTを利用した教育を推進するために著作物の利用環境を整備していく必要がある。

質疑応答

Q:設置者の判断により本制度を活用しないことはあり得るのか。

A:公衆送信を行う場合は,本制度の利用は法令上の義務である。

Q:従前は無償であった対面での著作物の利用も有償となるのか。

A:従前のとおりである。

Q:同一敷地内での配信は有償となるのか。

A:学校内部のサーバのみを介して行われる送信は本制度の対象外である。ただし,外部サーバやインターネットを利用する場合は,本制度の対象となる。

Q:外国の著作物の著作物やSATRASに参画していない著作者団体の著作物などは利用できるのか。

A:外国の著作物でも利用できる。参画していない権利者団体の著作物なども制度の範囲内で利用できる。

Q:補償金を支払えば制限なく利用できるのか。

A:運用指針等の範囲内で利用できる。一切制限なく利用できることではない。

Q:どのタイミングで著作権のことを考えなければならないのか。

A:第三者の著作物を利用する際に考えてほしい。

Q:講師自身の著作物を自身が使用する場合は制度の対象か。

A:自身の著作物を利用する場合は制度の対象外である。

Q:オンデマンド教育においてすでに全員が購入している著作物を公衆配信する場合も補償金の支払いが必要か。

A:必要である。

Q:運用指針の検討状況を教えてほしい。

A:来年度に間に合うように準備している。

Q:包括的なライセンスの検討状況を教えてほしい。

A:補償金制度を補完するライセンスは必要であり,検討を進めている。教材の共有や教職員会議などを対象としたい。

Q:本制度に罰則規定はあるのか。

A:罰則規定はない。ただし,民事的な責任は発生し,SATRASから損害賠償請求がなされる場合がある。

Q:法人単位ではなく学校単位で申請することは可能か。
A:教育機関の設置者(学校法人など)が支払いの義務者であることが法令で定められている。

Q:遠隔授業を行う学校のみの申請でよいか。

A:オンライン授業を全く行わない場合は対象に含める必要がない。

Q:オンライン授業を利用するクラスのみ申請すればよいか。

A:オンライン授業を利用する人数を申請してほしい。

Q:年度途中からの利用はできるのか。

A:年度途中から申請できる。補償金額は年額を12分割することになる。

Q:学生数の根拠はどうか?

A:5月1日の在籍数となる。非正規生が1年を通じて利用する場合は,数に含める。

Q:来年度の申請は5月1日以降となるが,4月1日以降本制度を利用した授業を行っても良いのか。

A:本制度は、申請や補償金支払いが終わる前でも利用することができる。

Q:補償金の金額や徴収方法の時期を決定するのはいつか。

A:補償金額は2020年内に認可される予定である。各機関との契約業務は2021年度以降の対応になる。

Q:2021年度に改めて申請を行う必要があるのか。

A:年度ごとに申請を行ってほしい。自動更新は行わない。

Q:実態調査に備えて準備することはあるか。

A:実態調査はすべての機関に毎年行うのではなく,抽出して調査を行う。各教員に著作物の利用状況を確認(誰のどのような著作物をどの程度利用したか)することになるため,教員が著作物の利用状況を随時記録していれば対応しやすくなるだろう。