国立大学の学長選考はどのように在るべきなのか。

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任期満了に伴う筑波大学の学長選考が20日行われ、永田恭介学長が再任されることになりました。この選考について、一部の教員グループは「過程が不透明だ」と訴えていて、有識者などで作る会議が21日午後、選考の理由を説明することにしています。

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東京大の来年度からの学長(総長)を決める選考会議で「選考プロセスの透明性や公平性に疑義がある」として、教員有志6人が大学側に公開質問状を出した。5人まで選べる最終候補者が理系の男性ばかり3人とされたことや、氏名が30日の学内投票終了まで外部には非公表となっていることなどを問題視している。

 国立大学法人の学長選考が(悪い意味で)話題になっています。特に、平成27年国立大学法人法改正から、学内の投票の取り扱いなどを巡ってニュースになることが増えてきたように感じています。今回は、国立大学法人の学長選考を考えてみます。

なぜ混乱が生じるのか

 なぜのこのような事態が生じるのか、これは国立大学法人の学長という地位が持つ2面性が原因ではないかと考えています。

国立大学法人法 抄

(役員)

第十条 各国立大学法人に、役員として、その長である学長(当該国立大学法人が設置する国立大学の全部について第三項に規定する大学総括理事を置く場合にあっては、理事長。次条第一項並びに第二十一条第二項第四号、第三項及び第五項を除き、以下同じ。)及び監事二人を置く。

(役員の職務及び権限)

第十一条 学長は、大学の長としての職務(大学総括理事を置く場合にあっては、当該大学総括理事の職務に係るものを除く。)を行うとともに、国立大学法人を代表し、その業務を総理する。

2 理事長は、国立大学法人を代表し、その業務を総理する。

 大学総括理事を置いていない限り(現時点では東海国立大学機構(岐阜大学及び名古屋大学を設置する法人)のみ設置)、国立大学の学長は、国立大学法人の理事長と国立大学の学長を兼ねることになります。つまり、法人の経営者としての姿とファカルティーの代表としての姿の2面が一人の学長に同居しています。

 ということは、どちらが正しいというわけではありませんが、学長選考会議は経営者としての姿を、学内意向聴取(学内投票)は従前の通りファカルティーの代表としての姿を評価している可能性を考えています。学長選考会議が学長としての資質を公表してはいるものの、国立大学の学長が内包する多重性のため、結果としてすれ違いが生じているのかもしれません。(ただ、国立大学法人における経営の本質は私もまだ理解できてないところです・・・)

 この考えを検証するためには、国立大学の理事長と学長との選考方法の違い等を検討する必要があり、それが叶うのは現時点では東海国立大学機構のみです。しかし、現時点では東海国立大学機構の理事長は名古屋大学総長(学長)が兼ねているため、今後の同機構の理事長及び学長選考の状況に注目していきたいです。

では、どうすれば良いのか

 では、どのようにすればより良い国立大学法人の発展に繋がる学長選考が実現できるのでしょうか。以下は、現行法をベースにした私案です。

<学長選考会議の権限を強化し、構成員からの評価も踏まえ学長を評価する機能を実質化する>

 国立大学の学長は、学長選考会議が選出し文部科学大臣に申し出るとともに、文部科学大臣が任命することになっています。また、同会議は、学長選出の際の基準を定めることになっています。 法改正時の通知においても、同会議は学長の業績を確認(評価)することになっています。

国立大学法人法 抄

(役員の任命)

第十二条 学長の任命は、国立大学法人の申出に基づいて、文部科学大臣が行う。

2 前項の申出は、第一号に掲げる委員及び第二号に掲げる委員各同数をもって構成する会議(以下「学長選考会議」という。)の選考により行うものとする。

一 第二十条第二項第三号に掲げる者の中から同条第一項に規定する経営協議会において選出された者

二 第二十一条第二項第三号又は第四号に掲げる者の中から同条第一項に規定する教育研究評議会において選出された者

3 前項各号に掲げる者のほか、学長選考会議の定めるところにより、学長又は理事を学長選考会議の委員に加えることができる。ただし、その数は、学長選考会議の委員の総数の三分の一を超えてはならない。

4 学長選考会議に議長を置き、委員の互選によってこれを定める。

5 議長は、学長選考会議を主宰する。

6 この条に定めるもののほか、学長選考会議の議事の手続その他学長選考会議に関し必要な事項は、議長が学長選考会議に諮って定める。

7 第二項に規定する学長の選考は、人格が高潔で、学識が優れ、かつ、大学における教育研究活動を適切かつ効果的に運営することができる能力を有する者のうちから、学長選考会議が定める基準により、行わなければならない。

8 国立大学法人は、第二項に規定する学長の選考が行われたときは当該選考の結果その他文部科学省令で定める事項を、学長選考会議が前項に規定する基準を定め、又は変更したときは当該基準を、それぞれ遅滞なく公表しなければならない。

9 監事は、文部科学大臣が任命する。

学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律及び学校教育法施行規則及び国立大学法人法施行規則の一部を改正する省令について(通知) 抄

2.国立大学法人法及び同法施行規則の一部改正

 国立大学法人法及び同法施行規則の改正は,全ての国立大学法人等に適用されるものである。

(1)学長又は機構長の選考の透明化(国立大学法人法第12条及び第26条関係)

④ 学長等選考会議は,選考した学長又は機構長の業務執行の状況について,恒常的な確認を行うことが必要であること。業務執行の状況についての確認を行う時期については,各国立大学法人等の実情に応じて,学長等選考会議において適切に判断すべきものであること。

3.改正の基本的な考え方

(2)権限と責任の一致

② 学長に対する業績評価

 校務に関する決定権を有する学長が,その結果について責任を負うことは当然であり,学長の業務執行の状況(副学長等への指示・監督状況,意思決定の手続を含む。)について,学長選考会議や理事会等の学長選考組織,監事等が恒常的に確認すること。

 特に国立大学法人の監事については,独立行政法人通則法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備に関する法律(平成26年法律第67号)により国立大学法人法が改正され,監事機能の強化が図られたところであり,適切な予算・人員面の手当をするなど,その機能が適切に発揮されるようにすべきこと。

1.学長選考会議委員の任命権者を文科大臣にする。

 今回の様々な騒動は学長を監視する者がいないという点が問題だとも言われています。株式会社ならば株主により執行部が監視されているが国立大学ではその仕組みが働いていない、とのことです。国立大学と株式会社を比較する意味はあるのかという疑問もありますが、まぁ話はわかります。

 選考した学長に責任を持つのは、任命権者は文科大臣ですが、やはり学長選考会議だろうと思います。しかし、現実には、学長選考会議にはそこまでの責務を負うことができる機能はなかろうと思います。法令上も、学長選考会議委員の任命権者は明確ではありません(一部の国立大学法人の規定を確認したところ学長になっています)。

 学長を監視する力を持たせるのであれば、最低限、学長と同等の任命権者でなければなりません。そのため、まずは学長選考会議の委員の任命権者を文科大臣にし、それを法令上も明記すべきです。

2.学長選考会議の委員の資質能力を明確にする。

 現在の学長選考会議は、お付き合いで委員になった者が、総務部署が作成し事前に学長まで了解をとった資料に基づき、粛々と議事を進行していく場なのかもしれません。それは言い過ぎにしても、選考した学長の行動に責任を持ってもらうためには、学長選考会議の委員に対しても、それなりの資質能力が求められるのは必然です。また、なぜのその学長が選ばれたのかだけではなく、なぜ他の候補者が選ばれなかったのかも学長選考会議の各委員が説明できなければなりません。学長選考会議の委員としてふさわしい資質能力を明確にして、委員を選出すべきだと考えます。

3.学長選考会議が学内構成員の学長への評価も踏まえ学長を評価する。

 学内意向聴取(学内投票)は学長選考の時点でしか行われませんが、常々私はそれが不満でした。学長の任期中においても、学長選考会議が主体となり学長の働きを学内構成員(学生を含む)に意見聴取する機会を設けるべきであり、また、学長選考会議はそれ(またはそれへの対応状況)を踏まえて学長の業績評価を行うべきだと考えます。

 学長を解任できるのは学長選考会議のみであり*1、学長と学長選考会議は良い緊張関係・牽制関係を維持していかなければなりません。学内の評価が低い学長には、はっきりとそれを言って自覚させるべきなのです。

 また、この業績評価の際には、当然、監事も加わる必要があります。監事の任命権者は文科大臣であり、国立大学法人内で唯一、監事は学長と同等の立場にあるのですから*2

 

と、私案は以上なのですが、これを果たすには現在非常にエフォートの少ない委員の雇用(委嘱)の在り様も検討しなければなりません。

学長の任期は無限になるのか

 冒頭の記事にあった筑波大学のケースでは、学長の任期上限が撤廃されたとなっていました。この言い方は若干不正確であり、国立大学法人法では学長の任期上限に関する規定があるため、恐らく、筑波大学内規の再任上限回数が撤廃されたのだろうと思います。(改正前の規則は見つけることができませんでした。)

国立大学法人法 抄

(役員の任期)

第十五条 学長の任期は、二年以上六年を超えない範囲内において、学長選考会議の議を経て、各国立大学法人の規則で定める。

5 役員は、再任されることができる。この場合において、当該役員がその最初の任命の際現に当該国立大学法人の役員又は職員でなかったときの前条の規定の適用については、その再任の際現に当該国立大学法人の役員又は職員でない者とみなす。

国立大学法人筑波大学の学長の任期に関する規則 抄

(任期)

第2条 学長の任期は、国立大学法人筑波大学(以下「法人」という。)の運営における中期計画の重要性に鑑み、その策定及び実施と連動させることを基本とし、その始期は中期計画期間開始の1年前とする。

2 学長の任期は、3年とし、引き続き再任されることができる。

 なお、国立大学協会の平成29年の提言では、各国立大学の学長の任期について、以下の言及があります。当時の状況ですが、学長の在任期間の上限が6年間を超える大学は一定数存在しています。

国立大学のガバナンス改革の強化に向けて(提言)平成29年5月23日一般社団法人国立大学協会

(学長の任期)

今回の調査結果では、任期4年が53大学(62%)で最も多く、次に6年が18大学(21%)、3年が15大学(17%)となっている。再任については、4年任期の場合は54%が2年、3年任期の場合は全大学が3年であり、6年任期の場合は3大学を除いて再任なしである。再任回数は1回がほとんどであるが、2大学が2回、6大学が無制限としている。これらの結果、再任を含めると、学長の在任期間の上限は3大学が4年と短期間であるが、6年が66大学、6年を超えるのが17大学となっている。

また、各大学の考える望ましい学長任期としては、基本の任期を6年に延長したり、再任期間・回数の制限を緩和したりするなど、現在よりも若干の長期化を図る意見が比較的多かった。また、中期目標期間との連動を意識し、学長の選出時期について、次期学長が次期中期目標の策定が行えるよう、就任1年前に次期学長を選出することが望ましいとの意見もあった。(P5)

  一番怖いのは、本人も周りの者も辞め時がわからなくなることでしょう。今回の筑波大学のケースではひとまず3年間の再任ということで、そこでさらに再任か否かを判断されるのだろうと思います。 

学内選挙による学長選考は復活するか

 平成27年国立大学法人法改正以降、学内選挙はどんどんなくなっています。大学教員は言われたことを素直にやらない人間が多いのでリスクヘッジも兼ねて学内選挙があったのだろうと思いますが、学内選挙がないと学問の自由が〜〜大学の自治が〜〜と言われると選挙以外の方法で学長を選考していることが多い私立大学*3のことを思い出してモヤっとします。国立大学は特に国の統制を受けやすのでよりシビアに考えなければならないと言われれば、はぁそうですかと言う程度ですが。

 私個人としては、国立大学法人の発展により資する学長の選考方法であるべきだと思いますが、それが選挙によるものか選考会議によるものかどちらなのかはよくわかりません。最近は申し出のあった学長候補者を文科大臣が任命しない可能性もあると言われていますし・・・

*1:国立大学法人法第17条第4項 前二項の規定により文部科学大臣が行う学長の解任は、当該国立大学法人の学長選考会議の申出により行うものとする。

*2:国立大学法人法第12条第9項 監事は、文部科学大臣が任命する。

*3:文部科学省資料では、平成25年8月の段階で、7割程度の私立大学が選挙以外の方法で学長選考を実施していると回答