中央教育審議会に思う 〜外部者のリソースをどう活用するか〜

中教審、安西会長を選出 「主体的に学ぶ力育てる」 :日本経済新聞

 中央教育審議会(中教審)は17日、東京都内で総会を開き、会長に前慶応義塾長で日本学術振興会理事長の安西祐一郎氏(67)を選出した。多忙を理由に任期を1年残して退任した三村明夫前会長の任期を引き継ぐ。政府の教育再生実行会議の提言を受けた大学入試制度改革や大学の国際化、小中学校の道徳の教科化などの議論が主なテーマになる。

 中央教育審議会(以下、「中教審」と言う。)の会長交代に関する記事が出ていました。各種高等教育関係の媒体や幣BLOGでもたびたび言及されている中教審ですが、改めてどういったものか振り返ってみます。

国家行政組織法

国家行政組織法(昭和二十三年七月十日法律第百二十号)

(審議会等)

第八条  第三条の国の行政機関には、法律の定める所掌事務の範囲内で、法律又は政令の定めるところにより、重要事項に関する調査審議、不服審査その他学識経験を有する者等の合議により処理することが適当な事務をつかさどらせるための合議制の機関を置くことができる。

中央教育審議会令

中央教育審議会令(平成十二年六月七日政令第二百八十号)

 内閣は、国家行政組織法 (昭和二十三年法律第百二十号)第八条 の規定に基づき、この政令を制定する。

文部科学省組織令

文部科学省組織令(平成十二年六月七日政令第二百五十一号)

(設置)

第八十五条  法律の規定により置かれる審議会等のほか、本省に、次の審議会等を置く。

  中央教育審議会

  教科用図書検定調査審議会

  大学設置・学校法人審議会

中央教育審議会

第八十六条  中央教育審議会は、次に掲げる事務をつかさどる。

一  文部科学大臣の諮問に応じて次に掲げる重要事項を調査審議すること。

イ 教育の振興及び生涯学習の推進を中核とした豊かな人間性を備えた創造的な人材の育成に関する重要事項(第三号に規定するものを除く。)

ロ スポーツの振興に関する重要事項

二  前号イ及びロに掲げる重要事項に関し、文部科学大臣に意見を述べること。

三  文部科学大臣の諮問に応じて生涯学習に係る機会の整備に関する重要事項を調査審議すること。

四  前号に規定する重要事項に関し、文部科学大臣又は関係行政機関の長に意見を述べること。

五  生涯学習の振興のための施策の推進体制等の整備に関する法律第九条第一項 、産業教育振興法 (昭和二十六年法律第二百二十八号)、教育職員免許法、学校教育法 、社会教育法、スポーツ基本法スポーツ振興投票の実施等に関する法律第三十一条第三項 及び独立行政法人日本スポーツ振興センター法第二十一条第二項 の規定に基づきその権限に属させられた事項を処理すること。

六  理科教育振興法施行令第二条第二項 、産業教育振興法施行令第二条第三項 及び学校教育法施行令第二十三条の二第三項 の規定によりその権限に属させられた事項を処理すること。

2  前項に定めるもののほか、中央教育審議会に関し必要な事項については、中央教育審議会令の定めるところによる。 

 中教審はその設置根拠を国家行政組織法第8条に求めることができます。それを受け、中央教育審議会令および文部科学省組織令で、文部科学省に中教審を置くことが定められています。両令とも政令ですので、文部科学省が自発的に中教審を設置するというよりは、内閣の制定に基づき中教審が設置されていると理解できます。少し意外だったのが、文部科学省組織令第86条で「中央教育審議会は、次に掲げる事務をつかさどる。」とされているところです。一般に考えられる「事務」という言葉だけではその業務範囲を適切にカバーできていないとも思いますが、おそらく法令用語上の解釈は違うところにあるのかもしれません。

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 中央教育審議会令により、中教審には分科会および部会を設置することができます。現時点で設置されている分科会や大学分科会関係の部会等について、文部科学省HPを基に整理したものを図1に示します。なお、各部会・委員会等の下にもワーキンググループ等が設置されることがあります。また、過去に設置されていたものの、すでにその役割を終え廃止された部会等も文部科学省HPに掲載されています。図1には大学分科会に関係する部会等しか示していませんが、特に初等中等分科会では数多くの部会・委員会が設置されています。

 中教審は、文部科学大臣の諮問に応じるととともに、意見を述べることができます。そのアウトプットが「中教審答申」と呼ばれるものです。答申自体、それに必ず従わなければならないといった法的な拘束力を持つものでありませんが、基本的にはそれを基に政策が展開されていくことになります。いわば、いずれ政策の方針になるものが示されていると考えたほうが無難でしょう。(政策への反映には各事項により濃淡があり、場合によっては政策に反映されない(当座棚上げなど)場合もあるのが実際のところだと思っています。)

 そんな中教審の委員ですが、大きく3つの区分に分けられます。以下にその区分を示します。

  1. 委員(正委員):学識経験のある者のうちから文部科学大臣が任命。任期2年。出席要件有り。議決権有り。
  2. 臨時委員:当該特別の事項に関し学識経験のある者のうちから文部科学大臣が任命。その者の任命に係る当該特別の事項に関する調査審議が終了したときに解任。出席要件有り。議決権有り。
  3. 専門委員:当該専門の事項に関し学識経験のある者のうちから文部科学大臣が任命。その者の任命に係る当該専門の事項に関する調査が終了したときに解任。出席要件なし。議決権なし。

 出席要件及び議決権とは、中央教育審議会令第8条に定める

(議事)

第八条

 審議会は、委員及び議事に関係のある臨時委員の過半数が出席しなければ、会議を開き、議決することができない。

2  審議会の議事は、委員及び議事に関係のある臨時委員で会議に出席したものの過半数で決し、可否同数のときは、会長の決するところによる。

のことです。専門委員は、会議開催の出席要件に含まれず、また議決権を持ちません。

 

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 各区分の配置を大雑把に示したものが、図2です。中教審は30人以下の委員(正委員)で構成され、通常、単に中教審委員と言った場合はこの正委員を指します。この正委員のみが出席する親会議とも言えるものが中教審総会であり、概ね、年に4,5回程度開催されるという認識です。また、正委員は担当の分科会が指定され、数人ずつ各分科会に分かれます。その分科会に参画するのが臨時委員です。さらに、各分科会において部会・委員会が設置された際に、正委員・臨時委員とともに参画するのが専門委員です。なお、これはあくまで代表的な例であり、専門委員が分科会に参画していることもあります。

 各委員に就任した者が会議に出席した際は、旅費謝金が文部科学省から支払われています。その基準は見つけることができませんでしたが、平成21年に各府省庁が申し合わせた「謝金・諸手当業務の抜本的効率化について」によれば、各区分等により異なりますが、高くても日額2万円程度に標準額が定められています。

業務・システムの最適化 | 電子政府の総合窓口e-Gov[イーガブ]

「謝金・諸手当業務の抜本的効率化について(PDF)」

第 2  支払基準 

1.  会議出席謝金支払基準 

 懇談会等行政運営上の会合(以下、「会合」という。)への出席に対する会議出席謝金の日額及び時間単価は、原則として別表 1 の標準単価を適用する。 

 中央教育審議会は2001年に設置され、2年ごと任期を繰り返し、現在は第7期にあたります。正委員は教育関係者(学校教員、大学教員、教育委員会関係者など)のみならず、当初から企業関係者等も参画しています。また、スポーツ・青少年分科会の設置もあり、スポーツ関係者も参画しています。そのような教育関係者以外の者の人数を下表に示します。なお、あくまで独自調査であり、基本的には各期発足当初のメンバーや役職を基にキャッチアップできた分のみを示しますが、任期途中での交代や役職変更などを十分に考慮しておらず、必ずしも正確な数ではないことに留意願います。

  第1期 第2期 第3期 第4期 第5期 第6期 第7期
教育関係以外の者 7 7 10 8 9 10 11
うち企業関係者 4 4 4 1 3 3 3
うち地方団体関係者 1 0 3 3 3 3 3
うち労組関係者 1 1 1 1 1 0 1
うちスポーツ関係者 1 1 1 2 2 2 1
うち文化人、ジャーナリスト等 0 1 1 1 1 2 3

 表から、教育関係以外の委員数が増加していることがわかります。また、特に地方団体関係者と文化人、ジャーナリスト等が増加していることがわかります。

 地方団体関係者が増加した理由として、第3期から所謂地方3団体と言われる全国知事会全国市長会全国町村会からの委員が参画したためと考えます。第3期の中教審正委員の案が発表された当時、上記3団体を含めた地方6団体名で「中央教育審議会委員の選任について」というコメントが発表されています。 

http://www.nga.gr.jp/news/2005_2_x01.pdf

 我々地方六団体は、昨年の「国と地方の協議の場」での申し入れに続き、本年1月18日、文部科学大臣に対し、中央教育審議会委員に知事、市長、町村長のそれぞれの代表者を速やかに選任することを別紙のとおり強く申し入れたところである。

 しかしながら、文部科学省はこの申し入れを受け入れることはできないとし、本日、第3期中央教育審議会委員の名簿を発表した。

 地方自治体は、自治事務である義務教育行政の小・中学校の設置・運営を行う主体であり、その所要経費の7割以上を負担するとともに、幼稚園、高等学校教育、公立大学、私学助成、スポーツ振興、生涯学習、科学技術等のいずれの分野においても重要な役割を果たしているものである。

 それにもかかわらず、今回発表の名簿によると、これら内容を審議する中央教育審議会の委員に、地方自治体の責任者は含まれていない。我々が求めている文部科学行政の各分野において重要な役割を担っている都道府県知事、市長、町村長のそれぞれの代表が選任されていないことは極めて異常な事態であり、文部科学行政における地方軽視の現れであると受け止めざるを得ない。

 おそらく、このコメントを受け、地方3団体の委員を参画させることになったものと推測できます。政治的な配慮といったところでしょうか。文化人、ジャーナリスト等が増加している理由は、よくわかりません。第7期はジャーナリスト2人、NPO法人理事長1名となっています。もともとジャーナリストを参画させていたのは、市民感覚や透明性を高めるためだと思いますが。。。

 そんな中教審ですが、世間の評判はあまり良くないなと思っています。「現場を知らない」「答申が適切ではない」というのが、webなどで見つかる批判でしょうか。まぁ、言ってることはわからないでもないなという感想です。ただ、中教審の委員も各教育機関等で頑張っておられる方であり、一概に現場を知らないということは当てはまらないのではないでしょうか。また、答申から政策に接続する際、どうしても新しい施策がピックアップされ、負担軽減など「地味」な施策がないがしろにされる可能性が常にあるとも感じています。中教審自体には政策に反映できるようなヒト・モノ・カネがなく、会議での議論や答申の意図が十分に政策や現実に反映されていないことについて歯がゆい思いをしている委員もいるのではないかと想像できます。

 中教審を擁護しているわけではなく、私自身、答申も部分によっては疑問があるところです。ただ、答申が政策に繋がっているのは間違いなく、大学の活性化に外圧として使用することもあるでしょうから、単純に部分否定から全体否定に繋げるのではなく、その内容や実情を理解しどこを利用していくかを考えた方が良いでしょう。

 中教審の会議運営についても、どうしても「総会」という大きなものが取り上げられ、そのセレモニー性が批判にさらされることがあります。しかし、ここまで述べてきたとおり、各分科会や部会・委員会等で個別具体な議論を積み上げてきた結果でもありますし、その姿だけみて一概に批判できないのは言うまでもありません。ただ、会議の運営方法は身につまされる思いがあります。

 私も何度か中教審の分科会や部会を傍聴したことがあります。それは、大抵20人程度の委員がグルリと座り、事務局からの説明や部外者のプレゼンの後、議論というよりは意見交換をして、あとは議長引き取りで事務局で意見をまとめるという形が多かったように感じています。少なくとも、何かを決定するというプロセスは拝見したことがありません。会議体の役割としてそのようなものは求めていないのかもしれませんが、各地から第一人者をお金を払って集めているのですから、もう少し議論や対話といったプロセスを組み込み、新たな価値を生み出すことができないものかなと考えてしまいます。(おそらく、議題設定と会議ファシリテーションの問題だろうと思いますが。。。)

 翻って、この問題が大学にも適応されると思っています。各大学には学外者をメンバーに含めた会議体が存在するでしょう。国立大学法人ならば、経営協議会や学長選考会議がその代表例です。それら学外者を含めた会議も、中教審と同様に、ぐるっと並んで各人が勝手気ままに意見を述べる場になっていないでしょうか。そこからどのような価値が生み出され、どのように大学運営に活かされているのでしょうか。少なくとも、私の所属機関においては、その回答はなかなか難しいのが現状です。折しも「大学のガバナンス改革の推進について」(審議まとめ)(平成25年12月24日 組織運営部会):文部科学省にて、学長選考会議の役割が問われている中、学外者を含めた会議体をどのように実質化し大学運営に資していくかというのは、各大学共通の課題だろうと思っています。メンバー選定から始まり、議題設定や会議ファシリテーションなど、クリアしていかなければならない問題は多そうです。一つの解決策として、議長が会議を進行する形から、議長は存在しつつも会議は議決権を持たないファシリテーターが動かし対話を活性化するというのも手かなと思っています。その場合は、会議メンバーがファシリテーターに対し十分な信頼を持っていることが必要でしょうが。

 この記事の根底にあるのは、持てるリソースを最大限活用していなかなければ生き残れないのではないかという私自身の危機感です。大学運営に活かせる価値をより効率的効果的に部外者を用いて生み出すためにはどうしたら良いか、と考えてしまいます。