高等教育無償化(負担軽減新制度)は機関認定より運用の方が難しい。

高等教育段階の教育費負担軽減:文部科学省

文部科学省では、しっかりとした進路への意識や進学意欲があれば、家庭の経済状況に関わらず、大学、短期大学、高等専門学校、専門学校に進学できるチャンスを確保できるよう、高等教育段階の教育費負担軽減のための取組みを進めています。

大学無償化法は対象外でも得をする?~専門学校・中間層などが間接影響も(石渡嶺司) - 個人 - Yahoo!ニュース

2019年5月10日、高等教育の無償化に向けた大学等修学支援法、通称・大学無償化法が成立しました。これにより、2020年4月から低所得者層の学生が学費減免と給付型奨学金(返済不要)を受給できます。

 高等教育の無償化に向けた大学等修学支援法が成立しました。ここでは、一定基準の学生に対し、機関認定を受けた学校等で教育を受ける場合には、授業料等減免や給付型奨学金支給などが受けられるようなっています。各大学においても、事前に公表されていた機関要件の確認への対応のポイント案に沿い、かなり短期なスケジュールの下で、機関認定に向け対応していることと思います。改めて確認すると、機関認定を受けることよりも、その後の運用の方が難しいのではないかと思っています。

1.機関認定要件

 大学等における修学の支援に関する法律では、機関認定要件を以下のとおり定めています。

一 大学等の教育の実施体制に関し、大学等が社会で自立し、及び活躍することができる豊かな人間性を備えた創造的な人材を育成するために必要なものとして文部科学省令で定める基準に適合するものであること。

二 大学等の経営基盤に関し、大学等がその経営を継続的かつ安定的に行うために必要なものとして文部科学省令で定める基準に適合するものであること。

三 当該大学等の設置者が、第十五条第一項の規定により確認を取り消された大学等の設置者又はこれに準ずる者として政令で定める者で、その取消しの日又はこれに準ずる日として政令で定める日から起算して三年を経過しないものでないこと。

四 当該大学等の設置者が法人である場合において、その役員のうちに、この法律若しくはこの法律に基づく命令若しくはこれらに基づく処分に違反した者又はこれに準ずる者として政令で定める者で、その違反行為をした日又はこれに準ずる日として政令で定める日から起算して三年を経過しないものがないこと。

 これらの具体的な要件については省令で定めらるところですが、機関要件の確認への対応のポイント案では、要件は以下のとおりとなっています。

  1. 実務経験のある教員による授業科目の配置
  2. 外部人材の理事への任命
  3. 厳格な成績管理の実施・公表
  4. 財務・経営情報の開示

 この要件を勤務校ベースで見たとき、意外とハードルは低いなと感じました。中~大規模校ならば、比較的申請書が書きやすいのではないでしょうか。

 1については、

各学校種の設置基準により、卒業に修得が必要となる単位数の1割以上、実務経験のある教員による授業科目が配置され、学生がそれらを履修し得る環境が整っていること

とあり、一見厳しい基準にも思えます。ただ、"授業科目が配置され、学生がそれらを履修し得る環境が整っていること”であり、必修科目である必要はありません。以前聞いた話では、入学から卒業までのあるタイミングで履修可能であればよいとのことでした。

 大学設置基準では、4年制学部の卒業単位数は124単位以上であり、この1割以上は13単位概ね7科目です。学部には多ければ数百と科目があると思いますので、その中でたった7科目と考えると、それほどシビアな基準とは言えないでしょうね。強いて言うならば、シラバスへの対応がネックになるかもしれません。

 3については、通常の教学マネジメントの範囲内にて対応していることも多いと考えます。ただ、後でも述べますが、支援対象者の要件確認において、困難さがあるなと感じています。

 4については、教育活動に係る情報も記載することになっています。自由記述である"FD(ファカルティ・デベロップメント)の状況"や"学生の学修状況に係る参考情報""大学が行う学生の修学、進路選択及び心身の健康等に係る支援に関すること"などは、どこまで書くべきかという意味でちょっと書きにくいですね。

2.支援対象者要件

 大学等における修学の支援に関する法律では、支援対象者要件を以下のとおり定めています。

(確認大学等の設置者による授業料等の減免)

第八条 確認大学等の設置者は、当該確認大学等に在学する学生等のうち、文部科学省令で定める基準及び方法に従い、特に優れた者であって経済的理由により極めて修学に困難があるものと認められるものを授業料等減免対象者として認定し、当該授業料等減免対象者に対して授業料等の減免を行うものとする。

また、同法では、支援対象者の認定の取り消しを以下のとおり定めています。

(認定の取消し等)

第十二条 確認大学等の設置者は、文部科学省令で定めるところにより、当該確認大学等に在学する授業料等減免対象者が偽りその他不正の手段により授業料等減免を受けた又は次の各号のいずれかに該当するに至ったと認めるときは、当該授業料等減免対象者に係る第八条第一項の規定による認定(以下この条において単に「認定」という。)を取り消すことができる。

一 学業成績が著しく不良となったと認められるとき。

二 学生等たるにふさわしくない行為があったと認められるとき。

 特に、認定の取り消し基準について、機関要件の確認への対応のポイント案では以下のとおり記載があります。

支援対象者の要件

・次のいずれかの場合は、直ちに支援を打ち切る。なお、その態様が著しく不良であり、懲戒による退学処分など相応の理由がある場合には支援した額を徴収することができる。

ⅰ 退学・停学の処分を受けた場合

ⅱ 修業年限で卒業できないことが確定したと大学等が判断した場合

ⅲ 修得単位数が標準の5割以下の場合

ⅳ 出席率が5割以下など学習意欲が著しく低いと大学等が判断した場合

・次のいずれかの場合には、大学等が「警告」を行い、それを連続で受けた場合には支援を打ち切る。

ⅰ 修得単位数が標準の6割以下の場合

ⅱ GPA(平均成績)等が下位4分の1の場合(斟酌すべきやむを得ない事情がある場合の特例措置を検討)

ⅲ 出席率が8割以下など学習意欲が低いと大学等が判断した場合

 大学はこれらの判断ができるように、体制を整備しなければなりません。大きくは、

  • 各自の修得単位数
  • 各自の出席状況
  • 各自のGPAと分布中の位置

を一人一人常に(毎学期?)把握しなければならないでしょう。システムですぐに出せることも多いとは思いますが、個々にそれをモニターする手間はあなどれません。また、学生側もこれらの状況を知りたいでしょう。システム改修などで、これらの状況(特にGPAに関する情報)が容易にモニター・出力できるようにしたいところです。ただ、これらの”出席率”や”GPA”がどのような授業を対象にするのか、いまいち判然としません。この辺りは、来週以降に開催される説明会にて話されることでしょう。

 支援要件としては、”GPA(平均成績)等が下位4分の1の場合”が学生にとって厳しいと感じます。下位4分の1は常に発生し、かつ、相対評価であるため頑張ったとしてもそれを脱却できるとは限りません。成績評価の異議申し立ても、不可に関する申し立てのみではなく、今まで少なかったであろう成績評価段階に関する申し立ても発生することが想定されます。各大学により支援対象者数も異なるとは思いますが、出席や成績に関する対応を迫られることでしょう。

3.教学マネジメントの一環として対応していきたい

 特に、支援対象者要件は、出席や成績など教育の質保証とも関係しています。負担軽減のためのみではなく、教学マネジメントの一環として対応していきたいと考えているところです。

 余談ですが、

(目的)

第一条 この法律は、真に支援が必要な低所得者世帯の者に対し、社会で自立し、及び活躍することができる豊かな人間性を備えた創造的な人材を育成するために必要な質の高い教育を実施する大学等における修学の支援を行い、その修学に係る経済的負担を軽減することにより、子どもを安心して生み、育てることができる環境の整備を図り、もって我が国における急速な少子化の進展への対処に寄与することを目的とする。

を見て驚きました。

 高等教育の負担軽減は、少子化への対応だったんですね。