RIHE公開セミナー「大学における学習」に参加してきました。その2
(その1から続く)
日本の高等教育の量的展開と政策を振り返る-機関レベルの規模 ・範囲の軌跡と政策効果の検証-(村澤)
- 政策は個々の大学や組織にどのように影響を与えてきたのか。統計分析を用いた研究を行っているが、統計分析はデータ整備や仮説検討に時間がかかる。日本では評価活動の根拠となるようなデータが求められているが、エビデンスの取り方には注意した方がいい。
- 学校基本調査は便利だが、総体値しかわからず、個々の大学の変動は不明である。90年代までは政府のコントロールもありそれでも良かったが、今は機関の行動が重要な時代であり、個別のデータが必要になっている。
- 90年代を境に一学部の平均定員数は減少している。ただ、学部数は増加しており、小規模学部がたくさん発生していると推測できる。これはニーズが多様化しているためであり、また併せて、学生の奪い合いが生じていることも推測できる。
- 学部名称についても、50年代から複合名称の学部が登場し始め、80年代から増加し始めている。また、施策としての国際化推進の影響もあり、80年代からは国際という名称も登場し始めた。2010年代には多文字学部が学部名称TOP10に登場するとともに、他の大学が使用していない唯一の学部名は全体の50%まで達した。学部名の文字数も上昇傾向にある。
- 文科省が過去に打ち出した高等教育政策計画が各大学各学部の定員増加に与えた影響を分析した。なお、このような分析を行う際には、大学が多層構造であることを考慮しなければならない。
- 第4次計画が定員増加に与えた影響は大きい。1955年を基準とした年数にも正の影響が見られ、組織体を成長させてきたとも言える。私立大学は特に正を影響を受けている。分野別に見ると工学系や社会科学系も定員増を行っており、大学の偏差値も定員増に正の影響を与えている。歴史のある大学は強い。
- 外形的客観的なデータから大学を眺めてほしい。かつては機会均等が政策の前提であったが、今は関心が薄くなっている。出口の観点から大学を変えるという発想の転換が必要で、そのためにデータが重要になる。
- 学生調査型IRは主観データであり、注意が必要である。データの使い方や解説をしているものは気をつけて眺めてほしい。
「SERU 学生調査」-教育の国際的な質保証に向けた広島大学の取組み(渡邉)
- SERU(Student Experience in the Research University)とは、カリフォルニア大学システムの学部生活動調査をモデルとした研究大学の学生に対するアンケート調査である。現在では、カリフォルニアのみならず、全米や世界で活用されている。SERUのデータは一般には公表されておらず、コンソーシアム加盟校の間でのみデータや分析結果の共有が可能となっている。目標回収率は25%であり、ハードルが高く苦労している。
- SERUにはアメリカと国際の2種類のコンソーシアムがあり、両者の間でもデータの共有がなされている。アメリカのコンソーシアムでは全米トップクラスの州立大学など15校が連携しており、国際コンソーシアムではロシアを中心にブラジルや中国、イギリス、南アフリカなど11校が加盟している。日本では大阪大学と広島大学が加盟している。
- 広島大学ではSGU創生事業への採択の際にSERUを導入することを決めた。学内ではワーキンググループを設置して、コンソーシアム連携校との調整や学内調査の実施などを行っている。データ分析結果の受け皿となる組織体をどのように定めていくかはこれからの課題である。
- SERUのアンケートはwebアンケートであり、コンソーシアム加盟校が共通に回答するコア・モジュールとその他4つのモジュールで構成されている。コア・モジュールだけでも40問、全てのモジュールを合わせると200問程度あり、この設問の多さが回答率を下げている一因と考える。広島大学では、コア・モジュールとGlobal Experiencesモジュールを学生に回答させている。
- コア・モジュールでは1週間の活動時間配分や授業での取組・態度、将来のビジョンなどについて問われる。Global Experiencesモジュールでは在学時の国際経験や大学への印象、大学教育の重要さなどが問われる。
- 国際ベンチマークを行う際には、卒論に代表されるカリキュラムの違いや医歯薬学部などのシステムの違い、専攻分野による違いなどを考慮しなければならない。また、アンケートに対する意識や文化の違いは大きく、日本の学生は比較的控えめに回答する傾向にあると考える。これらの事情もあり、SERUのカンファレンスでは、毎回その結果がベンチマーキングの指標として使えるのかという議論が起こる。そもそも、このようなアンケートに回答する学生は優秀であるといったサンプル・セレクション・バイアスの問題もある。
- 広島大学では現在2学部のみで試行実施しているが、学生へのメリットが十分に説明できておらず、回答率が悪い。回答率の向上が今後の課題である。将来的には、全学部全学生を対象としたい。回収率25%は高い壁である。他のアンケートとの重複も確認しており、その解消を目指して学内調整を進めていきたい。
- SERUの目的は学生の声を聞くことであり、共通のモットーは”Every student has a voice. Every voice is heard.”である。アメリカの大学は比較的回収率が高い。SERUのカンファレンスには学生へのプロモーションをどのように行うのかというパネルがあり、回答した学生へ抽選で現金やアメフトのチケットをプレゼントする大学もある。戦略を考えないといけないと感じている。
- SERUのコンソーシアムに対し、SERUのデータを用いてピアレビューを行うコンサルタント事業を広島大学が提案した。今後は指標策定を検討し率先してそれを受審することで、評価される側から評価する側へと転換していきたい。
新高大接続テスト導入の経緯と今後の大学教育の課題(大膳)
- 高大接続テストの大きな特徴は、高校と大学をうまく接続しようとするところである。導入する際に大学側がどのように対応するかは今後の課題。高校側は、新学習指導要領に沿って対応を始めたところである。
- 今の教育の課題は「生きる力」の育成とグローバル人材の育成であり、これは少子高齢化やグローバル化、情報化など社会の変化に対応するためである。初等中等教育には指導要領の改訂等、大学には法人化等により、変化が求められている。
- 過去に比べ、高校の学習時間は中間層の生徒が大きく減少している。PISAテストの結果では若干持ち直しているが、他国に比べると階層化が進んでおり、習熟度レベルが低い者の割合が多い。高校生の留学数も減少している。高校の就職率が減少しその分進学者が増えており、多様な者が大学に入学していると推測できる。私立大学では補習授業を行う大学が増えている。
- 教育改革国民会議の流れにより、教育基本法が改正された。現在では自民党内に教育再生実行本部、政府内に教育再生実行会議が設置されている。グローバル人材や入試改革は実行本部から発案され、方向性を実行会議で定め、具体的な実施方法等は中教審で検討される。ここから、政府主導で教育改革が進められていると推測できる。高大接続についても同様であり、現在は文科省内の会議で具体的な実施方法等が検討されている。
- 教育基本法の改正により教育振興基本計画が策定されることになった。教育においても計画を作りそれを実行するような経済的な動きがある。改正された教育基本法では教育の目標の部分に公の意味合いが強く出てきており、これが道徳の教科化につながっている。これを受け、学習指導要領も「生きる力」を重視するようになった。そのため、大学入試も知識をチェックするだけではなく、応用力を確認する必要がある。高校側は、結局従来とおりの大学入試の形になってハシゴを外されるのではないかと戦々恐々に大学の動きを注目している。
- 中教審の議論を見ると、高校側の目標・PDCAと大学側の目標・PDCAを接続しようとしている。高校ではアクティブ・ラーニングや基礎学力テストの導入が行われ、基礎学力テストは高校の質の確保のために行われる。大学ではカリキュラム・マネジメントやアクティブ・ラーニングの推進を行う。入試においては、学力評価テストを導入し、各大学の活用を求めている。個別選抜では、各大学のAPに応じ多面的な選抜方法を明確化するよう要請がある。
- 高校教育やその質の確保から始まり、各大学のAPに沿った入試までを一体的に捉えることが入試改革である。高校と大学とがうまく情報交換をしながら進めていく必要がある。
(その3へ続く)