学生の満足度に思う 〜一体何に満足しているのか〜

 今はどこの大学でも学生の満足度調査やそれに類似する取組を行っていますね。所謂授業評価アンケートの一部として組み込まれていることも多いと思いますし、学部学科など学位プログラム全体として満足度を調査することや卒業生や同窓生に調査することもあると思います。

 これらは元々顧客満足度の概念から取り組まれていることでしょう。顧客満足度というと、サービス産業生産性協議会が実施している「JCSI(日本版顧客満足度指数)」がまっさきに思い浮かびます。

JCSI(日本版顧客満足度指数)の特徴
1.6つの指標で満足度構造とポジショニングをチェック
 サービスを多面的に評価するために、顧客満足度指数だけでなく、その原因・結果を含む6つの指標について調査し、指数化しています。6つの指標の評価とともに、指標間の因果関係を比較・分析することで、満足度を上下させている理由や、利用者のその後の行動について、分析が可能になります。
【JCSIで指数化する6つの指標】
顧客期待: サービスを利用する際に、利用者が事前に持っている企業・ブランドの印象や期待・予想を
示します。
知覚品質: 実際にサービスを利用した際に感じる、品質への評価を示します。
知覚価値: 受けたサービスの品質と価格とを対比して、利用者が感じる納得感、コストパフォーマンス
を示します。
顧客満足: 利用して感じた満足の度合いを示します。
推奨意向: 利用したサービスの内容について、肯定的に人に伝えるかどうかを示します。
ロイヤルティ: 今後もそのサービスを使い続けたいか、もっと頻繁に使いたいかなどの再利用意向を示します。

 大学における学生の満足度調査については、各大学の調査報告書やそれらを基にした論文が散見されます。多すぎて捕捉しきれないほどですが、例えば以下でしょうか。

 授業評価と学生満足度は別の概念であると考えますが、同一に調査されている場合がありますね。しかし、学生は一体何を以て「満足」と感じているのでしょうか。基本的には、私は学生満足度のみを以て何かを主張するということには非常に懐疑的です。それは過去に体験したあることが基になっています。

 以前、主要駅から遠く周りに何もない立地の地方小規模大学のとある部局へ調査に伺いました。その部局はなかなか教育活動がうまくいっていないらしいということが伝わってきており、案の定、その件に話が及ぶと喧嘩腰ともとれるようなやりとりが行われ、非常にヒヤヒヤしたことを良く覚えています。さて、その調査の中では学生達との面談も行い、学年や属性が異なる学生達に話を聞きました。その中で驚いたのが、その部局の教育に対する学生の満足度が非常に高いことです。成果が良くないことは共有されているにも関わらず、先生達は頑張ってくれています私たちは満足していますという言葉が何度も出てきました。確かに、事前にいただいた資料では学生満足度が非常に高いことは把握していたのですが、実際に聞くとなんというか非常にショックでした。成果がはるかに良い大学よりも学生満足度が高かったのですから。

 一体これはどういうことだと他の調査人と話し合った結果、恐らく学生は他大学等でどのような教育が行われているか知らず比較対象がないため現状に満足している(あるいはそう思い込んでいる)のではないかという結論に至りました(今思うと、良いことを言う学生を大学側が面談者として選抜してきた可能性もありますが。。。)。結局、その部局は数年後に学生募集を停止しました。

 この体験で私が得た教訓は「学生の満足度だけでは何も言えない」ということです。大学は、学生を満足させる場ではなく、学生を成長させる場です。前述した授業評価と学生満足度の混合実施についても、両者は明確に分けられるものではないとは思いますが、良い授業を行うことよりも満足度を高めることの方にウェイトが置かれるのではないかという危惧はぬぐえません。

 かといって、学生の満足度は意味がないといっているわけではありません。教育を受ける側の意見も聴取し、合理性があるものならばそれを教育活動に反映させていくことは、教育の改善や内部質保証にとても重要なことだと考えます。要は、複合的に考えなければならないということです。

f:id:samidaretaro:20140910211716p:plain

 図に、教育に関する評価に関係する4者とそれらの関係を示します。それぞれの線は、授業評価等評価活動を示しています。学生、教員、学部研究科等の部局、大学全体の4者について、それぞれ評価側、被評価側にまわることが考えられるとともに、各者共に自己評価を行うことも想定できます。もちろん、各大学の取組によっては、存在し得ないラインがあるでしょうね。簡略化し模式的に示した図ですが、要素を特定しその間の関係性を考えるという点では意味があると考えています。

 この図のような関係は、講義レベル、学部等学位プログラムレベル、大学全体としての教育・教育支援レベルの3つで考える必要があります。このように、単一の評価結果に頼るのではなく、複合的に観察することで、どれほどの成果を上げているのか、どのような改善が必要なのかということを検討することができます。複数の大学がIR活動を協力して実施する大学IRコンソーシアムでは、学生調査の特徴として以下の記述があります。

 また、学生調査を継続することで、学生の経年変化や成長を調べることができます。学内にある教学データとリンクさせることで、学習成果に関する直接アセスメントと、学生調査から得られる学習プロセスを組み合わせて分析することも可能です。

 このように、学生調査を教育アセスメントとして用いることで、各大学における教育の標準性を検証することや特色を抽出することにつながります。アセスメントの結果は、教学マネジメントの支援や教育の内部質保証のエビデンスとして役立ちます。

 私としては、このような複雑な評価関係を整理するのがアセスメント・プランであり、それをコントロールし大学活動の成果を明らかにしていくのがIR活動の一環であると考えています。(アセスメント・プランは、以前弊BLOGでも言及しました。)

 学生は一体何に満足したのか、またその満足は教員側大学側が意図したものだったのか、学生の満足度は講義等対象範囲が小さい場合にはよりわかりやすく意味があるものになると感じます。ただ、学部等学位プログラムレベル、大学全体としての教育・教育支援レベルになると、何に対し満足したかどうかという対象を明らかにしない限り、正課外の影響が大きくなり、意味の読み取り難いものになるでしょう。

 どのような学生が満足度が高いのか、それらの成績はどうなのか、自己評価はどうなのかなど、アセスメント結果を組み合わせながら傾向を把握し改善できる点を探っていくことが教育の内部質保証に繋がると考えていますし、それに向けたIRの取り組み方については以前から弊BLOGで記載しているとおり実践していきたいと思っています。