財政制度分科会の資料に思う 〜国立大学はどうなってしまうのか〜(前編)

財政制度分科会(平成26年10月27日開催)資料一覧 : 財務省

 財務省の財政制度分科会(平成26年10月27日開催)資料の掲載されていました。ここでは国立大学法人の運営費交付金の配分方法について検討されましたが、その内容はすでに報道されています。

「国立大学交付金、「成果で配分」財務省提案」 News i - TBSの動画ニュースサイト

 財務省は、財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会で、国立大学に配られる運営費交付金について、3割程度を各大学の改革の取り組みなど成果に応じて配分する仕組みに見直すよう提案しました。

 また、同時期に、文部科学省でも「第3期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の在り方に関する検討会」が発足し、今後検討が行われることになります。

第3期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の在り方に関する検討会について:文部科学省

1 趣旨
 平成28年度から国立大学法人の第3期中期目標期間が開始するに当たり、同期間における国立大学法人運営費交付金の在り方等について、必要な検討を行う。

国立大の交付金、配分見直し検討 11月に有識者会議 :日本経済新聞

 下村博文文部科学相は28日の閣議後の記者会見で、国立大学の運営費交付金の配分方法の見直しについて、11月5日に有識者会議を設置し、具体化に向け検討を始めることを明らかにした。来夏までに結論を出し、2016年度予算から新たな配分方法を採用する。

 国立大学法人の運営に直結するテーマですので、その内容はかなり気になるところです。弊BLOGでも運営費交付金については度々言及してきました。

 そこで、財政制度分科会の資料2文教・科学技術関係資料の該当部分であるP21以降を確認します。なお、本稿はなんらかの結論を導くものではなく、個人的な疑問や推測を列挙するだけのものであり、ただの感想文であることに留意願います。

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P24 大学が担う社会的役割
 ここでいう「大学」とは、文脈的に国立大学を指すのだろうと思います。国立大学が担う社会的役割として、以下の3点が挙げられています。

  1. 人材の育成
  2. 研究を通じた社会貢献
  3. 地域の活性化

 ここでおや?と思ってしまいました。大学の役割と言えば、教育研究社会貢献の3つであることは言うまでもありません。それらとは違い、3番目にある「地域の活性化」が国立大学の担う社会的役割であるというのは初めて聞きました。確かに、COC事業など地域との関係性を強めようという動きはあります。ただ、それはあくまで地域連携、地域貢献という、ある意味で地域を支えましょうという従の立場でという認識です。地域の活性化となると、また少し切り口が違うのではないかと感じます。言葉の使い方の差異なのかもしれませんが、違和感がありました。なんらか出典はあるのでしょうか?国立大学改革プランには、各大学の機能強化の方向性として「地域活性化の中核的拠点」が挙げられていますが、社会的な役割とまで言って良いのは不明です。

 また、【現状】にある「大学の均質化 (=地方国立大学のミニ東大化)」について、もともと国立大学は高等教育進学の機会均等という役割も果たしていたと考えますので、ある意味で従前の役割を指摘しているという感覚もあります。ただし、すでにそのような時代ではないのだろうなという思いも感じるところです。

 同じく【現状】にある「地方からの人材流出(首都圏への一極集中)」については、それをこっちにふるなよという思いでいっぱいです。これについては後ほどまた触れます。

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P25 事業規模と大学の評価について

 総収入学と大学ランキング順位の推移を示しています。使用しているのは、以前弊BLOG(世界大学ランキングに思う 〜何が評価されているのか〜)でも言及したTimes Higher EducationのWorld University Rankingのようです。このグラフをパッと見た時、大学ランキングの値をこのように使用するのかとちょっと新鮮に感じました。しかし、総収入学とランキング順位を比べることにどのような意味があるのでしょうか?どちらかと言えば、一般運営費交付金の額とランキング順位を推移を比較し、一般運営費交付金の額が減少しているからランキング順位も減少していますよという方が説得力がある気がします。

 資料上部にある「事業規模は増加傾向にあるものの、大学の評価とは必ずしも比例していない」から「資金の一層の有効活用が必要」に至るロジックもよくわかりません。有効活用ではなく、もっと資金投入すればランキング順位は上がる可能性があるのではないでしょうか。そもそも単純にランキング順位=大学の評価としている点は、同資料後半で多面的評価指標を例示していることと矛盾を感じます。我が国の大学よりも事業費が少なくかつランキング順位が上位の大学や、事業費の増加に伴いランキング順位が増加している大学について、我が国の大学とどのような点が違うのかを十分精査すれば、少なくともランキング順位という点では上昇の手がかりがつかめるのではないかと考えています。

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P26 地域の人材供給機能としての国立大学

 これは今まであまり見たことのないグラフです。大学の設置されている地域を出身とする入学者の割合(平成26年度) と同地域を就職先とする卒業者の割合(平成25年度)を比較したものです。明記はされていませんが、おそらく学部卒業生ではないかと推測します。本来ならば、地域内外から入学した者が卒業後に地域内外どちらに就職したのかというコーホートで検討したほうが良いでしょう。大学教育の面から見れば、地域の人材供給機能は基本的にはカリキュラムによってもたらされるものであり、それを経ていない入学生を比較対象とするのはフェアではないかなと感じます。ただ、大学に地域の人材共有機能を求めるのは、なかなか厳しいなという思いがあります。

 地域の人たちと話していていつも会話に出てくるのが、働き口がないから人が定着しないということです。地元出身の学生からも、本当は地元にいたいけれども就職先がないから東京に行くという話は何度も聞いてきました。大学が地域の雇用創出を担うのはどう考えても無理筋です。確かに、教員養成分野や医師養成分野など、地域への人材共有が求められる分野もあるでしょう。しかし、それを大学全体としてカウントするのは、違和感があります。問題には感じるところでありどうにかしたいとは思っていますが、それを以って一律に指摘されるのにはちょっと辛いという思いです。

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P27 日本の大学における教育研究組織の見直し

 ここにもミスリードがあります。「教育研究組織の見直しを行って機能強化を行っている大学がある一方、全く見直しを行っていない大学が存在する中、一般運営費交付金の予算については、必ずしも機能強化に向けての取組みが慫慂されるような配分となっていない。」とありますが、そもそも一般運営費交付金は教育研究活動の基盤的な経費であり、改組等により増減する性質のものではありません。比較するのであれば、特別運営費交付金等の増減を比較すべきでしょう。実際、機能強化を行った国立大学Aの平成25年度特別運営費交付金はかなり増額されています。よく、学長や役員が変わるたびに組織をいじりたがるという声も聞かれますが、このあたりも影響しているのかもしれません。

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P28 国立大学の今後の取組

 ここまでのまとめです。いろいろ文句は言ってきましたが、基本的にはここに書かれた流れになるのだろうなと思っています。ただ、これはゼロサムゲームになるはずですので、優れた取組みを行う大学に重点支援を行う一方、そうではない大学はその分資金を削減されるでしょうね。

(後編へ続く)