(追記あり)2019年度の国立大学運営費交付金配分の概況と所感

(12月24日追記)

「2-1.文部科学省概算要求時の状況」を追記しました。

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2019年度予算:文部科学省

国立大運営費交付金 1割を「重点支援枠」に 政府19年度予算案方針 - 毎日新聞

政府は2019年度予算案で、国立大学法人運営費交付金のうち教育や研究の評価に応じて傾斜配分する「重点支援枠」を、全体の約1割にあたる1000億円に拡大する方針を固めた。重点支援枠の拡大は大学運営のための「基盤的経費」の縮小につながりかねず、文部科学省も急激な拡大に反対していたが、結果的に財務省に押し切られた形になった。

 2019年度予算案が閣議決定され、文部科学関係予算案についてもホームページに公表されていました。国立大学運営費交付金については、事前に一部報道でもあったように、重点支援枠を1000億円に拡充されるようです。具体的にどのように配分され、どのような懸念があるのか、整理してみました。

1.2019年度の国立大学運営費交付金配分の状況

1−1.各省公表文書からみる配分ルール

国立大学法人運営費交付金等 10,971 億円 ⇒ 10,971 億円 (▲0.0%)

各国立大学への運営費交付金について、その大部分をそれぞれ前年同額で固定して配分してきた仕組みを改め、評価に基づく配分の対象額を 1,000 億円まで拡大。このうち、①700 億円については教育・研究の成果に係る客観的な共通指標等による評価に基づき配分し、②300億円については重点支援評価に基づき配分。

①成果に係る客観的な共通指標等による配分(700 億円)

・ 基幹経費において、成果に係る客観・共通指標による相対評価に基づく配分を行うこととする。

31 年度においては、機能強化経費からの基幹経費化分(注)と合わせた 700 億円について、下記の指標による配分を行う。

(注)機能強化促進費(補助金)等 300 億円以内を基幹経費化する。

(ⅰ)会計マネジメント改革の推進状況(100 億円)

学部・研究科ごとの予算・決算の管理、学内予算配分への活用、情報開示状況及びこ
れに向けた取組みに基づき配分

(ⅱ)教員一人当たり外部資金獲得実績(230 億円)

以下の獲得実績に基づき、点数を付与して配分

ア)研究教育資金獲得実績(共同研究、受託研究、受託事業等の使途の特定された資金)

イ)経営資金獲得実績(寄附金、雑収入等の使途の特定のない資金)

(ⅲ)若手研究者比率(150 億円)

常勤若手教員の常勤教員に占める比率に基づき、点数を付して配分

(ⅳ)運営費交付金等コスト当たりトップ 10%論文数(試行)(100 億円)

運営費交付金等コスト当たりトップ 10%論文数に基づき、点数を付して配分(重点支援③の大学のみ)

(ⅴ)人事給与・施設マネジメント改革の推進状況(120 億円)

人事給与・施設マネジメント改革の推進状況(業績評価の処遇への反映、クロスアポイントメント、戦略的施設マネジメントなど特筆事項等)により評価ポイントを算出し、これに基づき配分

・ 32 年度以降、②の配分からの振替え等により対象額(配分割合)を 700 億円から拡大するとともに、傾斜(変動幅)を拡大する。

・ 教育・研究の成果に係る指標については、31 年度においては上記のとおり試行導入とし、31 年夏頃までに、教育研究や学問分野ごとの特性を反映した客観・共通指標及び評価について検討し、検討結果を 32 年度以降の適用に活用する。

②機能強化経費の「機能強化促進分」で、各大学の評価指標に基づき再配分(300 億円)

・ 精選された各大学の評価指標(KPI)に基づく各項目の KPI ポイントの合計から大学全体の評価ポイントを算出し、これに基づき再配分

 財務省公表資料から抜粋しました。本件に係るポンチ絵は以下の通りです。

文部科学省

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財務省

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1−2.2019年度の国立大学運営費交付金配分のポイント

 2019年度の国立大学運営費交付金配分ポイントは以下の通りです。

  1. 総額は前年度とほぼ同額であること
  2. 各3分類に属する国立大学間を共通指標で相対評価し配分する金額が700億円、各大学が設定したKPIにより評価し配分する金額が300億円であること
  3. これらの配分は基幹経費(使途を特定しない経費)で行うこと
  4. 共通指標で各大学に再配分する金額は、2019年度は再配分率90%〜110%とすること
  5. 2020年度以降、評価対象総額と配分率の幅は拡大すること

1−3.配分ルールの目的

 この配分ルールの目的として、各省は以下の通り掲げています。

文部科学省

  • 人材育成の中核・イノベーション創出の基盤としての役割の飛躍的強化
  • 評価のわかりやすさや透明性の向上
  • 各大学の主体的な取組を推進
  • 教育研究の安定性・継続性に配慮しつつ改革インセンティブを向上

財務省

  • 「単純な配分」から「質の向上に実効性のある配分」へ予算の使い方を見直し

2.2019年度の国立大学運営費交付金配分の背景

2−1.文部科学省概算要求時の状況

 2018年8月の2019年度概算要求時には、メリハリある重点支援の支援の推進として、重点支援枠が400億円計上されていました。当初は、重点支援枠の拡大が想定されていたとは言え、その規模は半分以下でした。

文部科学省2019年度概算要求のポイント>

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2−2.財政制度等審議会財政制度分科会の影響

 2019年度の国立大学運営費交付金配分には、財務省財政制度等審議会財政制度分科会の影響が強く見られます。配分ルールは、10月24日に開催された財政制度等審議会財政制度分科会における文教・科学技術予算で審議された資料と全く同じです。

○ 我が国の国公⽴⼤学への公的⽀援については、主要先進国の国公⽴⼤学の中でトップクラスにある。そうした中で、国⽴⼤学法⼈間の運営費交付⾦等については、社会のニーズに応じた教育⽔準・グローバルレベルでの研究⽔準の向上が図られるよう、

・ 複数併存・重複する評価制度を整理統合し、教育⾯では例えば就職率・進学率など、研究⾯では例えば教員⼀⼈当たりトップ10%論⽂数・若⼿教員⽐率・外部資⾦獲得額などのアウトカムあるいはそれに類する共通指標を⽤い、相対評価かつ厳密な第三者評価を実施するとともに、

・ これらの教育・研究の質を評価する共通指標に基づいて配分する割合をまずは10%程度にまで⾼めることが必要ではないか。

○ 国⽴⼤学法⼈の学内の予算配分については、新たなニーズに対応する必要があるのであれば、外部資⾦も合わせ、学⻑裁量経費等を有効に活⽤しながら、学⻑のリーダーシップやガバナンス改⾰により、重点配分を実現すべきではないか。

そのため、各⼤学において、セグメント別の予算・決算を管理し、各学科・各教員の教育・研究成果を評価する必要があるのではないか。

2−3.首相の発言

 首相においても、この制度を是とするとともに第4期中期目標期間における運営費交付金の配分方法をさらに見直す旨の発言がなされています。

平成30年12月20日 総合科学技術・イノベーション会議 | 平成30年 | 総理の一日 | 総理大臣 | 首相官邸ホームページ

また、来年度から、国立大学の運営交付金の約1割を対象に、若手研究者比率や民間資金の獲得状況など、客観的で比較可能な共通指標を中心に、改革の実績に応じた配分とすることで、経営改革に取り組む大学を支援します。この改革を更に推し進め、戦略的・計画的な経営改革が行われるよう、第4期中期目標期間において、運営費交付金全体の配分方法の見直しを実現します。

 報道にもある通り、財務省に押し切られたという見方をすることもできますね。総額を前年度通りとすることとの引き換え条件であるとも推測されます。

3.2019年度の国立大学運営費交付金配分の評価できる点

3-1.運営費交付金総額が前年度とほぼ同額であること

 残念ならば増額とはならなかったですが、前年度とほぼ同額の運営費交付金総額を維持できたことは評価できます。財務省の提案を受け入れることにより総額が維持されたのではないかと推測しています。

 また、「事項(3)国立大学改革の推進」は5億円の増額、授業料免除枠や科学技術予算の拡充などもあり、国立大学全体に関わる予算規模は拡大しているように感じています。

3-2.基幹経費としての取り扱いであること

 指標に基づく事業にしか使用できないプロジェクト型ではなく、使途が特定された基幹経費としたことは評価できると思います。ただし、元々は基幹経費を徴収し再配分しているので、結局は変わらないことですが。。。

3−3.激変緩和措置があること

 激変緩和措置として、2019年度の再配分率を90%〜110%としたこと(各大学への最終的な運営費交付金総配分額が99%〜101%程度となること)も各大学の状況を配慮したということでしょう。

4.2019年度の国立大学運営費交付金配分の懸念

4−1.安定的に配分されないこと

 激変緩和措置があるとは言え、総額の1割に当たる額が配分されるかどうかわからない状況です。配分額決定時期にもよりますが、次年度の教員公募に間に合うような時期に次年度の配分額が決まるとは思えません。また、恐らく各大学の再配分率は年度により異なることになるでしょう。基幹経費であっても、配分額を人件費に見込むのは難しいのではないかと考えています。年度の途中に配分があったとしても、せいぜい既存業務の追加予算配分や施設整備に充てられるのが関の山なのではないでしょうか。結局は再配分されるから良いのではなく、当初見込まれる予算が削減されることが問題なのです。

 財務省が好きな”国家収支を家計に例える"に倣うと、貯蓄がほぼなく固定費が多くを占める家計において年俸制給与の月割り支給額が9割になり残りは仕事の実績に応じて10月に配分するようなものでしょうか。当然、毎月支出するようなもの(食費、保険料など)は今まで通り支出することができず、QoLに大きな影響が出ることが予想されます。国立大学においても、このような配分ルールが教育研究等活動の質の向上に繋がるとは想像しにくいですね。

4−2.共通指標と教育研究等活動の質向上の関係が不明なこと

 700億円の配分の根拠となる共通指標は、以下の通りです。

  1. 会計マネジメント改革の推進状況(100億)(学部・研究科ごとの予算・決算の管理、学内予算配分への活用、情報開示状況及びこれに向けた取組み(
  2. 教員一人当たり外部資金獲得実績(230億)(ⅰ)研究教育資金獲得実績(共同研究、受託研究、受託事業等の使途の特定された資金)ⅱ)経営資金獲得実績(寄附金、雑収入等の使途の特定のない資金))
  3. 若手研究者比率(150億)(常勤若手教員の常勤教員に占める比率に基づき、点数を付して配分)
  4. 運営費交付金等コストあたりトップ10%論文数(試行)(100億)(重点支援③の大学のみ)(運営費交付金等コストあたりトップ10%論文数に基づき、点数を付して配分)
  5. 人事給与・施設マネジメント改革の推進状況(120億)(人事給与・施設マネジメント改革の推進状況(業績評価の処遇への反映、クロスアポイントメント、戦略的施設マネジメントなど特筆事項等)により評価ポイントを算出し、これに基づき配分)

 財務省ポンチ絵では「従来の評価指標が教育・研究の「成果」とは無関係な目標設定」とあり新たに指標を設定したようですが、これらの指標全てが教育研究等活動の質向上に関係しているとは思えません。見ればわかる通り教育活動に関する指標はありませんし、特に、1や5は基本的には管理運営に関する指標でしょう。

 仮にこれら指標の向上を目指したとしても、財務省文科省が夢想するような外形的なマイクロマネジメントとなり、逆にそれらが教育研究等活動を阻害することを懸念しています。

4−3.国立大学間の相対評価であること

 共通指標に基づき配分される金額は、各3分類に属する各国立大学の相対評価により決定されるようです。明確な相対評価が国立大学に導入されたのは、私が知る限りではこれが初めてではないかと思います。相対評価である以上は、基本的には少しでも指標が高い方が良い結果になる可能性が高くなります。そのため、各国立大学とも、指標の向上に努力することでしょう。

 この状況は私立大学等改革総合支援事業(以下、「私学補助金」という。)と似ているなと感じています。私学補助金では、事業提案ではなく、調査票に規定された非常に細かい設問への回答点数により資金配分が決まります。私の観測範囲では、取組の内容を問わずとりあえず点を取りに行くような姿勢も見られ、なんとも言えない思いをしているところです。

 国立大学も同様の状況になれば、前述の通り、教育研究等活動や管理運営事業の十分な検討・実施の阻害にもつながりかねません。その点は、各国立大学においても留意しなければならないでしょう。

5.2019年度の国立大学運営費交付金配分の所感

5−1.国立大学はいい加減腹を括らないといけない

 使い古された表現ですが、状況は予想以上に厳しさを増しています。特に、今まで以上に雇用に大きな影響を与えるでしょう。来年度を見据え、人件費1,2割カットの学内内示がある国立大学もあるのではないでしょうか。

    従来の”大学”の姿、”国立大学”の姿を超え、各国立大学は、仮に予算が2割3割なくなったとしても維持すべき”在り様"を腹を括って考え実践していかなければならないでしょう。

 2019年度予算(案)の姿がわかって以降、18歳人口の減少と併せて、私はこのことをずっと考え続けています。様々な方法はあれど、定員を削減するとともに”安定的な教育研究環境の整備のために”授業料を値上げする国立大学が多くなるかもしれません。