毎月勤労統計の不適切調査はマジでヤバい。

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厚生労働省が公表する「毎月勤労統計」の一部の調査で本来と異なる手法が取られていた問題で、こうした手法が2004年に始まっていたことが同省関係者への取材で明らかになった。不適切調査の影響で、同統計を基に給付水準が決まる雇用保険労災保険が過少給付されたケースがあることも判明し、同省が調査を進めている。

 毎月勤労統計の不適切調査が判明し、大きな波紋を広めています。各大学でも、毎月勤労統計調査へ対応している総務人事系職員はいることと思います。直接担当したことはありませんが、なかなか面倒な調査みたいですね。

 本件ですが、内容が明るみになるほど、私の語彙力が低下するぐらいに「マジでヤバい」案件だなと感じています。

1.毎月勤労統計調査とはなにか

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賃金、労働時間及び雇用の変動を明らかにすることを目的に厚生労働省が実施する調査です(調査の概要と用語の定義はこちらをご覧下さい)。

その前身も含めると大正12年から始まっており、統計法(平成19年法律第53号)に基づき、国の重要な統計調査である基幹統計調査として実施しています。

毎月勤労統計調査は、常用労働者5人以上の事業所を対象として毎月実施する全国調査及び都道府県別に実施する地方調査のほか、常用労働者1~4人の事業所を対象として年1回7月分について特別調査を実施しています。

 毎月勤労統計調査とは、厚生労働省が行う賃金等に関する調査です。その名の通り、毎月、実施されています。対象となるのは常用労働者が5人以上の事業所であり、特に常用労働者が500人以上の事業所は悉皆調査が行われています。

 特に重要な点は、この調査が統計法に基づく基幹統計(旧:指定統計)調査だということです。

2.基幹統計とはなにか

統計法 抄

第2条 4 この法律において「基幹統計」とは、次の各号のいずれかに該当する統計をいう。

一 第五条第一項に規定する国勢統計
二 第六条第一項に規定する国民経済計算
三 行政機関が作成し、又は作成すべき統計であって、次のいずれかに該当するものとして総務大臣が指定するもの
イ 全国的な政策を企画立案し、又はこれを実施する上において特に重要な統計
ロ 民間における意思決定又は研究活動のために広く利用されると見込まれる統計
ハ 国際条約又は国際機関が作成する計画において作成が求められている統計その他国際比較を行う上において特に重要な統計
6 この法律において「基幹統計調査」とは、基幹統計の作成を目的とする統計調査をいう。
 基幹統計とは国勢統計など特に重要な統計のことであり、基幹統計を作成するための調査を基幹統計調査と言います。基幹統計一覧の中には、大学職員にもなじみのある学校基本調査も含まれています。
(報告義務)
十三条 行政機関の長は、第九条第一項の承認に基づいて基幹統計調査を行う場合には、基幹統計の作成のために必要な事項について、個人又は法人その他の団体に対し報告を求めることができる。
2 前項の規定により報告を求められた者は、これを拒み、又は虚偽の報告をしてはならない。
第六十条 次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 十三条に規定する基幹統計調査の報告を求められた者の報告を妨げた者
二 基幹統計の作成に従事する者で基幹統計をして真実に反するものたらしめる行為をした者
第六十一条 次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する。
一 十三条の規定に違反して、基幹統計調査の報告を拒み、又は虚偽の報告をした者
二 第十五条第一項の規定による資料の提出をせず、若しくは虚偽の資料を提出し、又は同項の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、若しくは同項の規定による質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をした者
 前述のとおり、基幹統計は国家における非常に重要な統計であり、報告義務のみならず、罰則規定まであります。「基幹統計の作成に従事する者で基幹統計をして真実に反するものたらしめる行為をした者」には六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金、「基幹統計調査の報告を拒み、又は虚偽の報告をした者」には五十万円以下の罰金が処されます。
 当然これは学校基本調査にも適用され、~~新聞社が行う~~調査などとはまったく別次元の話であることがわかります。学校基本調査において数値を積算するのが面倒だから昨年度と同数で報告することは許されません。(”故意に”という言葉がないため意図せず間違えた場合も罰則が適用される可能性も否定できません。さすがに実務上はあり得ないでしょうが。)

調査に答える義務はあるの?

統計法第13条では、国の重要な統計調査である基幹統計調査について、「個人又は法人その他の団体に対し報告を求めることができる」と規定しています(報告義務)。また、同法第61条では、「報告を拒み、又は虚偽の報告をした者」に対して、「50万円以下の罰金に処する」と規定しています。

しかし、毎月勤労統計調査は、その趣旨をご理解いただくことによって成り立つものです。また、万が一、十分な回答をいただけなかった場合、得られた統計が不正確なものとなり、毎月勤労統計調査の結果を利用して立案・実施される様々な施策などが誤った方向に向かってしまう可能性があります。

調査の趣旨と、正確な統計を作成することの必要性をご理解いただき、ご回答をお願いいたします。

 毎月勤労統計調査においても、厚生労働省のウェブページに罰則規定が明記されています。

3.どのように不適切な調査だったのか

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厚生労働省で実施している毎月勤労統計調査において、全数調査とするところを一部抽出調査で行っていたことについて、調査を行ったところ、以下のような事実を確認しました(添付資料参照)。

 厚生労働省のウェブページには、今回の不適切調査の概要が掲載されています。それによると、

「500人以上規模の事業所」については、調査計画及び公表資料で全数調査することとしていたところ、平成16年以降、厚生労働省から東京都に対し、厚生労働省が抽出した事業所名簿を送付し、当該名簿に基づき抽出調査を行うこととしていました。

「500人以上規模の事業所」については、他の道府県では全数調査ですが、東京都のみ抽出調査が行われたため、東京都と他の道府県が異なる抽出率となっていました。

調査対象事業所数が公表資料よりも概ね1割程度少なくなっていました。

としています。

 この「500人以上規模の事業所については全数調査することとしていた」ことについて、明確な省令や通知を見つけることができませんでした。おそらくは、厚生労働省のウェブページに公表されている「調査の概要」における標本設計の「表2産業、事業所規模別抽出率表(第一種事業所)」の規模500人以上の抽出率が1/1(つまり100%)となっていることが根拠なのでしょう。

4.不適切調査のなにがヤバいのか

 ここまで述べたとおり、毎月勤労統計調査は非常に重要な業務であり、それを不適切に対応していたということはマズい事態であると言えます。ただ、ここまでならば、まぁ運用上何とかしようと思ったことは想像できなくもありません。真にヤバいと思う点は、法令に則った業務を行うべき中央官庁が、懲役や罰金といった罰則が適用される運用を(恐らく自覚的に)行っていたということです。

 本件を聞いたとき、文部科学省による再就職規制違反と同じだなと感じました。法令で定められているにも関わらず組織内の個人的(反法令組織的)な運用によりひそかに物事が進められてきた点は、関与した職員の範囲などが異なるにしろ、構造的には同じではないでしょうか。

 本件について得るべき教訓があるとするならば、業務の根拠法令や規程をしっかりと最後まで読みそれを踏まえて取り組むべき、ということだと考えています。