国立大学の重点支援枠はどのように選択されたのか。
国立大改革「地域・特色・世界」の3つの枠組みで強みを生かせるか
文部科学省の国立大学改革に向けた新方針「三つの枠組み」で、各大学の選択結果が明らかになった。大学側の”改革意思表明“を手がかりに、文科省は2016年度の概算要求で、国立大運営費交付金420億円の上積み実現を目指す。人文社会系学部の廃止通知騒ぎでは、理工系に比べ遅れている教員の意識改革を期待する。すでに学部再編はラッシュの様相だ。社会ニーズに対応して各大学の機能を強化する国立大学改革は、本番を迎えつつある。
国立大学の分類に関する記事が出ていました。ここで言われている「三つの枠組み」とは、以下の3つの重点支援枠のことですね。
- 重点支援①:主として、地域に貢献する取組とともに、専門分野の特性に配慮しつつ、強み・特色のある分野で世界・全国的な教育研究を推進する取組を中核とする国立大学を支援
- 重点支援②:主として、専門分野の特性に配慮しつつ、強み・特色のある分野で地域というより世界・全国的な教育研究を推進する取組を中核とする国立大学を支援
- 重点支援③:主として、卓越した成果を創出している海外大学と伍して、全学的に卓越した教育研究、社会実装を推進する取組を中核とする国立大学を支援
これは第3期中期目標期間の運営費交付金配分に関連しており、既に弊BLOGでも言及してきたところです。今回は、これら3分類について様々なデータを用いて大まかな形を明らかにしていきたいと思います。どの大学がどの枠組みかは、以下の図をご覧ください。
既存の枠組みとの比較
国立大学法人は従前から「国立大学法人の財務分析上の分類」として規模に応じたグループ分けが行われ、国立大学法人評価などの際にはそのグループに合わせた対応がなされてきました。その分類は、以下のとおりです。
- Aグループ:学生収容定員1万人以上、学部等数概ね10学部以上の国立大学法人
- Bグループ:医科系学部を有さず、学生収容定員に占める理工系学生数が文科系学生数の概ね2倍を上回る国立大学法人
- Cグループ:医科系学部を有さず、学生収容定員に占める文科系学生数が理工系学生数の概ね2倍を上回る国立大学法人
- Dグループ:医科系学部のみで構成される国立大学法人
- Eグループ:教育系学部のみで構成される国立大学法人
- Fグループ:大学院のみで構成される国立大学法人
- Gグループ:医科系学部その他の学部で構成されA〜Fのいずれにも属さない国立大学法人
- Hグループ:医科系学部を有さず、A〜Fのいずれにも属さない国立大学法人
図1に「国立大学法人の財務分析上の分類」と「三つの枠組み」との比較図を示します。データラベルは枠組みを選択した法人数です。図1から、AグループやFグループ、Gグループでは枠組み選択が偏っている一方、BグループやCグループでは多様な枠組みが選択されていることがわかります。
ここから、従来からの活動の延長としてある程度自然に選択できた法人と改めて方向性を探り枠組みを選択した法人があったと推測できます。特に、BグループやCグループは医学部を持たず文系理系が明示されている法人群であるため、ミッションの再定義と合わせ、どのような方向で法人を動かしていくのか検討があったのかもしれません。また、「国立大学法人の財務分析上の分類」は規模感に応じた分類であるため、それにマッチしていないということは、規模のみに応じて「三つの枠組み」が選択されているわけではないことが示唆されます。
表1に従来の国立大学の分類と「三つの枠組み」との比較表を示します。昔からある国立大学の分類と比較すると、旧帝国大学は全て重点支援③を選択している一方、新八医科大学は概ね重点支援①を選択していることが分かります。特に注目したいのは、旧六医科大学が重点支援①と③とで真っ二つに分かれている点です。各大学のプロフィールやデータをしっかり見ないと何とも言えませんが、この選択の違いがどのような影響を及ぼすのか良いベンチマークになると思っており、これら6大学の動向には関心があるところです。
学生数と教員数
図2に各重点支援の枠組みにおける平成24年度の学生数と本務教員数の分布を示します。数値は大学基本情報から取得しており、学生数には学部学生、大学院生、別科生、聴講生等を含みます。
図2から、重点支援③は学生数教員数とも概ね大規模でありながら一部は中規模に区分されること、重点支援①は小規模から中規模まで広く分布していること、重点支援②は比較的小規模に分布していることがわかります。また、ST比については、若干指数関数的になっているものの、重点支援の枠組みにより明確な違いがあるとは必ずしも言えないことがわかります。
図3及び図4にH24学生数及び本務教員数の分布を箱ひげ図で示します。これらから、学生数教員数とも、他2つに比べ重点支援③の分布が大きいこと、ざっくり見ると規模感は③>①>②の順であることがわかります。規模の大きい国立大学は重点支援③を選ぶ傾向にあったと言える一方、前述のとおり必ずしも規模感のみで重点支援③が選択されているわけではないことも示唆されます。
科研費の獲得状況
図5にH27科研費採択件数及び配分金額の分布を示します。数値は日本学術振興会ウェブページに掲載された「2-2 研究者が所属する研究機関別 採択件数・配分額一覧(平成27年度)」から抽出しました。図5から、採択件数及び配分金額とも重点支援③が上位を占めていることが分かります。なお、重点支援①及び②に紛れている比較的低位である重点支援③の2校は、東京農工大学と一橋大学です。
規模の影響を打ち消すために、指数としては少々無理がありますが、H24本務教員数でH27科研費採択件数及び配分金額を除した本務教員一人当たりの数値を図6に示します。図6から、重点支援②の大学の一部が比較的高位に位置していること、重点支援①の大学群が比較的低位に位置していることがわかります。
重点支援②は「強み・特色のある分野で地域というより世界・全国的な教育研究を推進する取組を中核とする国立大学」であり、規模が小さいながらも特定の分野において研究活動が盛んに行われていることが示唆されます。また、重点支援①においても、細目別採択件数上位10機関(過去5年の新規採択の累計数)にてほとんどの大学がランクインしていることもあり、特定の分野において研究活動が盛んに行われていることが示唆されます。これは、重点支援①の「強み・特色のある分野で世界・全国的な教育研究を推進する取組を中核とする国立大学」にもある程度合致していることと考えます。これらから、枠組みの選択は各大学で行われてきた従来の研究活動と合致していることが推測できます。
補助金の採択状況
図7に各枠組みにおける「地(知)の拠点整備事業」(COC)、「スーパーグローバル大学創成支援事業」(SGU)、「大学教育再生加速プログラム」(AP)の採択状況を示します。図7から、重点支援①においてCOC採択校が半数以下であること、重点支援③においてSGU採択校が7割程度であることがわかります。
重点支援③とSGUとの親和性は理解できるところですが、重点支援①においてCOC採択校が意外と少ないなという印象を受けました。なお、COCとSGUともに採択された6大学(千葉大学、金沢大学、京都大学、京都工芸繊維大学、広島大学、熊本大学)のうち重点支援①を選択したのは2大学(京都工芸繊維大学、熊本大学)であり、残り4大学は重点支援③を選択しています。必ずしも、この事業に採択されているから、という理由のみで枠組みを選択したのではないことが示唆されます。
まとめ
ここまで幾つかのデータにより、重点支援の枠組みの特徴を確認してきました。従来の区分や学生・教員数、科研費獲得状況などから、実際に各大学においてどのように枠組み選択の決定がなされたのは不明ですが、各大学における従来の活動を踏まえながらも必ずしもそれらのみに囚われない枠組み選択が行われたことが示唆されました。
大学の機能別分化については、平成17年に出された中央教育審議会答申「我が国の高等教育の将来像」にて言及され、以下の7区分が提示されました。
これらの分化については、
各々の大学は、自らの選択に基づき、これらの機能のすべてではなく一部分のみを保有するのが通例であり、複数の機能を併有する場合も比重の置き方は異なるし、時宜に応じて可変的でもある。その比重の置き方がすなわち各大学の個性・特色の表れとなる。各大学は、固定的な「種別化」ではなく、保有する幾つかの機能の間の比重の置き方の違い(=大学の選択に基づく個性・特色の表れ)に基づいて、緩やかに機能別に分化していくものと考えられる。
とされました。つまり、各大学の活動の結果としての機能別分化が期待されたわけです。しかし、今回の重点支援の枠組みは、国立大学の運営費交付金配分ルールの中での話という非常に政策的なものであり、将来像答申で示された機能別分化とは全く異なるものではないかと考えています。その是非については、正直あまり良い気はしませんが、指標設定・評価方法などと併せて判断する必要があるでしょう。
やはり気になるのが、旧帝大やRU11以外に重点支援③を選択した大学についてです。東京農工大学や広島大学など、これら大学については無謀だという声もあるかもしれませんが、私自身は英断ではないかと考えています。もちろんより競争が激化するでしょうが、枠組みの政策性(つまり予算配分や事業選定など)を考えた場合にはよりハードな枠組みを選択するということは十分にあり得ることです。生き残りをかけて重点支援③を選択したということなのでしょう。
むしろ重点支援①を選択した55大学の方がより困難な状況に置かれるかもしれません。単純に大学数が一番多いということで予算削減のあおりを強く受ける可能性がありますし、同じく重点支援①を選択した近隣の国立大学や周辺の公立大学との競争も従来よりも激化するでしょう。重点支援①においては国立大学同士でリソースを食い合う可能性が十分にあることも気になるところです。それが競争であり質向上に繋がると言われたらそうですかとしか答えられませんが、国立大学だけで潰し合いをするものなんだかなと思っています。
この枠組みに沿った運用は平成28年度から開始されるため、現状ではその効果・成果について何も言えません。というよりも、どのように運用されるのかすら十分に公表されていません。前述した旧六医科大学の動向も併せ、引き続き注視していきます。