財政制度分科会の資料に思う 〜国立大学はどうなってしまうのか〜(後編)
(前編から続く)
ここでようやく運営費交付金の配分について言及されます。繰り返しますが、一般運営費交付金は「国立大学の教育研究を実施する上で必要となる基盤的経費」です。「必要となる経費」なので、各大学に一律に配分されているのです。それを競争的に配分するということは、必要な部分に必要な措置ができなくなることになります。
この話をすると、「では、ニーズがない学部を潰してその分の浮いたお金を他学部に充てれば良いのではないか」と言われます。しかし、それは現行の運営費交付金算出ルールでは不可能です。国立大学法人運営費交付金に思う 〜なぜ定員管理をするのか〜 - 大学職員の書き散らかしBLOGでも言及しましたが、一般運営費交付金の金額は「支出予定(教職員の人件費や学生の教育経費など)ー収入予定(学生納付金収入等)」で算出されます。仮に学部を一つ潰しそこの教員をリストラしたとすると、その学部教員の人件費など支出予定も低下し、その分の一般運営費交付金は措置されません。学部を潰しても、事業予算が低下するだけで、自由に使える資金は増えないのです。(これはあくまで現行から考える想定です。)
このページの最下部には、文部科学省が策定した国立大学改革プランからの引用があります。つまり、この運営費交付金の配分については、1年ほど前に文科省が言い出したことです。財務省からすれば、あなたたちの言っていることに対して助言をしますよというところなのでしょうか。ただ、国立大学改革プランでは、「運営費交付金」とありますが、「一般運営費交付金」とまでは書かれていません。この違いは、文科省の同意のもとなのか気になるところです。
P31 国立大学法人改革に向けた財務省案1<運営費交付金の改革>
具体的な配分例が示されています。改革経費は各大学群での評価に基づき配分とありますが、各大学群の中でゼロサムになるのか、国立大学全体でゼロサムになるのか、気になります。また、基盤的経費とされている部分についても、「従来の配分方式に加え、政策課題に対応するため配分した特別経費、改革補助金等の獲得額を反映」と基盤的ではないような配分方法になっていますね。
「改革経費を効率的に運用するためには、各大学の取り組みを公平に評価するシステムの構築が不可欠」とあり、まぁそれはそうだなと思っています。ただ「公平に評価」という言葉が引っかかりました。今までの国立大学法人評価の文脈においては、「公平に評価」という言葉はあまり使われておらず、強いて言えば「総合的に評価」という言葉が使われてきました。あえて「公平に」と加えたのは、各大学一律の評価指標でという意味でしょうか。
ところで、一般運営費交付金の相当部分が人件費だと思うのですが、最大3割削減されたとして給与には影響がでないのでしょうか?もしかして、人件費に影響を与えないギリギリの割合が3割だったのかもしません。いずれ各法人の財務諸表等で確認したいと思います。
P32 国立大学法人改革に向けた財務省案1-II<基盤的経費の配分>
まず、前ページの財務省案①との関係性が不明です。両方同時に行うということでしょうか。特別経費を一般運営費交付金に組み込むと、一般運営費交付金の一部として単純削減の対象になってしまう可能性があります。さらに、図では翌年度分の新規事業の特別経費が見当たりません。特別経費そのものを一般運営費交付金化しようという意図でしょうか。
国際教養大学の職員確保に思う 〜給与と報酬と年俸制〜 - 大学職員の書き散らかしBLOGでも言及しましたが、年俸制を促進することで、現在特殊要因経費として運営費交付金削減対象外になっている退職金分を年俸制という人件費つまり一般運営費交付金に回し、運営費交付金削減の対象とする構図を同じものを感じます。財務省としては、基本的に全ての予算を一般運営費交付金に組み込み、削減対象としたいのでしょうね。
P33 国立大学法人改革に向けた財務省案2<新たな大学評価システム>
前述したような評価指標が示されています。3群に分ける際は大学自身がそれを選ぶとありますので、学内調整で揉める大学も出てきそうですね。仮にこれらの群に所属したとしても、その群の性質とは異なる性質を持つ教育研究活動も学内にはあると思いますので、それをどのように評価するかは気になるところです。
「評価に当たっては、客観的な指標の評価を重視し、2年程度の期間で評価を実施」とありますが、そうなると一般運営費交付金の配分金額も2年毎に変わってくることになります。継続的な教育研究活動に支障がでないか心配ですね。最悪、人件費がないから2年で雇い止めとかいう事態にもなりかねません。せめて特別運営費交付金の配分を対象とするのならまだマシかとは思いますが。
P34 国立大学授業料の設定状況
しれっと入ってきているこのページですが、かなり憤りを覚えます。前述のとおり、現行の一般運営費交付金算出ルールでは「支出予定(教職員の人件費や学生の教育経費など)ー収入予定(学生納付金収入等)」で金額が算出されます。どれだけ収入予定が上がったとしても、その分の一般運営費交付金が削減され、事業予算は全く変化ありません。つまり、たとえ学費を値上げしたとしても、一般運営費交付金は増えず、それのみを以って教育等の質を上げるのは困難です。
大切なことなのでもう一回言いますが、
現行制度下で国立大学の学費を上げても、それのみで教育の質を向上させるのは困難であり、学生は負担のみ被り、得をするのは税金を配分する財務省のみである
ということです。財務省は完全に分かって言ってきているんだろうと思いますが、毎回財務省関係者からこの言説が出るたび本当に腹を立てています。
全く生産性なく資料批判を行ってきました。基本的には運営費交付金の配分の見直しは規定路線ですので、どのようなルールが作られるのか注視していかなければなりません。今回の資料を通じ、財務省の交付金削減にかける情熱を改めて知ることができました。職務に忠実にプライマリーバランスの正常化を目指しているのだろうと思いますが、プライマリーバランスが正常化した際に国がどのような形になるのか私には思い描くことができません。国破れて山河ありにならなければ良いのですが。
現在の国立大学法人が抱える問題の根本はお金回りだと考えています。お金さえあれば全て解決するわけではありませんが、その原因はお金である問題が多々あります。それに対し、現行の運営費交付金算定ルールや国立大学法人会計基準等国立大学法人を巡る会計制度は、非常に硬直的です。簡単に言えば、国立大学法人にその年度で使用する以外の金を極力持たせないようし、自転車操業状態を作り出していると考えています。
将来的に収入が減少することが見込まれるのであれば、収益事業の自由化など、国立大学自身が金儲けをできる仕組みを現行以上に提供すべきだと考えます。また、教職員にあっても、兼業収入など、大学からの収入以外にも個人の報酬や教育研究経費を確保できる仕組みをもっと整備すべきです。かなり無理を言っていることは自覚していますが、なんにせよ、お金を出すことと口を出すことは比例関係にあるべきだと考えますので、お金は出さずに口を出すという現状はフェアではないと感じています。行政の役割はお金を配分することか制度を作ることでしょうし、配分できるお金が減少しているのであればそれをカバーできるように制度を整備することが必要だろうと考えています。