「SDについて、あらためて考える-大学行政管理学会の20年とSDのこれから-」に参加してきました。

中部・北陸地区 » Blog Archive » 大学行政管理学会創立20周年記念企画 中部・北陸地区研究会(2/27@愛知大学名古屋校舎)の開催について

JUAMは、その開設趣旨からも分かるように、SDの義務化が謳われる以前、SDという用語が確立する以前から、理論的かつ実践的に様々な形のSDに取り組んできました。そこで20周年を契機にこれまで実践してきたSDを振り返るとともに、SDが今後どのようにあるべきかを考えたいと思います。また20周年の統一テーマである「大学行政管理学の深化と発展‐高等教育の牽引を目指して‐」に照らし、JUAMの活動の中でSDがどのように位置づけられるべきかについてもあらためて考えたいと思います。

 大学行政管理学会(JUAM)創立20周年記念企画 中部・北陸地区研究会「SDについて、あらためて考える-大学行政管理学会の20年とSDのこれから-」に参加してきました。参加者は概ね100程度であり、事務局長クラスから若手まで幅広い方が参加していたようです。

 以下に、本会での発言を記します。なお、あくまで私が理解できた部分を一部のみ掲載していることに留意ください。

基調講演(福島 学校法人追手門学院理事・追手門学院大学副学長)

  • 本日は、JUAM創設の趣旨、学士課程答申におけるSDの言及、SDプログラム提言のポイント、高等教育のユニバーサル段階を踏まえたSDの実践論についてお話をする。
  • 一つ目。1996年のJUAM開設趣旨には「職員自体の自覚と意欲に関しても、また、それを担うに必要な資質・能力の点でも、問題なしとするには程遠い」と書かれているが、今もまだこのような状況であると言える。設立時は350名程度であり、第1回の研究集会で発表したのは会長と私だけだったことを記憶している。2007年5月には中教審の小委員会で大学教職員の職能開発について発表をした。
  • 二つ目。2008年12月に公表された学士課程答申では、職員の能力開発について小委員会で報告をした内容がほとんどそのまま掲載されている。学会設立10年で答申に取り上げられたことになり、大きなトピックであった。
  • 三つ目。JUAMとしてSDについてプログラムをまとめた。これからの大学職員にはどのような能力が必要なのか、実践事例の調査や大学職員検定制度、SDに関する連携のあり方などを検討した。この中では、SDの目的とは大学が複雑多岐にわたる課題を自律的に解決し社会的な存在として発展していくこととし、大学改革実現へのマネジメント業務ができる職員の能力開発をSDと位置づけ、職員への権限移譲が不可欠であるとした。職員出身の理事や理事長、教学部門の管理職も増えてきたが、そういう立場に立たされてば能力開発は一生懸命やることになる。これは対等な教職協働の条件である。
  • 四つ目。トロウによる高等教育システムの段階的以降では、大学在籍者率50%以上はユニバーサルアクセス型としているが、併せてトロウはユニバーサルアクセス型になるとどのようなことが生じるかを検討している。ユニバーサルアクセス型になると、高等教育の機会は万人の義務になり、高等教育の目的観は新しい広い経験の提供となる。
  • 今、大学の本務事務職員は全国で8万6千人程度であり、ここ12年間で1万5千人程度増えている。一方で、学生数はここ12年間でほぼ変わっていない。職員一人あたりの学生数は少なくなっており、私立大学における職員一人あたりの学生数はここ12年間で44人から36人となっている。
  • 日本の中高生は自己肯定感が乏しく、そういった者が大学生になる。また、中学校教師の勤務時間は長く、特に事務仕事が多いことが調査結果から読み取れる。併せて、教員の自己効力感は低いことは気になっている。生徒も教師も自信がなく、そういった中で大学に入学していることは留意する必要がある。
  • 大学生は第一希望で入学してきている者ばかりではなく、自ら不本意入学だと言う学生も多い。自分の大学の状況を押さえておく必要がある。また、自大学の授業の実態も押さえておく必要がある。初年次教育などもやっているが、学生はそもそも大学での学習や生活をしっかり考えられおらず、あまり効果が上がっていない場合もある。そのため、入学時点からしっかり大学で学ぶことを考えてもらうため、新しい仕組みを導入した。まず、学生の実態がどうであるかをしっかり見る必要がある。学力を問わない入試による入学もあり、履修という言葉が理解できない学生もいる。その対応について職員が考えないといけない。
  • 大学改革とは何か。それは、学生の実態を踏まえて彼らが主体性をもって成長することができるような教育内容・システムを開発することである。いかに主体性を引き出すかということが大切であり、そのためにガバナンス改革やIR、FD・SDなどが必要である。派手な改革が大学改革であるわけではない。本質的な改革に正面から向き合える人材の育成が不可欠である。
  • 大学経営の責務とは、大学の永続性を担保し学生を成長させることができる教学を支えるための財務・人事・企画・総務・ガバナンスである。また、教学の責務とは、経営実態を踏まえたうえで学生実態を的確に把握し学生が主体的に成長できる教育内容・システムを開発・実践することにある。経営の実態を踏まえ、計画的に行うことを教員と一緒に考えていかなればならない。教学なき経営は害悪であり、経営なき教学は幻想である。手間暇をかけることと効率化することを分けて考える必要がある。高校生が大学で学ぶ意味を考えさせること、学生に自発性を持たせることには手間暇がかかる。
  • 目標と達成度による職員評価と処遇制度が必要である。また、職員組織内の相互批判もとても意味がある。真正面から物を言うとちゃんと考えるようになる。他流試合、たくさんの人たちと言葉を交わしたことも仕事にも活きてくる。他職場からの人材移入やトップミドル現場担当者の三位一体チームも大切。特に、三位一体となったチームは大きく仕事が前進する。これらの上で、企画・開発から実践までできる専門職の育成が可能になる。
  • 事務職員から大学職員への変化として、教育サービスの本質を理解し発達支援原理に基づいた教学改革の開発・実践ができる人材に変化することが挙げられる。学生は教育の対象であり、彼らを自律させる過程において大学が提供する様々な教育サービスがあるという位置付けである。学生が発達していく段階を見ながら、取組をしなければならない。大学の外部・内部の環境を的確に分析できミッションやビジョンを描いて具体化することができる人材への変化も、大学職員への変化として挙げられる。実務処理ができるのは当たり前であり、事務職員から大学職員への飛躍が必要である。
  • 自発性原理から発達支援原理への転換も必要である。昔は自発性に基づいたシステムだったかもしれないが、今は学生たちの発達を見ながら、90分授業からの転換やセメスター制の再検討、試験を受ける前から考えさせる入試改革などが必要ではないか。学生たちの様子を見ながら、どうしていくのかを考えていかなければならない。
  • 「どこまでやるのか」とよく聞かれるが、若者をきちんと社会に送り出せるようにするのが大学の責任であると考えている。目の前の問題解決だけではなく、学生の成長を信じてその力を引き出す支援が必要である。生徒学生にとっては自主判断よりも管理される方が楽であり、例えば入試などは偏差値で選択することも多い。主体的に学んで生きるということに対する支援をしなければならず、それは各大学の学生の実態に合わせて対応することになる。
  • どうやったら偏差値やランキングではない視点で高校生が大学を選ぶことができるのかという思いで、読売新聞の「大学の実力」に関わっている。主体的に学ぶ・生きるということをいろんな場面で学生たちができるように仕向けるにはどうしたら良いのかを考えなければならない。
  • アドミッションポリシーは学生や教職員の何人が知っているのか。言葉を覚えるのではなく、議論をしていく中で頭に叩き込まれているものである。生きるポリシーにするためにも、自分の大学が欲しい学生を理解しやすい言葉で記載する必要がある。職員は建学の理念を言えるのか、学生の名前が言えるのか。たくさんの学生の名前を言えるようになって欲しい。具体的な業務の改善や改革をしたことがある職員はどの程度いるのか。いくつ他の大学に行き、その大学の職員と交流したことがあるのか。
  • プロフェッショナルな大学職員像として、1.コミュニケーション能力が高い2.戦略的プランニングの手法を持つ3.政策を実現できるマネジメント能力がある4.新たな価値創造ができる5.複数の業務領域での知見がある6.教職員・学生から信頼される人格と大学リテラシーを含む教養が豊か7.使命感と勇気の7つを掲げる。組織的にやらなければならないこともあるが、職員個人としてできることもある。評論ではなく変革の立場で考えて欲しい。他流試合や自大学自身を相対化できる立場に身を置くこと、学生の実態把握、学ぶ目的を明確にした大学院進学、経験値の理論化手法化(学会誌への投稿などを通じ文章にすること)などが大切である。

講演(船橋 一般社団法人日本能率協会学校経営支援センター)

  • 能率協会は設立以降企業職員への教育活動を行なっているが、その成果を活かし大学・学校に対する人材育成事業にも取り組んでいる。大学とも協力して研修を行なっているが、ある程度の人数がいなければ効率的に行えないため、職員規模で100人オーダーの大学と協力することが多い。2002年以降開催している大学経営評価指標研究会では、大学経営評価指標の開発や大学教育力向上の調査研究、大学改革リーダー養成コース開発、私立大学ガバナンスコード開発など、実務に伝える成果を出している。
  • 大学経営とは資源をどのように配分していくかということであり、経営力を最大化していくこととは、教育研究力の向上と運営効率化・合理化の追求のバランスをとっていくことである。これには職員の力が重要である。従来の維持管理の視点から、問題課題を発見して改革改善をしていかなければならない。組織人として、仕事をやるという業務機能、周辺の人とやっていくという人間機能の2つの機能がある。併せて、維持機能と改革機能があり、4象限のマトリクスで考えることができる。今後より求められるのは改革機能であり、業務改革や部下指導育成が大切になってくる。そのためには、意識能力スキルを積み上げていく必要がある。
  • 学士課程答申の中では、職員も段階的に専門家としてのキャリア形成をしてスペシャリストになる者やジェネラリストとなる者が分かれるなど、複線型の人事が提案されている。これは、大学の事務組織の規模感にもよる話であり、スペシャリストのキャリア形成の問題なども思い浮かぶところである。
  • 2012年に能率協会が行った調査では、職能要件基準が定められている大学は半数程度であり、これは大規模大学で整備が進んでいた。また、目標管理制度を適用している大学は6割程度であり、国立は8割程度の導入率であった。9割の大学では、業務の効率化や管理職のマネジメント能力開発が重視されていた。
  • SDはマネジメントや人事システムとの連動が重要である。やるべきことを明確にする仕組みややったことを評価する仕組みなどを整備することが広義のSDになる。最も影響が高く時間が多く成果が上がるものはOJTである。シャドーイングやノウハウの聞き取り、コーチング、メンタリングなどが該当する。動機意欲と基礎としてスキルや知識を学んでいくという話もある。
  • 能率協会では、階層別研修を縦軸とし、企画・改革力、人間力、業務知識・遂行力を横軸に取ったマップをSDに用いており、カッツの理論に基づき、階層が上がるにつれ企画・改革力の範囲が増加するとともに業務知識・遂行力の範囲が減少していくと考えている。これに基づき、能率協会ではJMA大学SDフォーラムを開催している。
  • 理論と実務を缶詰にしてやるのが、SDとして一番いい。知識をその場で覚え実務をその場で取り組むことで、追い詰められる環境ができる。例えば、新棟の整備計画をテーマとして、プロジェクトマネジメントを学びチームで実際の計画立案やリスク分析などを行う研修を行った大学がある。その場でやることが大切である。
  • 能率協会はKAIKAというプロジェクトを立ち上げ組織開発に貢献することに取り組んでいる。組織が発展することで個人や社会との関係性を広げるものであり、大学に合う考えだと思っている。行動評価変容アプローチを取ることで行動を変えることができる。
  • Q:文科省の調査ではSDの内容として「戦略的な企画能力の向上」が最も低い実施状況だが、その要因はどう考えるか?
  • A:研修がやりにくいことも要因であると思う。
  • Q:プレイヤーやマネジャーの転換をどのように考えれば良いか?OJTは上司次第のところもあり、どのように育っていけば良いか?
  • A:自分の職階の一段上二段上の目線に立って、実務はその立場で行うことが大切である。OJTは上司により異なることも多く、異動を待つことも一つの手である。後輩には同じことをしないようにすれば、中長期的に組織が変わっていくことにつながる。

事例報告1

  • 本学ではキャリアビジョンシートを導入したが、これは愛媛大学で行なわれているスタッフポートフォリオを参考にしたものである。本事例報告では、導入経緯やその内容等について報告をする。
  • 自分自身の移動歴等を振り返ると、個々人の将来の職員像や志向、能力と大学組織の考えをすり合わせる機会があったも良いのではないかと思っている。SDに取り組む先は、学んだことを自分自身に落とし込み、参加後に実践を行うことなどを意識している。他流試合や経験値の理論化手法化は大切であると感じている。
  • 数年前に現役職に配属された際、本学には人事異動の方針や業績記録がなく、職員が職場で輝いて欲しいと思っていた。また、個々人の強みを把握して大学として伸ばして欲しいと思っていた。この思いも踏まえ、JUAMで勉強していた際に、愛媛大学のスタッフポートフォリオに出会い、これをさらに学ぶためSDコーディネーター養成講座に参加した。
  • SDC養成講座参加後に職員像の明確化や人材育成方針の策定などを提案し、大学として進めていくことになった。本学の第3次基本構想内に中期計画として明記し、結果としてキャリアビジョンシートの導入までには1年2ヶ月かかった。この際、中堅・若手が案を作るとともに、職員全体で議論する場を設けた。振り返ってみると、大学の計画として明文化すること、計画を組織化して検討すること、検討結果を皆で議論すること、事務局長がリーダーシップを取ることの4点が重要だった。
  • キャリアビジョンシートには、今後担当したい業務や今後5年間のキャリアビジョンなどを記載する。今後は、愛媛大学のように入職時の思いから将来の職員像までが記載するような、過去から未来へつながるような改善を行っていきたい。キャリアビジョンシートを踏まえた人材育成として、同シートを踏まえた上司との面談などを開始した。併せて、作成ワークショップも開催している。
  • 管理職の面接スキルの向上を目指した研修の継続実施や他目標管理業務との連携、諸制度等の整理、能力開発プログラムの整備や内部人材の研修講師としての育成、長い目で考えられる意識改革などは今後の課題である。

事例報告2

  • 本学では、自己研鑽費として年15万円まで使用することができる。JUAMでの勉強会企画や大学職員人間ネットワークへの参加に取り組んできた。
  • 友達が欲しかった思いもあり、様々な場に顔を出してきた。学外に出ていくことで、大学職員としてのロールモデルが見つかり真似ができることが大切だと感じている。実務へつなげることは難しい。

平常業務外にもチャンスがある

 前にも言った通り、基本的には勤務時間内の働き方が大切だと思っていますが、ここで「平常業務」ではなく「勤務時間」としているのには意味があります。平常業務外にも、大いに成長や業務発展のチャンスがあると感じているからです。

 平常業務以外の仕事に取り組む時は、何かを期待されて、だとか「あなただから」ということも多いと思います。そのような期待には応えたいと思いますし、それ以上に平常業務では学べないことが得られるということも大きな魅力ですね。座して待つだけでは成長が望めない場合もある中、このように声をかけてもらえることは大切にしていきたいです。

 逆に言えば、期待されていることが他人から見た自分自身の強みであるのかもしれません。若干文脈は異なりますが、戦略がすべて (新潮新書)では、

だからこそ、不確実で厳しい未来においては、「自分の労働をコモディティ化させないこと」が重要になる。企業で働く人は、まず、「自分のいる会社を時代の変化に即して変えていくこと」に努力すべきだと思う。(略)ならば、「市場からの評価」というリスクは会社にとらせ、自分は社内という狭い世界で評価されることを目指し、イニシアティブをとって会社の変化を主導する。そのほうが、一般の労働市場に打って出ていくよりも、個人にとってのリスクははるかに小さいはずだ。(P87)

とあります。これは業務の標準化を否定しているのではなく、頼られ先導できるくらいの能力・特性を身につけ実践することだと理解しています。このような時間を作るためにも、業務の効率化や自動化などに取り組む必要があると感じています。(このあたりの話は、だいぶ前に業務改善のジレンマとして弊BLOGにも記したところです。)

 なんにせよ、恩を大安売りしてその中から後々果実を回収できるようにとは意識しています。

高等教育における教育・学習のリーダーシップとは何か

CiNii 図書 - 高等教育における教育・学習のリーダーシップ

 東北大学高等教育開発推進センターが発行したPDブックレット「高等教育における教育・学習のリーダーシップ」を手に取る機会があったので読んだのですが、折に触れて読み返したい良い内容だったので紹介します。

    本書は、オーストラリア高等教育研究者が大学のトップマネジメント層や上級アドミニストレーターなどを対象として著し、オーストラリア連邦政府教育省学習教育局が2012年に刊行した A Handbook for Executive Leadership of Learning and Teaching in Higher Education の邦訳書です。学長や上級管理職が大学教育や学生の学習活動に対しリーダーシップを発揮するためには、どのような点に留意して行動すれば良いのかが記されています。

 本書では、大学における教育・学習リーダーシップのために必要な行動を5つの原則として整理し、その実践における行動指針を記しています。(出典:本書P80)

原則1.戦略的ビジョンを策定する

  • 教育活動が学生の学習に与える影響に関する最新知識を活用する
  • 学生の成功に影響を与える組織要因を明らかにする
  • 将来の学生経験を概念化する
  • 機関の現況を評価する
  • 同僚原理と経営原理の均衡を保つ

原則2.卓越性を引き出し実現させる

  • 国の政策動向を解釈し具体化することにリーダーシップを発揮し、個人的な信用力を維持する
  • ビジョンを支える首尾一貫した方針と目的を策定する
  • 確かな根拠に基づいて主導する
  • 早期に成功し長期的な変化が期待できる達成可能なビジョンを示す
  • 焦点の絞られた教育・学習計画を策定する
  • ビジョンを支えるのに十分な資金を確保する
  • 教員が優れた教育活動を追求できる条件を整える
  • 教職員の主体的関与を刺激する

原則3.教育・学習のリーダーシップを委譲する

  • 遂行のリーダーシップに秩序ある柔軟性をもたせる
  • 学部・学科の教育リーダーシップと機関目標を整合させる
  • 必要十分な数の教育・学習リーダーを育成する
  • 教育・学習の改善に向けて協働的アプローチを推進する

原則4.教育活動を褒賞・表彰・発展させる

  • 効果的な教育の特質や成果について機関が期待する内容を明確にする
  • 学部長や学科長が個人と組織の教育機能を認めて褒賞する
  • 公式の褒賞(昇進・授賞・賞金など)を優れた教育や部局の実績にリンクさせる
  • 教育・学習の戦略的目標に即して専門性開発の機会を提供する
  • 成功した教育機関として大学を広報する

原則5.学生を巻き込む

  • 学生の主体的関与を導く(あるいは,妨げる)大学生活の諸側面の関係性を見直す
  • 大学質保証プロセスへの学生関与を促すシステムを設計する
  • 教育,カリキュラム,学生経験を改善するために学生の助言を求める
  • 学生が学部や学科の学習コミュニティに関与するように促すインセンティブを部局長に与える

   これらの原則及び行動指針については、

深く考慮することなく行動を一つ一つチェックしていくだけの単純な使い方は慎むべきだろう.多様な組織の文脈に即し,濃淡を付けながら行動の指針とするような性格のものである.(P81)

とされています。

 ある意味で当たり前の、しかし忘れがちであるような書かれています。個人的には、「同僚原理と経営原理の均衡を保つ」ということがどちらにも過剰に振れることがないようにという意味を読み取れ、印象的でした。また、「必要十分な数の教育・学習リーダーを育成する」について愛媛大学が取り組んでいる教育コーディネーター制度が思い浮かぶなど、行動指針の一部は各国立大学大学が推進している取組とも合致すると考えています。「原則5:学生を巻き込む」についても、医学教育の分野別評価においてカリキュラム委員会における学生代表の参画が評価基準になるなど、徐々に進んでいるといったところでしょうか。

 その他、印象に残った文章です。

したがって,リーダーシップは,リーダーが有する能力によってではなく,その効果によって評価されることになる.リーダーシップの目的は,質の高い教育が可能になる条件を促進することであり,学生の経験や教育の質を顕著に向上させるべく協働するよう教職員の意識を高めることである.(P10)

 リーダーシップの発揮というとトップダウンの新しい取組のみが取り上げられがちですが、教職員の協働に向けた意識を高めるということが目的にあるということですね。以前弊BLOGでも言及しましたが、大学における組織と人との関係性という特性によるものなのでしょう。

専門職員の大切さを認識することです.教員や学生に対する専門職員のメッセージは極めて重要なのです.(P16)

 「専門職員」は原著では "professional staff" とされています。また、本書の補註では「大学の特定領域に関して体系的且つ専門的な知識を有し,それに基づいて大学の管理運営や意思決定を支援する職員を指す.高等教育に関する教育プログラムで養成されたり,専門職団体を通して常に専門性の維持・発展を図る自律的活動に従事したりしている.」と補足されています。オーストラリアの大学において "professional staff" がどのように働いているのかは気になるところですね。

[ケース8]学生参加の文化:エクセター大学(英国)
「改革主体としての学生 (Students as Change Agents)」プロジェクトは,学生が学科において同大学の開発,運営,発展に積極的に関わることができる枠組みである.(P48)

 Students as Change Agents プロジェクトのウェブページを見ると、コンペティションの開催や緑化活動など、学生による様々なプロジェクトが行われていることがわかります。

他方,情報伝授型/教師中心の教授アプローチは質的に異なっている.このアプローチを採用する場合,教員は自分の行動(略)だけに意識を集中させる.(略)その結果,学習成果の違いを,学生の能力差異や(略)教員の能力差異として説明するきらいがある.こうしたアプローチは,クラス規模が大きい,教育内容のコントロールができていない,部局からの支援が限られている,仕事量が不適切に多い,学生が準備不足であるといった教員のもつ認識と関連性をもっている.(P54)

 先行研究が蓄積されている分野だとは思いますが、学習成果の違いを能力の差異で説明しがちになるというのは印象的ですね。だからこそ、組織的な取組が阻害される部分もあるのかなとも思います。後段に描かれているネガティブ条件を改善することが、組織的な取組を推進するヒントになりそうですね。

本書を読めばすぐわかるように,上級管理職のリーダーシップはそれだけでは有効に機能しない.それが効果を発揮するには,現場を支えるスタッフたちが改革や質向上に対して主体的に関わる姿勢を示すこと,つまりは当事者意識やフォロワーシップが不可欠なのである.そこには,上からのリーダーシップに唯々諾々と従う受動的な態度はない.むしろ,機関内の各層に必要なリーダーシップが偏在する分権型リーダーシップの重要性が強調されている.(P77)

 だからこそ、冒頭でリーダーシップの目的は協働するよう教職員の意識を高めることと述べたのでしょう。

 ごく一部のみ抜粋しましたが、訳注も含めこれ以外にも意識すべき箇所は多い書籍だと感じました。今回はたまたま入手できたのですが、東北大学高度教養教育・学生支援機構のホームページではPDブックレットの入手方法が明記されていません。日本の高等教育研究の中心地の一つとしての活動が記載されているわけですので、pdf公開するなり販売するなり、もう少し広めていく手法をとってもいいのかもしれないと感じています。

勉強とか、どうでもいい。

 色々なワークショップとかに出席すると、大学職員の専門性や能力開発の話に関連した勉強とか自己研鑽とか、そこらへんの話をよく聞きますね。大変結構なことだと思うのですが、それと同時に、だからどうしたと思うことも多いです。

 すごくざっくり言うと、職員個々にとって大切なことは「いい仕事をしていい人生を過ごす」ことであり、その一手段として勉強や自己研鑽があるんだろうと思っています。いい仕事をするとは個々の働き方や仕事への向き合い方であるため一概には言えませんが、この過程で職員の能力や技能が向上すると考えています。弊BLOGでも能力を活かす働き方が重要であるとたびたび述べてきました(教員の教育研究時間の確保に思う 〜教職恊働と能力開発〜高度専門職の検討に思う 〜いったい何が良くなるのか〜大学職員に能力開発は必要なのか?)。

 だからこそ、あなたが何を学んでいるのかよりも、あなたがどのようなことを大切にして働いているのか、あなたの仕事を受け取った者にどのような良い影響・効果を与えているのかを知りたいです。ある程度経験の積んだ一人一人の働き方は十分に研修等のコンテンツになり得るものだと思いますし、逆に言えばそのような場で背景や価値観、働き方を話せることが自身の内省と向上につながるのでしょう。

 勉強とか自己研鑽とかは自分の働き方を考えるきっかけや充実させる手段としてとても大切ですが、これはそれ以外の手段を否定するものではないはずです。人口動態や大学経営などの話と併せて、その土台としての業務上のカウンターパートとのやりとりや平常業務の質の向上を考えていきたいですね。

 なんとなく、最近の大学職員をめぐる様々な動きや言説を見ていてこんなことを感じています。私個人としては、教員の教育研究時間を確保できることとカウンターパートに感謝されることに価値をおいて業務に取り組んでいるところです。

ものづくりを通じた大学職員の資質向上の可能性

 先ごろ公開した学校基本調査DataViewは好評をいただいているようでありがとうございます。素人仕事ではありますが、何らかお役に立てれば幸いです。もともとは自分自身あったら良いなと思って作り始めたのですが、もう一つ考えていることがあり学校基本調査DataViewを公表しました。それは、大学職員が学んだ成果を目に見える手に触れられる形にして皆の役に立ててもらうことはどのようなものならば可能なのか、ということです。

 例えばワークショップなどをした際は、付箋紙を貼った模造紙や宣言シートのようなもの、報告書などが成果物であるとは良く言われます。大学院など学術的なことでは、論文や起稿等が学習成果として該当するのでしょう。その他、日常業務でのちょっとした改善も何かを学んだ成果として十分にあり得ます。これらに取り組むのはもちろん素晴らしいものだと思いますし、そうでなくとも内面の変化なども能力開発や学習の成果として大切なことです。ただ、これらはなかなか他の職員に伝えようとしても実感できないものであり、もしかしたら自分自身ですら外化することは難しいものなのかもしないと考えています。もっとわかりやすく、ワクワクできる形であるもの、「プロダクト」を作るということを通じて職員が学ぶことができれば、一面のみではありますが学習の意義を実感しやすくなるとともに、それが他職員にも役立つものとして職員としての業務の質向上にもつながるかもしれません。

 IT業界などではハッカソンやアイデアソンというイベントがあります。ざっくり言うと、参加者がチームを組み短期集中でサービスやシステムをその場で作り出すイベントですね。大学職員に比較的関係のあるところでは、国立国会図書館で提供しているAPIを用いたツールやアプリを開発するハッカソンが行われました。このイベントの特徴は、初めて会った者がチームを組み決められた時間で各自の力を合わせてプロダクトを作ることだと思います。これを大学職員を対象として行うにはどのような可能性が考えられるのでしょうか。

 もちろん皆がプログラムミングや加工等ができるわけではないため、最終的なアウトプットはスマホアプリの画面遷移や要件定義、紙粘土などによるプロトタイプ作成、機能確定など、実際に製品にできる一歩手前くらいまでに留めた方が良いですね。例えば、大学職員の日常業務に役立つ文房具の作成やアプリの開発などをテーマとして、どのような者を対象とするのか、その者の日常業務における課題は何なのか、それをどのようにしたら解決できるのかなど、課題設定とその解決に向けた具体的な要件定義の検討を重ねプロトタイプを作り上げます。作り上げたプロトタイプはイベント終了後有志で製品まで作るか、アイデアを公表し製品化する者を募るなど、なるべくプロダクトにつなげられればいいですね。そのような中で、課題発見力や課題設定力、課題解決力などを身につけていくことも職員の能力向上に意義があるのかもしれません。

 個人的には今年はプロダクトを作ることを意識しながら活動していきたいと思っています。

だから、評価では物事は良くならない。

※ただの長い愚痴です。

国立大学法人評価委員会(第52回) 議事録:文部科学省

 国立大学法人評価委員会の議事録が公表されていました。ざっと読んでいたのですが、「評価者への配慮」とか言っている時点で改善につながる評価とか程遠いよなぁと思いました。

 誰かに何かを言われてじゃあその通りにしようかと思うのはどういう時かと考えると、尊敬する人とかこの人ならと思う人に言われた時なのだろうと思います。評価過程や結果をその後のアクションにつなげる場合には、指摘される内容もさることながら、評価者と被評価者との関係性も大切だということです。その意味で、日本の大学における第三者評価は、法人評価であれ機関別認証評価であれほとんどの大学関係者は評価者のことを(名前すらも)知りません。評価者も評価業務以外で評価する大学に来ることはほぼないでしょう。評価者と被評価者の関係性は断絶されたまま、非常に”第三者的”に行われているという認識です。特に法人評価は行政評価や独法評価の流れを汲んでいるので、その傾向が強いですね。別にそれはそれでとも思いますが、このままいくと形骸化するか無為にハードルを高め大学側のコストが増加するか、どちらかだろうと考えます。

 では、どのような者に評価されれば「やってやるか」という気になるのでしょうか。ちょっと考えてみたのですが、人格が高潔で、比類なき知識経験を持ち、評価する大学のことを日頃から気にかけ、構成員から信頼を得ている者から直接評価結果等を言われることかなと思います。以前、国立大学で評価を担当している教員と「神様が一人で評価をすることが一番良いが不可能である」という話になったことを思い出します。確かにこのような者は現実にはほぼいないでしょう。ただ、こういう者になれるよう努力することはできます。本来、人を評価するということはこのくらい重いことであり、評価者へ多大な努力が求められるものだと考えています。

 国立大学法人評価委員会の委員名簿は公表されていますし、各委員がどのような地位にいたのかも知ることができます。でもそれだけです。その者がどのような活動をし、どのような評価を得てきたのはわかりません。大学関係者ならば大学内でどのような取組をし成果がどの程度上がったのか、企業関係者ならば時価総額はどの程度上がったのか顧客満足度や従業員満足度はどの程度だったのか、一体何を以て、何を期待されて評価委員になったのでしょうか。そもそも片手間にできるものなのでしょうか。私自身は、評価委員のことを何も知りませんしそんな人から何か言われても事務的以上の対応をしたいとは思いません。実現可能性は置いておいて、今の状況から何かしら対応を取るとすれば、以下の3点くらいでしょうか。

  1. 評価委員が評価する大学を訪れる機会を増やす。
  2. 評価委員個人名で評価結果を公表する。
  3. 評価の際には監事の意見も聞く。

 2について、評価者の自意識向上にはもっと個人名を出していくこともあり得るかもしれません。その点、毎年度予算のポイントを個人名で公表している財務省主計官は本当にすごいと思います。3について、国立大学法人で文科大臣から任命されるのは学長と監事の2名のみです。大学により常勤非常勤など事情が異なるにしろ、法人評価の際に日頃から法人内部で第三者的に活動している監事の意見を踏まえるのも、いいかもしれません。

 ここまでいろいろ好き勝手に書き散らかしてきましたが、文科省も法人評価委員会も法に則り真っ当に業務に取り組んでいることは間違いありません。評価委員にしても、大学関係者や企業関係者などバランスよく選定した結果なのでしょう。人ひとりの判断というウェットなものを持ち込むのは行政の仕事の作法からは外れますし、評価結果をもとに改善するのは学長を始めとする大学側の仕事であると言われればまぁそうですよねーとしか言いようがありません。評価者と被評価者が近すぎるのは公正ではないという視点も理解できます。だからこそ、本エントリーはただの愚痴なのです。ただ、本当にこれでいいのか、誰のために何のために評価をしているのか、ということは思います。制度化義務化し取り組んでいくと本来の趣旨・目的が薄まっていくというのは、制度の適用を受ける側だけではなく、制度を運用する側にも言えることです。繰り返しますが、本来人を評価するということはとても重いことであり、評価者へ多大な努力が求められるものだと考えています。

 大学というのは、組織のために構成員がいるのではなく構成員のために組織がある典型的なもので、このような組織体のマネジメントとは構成員の行動確率を高めることなのかなと最近考えています。構成員は組織のためには動かず自分自身のためにのみ行動するという前提に立ち、その上で組織に良い影響を与えうる行動を取ってもらうためにはどうすれば良いのか、有り体に言えばやる気を引き出すにはどうすれば良いのか、個人と組織がともに幸せになるにはどうすれば良いのか、そういう方向でどうすれば大学をよくしていけるのか構成員の成長があり得るのかということを夢想します。そんな中で、顔も知らない誰かからお前はここがダメだと言われても、気持ちを入れて取り組もうという気が起こらないことは容易に想像ができます。

 なんども言いますが、本エントリーはただの愚痴です。ただ、自分がもし学内の誰か・何かをどのような形であれ評価する立場にある時に、被評価者や目標計画の進捗状況に良い影響を与えることができなければ、それは評価者としての存在価値を問われることにもなると考えています。大学が個々の活動の集合体である以上、最終的には「人ひとり」の話になっていきます。そのためにも、まずは自分から、日頃から幅広く学び行動し信頼関係を構築していきたいと改めて思いました。

学校基本調査DataViewを作りました。

 以前、弊BLOGでは相場観を持つことの大切さについて言及しました。つまり、様々なデータが大体どの程度の数値なのかを大まかに理解することですね。大学に限らず、学校教育関係のデータと言えば、指定統計である学校基本調査が真っ先に思い浮かぶところです。そこで、以前弊BLOGで作成したデータ可視化サイトテンプレートを用いて、学校基本調査のデータを可視化した「学校基本調査DataView」を作りました。

学校基本調査DataView

 現時点で掲載しているデータは以下のとおりです。

 掲載データ
総括 進学者数等の推移、大学数の推移、学生数の推移、大学院数等の推移、大学院学生数等の推移、本務教員数の推移、本務職員数の推移
学部 分野別学部学生数の推移、設置者別関係学科別学生数の推移、関係学科別標準修業年限内卒業率の推移
大学院 専攻分野別大学院学生数の推移、設置者別大学院学生数の推移、専攻分野別当該大学出身入学者比率の推移
卒業後 大学卒業生の卒業後の状況、産業別就職者数の推移、職業別就職者数の推移、関係学科別進学した者の割合の推移、関係学科別就職した者の推移
修了後 大学院修了者の修了後の状況、産業別就職者数の推移、職業別就職者数の推移、専攻分野別進学した者の割合の推移、専攻分野別就職した者の推移
留学生 関係学科別外国人留学生数の推移、設置者別外国人留学生数の推移、専攻分野別外国人留学生数の推移
職員 職名別教員数の推移、設置者別教員数の推移、職名別外国人教員数の推移、設置者別外国人教員数等の推移、職務別職員数の推移、設置者別職員数の推移

 18歳人口の推移を含めた進学者数等の推移や大学数の推移、分野別学部学生数の推移、関係学科別標準修業年限内卒業率の推移など、眺めているだけでも意外な発見がありました。要素ごとに表示非表示が可能になっていますので、表を操作して何らか傾向を見出すのも楽しいかもしれません。なお、PCブラウザでの閲覧に最適化していますので、スマホでは見辛い仕様になっています。

 このようなデータ可視化の構想自体は前からあったのですが、年末からボチボチと作り出し、この程度までは出来ました。予想以上に作成過程が楽しかったので、プログラミング学習がてら学校基本調査以外の統計資料の可視化も含め、もう少し充実させたいですね。なんにせよ、非専門者とポスト処理の結果を共有する際には、古い郷土資料館のようにガラスケースに収められた展示物であるだけではなく、お台場の未来館や上野の科博のように手を触れインタラクティブに変化する様子を体験してもらうこともデータ分析に理解と親しみを持ってもらうには有効かなと思っています。