国立大学の一法人複数大学方式とは何か
文部科学省は国立大学法人が複数の大学を経営できるように制度を改める案を25日に開かれた中央教育審議会部会に示した。現行制度では同じ法人の経営は1つの大学に限られる。少子化で経営環境が厳しくなる中、重複する学部の統一や設備共有など、経営を効率化しやすくするのが狙い。中教審で議論し、来秋の答申までに結論を出す。
国立大学法人に関するニュースが出ていました。当該案にかかる資料は大学分科会(第138回)・将来構想部会(第9期~)(第7回)合同会議の資料4−1にて公表されています。これは大学改革実行プランで言及されていた一法人複数大学方式(アンブレラ方式)のことですね。その名を聞いたのは実に5年ぶりであり、懐かしい気持ちになりました。
1.大学改革実行プランにおけるアンブレラ方式
○必要な制度改正の検討、提案
(例)
↓
大学の枠・学部の枠を越えた再編成等へ
(例)
- 「リサーチユニバーシティ」群の強化
- 機能別・地域別の大学群の形成
当時は、以下のような図が示されていました。
本アンブレラ形式は、大学改革実行プランの後に公表された国立大学改革プランでは言及されませんでした。その理由として、以下のようなことが言われています。
京都大学新聞社/Kyoto University Press » 交付金重点配分で改革を誘導 文科省「国立大学改革プラン」策定(2013.12.01)
大学改革実行プランで触れられていた「アンブレラ方式」(一つの法人が複数の大学を運営)は国立大学改革プランでは言及されていない。文科省高等教育局国立大学法人支援課によると、現段階では機能強化につながるかわからないこと、国立大学の側から統合の要望がないことの二つが理由。ただし今後改めて検討される可能性はあるという。
なお、小野(2015)*1は、アンブレラ方式を含んだ大学改革実行プランの策定について、
国家戦略会議の議事録から確認できるのは、文科省は財務省に示された条件を飲んでいる様子である。加えて国家戦略会議は、財務省の意向を量った故か否かは不明だが、財務省の意向に沿った条件を設けるという流れに掉さす動きをしている。
と指摘しています。
2.現行の制度等
現行の国立大学法人法では、同法別表第1により、国立大学法人と国立大学が1対1対応で示されています。
(定義)
第二条 この法律において「国立大学法人」とは、国立大学を設置することを目的として、この法律の定めるところにより設立される法人をいう。
2 この法律において「国立大学」とは、別表第一の第二欄に掲げる大学をいう。
別表第一
国立大学法人の名称 国立大学の名称 主たる事務所の所在地 理事の員数 国立大学法人北海道大学 北海道大学 北海道 七 (以下略) (以下略) (以下略) (以下略)
また、法人化当時の国会答弁において、大学ごとに法人格を与えることについて、以下の通り文部科学省より見解が示されています。
御指摘の法人の単位でございますが、まさに、大学運営の自主性、自律性を高める、そして自己責任を高めるという意味で自然な形であると思いますし、また、各法人がそれぞれの組織戦略のもとに、それぞれ、各大学が相互に競争的な環境で、あるいは、大学の個性化を図っていくという意味では、そういうことが期待できるのではないかということで、各大学ごとに独立した法人格を与えるというふうなことを原則として考えているわけでございます。
これを変更し、一法人で複数大学を設置できるようにするか検討しましょうというのが今回の趣旨でしょう。
一法人複数大学と言えば、公立大学法人においていくつかの先例があります。
法人名 | 設置大学等名※四年制大学を複数設置する法人のみ抜粋 |
---|---|
愛知県公立大学法人 | 愛知県立大学 愛知県立芸術大学 |
京都府公立大学法人 | 京都府立医科大学 京都府立大学 |
石川県公立大学法人 | 石川県立大学 石川県立看護大学 |
高知県公立大学法人 | 高知県立大学 高知短期大学 高知工科大学 |
また、国立大学協会が作成した「国立大学の多様な大学間連携に関する調査研究」では、アンブレラ方式に関する調査が行われたようです(web上に公表されていないので内容は不明ですが)。そのほか、文献等で一法人複数大学に関する研究がありそうですので、公立大学法人の先行事例も含め、検討材料はある程度揃っていると見るべきでしょうか。
3.想定されうるパターン
一法人複数大学設置において、パッと考えられるのは以下の3パターンでしょうか。
1と3は現実性が薄いと思われるため、もし実現するとすれば2が近しいのではないかと思っています。地方支分部局のようなイメージでしょうか。どのような業務や役割が上位法人に担うのか、気になるところではあります。
4.一法人複数大学によるメリットとその所感
冒頭の記事では、一法人複数大学によるメリットとして、スケールメリットを活かした活動ということが挙げられています。ただし、現行の制度下において、単位互換や共同調達、共同資産運用、機器の共同利用はすでに一部国立大学で行われています。そもそも国立大学法人は単独の法人において収支均衡となるように会計制度が設計されており、少なくとも現行法下においては複数法人が合併したとしても経営的なメリットは言うほど大きくないような気がするのですが。。。
私が危惧しているのは、学生(あるいは将来的に学生になるであろう潜在的な志願者)への影響です。例えば、東海3県にある国立大学で法人を組織した場合、三重大学と岐阜大学に共に工学部機械工学科と同電気電子工学科・情報工学科があるため、機械工学科は三重大学に、電気電子工学科・情報工学科は岐阜大学に集約しましょうと言うことになるかもしれません。100%の平等は不可能だとは言え、生まれた場所により受けられる教育の差がより広がる可能性があると思っています。
なお、このような話ではe-Learningなどによる遠隔授業の利用が推奨されるわけですが、対面授業に比べ、モチベーションの維持など難しい部分があると感じています。それらの問題点を攻略する方法も日々生まれているわけですが、すぐにそれを教育活動に適用し効果をあげるのはなかなか困難ではないかと思っています。
どうにも解せないのは、数年前にミッションの再定義をさせ各大学ごとの特色を明確にしようとしていたにも関わらず、今度は経営を統一化しようとしていることです。国立大学行政のチグハグ感を覚えます。本件についてはまだ検討の始まった段階ですし、議論の推移に留意していきたいですね。