国立大学の設置審査に思う 〜意見伺いと事前伺い〜

大学設置認可制度:文部科学省

 公私立大学等を設置する場合には,学校教育法私立学校法規定により,文部科学大臣の認可が必要となっています。

 前回に引き続き、今回は国立大学の学部設置等に関する話です。

 上記の通り、大学設置認可制度を示すHPには、「公私立大学」とあり、「国立大学」の名前がありません。また、大学設置室HPに掲載された通知等も、宛先が「各公私立大学長」から始まっており、「国立大学長」の名前はありません。国立大学は大学設置認可制度の対象外で、好き勝手に学部等をつくっても良いのでしょうか。

 前回記事でも引用した学校教育法では、以下のとおり記載されています。

第一条  この法律で、学校とは、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学及び高等専門学校とする

第二条  学校は、国(国立大学法人法 (平成十五年法律第百十二号)第二条第一項 に規定する国立大学法人及び独立行政法人国立高等専門学校機構を含む。以下同じ。)(中略)が、これを設置することができる。

2  この法律で、国立学校とは、国の設置する学校を、公立学校とは、地方公共団体の設置する学校を、私立学校とは、学校法人の設置する学校をいう。 

第三条  学校を設置しようとする者は、学校の種類に応じ、文部科学大臣の定める設備、編制その他に関する設置基準に従い、これを設置しなければならない。

第四条  次の各号に掲げる学校の設置廃止、設置者の変更その他政令で定める事項(次条において「設置廃止等」という。)は、それぞれ当該各号に定める者の認可を受けなければならない。これらの学校のうち、(中略)大学の学部、大学院及び大学院の研究科並びに第百八条第二項の大学の学科についても、同様とする。

一  公立又は私立の大学及び高等専門学校 文部科学大臣 

 この条文のみ読むと、国立大学は設置基準に従い設置しないといけない(第2条第2項)が、文部科学大臣の認可は不要(第4条第1項第1号)と判断できます。国立大学の設置者は国立大学法人ですが、元々の経緯や学長の任命権者は文部科学大臣であることを考え、国の持ち物にも関わらず大臣に認可を得るのは不自然と判断したのでしょう(このあたり、法人化したにも関わらず関係性が整理されていないと感じており、あまり納得できていません。)。

 「国立大学の法人化に関するQ&A(平成15年12月文部科学省)」では、以下の通り記述があります。

Q6 学部、研究科の新設については、従前どおり設置審に意見伺いをすることになるのか。

A 大学設置・学校法人審議会との関係は、法人化によって特に変更されるのものでないが、今般の学校教育法施行規則等の一部を改正する省令によって、届出で設置が可能になったものもあり、学部、研究科の新設であっても学位の種類及び分野の変更を伴わないものは意見伺いと行う必要がない。

 「大学設置・学校法人審議会との関係は、法人化によって特に変更されるものではない」と書かれており、逆に言えば、法人化前には設置審との関係があったということだと推測されます。また、「意見伺い」という新しい言葉が出てきました。これはどのような意味があるのでしょうか。

 まず、国立大学の大学設置について考えてみます。

 国立大学は、国立大学法人が設置する大学ですが、どの法人がどの大学を設置するかは国立大学法人法別表第一で定められています。つまり、新しい国立大学を設置しようとするならば、法律を改正しないといけません。法律を改正するということは、国会での審議が必要になります。だいぶハードルが高そうですね。実際、新しい国立大学が設置されるとなれば、「高度に政治的」な事態になることが予想できます。

国立大学法人法(平成十五年七月十六日法律第百十二号)

(定義)

第二条  この法律において「国立大学法人」とは、国立大学を設置することを目的として、この法律の定めるところにより設立される法人をいう。

2  この法律において「国立大学」とは、別表第一の第二欄に掲げる大学をいう。 

 次に、国立大学の学部等設置について考えてみます。

 各国立大学には、事務連絡として、「国立大学における研究科の設置等に係る手続等について」という文書が文部科学省から通知されています。web検索でも見つけることができます。

 これによれば、「従来より、教育研究の水準の確保を図る観点から、大学設置・学校法人審議会で審査を行うこととし」とあり、国立大学においても大学設置・学校法人審議会で審査を行うことが明記されています。また、その審査については、以下のとおり、言及があります。

(1)手続等の種類等

意見伺い

○ 事前伺いに係る案件以外の学部等の設置及び大学の統合等については、「設置計画書(公私立大学用様式を準用)」を提出願います。

事前伺い

○ 国立大学における以下の案件については、「設置計画の概要等(別添1−1、1−2)、名称変更の概要(別添2−1、2−2、2−3)」を提出願います。

・ 大学の学部又は大学院の研究科の設置であって、当該大学が授与する学位の種類及び分野の変更を伴わないもの・ 学部の学科の設置又は大学院の研究科の専攻の設置若しくは専攻に係る課程の変更であって、当該大学が授与する学位の種類及び分野の変更を伴わないもの

・ 学部、学科、研究科、専攻等(以下「学部等」という。)の名称の変更

 これを見ると、意見伺いが「認可事項」、事前伺いが「届出事項」に近い取扱いであると考えられます。また、最小対象単位が学科や専攻であることから、それ以下の講座やコースについては、大学設置・学校法人審議会の審査を経ずに改組が可能であるとも読み取れます。

平成25年度医学部入学定員の増員計画について:文部科学省

(参考)今後のスケジュール

12月13日 大学設置・学校法人審議会 学校法人分科会での意見伺い

12月14日 大学設置・学校法人審議会 大学設置分科会での審議

 なお、医学部の入学定員の増員については、意見伺いを行っているようです。学位が変わらないにも関わらず意見伺いを行うのは、恐らく、医学部の定員増が国にとって重要な事項であることを示しているのでしょう。

 前回のBLOG記事でも示したとおり、認可事項の場合は教員審査が発生します。国立大学にとっても、意見伺いの場合は教員審査が発生するものと思われます。大学設置室のHPから、平成25年度及び平成24年度開設分について、意見伺いにより設置された国立大学の学部等は以下のとおりです。

平成25年度開設分

平成24年度開設分

  ここまで、国立大学の設置審査の状況について、述べてきました。国立大学は、「国立」故に、その学部等の設置について大学設置審議会に「意見を伺う」という形で対応していると思われます。もちろん、大学設置審議会の審査の俎上に上がる前に、文部科学省高等教育国立大学法人支援課によるチェックが行われることは、間違いないでしょう。