群馬大学と宇都宮大学の共同教育学部を考える。
群馬大学(前橋市)と宇都宮大学(宇都宮市)は21日、2020年度から全国初の「共同教育学部」を設置することをホームページ上で公表した。少子化の影響で教員採用数が減るのに伴い教育学部の縮小が求められる中、教員養成機関としての役割を維持・強化するのが狙い。群馬大は「連携することで引き続き幅広い専門性を満たし、地域への責任を果たせる。学生の視野も広がるのではないか」と話している。
群馬大学と宇都宮大学の共同教育学部設置に関する報道がありました。以前にも、弊ブログでは北陸3国立大学の共同教職課程について言及しましたが、それとはまた異なる案件です。すでに設置申請に向けて準備を進めているようですね。
両大学とも、ホームページで情報を公開しています。前期入試は、個別学力試験から面接と小論文になるようですね。
平成32年度群馬大学と宇都宮大学との共同教育学部の設置(構想中)に係る入試の主な変更について | 国立大学法人 群馬大学
http://www.utsunomiya-u.ac.jp/docs/190121_kyoiku.pdf
今回は、この共同教育学部について考えてみます。
共同教育学部設置の背景
今回の共同教育学部の背景にあるのは文部科学省に設置された「国立教員養成大学・学部、大学院、附属学校の改革に関する有識者会議」の報告書である「教員需要の減少期における教員養成・研修機能の強化に向けて―国立教員養成大学・学部、大学院、附属学校の改革に関する有識者会議報告書―」です。この会議は平成28年から29年に設置され、今後の国立大学の教員養成学部・大学院や教育学部附属学校の在り方について議論されました。本年度には、本報告書を踏まえた対応について、教員養成学部を持つ各国立大学が文部科学省から状況を聴取されたと聞いています。
●国立教員養成大学・学部は、一部教科の教員養成機能の特定大学への集約や共同教育課程の設置、総合大学と教員養成単科大学の統合、教員養成単科大学同士の統合等を検討し、第3期中期目標期間中に一定の結論をまとめること。
① 同一県内や近隣の国公私立大学との間で連携・協力して以下を行うこと。
ⅰ)採用者数が少ない教科あるいは各大学が強みや特色を持つ教科などの養成機能を特定の大学に集約することにより、機能強化と効率化を図ること
ⅱ)複数大学が資源を出し合って一つの共同教育課程を設置して教員養成を担うことにより、各大学がともに機能強化と効率化を図ること
④ 都道府県をまたいで存在する総合大学の教員養成学部同士が統合することにより、機能強化と効率化を図り、資源の集中による教員養成機能の充実や新学部の開設等を通じた社会のニーズに応える大学となること
大学や附属学校の組織・体制について、平成33年度末までに一定の結論をまとめるためには、他大学との相談・調整や設置認可の手続きその他に時間を要することを十分考慮に入れ、各大学は早急に検討に着手する必要がある。
なお、「平成33年度末まで」とは、対応可能なことは即座に開始するとともに、一定の時間を要する中期的な対応であっても、遅くとも33年度末までには結論をまとめるべきという趣旨である。
報告書中、今回の共同教育学部と関連する箇所を抜粋しました。ここでは、大学間の連携による共同教育課程の設置などがうたわれており、まさに今回のケースに合致しますね。報告書では教科の集約(A大学とB大学の共同教育課程としてある教科の教職課程を持つが、A大学で授業を開講しB大学では授業を開講しない、など)や効率化などが言及されています。こちらも、報道にある「インターネット技術を使った遠隔授業」「両大学とも徐々に学生定員を減らす予定(つまり教員も減る見込み)」に合致しているように感じます。
ちなみに、宇都宮大学から群馬大学へは、車で1時間半、鉄道(新幹線)やバスを用いると3時間半程度かかります。新幹線を使うのであれば、群馬大学から東京大学本郷キャンパスに行く方が速いぐらいですね。
共同教育課程とは
○経済・社会のグローバル化の中、大学は「知の拠点」として各地域の活性化への貢献とともに、国際的な大学間競争の中で新たな学際的・先端的領域への先導的な対応も必要。
○このため、複数の大学がそれぞれ優位な教育研究資源を結集し、共同でより魅力ある教育研究・人材育成を実現する大学間連携の仕組みを整備するもの。
今回の共同教育学部は、共同教育課程という制度に則り設置が見込まれています。共同教育課程とは、複数の大学が共同して教育課程(学部・学科、研究科・専攻)を設置できる制度であり、大学設置基準の「第10章 共同教育課程に関する特例」により、基準が定められています。構成大学のうちの他の大学における授業科目の履修を自大学の授業科目の履修とみなすことができるかわりに、他大学の授業を一定単位数以上履修しなければなりません。教育学部の場合は31単位以上を他大学から履修することになります。
この31単位ですが、両大学の学生が受講できる授業(A大学は対面B大学は遠隔あるいはA大学は遠隔B大学は対面)を一定数準備すれば何とかクリアできるのではないかと思います。教育学部の場合、教科専門系や教職系の講義科目ならば、比較的やりやすいのかもしれません。一方、報道にもあるとおり、模擬授業などを行う指導法科目や実習系(介護等体験を含む)は対面での現地授業になるでしょうね。
共同教育学部の設置に関する所感
各大学の担当教科がモザイク状になるのではないか
群馬大学教育学部と宇都宮大学教育学部の教職課程認定状況は、以下のとおりです。
現在取得できる免許状 | 群馬大学教育学部 | 宇都宮大学教育学部 | |
幼一種免 | ○ | ○ | |
小一種免 | ○ | ○ | |
中一種免 | 国語 | ○ | ○ |
社会 | ○ | ○ | |
数学 | ○ | ○ | |
理科 | ○ | ○ | |
音楽 | ○ | ○ | |
美術 | ○ | ○ | |
保健体育 | ○ | ○ | |
技術 | ○ | ○ | |
家庭 | ○ | ○ | |
英語 | ○ | ○ | |
高一種免 | 国語 | ○ | ○ |
地理歴史 | ○ | ○ | |
公民 | ○ | ○ | |
数学 | ○ | ○ | |
理科 | ○ | ○ | |
音楽 | ○ | ○ | |
工芸 | × | ○ | |
美術 | ○ | × | |
保健体育 | ○ | ○ | |
家庭 | ○ | ○ | |
情報 | ○ | × | |
工業 | ○ | ○ | |
英語 | ○ | ○ | |
特支一種免 | 聴覚障害者 | ○ | × |
知的障害者 | ○ | ○ | |
肢体不自由者 | ○ | ○ | |
病弱者 | ○ | ○ |
今後教員を削減していくのであれば、各教科の免許状を出せる程度の専任教員数を維持できない可能性があります。報道では「20年度以降も基本的に同様の体制を続ける見通し」とあるものの、両大学の特定の教科の教員をともに削減するのであれば、必要専任教員数は満たせるものの、各大学での教育研究力は低下する恐れがあります。そのため、例えば、群馬大学は国語に関する教員を削減し数学に関する教員を残すなど、各大学への教科の集約化が進行する可能性があります。共同教育課程ですので各教科の免許状を取得できることには変わりないのですが、各大学が担当する授業の面では上記の表がさらにモザイク化するという印象です。
また、報道には「宇都宮大では聴覚障害の免許が取得できなかった(つまり視覚障害者の免許は取得できた)」とありますが、公表されている学則等を確認しても宇都宮大学教育学部で特別支援学校教諭一種免許状(視覚障害者)が取得できることはわかりませんでした。なお、報道にある「5領域すべてに対応している大学は珍しい」について、文部科学省の公表資料では、特別支援学校教諭一種免許状で5領域すべての免許状が取得できる課程は平成29年度時点で15課程であり、特支一種免を取得できる全191課程の8%程度です。やはり、知肢病(ちしびょう)と言われる知的障害者・肢体不自由者・病弱者の3領域のセットが多いですね。
遠隔講義の質をいかに確保するか
弊ブログでもたびたび言及してきましたが、インフラの整備維持も含め、遠隔講義の質を維持することはかなり大変だろうと思います。例えば、同時配信を受けている側の教室にも教員が張り付き学生に指導するなど、細やかなケアが必要になるでしょうね。遠隔環境においてアクティブラーニング要素をどのように担保していくのかも気になるところです。
何にせよ、学生にとってのメリットや効果をもっと考えて示していく必要を感じます。
予算が付きそう
現時点で公表ということは、文科省法人支援課や教員養成企画室の大まかな了解が得られたのでしょう。ということは、設置審に出して指摘事項に応え続けていれば、よっぽどのことがない限り認可されるだろうと思います。国の施策に合った取り組みであることやトップランナーであることを踏まえると、機能強化に関する予算が付く可能性は極めて高いですね。逆に言えば、それがなければ現状の予算ではインフラ整備は困難かもしれません。
このように、現在の国立大学における経営は「いかにして国策に合ったトップランナーたり得るか」という点が問われていると感じています。
共同教職大学院はできるのか
気の早い話ですが、学年進行に伴い学生の進学先の確保が気になるところです。国立大学間の共同教職大学院ができるかもしれませんね。