文部科学省は変われるのか。

文部科学省未来検討タスクフォース:文部科学省

自発的意思により参画した若手中心の173名が、文部科学省の目指すべき姿や課題を議論し、省改革に向けた提案を取りまとめました。

 昨年末に文部科学省未来検討タスクフォース報告が公表されました。本件は、2018年に発覚した文部科学省幹部職員の逮捕に伴う対応ではありますが、その前段階として2017年に発覚した組織的な再就職等規制違反にも目を向けたいところです。再就職等規制違反においても、「今後の文部科学省の在り方を考えるタスクフォース」が結成され、今後検討すべき対応策に関する報告書が公表されています。

第4回 今後の文部科学省の在り方を考えるタスクフォース:文部科学省

 併せて、文部科学省創生実行本部(第2回)議事要旨も公表されました。

文部科学省創生実行本部(第2回)議事要旨:文部科学省


 国立大学法人の所管省庁としての姿勢や組織マネジメントは気になるところですので、今回は、文部科学省未来検討タスクフォース報告や文部科学省創生実行本部の内容を確認してみます。

文部科学省未来検討タスクフォース報告について

評価できる点1:トップがメッセージを発信するとしたこと

省全体の取組達成に向け、事務次官は「文部科学省改善改革宣言(仮称)」を公表する。課長級以上の職員は、業務改善・業務削減の取組目標8を宣言し、その説明責任を負うとともに、その達成度を人事評価にも反映する。

 トップがわかりやすいメッセージを発信することは、組織運営において大切だと考えます。当該宣言がわかりやすいかはさておき、このような施策をとることは良いと思っています。

評価できる点2:具体的なアイディア例があること

 上司・部下・職員間の議論・コミュニケーションを増やす仕掛け作りのアイディア例を挙げている点は、実行に移しやすいという意味でも良いなと感じました。ただ、なぜコミュニケーションのアイディア例しか挙げられていないのかは気になりますね。議論をまとめていく中でわかりやすさを重視したのかもしれません。

残念な点1:個々の職員がどのように行動するのか不明なこと

こうした強い危機感に端を発し、職員の自発的意思によって今後の文部科学省の在り方を検討するため、文部科学省未来検討タスクフォース(以下「未来検討TF」という。)が、本年8月に大臣決定で設置された。構成員は省内公募により、多くの若手を含む173名(課長級:6名、室長・企画官級:30 名、課長補佐級:48 名、係長級:58 名、係員級:31 名。)の職員の参画を得た。

 (おそらく多くは)自発的に参加した173名の職員により本報告書は作られたようですが、この173名がどのようにこの報告書の実現に向け行動するのかは読み取れませんでした。この報告書に書かれた内容は組織的な対応(人事制度など)が中心ですが、だからと言って個人的な対応をしなくても良いということではないでしょう。組織の中にいる人が動かなければ組織的な秩序や向上は望めません。

 組織的な対応と個人的な行動は相補的に取り組まれるべきでしょう。その意味では、今回参画した173名こそが中心となるべきであり、個々人の行動に未来が掛かっているといっても過言ではありません(この173名だけが頑張るという意味ではありませんよ、念のため)。報告書中にある

職員一人一人が改めて自らを振り返り、行動すべきと考えることを示したもの

とはまさにこのことでしょう。検討の途中ではもちろん参加者個々人として考えてはいたものの、最終的に公表する報告書からは除かれたと考えたいところです。(余談ですが、組織的な決め事に反して個人(あるいは一部が結託した半法令的小組織)が動くことで対応した悪い例が「文部科学省における再就職等規制違反」だと考えています。組織と個人がともに動かなければ良い成果は得られにくいでしょうね。)

残念な点2:省外との関係性があまり書かれていないこと

自らの専門性を高めるための大学等での学修や所属局課・府省を超えた勉強会に、業務の所掌を超えて参加できる環境を醸成するとともに、各局課・職員が有するネットワーク・専門的な知見を共有するシステムを導入し、こうした学びや専門性に秀でる職員(他機関からの出向者や研修生等を含む。)の知見を有効に活用する。

職員の専門性向上や外部の知見を吸収するなど多様性の確保、マネジメント力の育成、若手職員にとっての将来に向けた多様な経験等の観点から、省外の機関(民間企業、地方公共団体、学校、独立行政法人、他省庁、国際機関等)との人事交流を開拓・拡大し、積極的に行う。 

 国立大学職員の立場としては、文部科学省外の関係機関との関係をどのように考えているのか気になるところです。また、特に苦労も多いであろう政治家や業界団体とどのように接していくのかも知りたいですね。ただ、本報告には、あまりその点(特に政務対応)は書かれていませんでした。

 研修生の数も職員全体の一定割合はいると思いますので、単なる労働力ではなく、どのように「知見を有効に活用する」のは気になります。もっと言うと、ここに書かれた文部科学省職員の在り方(案)を採用した場合、政務対応でこれとは異なることを求められた場合、どのように対応すればよいのでしょうね。国家公務員の皆さんは当然にも判断できるでしょうが、私にはわかりません。

文部科学省創生実行本部(第2回)議事要旨について

トップの考えと報告書との関係が微妙

事務次官に着任した際に職員に対して3つ求めた。議論をすべきときには議論する、一旦全員で決めた決定には従う、むやみに正当な理由なくそのプロセスは外に出さない。つまり、面従腹背をやめようということ。また、OBの影響の排除、旧文部省系・旧科学技術庁系の人事の一体化、若手の登用の3つを約束した。

今回残念ながら幹部系職員が2名、逮捕・起訴されており、その原因としては彼ら自身の責任、あるいは文部科学省の組織文化があるが、今の組織文化を作ったのは現役の職員だけでなくOBである。OBがどのように関与し、そういった人たちを育て、人事配置したのかを検証する必要がある。

 この発言は藤原事務事務官だろうと思いますが、非常にまずいなと感じます。何を以て「風通しの良い/悪い組織」とするのかにも寄りますが、例えばこのサイトに書かれた「風通しの悪い組織」の例と「議論をすべきときには議論する、一旦全員で決めた決定には従う、むやみに正当な理由なくそのプロセスは外に出さない」の親和性は高いように思えます。

blogs.itmedia.co.jp

  悪く言えば・・・
議論をすべきときには議論する 議論すべき時とすべきでない時がありその判断はだれがどのように行うのか不明。議論すべきではない時には議論してはならないという意味なのか。
一旦全員で決めた決定には従う 「全員」とは誰なのか。決定した後は黙って従うということなのか。
むやみに正当な理由なくそのプロセスは外に出さない 「むやみに」「正当な理由なく」が誰がどのように判断するのか。「外」とはどこまでを指すのか。

 邪推であることを祈ります。

修羅場をくぐらせること

人材育成の考え方として、教育行政の世界では経営がキーワードだとすれば、大学に出向した際に経営にどう貢献できるかがポイントだと思うが、高尚なことではなく、まずは例えば帳簿が読める、色々なことが起きる生々しい世界である労務管理ができるなどの経験でよい。そういう管理をやらせた方が、実際の教育現場で起きている生々しいところと若いうちに接点を持つことができる。エリートを鍛えるのは修羅場だと思うので、文部科学行政の中でも、政治家からも現場からも怒鳴られるような厳しいことを回していくことが大事。

 おそらく、省外の有識者の発言だろうと思います。大学にくる異動官職も、本部に引っ込んでいるよりは、もっと教育研究等活動に直に接しているところで働いてもらう方がよいのかもしません(お荷物な人が来たら大変ですが)。個人的には医学科の学務系や附属病院の医事課、附属学校の苦情対応などでボコボコにされてほしい経験を積んでほしいなと思っています。

どういう文部科学省ならば良いか聞いてはどうか

 文部科学省で働いていたころ、非常に違和感があったのが、来訪した大学関係者が文科省担当者に対してたくさんお礼を言うことです。多少はそのような気持ちがあるにせよ、大学の現場を踏まえると、お礼以外にももっと思っていることや感じていることがあるでしょう。ここにいても大学の現状をつぶさに把握することは難しいなと感じたことをよく覚えてます。(もちろん、私個人の人徳のなさという点も大きいとは思いますが。)

 せっかくなんで、この機会に関係機関に「どのような文部科学省ならば良いか、どのような文部科学省がダメか」を聞いてみてもいいんじゃないですかね。それが省としての360度評価ということでしょう。twitterにでも投げればよい大喜利ネタになると思いますよ(投げやり)。

総じて

 タスクフォースの報告がどの程度組織的に実行されるのかは、予断を許さない状況だろうと思います。上司に対する360度評価などは開始され始めたといった情報もありますし、引き続き、文部科学省創生実行本部が出す結論を関係機関の職員として注視していきます。