「みなさん、どうですか?」では誰も発言しない。

 複数の異なる大学・短大・高専の職員が参加したグループワークを観察する機会がありました。プロのファシリテーターではなく各グループのメンバー(つまり一般の職員)がファシリテーター役を務めていたのですが、どうもうまく発言できる空気ではないようなタイミングやグループがあったように感じました。ファシリテーター役の方は「みなさん、どうですか?」と盛んに問いかけていましたが、そんな空気のなかではそりゃあ誰も発言しないですよね。

 グループワークにおけるファシリテーターの問いかけとは、議論の方向性や場の空気を醸成するとても大切な役割があります。名古屋大学高等教育研究センターが公表している大学教育のヒント集「成長するティップス先生」では、「6章 学生を授業に巻き込む」 の中にディスカッションをリードするポイントとして、以下の6つが挙げられています。

  1. 事前の準備
  2. 口火の切り方
  3. 活性化のコツ
  4. 軌道修正のコツ
  5. 締めくくり方
  6. 大人数の授業での場合

 これは授業の際のポイントですのでファシリテーションに直接適用できるわけではありませんが、それでも押さえておきたい点はあります。例えば、ディスカッションの始め方として、

  1. 大きすぎる漠然としたものは不適切です。
  2. 読書課題、実演内容など学生に与えた素材に関連する具体的な問いでなくてはなりません。
  3. ただひとつの簡単な答えのある問いはディスカッション・オープナーとしては不適切です。2〜3の対立する回答を生み出すような問いは、そのあとにさらにディスカッションをつづけるために効果的です。 

が挙げられています。

 冒頭の「みなさん、どうですか?」は、まさに大きすぎる漠然とした問いかけであり、オープンすぎるオープン・クエスチョンであると言えます。また、特定の個人に問いかけているわけではなく特定多数の集団に対して投げかけられた問であるため、自分が答えていいものなのか、ある意味では参加者一人一人の「場に対する責任」がなかなか醸成されにくいことも想像できますね。また、もしかしたらファシリテーターの自信や予習の無さを参加者が感じ取り、協働した場づくりに後ろ向きになってしまう可能性もあります。

 私もグループワークのファシリテーターとして、あるいは、ファシリテーターに助言する立場として、いろいろな場を経験してきました。その際、このような場合には、例えば以下のような問いかけを行ってきたように記憶しています。(誇張してるので、コントロールしすぎですが…)

「AさんはAA大学で○○課に勤務されていますが、この点について、AA大学ではどのように処理をされていますか?」

「BさんもBB高専で同様の係に所属してらっしゃいますが、BB高専ではどのように処理をされていますか?先ほどのAさんの発言を聞かれて、どのような点がBB高専と違うと感じられましたか?」

「過去にこの業務に携わっていた方がいらしたら、どのように処理をしていただのか伺いたいのですが、いかがでしょうか。あるいは、大学と短大では処理が異なるようにも感じられるのですが、Cさんは勤務されているCC短大でどのような処理が行われているか、ご存じでしたらご発言いただければありがたいです。」

「ここまでのお話を伺っていると、大きくDDDのようなやり方とEEEのようなやり方に分けられるように感じられます。このような整理でよろしいでしょうか。では、それぞれにどのようなメリットやデメリットがあるか、すこし考えてみましょう。」

「Fさんは全く異なる業務を担当されていると思いますが、これまでの話を聞いてどのような印象を受けましたか?また、DDDとEEEでは、学生にとってどちらかが好ましいと考えますか?」

 事前に渡されたグループメンバーのリストに勤務先や所属があれば、それを踏まえメンバーが担当している業務を類推し、問いかけの参考にしています。また、そうでなくともおおよそ冒頭に自己紹介がありますので、それを記憶し活用しています。場の目的にもよりますが、上記の会話でもわかるように、まずは各者の具体的な体験や思い・考えを引き出し、それをグループ内で対比させることで違いを明確にし、なぜ違いが生じるのか、それぞれのメリット・デメリットは何かを各者に考えてもらうようにします。こうすることで、今まで自分になかった認識を得てもらい、それを自分の中で消化してもらうための第一歩することが多いですね。

 今回私が見学したグループワークは、1グループの人数が多く席も離れ気味であること、時間が短いことなど、なかなか議論を活性化するには難しい環境であったと思います。だからこそ、外からファシリテーターが四苦八苦している様子を見るに、自分ならどのように議論を進めるだろうかと考えていました。