修学支援新制度の対象から大学院生が除外されている件について

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 修学支援新設度(以下、「新制度」という)については、確認申請書の提出締め切りが過ぎ、各確認者にて確認を行っているところでしょうか。そんな中、新制度の対象に大学院生が含まれていないことについて話題になっています。この件について、整理してみます。

事実関係の整理

文科省のQ&A

高等教育段階の教育費負担新制度に係る質問と回答(Q&A):文部科学省

Q67 大学院生は新制度の支援対象になりますか。

A67 大学院生は対象になりません。(大学院への進学は18歳人口の5.5%に留まっており、短期大学や2年制の専門学校を卒業した者では20歳以上で就労し、一定の稼得能力がある者がいることを踏まえれば、こうした者とのバランスを考える必要があること等の理由から、このような取扱いをしているものです。)

 文部科学省のQ&Aでは、新制度の対象から大学院が除かれていることが明記されています。なお、従前から国費にて各大学で行われてきた授業料減免・入学料免除制度では、大学院生や留学生も対象に含まれています。今回は、従前からある減免・免除制度と新制度との対象者の違いにより、それまで支援を受けられていた大学院生が支援を受けられなくなるのではないかという懸念から生じているのでしょう。

新しい経済政策パッケージ

 新制度に大学院生を含まないことは、文部科学省の制度設計ではなく、内閣が決定した方針にてすでに決まっていました。ただし、これがどのように決まったのかまでは調べきれませんでした。

新しい経済政策パッケージ(平成29年12月8日閣議決定)

第2章 人づくり革命

3.高等教育の無償化

最終学歴によって平均賃金に差があることは厳然たる事実※5である。また、貧しい家庭の子供たちほど大学への進学率が低い、これもまた事実である。貧困の連鎖を断ち切り、格差の固定化を防ぐため、どんなに貧しい家庭に育っても、意欲さえあれば専修学校、大学に進学できる社会へと改革する。所得が低い家庭の子供たち、真に必要な子供たちに限って高等教育の無償化を実現する※6。

※6高等教育の無償化は、大学、短期大学、高等専門学校、専門学校について行う。

2−4

文科省のエージェンシー化

 余談ですが、最近の文教政策は内閣府財務省、政権与党などの会議体で目的・目標や方針が決まり、文科省はそれを実行するだけという、ある意味で文科省独立行政法人化(エージェンシー化)が進んでいると強く感じています。

なぜ大学院生が除外されているのか

修学支援新制度の目的は少子化対策である

 前述の「新しい経済政策パッケージ」の策定時点で大学院生が新制度の対象から除外されています。同パッケージの策定過程が公表されていないため、なぜ大学院生が除外されているのかは明確ではありません。ただ、新制度の趣旨が少子化対策であることに関係しているのではないかと考えています。

大学等における修学の支援に関する法律

(目的)

第一条この法律は、真に支援が必要な低所得者世帯の者に対し、社会で自立し、及び活躍することができる豊かな人間性を備えた創造的な人材を育成するために必要な質の高い教育を実施する大学等における修学の支援を行い、その修学に係る経済的負担を軽減することにより、子どもを安心して生み、育てることができる環境の整備を図り、もって我が国における急速な少子化の進展への対処に寄与することを目的とする。

 あまり知られていませんが、大学等における修学の支援に関する法律の目的は少子化の進展への対処に寄与することです。学費の無償化と少子化との関係はイメージにしにくいところであり、条文中には「修学に係る経済的負担を軽減することにより、子どもを安心して生み、育てることができる環境の整備を図」りとありますが、こじつけ感も覚えますね。このように少子化を法律の目的としたことは、同法を根拠として実施する修学支援新制度が消費税を財源としているためです。

消費税法

(趣旨等)

第一条 

2 消費税の収入については、地方交付税法(昭和二十五年法律第二百十一号)に定めるところによるほか、毎年度、制度として確立された年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費に充てるものとする。

 平成24年8月に成立した「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」により消費税法の一部が改正され、消費税収入の使途が明記されました。

 その後、当初は消費税10%増税分収入は財政赤字の削減と社会保障費の充実に充てられる予定でしたが、その中から「人づくり革命」と呼ばれる少子化対策に充てられるよう使途変更が行われました。

消費増税による増収分の使途変更(みずほインサイト2017.9.26)

消費税増税の使い道をわかりやすく解説 | 消費税・軽減税率情報Cafe

 よって、消費増税を原資とする奨学支援新制度においては、少子化に対処すること以外に目的を設定する選択肢はない状況だったと言えます。このことは、文科省専門家会議の委員だった小林・東京大学教授も解説しています

 ここから、今回の新制度は既存の授業料減免・入学料免除制度とは、全く趣旨が異なるもの(継続性がないもの)と考えられます。大学院生を新制度の対象外とすることについては研究力やイノベーション誘発力の低下などの意見も見られましたが、そもそも制度の目的が異なるということですね。

 とは言っても免除者は継続的に存在しているため、どのように対応していくのかが問題になっています。

大学院は一般的な学歴のゴールとして想定されていないのではないか

 ここから先は全て私の推測です。

 新制度の対象は、大学・短大・高専・専門学校等と概ね18歳の進学先を網羅しています。ここから、奨学制度と言いつつも、特定の世代(主として18歳から22歳、またその親世代)への支援制度とも言えるのではないかと感じています。特定の世代に広く支援する場合、社会一般としてどのように整理をつけるかということが重要になります。その意味では、社会一般としてのストレートの学歴ゴール(あまりいい言葉ではありませんが。。。)として、新制度の対象となっている学校種が整理されたと考えることができます。(本来ならば、住民税非課税世帯やそれに準ずる世帯の進学状況を踏まえて検討すべきだと思いますが、それを見つけることができませんでした。。。)

 平成29年度就業状況基本調査から、15歳以上の最終学歴を以下の通り整理します。

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 大学院進学割合を考えると、原資が限られていることもあり、やはり大学・短大等をひとまずのゴールと置いたのでしょうか。

今後の展開

国会審議の状況

 次年度以降、大学院生や留学生に対する授業料減免・入学料免除の措置がどのようになるか、気になるところです。大学によっては億単位の原資が必要となるため、やはり国費の投入がなければ対応は難しいかもしれません。最近の国会審議の状況からは、以下の通りの発言が見受けられます。

198 - 衆 - 財務金融委員会 - 13号 令和01年05月15日

○森政府参考人 特に国立大学の運営費交付金の授業料減免の予算措置につきましては、経済的な理由、それから留学生、大学院生等を含めまして措置をしております。
 その中で、実際の、先ほど申し上げましたように繰り返しになりますけれども、どのような所得要件にするか、新制度においては住民税の課税標準額をベースにいたしますけれども、各大学においては年収基準をもとにしているところが多いわけでございますけれども、それについてはそれぞれの大学で決めてきた、そういうことでございます。

○宮本委員 ですから、それぞれの大学で、今回の法律よりももっと大きな幅で減免をやってきたわけですよ。それを支援してきたわけですよ。そして、もっと対象を拡大しなきゃいけないということで、ずっと積み上げてきたわけじゃないですか。なぜその認識を捨てようとするのか。
 私、国の今度の施策によって、授業料減免の対象が縮小する大学が生まれるというのは、国連人権規約にあります高等教育の漸進的無償化に逆行すると思いますよ。その点の認識、文科副大臣、いかがですか。

○永岡副大臣 お答えいたします。
 国際人権規約におきまして、無償教育の具体的な方法については特段の定めをしておりません。その範囲や方法を含めまして、具体的にどのような方法をとるかについては加盟国に委ねられております。
 文部科学省としては、財政や進学率等その時々の状況を総合的に判断しながら、具体的な、給付型の奨学金制度の創設を始め、奨学金制度を充実させるなど、教育費負担の軽減に努めているものでございます。
 新制度は、真に支援が必要な学生に対しまして確実に授業料等が減免されるよう、大学等を通じた支援を行うとともに、学生生活の費用をカバーするために十分な給付型の奨学金を支給するものでございます。全体としては、規模や金額が大幅に拡大することで支援が広がっていくものと考えております。
 このため、中長期的に見まして、無償教育という手段を徐々に、漸進的に導入する方向に沿って努力していく方針が維持され、そして実際の施策が中長期的に見ましてその方向性に沿ったものとなっていることから、無償教育の漸進的導入の趣旨に適しているものと認識をしている次第でございます。

○宮本委員 私は、今度の法律について適しているかどうか聞いたわけじゃないんですね。法律は成立しました、法律が成立したもとで、今度、今まで続いてきた授業料の減免制度をどうするかということが問われているわけですよ。今までの授業料減免制度は法律に基づいてやっているわけじゃないですから。
 この減免制度を縮小していくということになったら、これは当然、漸進的無償化というのは前に進んでいくわけですから、その部分が対象が少なくなるというのは、明確に逆行するということを言わなければいけないと思います。
 私、本当に大変心配するのは、先ほど来、各大学で減免制度は考えてくれということを大臣はおっしゃるわけですよね。これは、今まで同様の財政措置がなくなったらどうなるかということなんですよね。
 各大学は、そうはいっても、やはり減免制度を続けたいと思いますよ。自主財源を確保しようという話になりますよ、もし財政措置がとられなければ。寄附金が集まればいいですけれども、寄附金が集まらなければどうなるのか。自主財源といったら、授業料を上げることになるんですよね。実際、ずっと据え置かれていた国立大の授業料ですけれども、ことし、東工大と芸大が値上げするということになりました。
 ですから、私が本当に言っておきたいのは、減免制度を各大学で維持する財源を学生や父母に求めるような、授業料値上げで賄うようなことは絶対あってはならない、そういう方向に誘導しては絶対ならないと思いますが、その点の文科副大臣の認識をお伺いしたいと思います。

198 - 参 - 文教科学委員会 - 7号 令和01年05月09日

○神本美恵子君 (略)
 一番大きな問題は、この間の現行の授業料減免について、文科省は留学生や大学院生については目的が異なるので継続して支援するとされておりますけれども、今受けている在学中の、現行制度で授業料減免を受けている、そういう人たちに対しては対策がちゃんと取られるのかということについて聞いたら、国立大学については何らかの配慮が必要かどうか検討中、また、私立については、現行の私立大学等経常費補助金配分基準で授業料減免事業等支援がありますけれども、新制度に移行した後どうなるかということについてははっきりおっしゃっていないんですね。大学の対応を見極めつつというような答弁がされておりますけれども、現行の制度が後退、縮小する懸念は拭えていないんです、これまでの議論では。
 大臣、はっきりここは後退しないと、縮小しないというふうに、それだけの予算獲得をするんだということを明言していただきたいと思います。いかがですか。

国務大臣柴山昌彦君) 現行の各大学における授業料減免は、それぞれが定める認定基準に基づいて本当に多様な形で行われております。これが、新制度の下では、二〇二〇年度から各大学における授業料減免への公的支援が、国公私を通じ、全国で統一的な基準によって真に支援が必要な住民税非課税世帯及びこれに準ずる世帯の学生に対して重点的に行われることになるというように考えております。総合的な支援の額は大幅に増えてまいります。
 それでは、個別の大学についてどうかということなんですけれども、今後、各大学においてこの新制度を踏まえてどのように対応するかということをそれぞれ検討していただくこととなりますけれども、文部科学省といたしましては、本年夏頃までをめどとして、必要な調査等を行った上で適切に対応してまいりたいと考えております。

○高木かおり君 (略)
 続きまして、もう最後の質問になるかもしれませんが、先ほどもお話が出ていましたが、大学の学費の値上げで一番打撃を受けるというのは、やっぱり中間層であるというふうに思います。我が党は、そもそも所得制限なしの大学、高等教育の無償化を訴えてはおりますけれども、今少しずつ前進していく中でも、やはりこの中間所得層の学生さんたちが大変今困難な状況にあるというふうに思います。学生さんたちがプロジェクトを立ち上げた中でのアンケートによりますと、世帯年収四百万から八百万の世帯の学生さんたちが、もう高い学費ということに、こういった壁に大変悩んでいるということをお聞きをいたしました。
 今までは、国立大学の場合に限りますけれども、国立大学の場合、大学院生ですとか、年収が先ほど申し上げた中間所得層の中でも、成績が良かったら授業料の減免を受けることができたという制度もありました。だけれども、今回の新制度によって、こういったことに対しても減免措置が打ち切られたり後退するということがあるのかどうか。これは大学が決めることだというふうな御回答かもしれないんですけれども、やはりこういったことも大学が、じゃ、やめようかというふうになってしまうということではやはり後退ということになってしまうのかなというふうに感じるんですけれども、その点はどうでしょうか。

○政府参考人(伯井美徳君) 新制度の下におきましては、まず、この新制度に基づく統一の基準による支援制度ができると、その上で、それを踏まえて各大学がどのように対応するかということでございます。
 今後、国立大学につきましては、各国立大学において新制度を踏まえてどのように対応するか、それぞれ検討していくわけでございますが、その中で、先般大臣もお答えされましたように、新制度において対象とならない学生も生じ得るというところでございます。それにつきましては、当該学生の学びの継続を支援するという観点から、減免の事由、家計基準の実態、国立大学における減免基準の考え方などを見極めつつ、一定の配慮について検討をしていくことが必要であるというふうに考えております。
 そのため、文科省としては、各国立大学に対して一定の調査をするなどいたしまして、より詳細な状況を把握した上で新たな制度の趣旨を踏まえ、適切に対応していきたいというふうに考えております。

198 - 参 - 文教科学委員会 - 5号 平成31年04月23日
斎藤嘉隆君 是非大臣、本当にこれ学生たちにとっては死活問題なので、新制度で七千数百億円という予算で非課税世帯の子供たちが大学に行きやすくなるというのは、これは本当に有り難いことだと思いますけれども、そのことの導入と引換えに従来の五百数十億円という予算が削られて各大学の減免が縮小していくなんということがあったら、これはむしろマイナスの方が大きい、そのように言わざるを得ないんです。
 もう一点お聞きします。
 大学院生への支援、新制度は大学院生対象外ですね。これ、新制度によって従来の制度の継続が左右されるようなものではないと思います。二〇一九年度は一万七千人が免除対象ですけれども、二〇二〇年も、これは規模も含めて維持をしていくという方向でよろしいですか。
国務大臣柴山昌彦君) 今委員御指摘のとおり、今回の新たな支援制度は学部学生を対象としたものでありますけれども、ただ、国立大学の大学院生に対する授業料の減免は運営費交付金より別途措置されておりますので、引き続きしっかりと対応していきたいと考えております。

予算の話はまだ確実に言えない

 「しっかりと対応していきたい」とありますし、現に大学にそれらしい調査も来ています。ただ、概算要求事項も明らかになっていない中で来年度の予算のことは根拠なく話すことはできないと思います。そのため、今後の対応は不明というのが正確なところでしょう。もし文科省担当者が現時点で「大丈夫ですよ。継続されますよ。」と言ったのなら、ちょっと軽率だなという印象です。

 個人的には、最低限、従前からの減免・免除枠から今回の制度分を除外した金額を配分してほしいと考えています。

本件に関する所感

 そもそも、授業料減免・入学料免除を少子化対策として位置づけことが無理筋なのではないかと思います。予算の都合上タテマエとして設けた目的目標が後の行動を縛っていくという構図は大学でもよく見る風景だなと感じました。