セミナー「若手職員の実践的能力を形成できるSDを求めて」に参加してきました。

名古屋大学高等教育研究センター第132回招聘セミナー若手職員の実践的能力を形成できるSDを求めて

 各大学で改革を進めるために、大学職員の能力向上が不可欠であり、能力形成のためのSDのあり方が問われています。しかし、各大学ともSD実施のノウハウやリソースが不十分であり、実施に困難を抱えているのが実情です。その中で、一部の大学では若手職員たちが中心となり、独自の取組を展開しています。セミナーでは、小樽商科大学山形大学佐賀大学から若手職員をお招きして、3大学でどのようにSDを進めているのか、実施のためにどのような苦労や工夫をしているのかを報告していただきます。

 名古屋大学高等教育研究センター主催のセミナーに参加してきました。会場には概ね30名程度の参加者がおり、平日夕方の開催でしたが、名古屋大学のみならず近隣・遠方の国公私立大学職員やその他職種の参加があったようで、関心の高さが伺えました。総じてかなり話が面白く、また質疑応答も活発に行われ、参加して良かったと感じました。

 一部分だけですが、私の印象に残った発言を以下に記載します。いつものとおり、正確に発言を書き取った訳ではなく、内容は全て私の私見が加わっている可能性がある点に留意願います。なお、質疑応答は、簡単なグループディスカッションにより各グループ一つ以上質問を出させるという手法をとったため、かなり活発に行われました。そのため、本記事には全てを掲載しておりません。

河崎 智之 氏(小樽商科大学教育・組織戦略係長)
  •  小樽商科大学は職員70名規模であり、その中での取組であることを最初に申し上げておく。
  •  国立大学にはミッションの再定義に関する話がある。小樽商科大学のミッションははっきりしており、「グローバルな視点を持ち、北海道経済の発展に貢献できる人材育成」である。ただ、このミッションを達成するために必要な人材像はいまいちピンとこない。大学職員同士のSDは本当に必要なのかという思いもある。
  •  段階を追って説明していく。まずは、自主的・自発的なSDの取り組みについて。法人化と同時に小樽商科大学に入職したが、法人化に戸惑っていた職員も多くいたという印象がある。そんな中、私自身が民間企業の出身ということで、いろいろ取り組みをやらせてもらった。商大カレンダーや商大くん手帳、商大くんBLOGなど。今思い出すと、これらの取組はマーケティングの講義を担当することになった教員が職員を集めプレ講義を行ったことがきっかけだった。
  •  商大くんBLOGは最初有志での取組であり、しばらくはBLOG上でも有志の取組と明記していた。数年経ったのち、当時の事務局長に見初められ、今は各課員からなるチームによるプロジェクト型業務となった。このように、数年経って組織化されるようになった取組がいくつかある。
  •  次の段階は組織的な取り組みについて。全職員70名を巻き込んだ研修として、平成22年度に取り組み事例集を作成し、平成23年度に戦略提案会を開催した。この展開は戦略的に考えたものである。研修に参加する時間を業務の効率化によって作り出すため、まずは取り組み事例集を作成した。ここでは、全職員にインタビューし、各人が行っている工夫や感じている課題を収集し、学内共有を行った。その後、戦略提案会として、テーマ別にチームを設け学長へ提案を行った。チームには若手職員のみではなく課長級も参加し、報告会等を行った。実際の取組につながった提案もある。
  •  教職員全体でものを考える文化をどのように作っていくかということを考えた時、自分の力のなさを痛感した。そのため、小樽商科大学ビジネススクールに入学した。ここでは、モチベーションの高い人との交流なども含め、様々なことを学んだ。経営マネジメントとは、経営の情報をいかに活かしていけるかということである。
  •  業務としての取り組みについて。小樽商科大学のミッションの再定義について全教職員で検討することとし、個人やグループなど教職員から様々な提案を受けつけた。提出された提案を参考に、教育研究評議会でもグループワークを行った。
  •  いかに地域に根ざした大学になるかという地域思考をテーマとした研修も行った。まだまだ課題が多いことがわかった。
  •  小樽商科大学のミッションを達成する者は、ミッションを体に落とし込んだ者なのではないかと考えている。そのような能力を開発するためには、どのようなSDを行えば良いのか。能力開発には、既存のSDという概念、教員職員の役割という概念、異動官職との関係などの阻害要因がある。阻害要因の克服のためには、学外を巻き込んだSDが一つの手ではないか。社会の動きやニーズをいかに把握しSDとして取り込んでいくかということがポイントであり、今後はそのような学内外を問わないSDを行う必要があると思っている。求める大学職員像は、外部環境としての社会の動き・ニーズや学生のニーズをいかに把握するかということにある。
樋口 浩朗 氏(山形大学人文学部上席係長)
  •  playfulとはワクワクドキドキする感じ。日頃からそれを心がけている。働くひとのためのキャリア・デザイン (PHP新書)という書籍は参考になる。自分自身でキャリアをデザインする意思を常に持っていたい。また、「経験学習」入門の「経験から学ぶ力モデル」も大切。特に、思いとつながりによってモデルを回すという点。
  •  特に意識していることは、終わりのない自学と経験、組織内での存在意義を高めることの2点である
  •  山形大学の入試ミスがきっかけとなり、山形大学アクションプランを作成した。それが第1回SDにつながった。経過は大学「法人化」以後―競争激化と格差の拡大 (中公新書ラクレ)という書籍に書かれている。このようなSDもあり、職員の研修費用を制度することにつながった。また、第1回大学職員サミットも山形大学で行った。山形大学では、立命館大学との職員交流なども行っている。
  •  講演者を務めた国立大学協会主催若手職員勉強会では、chance、challenge、changeの精神を伝えた。個人としては科研費奨励研究への応募や自己啓発支援制度による大学経営塾の企画運営、生き方を考える読書会の開催などを行っている。いぶき、シリウスなど若い世代への引き継ぎも意識している。
  •  今これをやっていることが100年後につながっていくという意識である。最近では大学アドミニストレーターや高度専門職などの名称が出てきているが、名前はなんでもいい。とにかく、アウトプットしていかないと無責任である。使命感を持ってplayfulにやっていく。自分や家族の満足が社会の創生につながっていけば良い。
末次 剛健志 氏(佐賀大学企画評価課係長)
  •  なぜ勉強会活動に関わるようになったのか。今やっている仕事でこれからも大丈夫なのかという思いがあった。九州地区は道州制の議論が進んでおり、今の国立大学の形態がどう変化するのか。大学ブランドイメージ調査でも佐賀大学はあまり順位が高くない。九州地区は国立大学が密集している。佐賀県は、地域の人口が少ない割には大学の規模がある。このような状況を踏まえ、どのように自分たちが勉強していけばいいのかと思っている。
  •  法人化以降人事交流が減少している感があるが、交流して初めて気づくこともたくさんある。職員も優秀な者が入ってきている。係長級は若手を育成できているのか、今の業務が若手職員の能力を十分活かしきれていないのではないかという思いがある。
  •  九州地区の大学職員での集いであるきゅうつどは、国立大学一般職員会議がきっかけとなり平成21年度に開催された。以降、年2回ないし1回のペースで、各大学持ち回りにより開催している。特に、開催大学の自由な発意に基づいて企画運営されており、開催大学職員の企画力等向上や交流促進など効果があった。持ち回り開催により、各大学の特色がでる。「気楽にマジメ」というキーワードでやってきている
  •  佐賀大学には事務系職員クラブ制度というものがあり、部課を超えた横断的な課題を検討している。テーマを自由に設定できるが、あくまで業務の一環として位置付けているため、各クラブの活動を基に業務成果を上げることを求められている。平成24年度に10クラブでスタートし、複数のクラブを掛け持ちする者もいた。
  •  私が代表を務めるIR塾は10名程度で活動しており、データの可視化等に取り組んでいる。IRに取り組むことで何かのきっかけとなり、支援のスキルとマインドを涵養することが大切。この制度により成果が出るのか、各クラブが継続できるかということには様々な要因がある。このような活動をスタートする力と継続する力は別ものである。
  •  能力開発の活動を業務に位置付けるとうまくいくのかと聞かれれば、関係無いと回答する。目標設定とモチベーションをどうしていくのかが重要。関わっている人たちが幸せにならないと続かない。ニーズや熱意、成長や学びの楽しさが勉強会のこれからを支えていく。交流があるからこそ成果につながると思っている。小さな達成や成功体験を継続し、他者と交流していくことで、個人の成長につながる。
  • Q:スタートする力と継続する力はどのように違うのか。
  • A:スタートする力は、意欲や課題設定など。継続する力は、マンネリ化を打破する力など。やる気だけで続けるのは無理であり、続けるための工夫が必要。達成できる目標を作りそれに向かい成果をだすことが大切。小さな目標達成の積み上げを繰り返さないと、自分たちの大きな目標にはたどり着けない。
  • Q:どのような要素を持ち込めば交流につながるのか。
  • A:なんでも言えるような雰囲気や発言を尊重する場作りが気づきにつながる。そのようなところから交流が生まれてくる。懇親会は大切。
  • Q:全国で活躍することで他職員からやっかみなどはないのか。勉強会に人が来ないなどの苦労話はあるか。
  • A:やっかみはあるかもしれないが、あっても良いと思っている。それもまた自分自身の存在意義につながる。SDに人が集まらないことはあるが、同じ思いを持っている人がつながることが大切であり、若い世代も育ってきている。
  • Q:大学職員クラブはSDなのか。
  • A:IRは業務改善であり、支援である。多様な意見を聞き試行錯誤できる場は意外と少なく、IR塾でそれを果たしていると考えている。IRは大学全体のものであり、データを見せたい形で見せていくことが職員の能力向上につながる。
  • Q:SDの阻害要因について詳しく教えて欲しい。
  • A:実際、説明で挙げた3つの阻害要因はさほど強くないものではなかった。10年前と今を比べると、時間が取れるかどうかが大きく異なる。今は時間が取れないことが阻害要因になる。
  • Q:活動を見守ってくれる人はどのように見つければ良いか。
  • A1:やりたいという雰囲気を出していたら話が飛んでくるようになった。
  • A2:熱い人や職人肌の人。
  • A3:現状に満足していない人や熱い気持ちを持っているが発散できていない人。
  • Q:自分より下の世代をどのように巻き込んでいくか。
  • A1:とにかくやらせる。
  • A2:大学の外を意識させている。
  • A3:SDをやったからと言って火をつけられるわけではない。勇気の後押しができるような場である。
  • Q:職員だけでSDを行っていく中で、どのように教員を巻き込んでいくのか。
  • A1:大学本部付けなど、学部に所属していない教員と勉強会を行った。
  • A2:職員が学外の者などとネットワークを形成していれば、教員も巻き込みやすい。
  • Q:民間の感覚を忘れないことについて、どのようにすれば良いか。
  • A:異業種交流に参加している。社会人として学べることが乏しくなったと感じたため、ビジネススクールに行った。だいたいの人は北海道を良くしようという思いで入学しており、仲間ができた。
  • Q:能力開発に対するモチベーションをどのように仕掛けていくのか。
  • A:大学の外を意識させている。
  • Q:周りの人はついてきているのか。
  • A:日常は熱くないが、ここぞというときには熱く語ることを意識している。熱いことは悪いことではなく、上司に対しても場面によっては熱く語っている。