教員の教育研究時間の確保に思う 〜教職恊働と能力開発〜

 「科学技術の状況に係る総合的意識調査(NISTEP定点調査2013)」[NISTEP REPORT No.157, 158]の結果公表について | 科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

 科学技術・学術政策研究所のHPにて、「科学技術の状況に係る総合的意識調査(NISTEP定点調査2013)」の結果が公表されていました。大学等研究開発機関の教員・研究者の意識を、2011年から継続して調査しているものです。特に、大学職員にとっては、研究支援の状況や研究時間の確保について、教員がどのような意識を持っているのか気になるところです。

報告書 本文(P68)

3-2-1 研究環境の状況

 「研究活動を円滑に実施するための業務に従事する専門人材(リサーチ・アドミニストレーター、URA)の育成・確保(Q1-22)」については、2011 年度から指数の変化が見られた。NISTEP 定点調査 2011 と比べると、大学全体において指数が上昇傾向にある、なかでも大学グループ別の第 3 グループにおいては指数が0.5 以上上昇した。また、第 1 グループについても 0.3 近く指数が上昇している。大学部局分野別にみると理学において指数が 0.5 以上上昇している。 充分度を上げた理由としては、「研究大学強化促進事業による URA の採用」、「独自資金による URA の採用」、「科研費申請や特許申請への URA による支援」などの意見があった。充分度を下げた理由としては、「URA が配置されたが、部局単位でメリットが実感できていない」、「専門性や業務内容がはっきりしていない」という意見があった。  

〈参考統計〉  研究時間の状況 

 過去の NISTEP 定点調査の自由記述から、研究時間が減っている要因として、以下のような活動が増えていることが指摘されている。これらの活動の増加とともに、特に国立大学や公的研究機関においては、総人件費抑制の影響として、若手教員・研究者や研究支援者が減っているとの指摘も多数見られた。 

  • 大学運営にかかわる業務 
  • 競争的資金の獲得や評価にかかわる事務作業 
  • 薬品の安全管理、備品やソフトウェアの管理といったコンプライアンスにかかわる作業 
  • 研究施設や設備の保守・管理 
  • 入試問題作成や入試事務 
  • 学会や研究会の運営業務 
  • 学生の私生活への対応など 

自由記述質問

支援人材の確保と活用に関して

 リサーチ・アドミニストレーターが採用されたが、若手リサーチ・アドミニストレーターの方のキャリアデザインにも配 慮せざるを得ないために増々我々の研究時間が割かれるようになった側面も感じる。研究と関係のない事務作業 を手伝ってくれる「事務職員」や、装置・機器の保守・維持・管理をしてくれる「技術職員」の充実のほうがよほど助 かる。(大学, 第 3G, 保健(医・歯・薬学), 部・室・グループ長、教授クラス, 男性)

研究資金の確保や運用に関して

 会議や外部資金獲得のための時間が多すぎます。また、大学の評価が根付いてきましたが、これに応えるためのエフォートが非常に大きく、研究活動の時間を食っています。まさに本末転倒です。多様すぎる外部資金の枠組みを見直すこと、過剰な評価を見直すこと、それらが必要であると思います。(大学,  第 1G,  工学,  部・室・グループ長、教授クラス,  男性) 

大学・機関の運営システムに関して 

 個人の評価ならともかく、組織評価に対する書類作成の義務が多すぎる。にたような報告書をたくさん作らされるが、それぞれの観点の違いによって微妙に異なるデータを求められるために、同様な作業を多数強いられる。これを改善するために研究者プロフィールのようなデータベースがあるが、記入させられるだけで評価者が十分利用していないので、研究者個人が記入したデータベースをもとにそれぞれの目的に利用するようデータ抽出ができるシステムとして利用するべき。(大学,  第 2G,  保健(医・歯・薬学),  部・室・グループ長、教授クラス,  男性) 

3-2-2   研究施設・設備の整備等の状況

自由記述質問

維持管理やメンテナンス

 研究施設の整備や補修について、管理する職員が少なく、労力は大きいもののそういった業務を担当する研究教育職員に対して、評価する仕組が無い為、使われないまま場所を占領してしまう施設や設備が多く、創造性をさまたげる結果を生んでいると思う。(大学,  研究員、助教クラス,  男性) 

 エフォートや研究時間に関する意見がありますね。実際に研究時間が減少していることは、同研究所の調査により明らかになっています。

[Discussion Paper No.80] 減少する大学教員の研究時間 -「大学等におけるフルタイム換算データに関する調査」による 2002 年と 2008 年の比較-

 2002年の調査時、全大学学部での研究時間割合は47.5%と職務時間全体の約半分を占めていたが、2008年調査では36.1%と、11.4ポイント減少した。このような研究時間割合の減少は、教育時間、及び社会サービス時間割合の増加によるところが大きい。国立大学や論文数シェアが小さい大学群では研究時間の減少が著しくなっている。一方で、教育時間割合の増加は主に私立大学や論文数シェアが小さい大学群で起こっており、社会サービス時間割合の増加は主に公立大学や論文数シェアが中間層にある大学群で起こっている。

 このような事態に対し、教員の教育研究時間を確保するためにも、職員が教員の業務等を請け負うことが必要でしょう。大学職員から見た教職恊働の意義・目的とは、一義的には、教員の教育研究時間を確保することだと思っています。(本来は、教職恊働に限らず、職員は教員の教育研究時間を確保を考えて業務にあたるべきでしょうが。)そのためにも、教員の行っている業務の義務と権利を、いかにして職員に委譲してもらえるかを考えなければなりません。

 教職恊働と言うと、教員と職員が共に何かを作り上げるというイメージがあります。しかし、教員と職員が分業しつつも何か一つのものに対応するということも、教職恊働と言えます。教員の教育研究時間の確保ということを考えたとき、そこにある教職恊働とは主に後者ではないかと考えます。分業を前提としつつも、職員が行う範囲を広め、教員の業務負担を減らしていくようなイメージでしょうか。これは対話を否定するものではなく、分業だからこそ、その業務境界などについて対話を繰り返さなければなりませんね。

 もう少し具体的に考えてみます。

 大学の教職員が行う意志決定は、その総量を見れば、職員が行うものよりは最終的に教員が行うものの方が多いと感じています。ただ、意志決定に至るまでの準備や資料作成など、職員が携わる部分も多いでしょう。また、併せて、教員がその専門分野に関する運営上の意志決定を行っているケースはほとんどないのではないかとも思っています。(例えば、医学部の腫瘍学教員は、医学部全体のカリキュラムや入試など学部運営・大学運営等に対し決定を行いますが、腫瘍学だけに関連した意志決定は研究室の狭い範囲に限られるのではないでしょうか。)教員にとってみれば意志決定以前の段階のコストが過大になっているとも想像でき、職員が意志決定までのプロセスをいかに負担し円滑な意志決定に結びつけられるかということが、教員の教育研究時間の確保にも繋がると考えます。(意志決定自体を職員が担うと言うことも考えられますが、教育研究を主たる業務とする大学においては、それほど数多くないのではないかと思います。)

 これは、単に職員の作ったレールの上のみを教員がたどるということではありません。目的・課題設定から始まり、背景理解、現状把握、解決策まで、十分に合理的効果的なものを作成し、職員が教員にしっかりと説明できなければなりません。その上で、意見交換等を行い、最終的に教員が意志決定を行うということが、一つの教職協働のイメージです。だからこそ、職員の能力向上やIR活動が求められているのだろうと思います。

 さて、これまでの答申等から教職共同に関係ある部分のみ抽出したものが、下図になります。

f:id:samidaretaro:20140409204342p:plain

f:id:samidaretaro:20140409204359p:plain 平成7年答申では、「必要に応じて」「補佐する」など、後方支援的な意味合いが強いと感じます。その後、平成10年答申で「連携協力」という言葉が現れ、平成25年審議まとめでは「対等な立場」という表現まで出てきます。概ね、時が進むほど、職員の大学運営への積極的な参画ということが前面に出てきているという印象です。

特集 教職協働の理想像を探る:「教職協働」の課題は? Between 2008.夏号

 「教職協働」を実践する上での課題について自由記述で回答してもらったところ、内容的に同様の意見が多く見られたため整理してみた。その結果、上のグラフの7項目に分かれた。「その他」には、「トップのリーダーシップ」「伝統的な価値観の改善」などがある。回答者は教員よりも職員の方が多いためか、「職員の能力・専門性の向上」を課題とする意見が最多だった。「教職協働に対する意識改革」「教員・職員の相互理解」に関する意見もほぼ同数あった。

 そんな教職共同ですが、ベネッセ総合教育研究所の調査では、「職員の能力・専門性の向上」を課題としてあげた者が最も多いです。ここにある職員の能力開発のため、各大学ではStaffDevelopment(SD)が行われていることと思います。SDについて、弊BLOGでもたびたび取り上げてきました。(大学職員の職能開発に思う 〜あるいは「専門性」の胡散臭さ〜 - 大学職員の書き散らかしBLOG,学内SDに思う 〜SDの効果を高めるためには〜 - 大学職員の書き散らかしBLOG)

 ただ、SDの取組は多く行われているのにも関わらず、「職員の能力が向上した」という話はあまり聞きません。もちろん、個別に活躍されている方はたくさん知っていますが、大学業界全体としてはどうなのでしょうか。特に、各大学で行われている「組織的な」SDについて、本当にその大学の職員能力の底上げ、つまり「組織的な」能力向上に繋がっているのでしょうか。もちろん、やらないよりはやった方がよいでしょうし、中には良い効果を上げた人もいると思います。ただ、「組織的に」職員の能力向上を目的とするのであれば、現状の「組織的な」SDの取組は適切なのか考える必要がありそうです。

名古屋大学 高等教育研究センター

 国立大学におけるSDの現状や課題については、「大学職員の主体性を尊重した職務遂行能力の形成-国立大学を中心に-」(夏目,名古屋高等教育研究第13号,2013)に網羅されています。その中では、

  •  大学側が組織の要請・論理だけで職員の職務遂行能力の形成を行おうとするのは不適切であり、無理があること。 
  •  職員の側から見れば、自身の能力形成やキャリア形成には、大学組織から提供される研修の受講だけでは不十分である。キャリア形成につながるような能力開発の機会を自ら求め、創り出すことが必要になる。 
  •  大学職員の能力開発・向上には唯一絶対の方法なるものを見い出すのは難しい。大学や大学職員を取り巻く環境の変化を見極めつつ、よりよい方法を求めて、大学組織と大学職員の双方が連携しながら、継続的に工夫や調整を行うことが必要になっているといえよう。 

といったことが書かれています。

 私自身、職員の能力開発は「働き方の問題」だと思っています。能力が必要とされていない環境で、その能力が向上するわけがありません。特に国立大学では、法人化を経たとは言え、全ての部署で業務形態が大幅に変化したわけではありません。恐らく、「言われたことのみを行う」という働き方やそのような意識を持つ職員も、一定程度存在しているのではないでしょうか。そのような状況下では、「組織的に」職員の能力を向上させていくということは、なかなか難しいのではないかと思っています。能力開発に有効だと思う働き方としては、弊BLOGで提案したプロジェクト型業務が一例になるのではないでしょうか(プロジェクト型業務に思う ~トータル・アドミニストレーションという考え方~ - 大学職員の書き散らかしBLOG)。能力開発のみならず、教職協働も働き方の問題だという認識です。こちらも、旧態依然とした働き方ではなかなか実現が難しいところがあるかもしれません。

 ここまで、いろいろネガティブなこと書いてきました。ただ、職員の能力開発も進まない現状で教職協働が実現できないのかと言われれば、そうではありません。あくまで「組織的」にうまくいっていないのであって、「個人的」に行う分には余地は十分にあると思っています。全ての教職協働は、教員と職員との個人的な関係からスタートします。まず、教員から職員個人への信頼を得ることで、職員組織への信頼を得、ひいては業務の義務と権利の職員への委譲が進むと考えています。

 では、職員個人として教員個人の信頼を得るためには、どのような働き方をすれば良いのでしょうか、私は、以下の2点を意識しています。

1.どのようなことでも行うという意欲を見せること

2.依頼に対しては、相手の想像を上回る質と早さで回答すること

 特に、2.については、質と早さを両立させるという難しさがあります。だからこそ、日頃から情報収集や自分自身の考えを整理しておき、相手を圧倒するような知識量でなるべく早く対応するように心がけるようにしています。ここで言う圧倒的な知識とは、例えば会計系だとしたら、自大学の財政状況や契約手順等は言うまでもなく、他大学の状況、国立大学法人会計、学校法人会計などに留まらず、企業会計IFRSなど幅広い会計に関する知識を指します。それらがすぐに必要になることはないでしょうが、例え雑談の中であっても、知っているか知っていないかで教員の受け取り方は違ってくるのではないかと思います。関係HPや学会誌、論文集などで、日頃から情報収集をし、それが何を意味するかを考えることが大切です。(最初の頃はBLOG記事等の鵜呑みでも良いと思いますが。)

 さて、他者に対し誠実に対応するのはもちろんですが、全教員に対して等しく上記1.2.を行うのは数的に難しいかもしれません。そんなときは、特に大学を良くしたいという意欲のある教員にコミュニケーションを取ってみるのも良いかもしれません。コミュニケーションを取る際、私はいつも以下の2点を心がけています。

1.ランチを一緒にとる。

2.当該教員の専門分野に関する背景やホットトピックを調べておく。

 1.について、最近はオフィスアワーが一般化しており時間が合わないこともありますが、話をするときはランチの際に訪れることにしています(結果、休日の過ごし方など適当な話に終わることもありますが、それはそれでコミュニケーションが取れたということで。)。

 このような関係を築いておくと、教員から個別に業務の依頼等があることもあり、その中には通常業務を行っているだけでは関わることができない業務もあります。そうなれば、新たに能力を向上させるチャンスです。当該教員と打ち合わせを行い、自分でも勉強しながら、新しい業務にあたることができます。留意すべき点は、以下の2点でしょうか。

1.平常業務の質が低下しないようにする。

2.言えそうな空気ならば、上司に依頼を受けている旨を伝えておく。

 2.について、最初は個人として依頼を受けているということになるかもしれませんが、業務時間内に行うこともあり、一職階上の上司にも「○○先生からこういう依頼を受けているので、私の方で対応しておきます。」くらい伝えておいても良いと思います。むしろ、教員から依頼を受けた段階で一職階上の上司に話し、当人が主導する前提ではあるものの係などグループ単位で依頼を受けたということにしても良いかもしれません

 教員から依頼を受けながら、しっかりと成果を出していると、他の教員からも声が掛かることがあります。このように、少しずつ信頼関係の輪を広めていくことが大切かなと思っています。実際、私もあまり話をしたことのない教員から「○○先生から、君に相談したら良いと聞いたので、□□の件について話がしたい」と言われ、所掌業務に関係ないわけではないもののまったく触れたことのない内容の依頼を受けたことがあります。そのときも、大学図書館で本を借り勉強しながら、なんとか結果を出しました。その結果を基に目に見える改善が行われたのは、非常に嬉しかったですね。

 ここで書いたのは、理想的な一条件であり、現実にはなかなかうまくいかないこともあります。正直なところ、私もそれほど広く対応しているわけではなく、教育活動や大学運営を良くしたいと思っている教員十数人を主たるターゲットとして動いています。ただ、自分の所掌業務外の業務にこそ成長のきっかけがあるのではないかと思っており、あちこちに声をかけて仕事をもらっているところです。

 教職協働やIRなど、最終的には体制を整え学内でうまく作用させる仕組みを作らなければなりません。しかし、始点としては、個人の取組から始まる場合も多いのではないでしょうか。可能な範囲で自分自身が始点になることを心がけながら、他の職員も巻き込んでいけるように動いていき、うまく組織的な取組に繋げられたら良いな、と思っています。