薬学教育の最近の動向に思う 〜質保証の王道〜

 ディシプリンに応じた教育の質保証については弊BLOGでもたびたび取り上げてきました(分野別質保証に思う 〜新たな大学評価の在り方〜2023年問題に思う 〜医学教育の新たな地平〜)が、個人的には最近特に注目しているのは薬学教育の動向です。薬学教育が6年制になったことは比較的よく知らせていることだと思いますが、平成24年度以降さまざまな教育改善が検討されています。今回は薬学教育を巡る最近の動向について簡単にまとめてみます。

薬剤師養成のための薬学教育は6年制となりました:文部科学省

 平成18年度より学校教育法が改正され(平成16年5月21日公布)、大学の薬学教育制度及び薬剤師国家試験制度が変わりました。
1. 薬剤師養成のための薬学教育は6年制となりました。
 医療技術の高度化、医薬分業の進展等に伴い、高い資質を持つ薬剤師養成のための薬学教育は、学部の修業年限が4年から6年に延長されました。

 もともとの始まりは、平成18年度に行われた学校基本法の改正に伴う薬剤師教育課程の6年制化です。医療技術の高度化や医薬分業の進展等に伴う医薬品の安全使用や薬害の防止といった社会的要請に応え、専門教育や実務実習を充実させるために、学部段階の修業年限を4年から6年に延長することが中央教育審議会から答申され、それを基に平成16年に学校教育法が改正されました。同法改正により、薬剤師国家試験を受けることができるのは原則として6年制学部・学科の卒業者に限られることになりました。なお、これにより4年制の薬学部・学科が消滅したわけではなく、研究者養成などを主眼とした薬科学科などが継続して設置されています。

 その後、平成21年度には実務実習導入前に学修成果を確認する薬学共用試験が導入されました。これは、CBTとOSCEを併用するものであり、医学教育で導入されている共用試験と全く同じ形式であることがわかります。

 平成22年度には6年制教育の目玉でもあった長期実務実習制度が開始しました。4年制課程では1〜4週間程度だった実習期間が病院・薬局各11週間合わせて22週間の長期になり、参加型カリキュラムが組まれています。

 平成25年度からは一般社団法人薬学教育評価機構による第三者評価が開始し、分野別質保証の枠組みが構築されました。

 また、平成24年度に6年制課程1期生が輩出されたことに伴い、薬学教育モデル・コアカリキュラムの改訂や文部科学省医療人養成推進等委託業務による「6年制薬学教育で養成した薬剤師及び教育体制の評価に関する調査研究」など、教育課程の検証が行われています。

 このような一連の動きは、分野別質保証のお手本であると感じています。その根底にあるのは、6年制への移行という大きな改革であり、それを好機として行動してきた業界の力でしょう。特に、薬学教育は養成人材の出口が明確で業界団体もハッキリしており、だからこそ一体となった動きができてきたのだと思います。

 そんな薬学教育界隈ですが、最近のトピックとして、以下のようなことが議論されています。

「日本薬学教育学会」設立へ‐学問体系の確立を目指して : 薬事日報ウェブサイト

 日本私立薬科大学協会を中心に「日本薬学教育学会」設立に向けた準備が進んでいる。12月初旬の全国薬科大学長・学部長会議総会で議題に挙げ、同学会設立準備委員会(委員長:笹津備規東京薬科大学学長)の設立の了承を得る方針だ。これまで、新たな薬学教育体制の構築と成果に関する検証は、様々な学会等の学術集会・雑誌等で分散し公表されている。しかし、他の医療分野では日本医学教育学会を筆頭に歯科、看護等、各分野ごとに教育に関する研究・発展を目的とした学術活動が展開されている。「薬学教育」分野でも関係者が一堂に会する学会を設立し、サイエンスとしての「薬学教育学」の確立を目指す。

 薬学教育学会を設立し、専門分野として確立を目指すようです。確かに、医学教育学会看護学教育学会はありますが、薬学教育学会はこれまでなかったようですね。最近特に感じるのは、URAなども含め教員として何らかの分野に専従させる以上、その業務が業績になるような仕組み作りが必要だということです。その意味では、薬学教育について専門分野化するということは有効であると考えています。

卒業日を3月10日以前に‐薬剤師免許登録の早期化で‐新薬剤師養成問題懇談会 - ココヤク News -

 薬学教育6年制に伴う薬剤師養成のあり方などについて関係者が意見を交わす「新薬剤師養成問題懇談会」(新6者懇)は18日、薬剤師国家試験合格者の免許登録日を早めるため、大学側が卒業日を前倒しすることを確認した。卒業日が3月下旬の大学もある中、国公立大学薬学部長(科長・学長)会議が卒業日を3月10日より前に設定する方向で調整しており、日本私立薬科大学協会も足並みを揃える。

 薬剤師免許の取得を4月1日に間に合わせるために、大学の卒業日を3月上旬にする方針のようですね。本件はこの記事を読むまで全く知りませんでした。もっと言うと、恐らく教務系の方にとっては常識なのかもしれませんが、卒業日を各大学で(もしかしたら各学部学科で)決められるということも初めて知りました。教務系は明るくないので全く分かりませんが、各学部教授会で卒業判定等を行った後に学長が裁定を出した日を以て卒業日とするのでしょうか。変えるといってすぐに変えられるものだということが意外でした。(余談ですが、このように自分の知らない出来事がまだまだ大学の中にたくさんあることを認知するのはとても新鮮ですね。)

 これまでは、就職先への免許証提出は後日対応などとなっていたようですが、免許登録前の薬剤師が調剤業務に従事していた事案が明らかとなり、正式に対応するようです。ただ、国家試験事務側の問題も大きいようですので、的確に対応できるかどうかは2015年度の卒業生を待たないとわかりませんね。

 薬学教育はその主たる出口である薬剤師需要と密接に結びついており、医師需要や法曹需要を同様に薬剤師需要についても将来予測が進められています。厚生労働科研費:薬剤師需要動向の予測に関する研究では、

6年制薬剤師が輩出されて2年目の現時点では、地域偏在はあり得るものの、薬剤師の過不足が直ちに問題になるとは考えにくい。しかし、(略)10年単位では今後薬剤師が過剰になるとの予測について、否定できるものではない。

とされており、予断を許さない状況であることがわかります。

 ここまで書いておいてなんですが、私の勤務校には薬学部がなく、本件は直接には本務と全く関係ありません。ではなぜ薬学教育のことを注目し調べているのかと言えば、それはひとえに質保証の在り方を探るためです。前述のとおり、薬学教育の質保証の在り方は医学教育のそれと類似しており、看護学や獣医学における質保証の在り方とも類似性が確認できます。さらに、最近では法科大学院において共通到達度確認試験(仮称)の導入が検討されており、これはCBTやOSCEのように修学途中において学修成果を確認する仕組みと同意であると理解しています。これらを一例として、特に出口が明確である免許系学部において、修業年限の延長、コア・カリキュラムの導入、統一的な学修成果確認手法の導入、第三者評価の導入といった同様の流れで質保証の取組が進んできたと推測できます。また、これらの流れを先導しているのが、歴史的に見ても恐らく医学教育分野であると考えます。

 このように、免許系学部の質保証は養成人材の出口が明確で業界団体とも連携できるからこそ、全国統一して対応することが可能なのでしょう。一方で、このような免許系学部以外の分野別質保証に同様の枠組みを当てはめることができるのかという点は疑問があります。このような枠組みとは違ったアプローチが必要なのでしょう。ただ、医学薬学などの状況を見ると、質保証の「質」とは相手があってのことであり、出口のニーズが在るからこそ成り立つものでもあるのだなという思いを抱いています。