専門職大学院設置基準が改正されました。

専門職大学及び専門職短期大学の制度化等に係る学校教育法の一部を改正する法律等の公布について(通知):文部科学省

 専門職大学及び専門職短期大学の制度化等に係る学校教育法の一部を改正する法律等が公布されました。本件については、「中央教育審議会キャリア教育・職業教育特別部会」で審議されていた新たな学校種(新たな枠組み)がその後の議論により大学・短大の枠組みに含まれることになって以降私の興味が削がれましたので、「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する特別部会」での審議やパブコメ等あまり注視してきませんでした。しかし、公布された法律等を確認すると、既存の専門職大学院設置基準が改正されているではありませんか。これは全くノーマークでした。私の本務にも若干関連することであり、同時期に開催されていた専門職大学院ワーキンググループの審議内容をもっと確認しておくべきだったと反省しています。

 改めて、改正前後の専門職大学院設置基準を確認します。

改正後 改正前
(教育課程の編成方針)
第六条 専門職大学院は、その教育上の目的を達成するために専攻分野に応じ必要な授業科目を、産業界等と連携しつつ、自ら開設し、体系的に教育課程を編成するものとする。
(教育課程)
第六条 専門職大学院は、その教育上の目的を達成するために専攻分野に、応じ必要な授業科目を自ら開設し、体系的に教育課程を編成するものとする。
専門職大学院は、専攻に係る職業を取り巻く状況を踏まえて必要な授業科目を開発し、当該職業の動向に即した教育課程の編成を行うとともに、当該状況の変化に対応し、授業科目の内容、教育課程の構成等について、不断の見直しを行うものとする。 [項を加える。]
3 前項の規定による授業科目の開発、教育課程の編成及びそれらの見直しは、次条に規定する教育課程連携協議会の意見を勘案するとともに、適切な体制を整えて行うものとする。 [項を加える。]
(教育課程連携協議会)
第六条の二 専門職大学院は、産業界等との連携により、教育課程を編成し、及び円滑かつ効果的に実施するため、教育課程連携協議会を設けるものとする。
[条を加える。]
2 教育課程連携協議会は、次に掲げる者をもって構成する。ただし、専攻分野の特性その他の当該専門職大学院における教育の特性により適当でないと認められる場合は、第三号に掲げる者を置かないことができる。  
一 学長又は当該専門職大学院に置かれる研究科(学校教育法第百条ただし書に規定する組織を含む。)の長(第四号及び次項において「学長等」という。)が指名する教員その他の職員  
二 当該専門職大学院の課程に係る職業に就いている者又は当該職業に関連する事業を行う者による団体のうち、広範囲の地域で活動するも のの関係者であって、当該職業の実務に関し豊富な経験を有するもの  
地方公共団体の職員、地域の事業者による団体の関係者その他の地域の関係者  
四 当該専門職大学院を置く大学の教員その他の職員以外の者であって学長等が必要と認めるもの  
3 教育課程連携協議会は、次に掲げる事項について審議し、学長等に意見を述べるものとする。  
一 産業界等との連携による授業科目の開設その他の教育課程の編成に関する基本的な事項  
二 産業界等との連携による授業の実施その他の教育課程の実施に関する基本的な事項及びその実施状況の評価に関する事項  

 「教育課程の編成方針」に大幅な加筆があり、また、「教育課程連携協議会」の項が新設されています。文部科学省から発出された告示の通知における留意点は以下の通りです。

(2)留意事項

① 教育課程連携協議会の設置形態については,一の専門職大学院に一の教育課程連携協議会を設ける形のほか,分野や専攻等の別により複数の教育連携協議会を設ける形が考えられること。なお,既にいわゆるアドバイザリーボード等の組織を設けている専門職大学院においては,当該既存の組織を活用しつつ,設置基準に定める構成等の条件を整えることにより対応することとして差し支えないこと。また,設置基準上の教育課程連携協議会であることが学内規程等により明らかにされていれば,その名称は必ずしも「教育課程連携協議会」としなくとも差し支えないこと。

② 教育課程連携協議会の構成については,専門職大学院設置基準第6条の2第2項第1号から第3号まで(同項ただし書に規定する場合にあっては第6条の2第2項第1号及び第2号)の構成員をそれぞれ1名以上含むものとし,その構成員の過半数は,当該大学の教職員以外の者とすることを基本とすること。

専門職大学院設置基準第6条の2第2項第2号の「当該専門職大学院の課程に係る職業に就いている者又は当該職業に関連する事業を行う者による団体」は,主として職能団体や事業者団体を想定したものであるが,専攻分野の特性により,当該職業に就いている者又は当該職業に関連する事業を行う者による研究団体なども含み得ること。

専門職大学院設置基準第6条の2第2項第3号に掲げる者を置かないことができる「当該専門職大学院における教育の特性により適当でないと認められる場合」としては,当該専門職大学院が専ら国際的に通用する高度で専門的な知識・能力を涵養することを目的としている場合が想定されること。

⑤ 教育課程連携協議会は,産業界等との連携による教育課程の編成・実施に関する基本的な事項や,その実施状況の評価に関する事項を審議するものであり,教授会その他の審議機関との適切な役割分担により,教育研究機関としての自律性を確保しつつ,産業界等と連携した教育の推進に向け積極的な機能を果たすことが期待されるものであること。

 なお、専門職大学院設置基準の一部改正における留意事項は教育課程連携協議会についてのみ言及されていますが、その前段である教育課程の編成方針について専門職大学の欄にて以下の留意事項が明記されています。

(2)教育課程の編成方針について

専門職大学等の教育は,理論と実務を架橋した教育により,実践的かつ創造的・応用的な能力を育成・展開させるものであること。各専門職大学等においては,産業界等との密接な連携を図りつつ,そのための教育課程を開発・実施し,不断の見直しを行っていくことが求められること。専門職大学設置基準第10条第4項及び専門職短期大学設置基準第7条第4項に規定する「適切な体制」の整備としては,授業科目の開発等に関する担当組織を設けることや,教育内容・方法の開発等に経験・実績のある教員等を配置することなどが考えられること。 

 専門職大学設置基準第10条第4項は専門職大学院設置基準第6条第3項と同様の条文ですので、必ずしも専門職大学院でも同様の対応を取る必要はありませんが、留意事項は参考になると考えます。

 特に気になるのは、既存の専門職大学院にもこの改正後条文が適用されるため、どのように対応すれば良いかという点ですね。この点を、教職大学院法科大学院における専門分野別認証評価との関連を踏まえ、考えてみます。

 教職大学院認証評価基準においては、今回の改正に関連して、以下の基準等が存在します。

3-2-1:授業内容、授業方法・形態

(1)授業内容は、教育現場における課題を積極的に取り上げ、その課題について検討を行うようなものとなっているか。

3-3-1:学校等における実習

(略)

9-1-3:学外関係者(当該教職大学院の教職員以外の者。例えば、修了生、就職先等の関係者等)の意見や専門職域に係わる社会のニーズが教育の状況に関する点検評価に適切な形で反映されているか。

10-1-1:教育委員会及び学校等との連携を図る上で教職大学院について独自に協議する組織が、管理運営組織体制の中に明確に位置づけられ、整備されているか。

10-1-2:上記組織が、適切に運営されており、同組織で議論されたことが、実際に教育活動等の整備・充実・改善にいかされ、恒常的に機能しているか。

 教職大学院認証評価に係る評価基準においては、すでに学校現場における実習や関係者との協議組織の設置について点検されることとなっています。そのため、今回の改正における「教育課程連携協議会」に類する組織は多くの教職大学院において設置されているものと推測されます。ただし、今回の改正では、教育課程連携協議会の構成員が指定されるとともに、その構成員の過半数は当該大学の教職員以外の者とすることを基本とされています。まず、既存の組織がこの要件に合致するかを確認する必要がありますね。

 法科大学院の認証評価機関はいくつかありますが、大学改革支援・学位授与機構の評価基準を確認します。

2-1-6

(2)(1)に掲げる必修科目6単位のほか、次に例示する内容の授業科目その他の法曹としての技能及び責任等を修得させるために適切な内容を有する授業科目((1)に掲げる内容の授業科目を除く。)のうち、4単位相当が必修又は選択必修とされていること。

エ エクスターンシップ(法律事務所、企業法務部、官公庁法務部門等で行う研修)

解釈指針11-1-1-4

自己点検及び評価の結果について、法律実務に従事し、法科大学院の教育に関し広くかつ高い識見を有する者を含む、当該法科大学院を置く大学の教職員以外の者による検証を行い、その結果を当該法科大学院の教育活動等の改善に活用することが望ましい。

 私は法科大学院に関する状況についてあまり詳しくありませんが、学外者を含んだ組織により教育内容を点検等することは認証評価基準に明記されていないようです。法科大学院がこの規定に該当するならば、対応を迫られることになりそうですね。

 これらの改正は、学校教育法の改正に合わせ、平成31年4月1日から施行されます。残り一年半ほどで対応を検討しなければなりません。