文部科学省が策定したロジックなきロジックモデル
「第3期教育振興基本計画の策定に向けたこれまでの審議経過について」に関する意見募集の実施について:文部科学省
この度、「第3期教育振興基本計画の策定に向けたこれまでの審議経過について」に関する意見募集を実施しますので、お知らせします。
第3期教育振興基本計画の策定に関する意見募集のパブコメが出ています。教育振興基本計画は、教育基本法
第十七条 政府は、教育の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、教育の振興に関する施策についての基本的な方針及び講ずべき施策その他必要な事項について、基本的な計画を定め、これを国会に報告するとともに、公表しなければならない。
2 地方公共団体は、前項の計画を参酌し、その地域の実情に応じ、当該地方公共団体における教育の振興のための施策に関する基本的な計画を定めるよう努めなければならない。
に定められる計画であり、第1期(平成20〜24年度)、第2期(平成25〜29年度)に続き、現在、第3期(平成30〜34年度)の計画が策定中です。
公表された資料で一番仰天したのが、「今後5年間の教育政策の目標と主な施策群(ロジックモデル) 」です。いや、これロジックモデルじゃないでしょ!
ロジックモデルとは、
前述のとおり、セオリー評価とは、「施策の論理的な構造」を明らかにし、その質や内容を評価する手法であるが、この「施策の論理的な構造」のことをロジックモデルという。つまり、ロジックモデルとは、ある施策がその目的を達成するに至るまでの論理的な因果関係を明示したものである。
ロジックモデルを策定することは、事前又は事後的に施策の概念化や設計上の欠陥や問題点の発見、インパクト評価等の他のプログラム評価を実施する際の準備、施策を論理的に立案する等のうえで意義のあることである。
であり、目的達成までのプロセスを示したものです。大雑把に言うと、目的達成までの道筋を
- 資源・インプット
- 活動
- アウトプット
- アウトカム
- インパクト
に整理し、それぞれを論理的に結合したモデルを作成することで、目標達成までの道のりや各段階での指標の役割を明確に示すものです。一口にロジックモデルと言っても様々なタイプがあり、例えば、ケロッグ財団が作成したロジックモデル策定ガイド(邦訳:農林水産政策情報センター)では、以下のようなモデルが一例として示されています。
ここからわかるように、各要素をつなぎ、
プログラムの構成要素を連携する推論のチェーン,すなわち「もし…ならば,どうなる。」(if-then)という表現の形式に従って進むこと
(ロジックモデル策定ガイドP10)
により、目的に近づく方法やどの程度近づいていくのかを知ることができるようになります。また、各要素において数的指標を設定し計測することで、例え目的の到達程度の直接測定することが困難であっても、ロジックモデルの各要素の数的指標の結果を積み上げることで、目的に近づいていることを証明することができます。すごーく単純に言えば、「風が吹けば桶屋が儲かる」のように順々に話が繋がっていくようなものです。
文部科学省では、科学技術・学術政策局が主導する研究開発評価活動において、ロジックモデルが使用されてきました。私も、評価業務や研究開発評価業務に携わることで、ロジックモデルや数的指標のあり方について訓練を重ね、政策や施策、プログラム、計画の策定・評価を学んできました。
<ロジックモデルに関するウェブ上の情報>
- ロジックモデル策定ガイド
- ロジック・モデルについての論点の整理(PRI Discussion Paper Series (No.16A-08))
- 内閣府委託「社会的インパクト評価の普及促進に係る調査」社会的インパクト評価実践研修ロジック・モデル作成の手引き
- 政策評価・行政評価のためのロジックモデル・ワークブック
- ロジックモデル作成ガイド
- ロジックモデルの作成ワークショップ
翻って、文部科学省が公表している「今後5年間の教育政策の目標と主な施策群(ロジックモデル) 」を確認すると、一応線らしきもので要素が繋がってるものの、ただ関連する取り組み(具体的な取り組み・行動ではなくただの方針のようなもの)をまとめているものであり、論理的関係が全くわかりません。例えば、「教員・学生の流動性向上」が上位概念である「問題発見・解決能力の修得」に繋がっていますが、「教員・学生の流動性向上」として具体的にどのような資源を投入しどのような行動・施策を行うのか、それによりどのような結果が生じ、その結果を受け取った学生にどのような変化が生じたことにより、「問題発見・解決能力の修得」が達成できるのか、この図のみでは不明です。まさにロジックなきロジックモデルとなっています。
単に取り組みを並べたものならば、従来のポンチ絵と何も変わりません。資源・インプット、活動、アウトプット、アウトカム、インパクトが整理されておらず、数的指標のようなものがあろうとその数的指標間の関係性がわからず、例えデータを集めようとも目的の達成に近づいているか明瞭に判断し難い状態になることが想像できます。つまり、
また、基本的な方針ごとに、今後5年間の教育政策の目標や、それを実現するために必要な施策群について、整理を行った。この際、今後の教育政策の推進に当たっては、客観的な根拠(エビデンス)を一層重視することが求められていることから、現行計画の進捗状況の分析を踏まえつつ、ロジックモデルの活用による目標と指標、施策群の関係の明確化を実施した。
(第3期教育振興基本計画の策定に向けたこれまでの審議経過について )
が十分に達せられているとは考えられません。
教育の効果測定や成果検証は、確かに非常に難しいことではあります。ただ、日本の教育界において非常に重要な役割を果たす文部科学省、またその筆頭局筆頭課である生涯学習政策局政策課だからこそ、教育のロジックやその効果・成果に対し思慮深く対応してほしいと思っています。