教職課程の共同運営はうまく機能するのか〜単位互換授業の運用を踏まえて

教員養成課程を共同運営 金沢・福井・富山大が検討 :日本経済新聞

少子化で教員需要の減少が予想されていることを踏まえ、金沢大と福井大、富山大が小中学校や高校などの教員養成課程を共同運営できないか検討していることが2日、各大学への取材で分かった。近隣大学間で連携し、運営を効率化するのが狙いだが、慎重論もあり方策は具体化していない。

 教職課程の共同運営に関する記事が出ていました。現時点では具体的なところまでは決定していないようですが、検討を進めているようです(逆に、なぜこのタイミングで記事が出たのかは気になります)。

 本件については、教育職員免許法施行規則に該当する規定があります。

教育職員免許法施行規則(抄)

第22条 3 認定課程を有する大学は、教育上有益と認めるときは、大学設置基準第二十八条第一項(大学院設置基準第十五条において準用する場合を含む。)、専門職大学設置基準第二十四条第一項、短期大学設置基準第十四条第一項又は専門職短期大学設置基準第二十一条第一項の規定により大学が定める他の大学の授業科目として開設される各教科の指導法に関する科目、教育の基礎的理解に関する科目等及び特別支援教育に関する科目を前二項の規定により開設する授業科目とみなすことができる。この場合において、当該みなすことができる授業科目の単位数は、第二条第一項、第三条第一項、第四条第一項、第五条第一項、第七条第一項、第九条及び第十条の表に規定する当該科目の単位数のそれぞれ三割を超えないものとする。

4 認定課程であり、かつ、共同教育課程である教育課程を編成する大学(以下この項において「構成大学」という。)は、当該構成大学のうちの一の大学が開設する当該共同教育課程に係る授業科目を、当該構成大学のうちの他の大学が第一項の規定により開設する授業科目とそれぞれみなすものとする。

 方法としては、施行規則第22条第3項に該当する単位互換により行うか、第22条第4項に該当する共同教育課程を構築するか、どちらかでしょう。共同教育課程とは、大学設置基準第43条に定める課程のことです。

大学設置基準(抄)

(共同教育課程の編成)

第43条 二以上の大学は、その大学、学部及び学科の教育上の目的を達成するために必要があると認められる場合には、第十九条第一項の規定にかかわらず、当該二以上の大学のうち一の大学が開設する授業科目を、当該二以上の大学のうち他の大学の教育課程の一部とみなして、それぞれの大学ごとに同一内容の教育課程(通信教育に係るもの及び大学が外国に設ける学部、学科その他の組織において開設される授業科目の履修により修得する単位を当該学科に係る卒業の要件として修得すべき単位の全部又は一部として修得するものを除く。以下「共同教育課程」という。)を編成することができる。ただし、共同教育課程を編成する大学(以下「構成大学」という。)は、それぞれ当該共同教育課程に係る主要授業科目の一部を必修科目として自ら開設するものとする。

大学における教育課程の共同実施制度について:文部科学省

 共同教育課程の構築には設置審査が必要となりますので、非常に手間がかかります。おそらく、単位互換授業を開講することにより対応するのだろうと思われます。実習系以外の授業科目の一部を単位互換科目として解放し、他大学の学生も受講できるようにするのでしょう。ただ、私も単位互換授業の運用を経験したことがありますが、学習成果が上がる仕組みを担保した上で実現することはなかなか難しいのではないかと思っています。

 単位互換授業には、大きく分けて以下の4つの運用方法があると考えます。当然、これらを組み合わせた形での開講も考えられます。

  1. 学生が授業開講大学へ移動し授業を受講する
  2. 教員が他大学へ移動し授業を行う
  3. 遠隔同時配信により他大学へ授業を配信し学生が同時受講する(遠隔配信方式)
  4. 授業を録画等しインターネットにより配信する(e-Learning方式)

 金沢大学福井大学富山大学間の距離はそれぞれ以下表の通りであり、1及び2は現実的ではないと考えます。

大学間 距離(車での最短の道のり) 東大本郷からほぼ等距離の大学
金沢大学-福井大学 85.5km 小田原短期大学
金沢大学-富山大 62.2km 慶應大学SFC
福井大学-富山大学 138km 群馬大学

 となれば3及び4の方法となりますが、単純に授業を配信あるいは録画するだけでは、学生のモチベーションや学習成果も上がりにくいのではないかと思われます。中澤(2012)*1では、受講者へのアンケート調査により遠隔講義が進むにつれ集中力の減退が見られ、遠隔講義においては学習の持続性が維持される仕組みが必要であるとしています。

 例えば、授業中に学生同士で討論を行う授業方法をe-Learningでそのまま導入することはできません。配信を行うこと前提に、授業方法を検討し直すとともに、e-Learning環境等インフラを整備することも必要です。あるいは、普段はe-Learningで受講しつつ複数回のスクーリングを行うBlended-Learningとすることもありえますね。何にせよ、いままで通りのやり方を以って他大学の学生を受講させるというだけではうまく機能しないことが考えられます。

 学生の多様な学びを保障すると言えば聞こえは良いのですが、一部の通信制大学等を除き、現時点では単位互換制度はオプションサービスとして運用されていることが多いのではないかと思っています。細川ら(2015)*2では、学生に対しカリキュラムや単位互換制度に対するアンケート調査を実施し、カリキュラムの自由度が高い大学の学生ほど交通便が良い場所で自大学にはない内容の単位互換授業を受講したいという結果となりました。まず自大学のカリキュラムがあり、その上で、余裕があり受講しやすく内容に興味があれば単位互換授業を受講するというイメージが想起されます。

 最近では大学の共同経営などの話も頻発していますが、経営問題の解消が第一目的であり、よっぽど隣接している大学間などでない限り、学生へのメリットはあまりないのではないかと思っています。特に移動時間や手段などに起因するコスト問題は学生に対する過剰な負担になりかねません。国立大学でこのような話が発生するのは様々な事情を考慮した結果であることは想像に難くありませんが、特に地方国立大学間の距離は都道府県をまたぐほど大きなものであり、学生への負担や説明をしっかりと考えていかなければと感じました。

*1:地方大学における遠隔講義の実践とその可能性について,会津大学短期大学部研究紀要(69), 133-152, 2012)ただし、本稿では高校生を受講者とした講義等を対象としている点に留意が必要。

*2:単位互換制度にみる学生の学習に対する意識,秋田大学教養基礎教育研究年報(17),99 -106,2015