相場観をもった職業人になろう。

※今回のエントリーは株式投資とはまったく関係ありません。

スーパーグローバル大「外国人教員等」 実態は経験浅い日本人 苅谷剛彦・オックスフォード大教授 :日本経済新聞

文部科学省のスーパーグローバル大学支援について苅谷剛彦オックスフォード大学教授は、国際化を担う「外国人教員等」の多数は外国での教育研究歴が1〜3年の日本人教員で、高度な授業を外国語でこなすのは心もとないと指摘する。

 9月28日の日本経済新聞朝刊に、オックスフォード大学苅谷教授の記事が出ていました。SGU創生事業における教育環境の不備について指摘された内容でありそのとおりだなという印象を受けましたが、読み進めていくうちに「おっ」と思う箇所がありました。

外国語での授業を増やすために調書で示されるのが、それを担う「外国人教員等」の増員計画である。各調書には、「教員に占める外国人及び外国の大学で学位を取得した専任教員等の割合」が「外国人教員等」と略記され表示されている。その現状を見ると、トップ型で平均26%、牽引型では45%となっている。この数値をみた瞬間、おかしいと思った。文科省の「学校教員統計調査」で確認すると、全国の大学の専任教員のうち外国人は3.8%、日本人も外国人も含め外国で学位を取った専任教員は4.6%にすぎない。これに比べ、いくらSG大学に選ばれた大学でも先の数字は大きすぎる。

 SGUが目指す外国人教員等に比率について、現状とは乖離しすぎているという指摘ですね。注目したいのが「この数値をみた瞬間、おかしいと思った」という部分です。これは、日本の外国人教員比率を感覚的に把握されている、つまり相場観があったために直感的におかしいと感じられたのだろうと思います(今回の場合は現実との相違がありすぎたということもありますが。。。)。このような相場観はとても大切なものであり、職業人であるならば自分の組織や業界、社会に関する相場観はもっておいた方が良いと考えています。

 入学者数、志願倍率、偏差値、GPA、論文数、教職員数など、大学職員である私たちの周りには教育研究活動や大学運営の活力を表す数値があふれています。これら数値は、教育研究情報の公表や大学評価活動、IRによる質保証、業務改善活動などにおいてうまく利用し、大学の質向上につなげていかなければなりません。正確な数値は大学概要等広報媒体や各種データベースに掲載されていますので、きちんとしたプレゼン資料など状況によってはそれらを参照すればいいわけです。しかし、例えば突然意見を求められたり企画構想を練る段階では、必ずしも常に正確な数値が参照できる環境にいるとは限りません。また、日頃の活動におけるちょっとした変化や改善の兆し、あるいは状況悪化の傾向をピックアップするためには、基準となるべき通常の値を意識しておく必要があります。この基準となるべき通常の値、つまり「この条件におけるこの値ならば、だいたいこの範囲にある」といった認識こそが相場観だと考えています。

 例えば、東京大学の学部学生数は13,960人であるため「だいたい14,000人」、外国人留学生数は3,062人であるため「だいたい3,000人」、収入・支出予算は244,591百万円であるため「だいたい2500億円」そのうち「だいたい30%が運営費交付金収入、25%が産学連携・寄附金収入、20%が附属病院収入」と相場観を持つことができます。上二桁の数値(もしくは上一桁の前半か後半か)と桁数というイメージでしょうか。あるいは、予算構造など割合があまり変化しないものは、おおまかな総量と構成比で記憶しています。このような相場観をもっていると、微細な変化や違和感を感じる閾値が下がるとともに、他者に対する説明に付随する説得力も増加すると感じています。「あいつはわかっている」と他教職員から信頼を得やすくなるということですね。私の場合は、数値だけではなく、自分の業務手法や本学の取組が全国的に見て一般的なものなのかといった「活動の相場観」もなるべく把握しようと努めているところです。

 では、このような相場観はどのように身に付けられるのでしょうか。単純に数値を記憶するというよりは、継続して情報を目に入れていく中で身に付けていくものなのかなと思っています。また、国の状況であれば審議会資料、自大学の状況であればfactbookなどにあるグラフを見るということも視覚的に相場観を把握する良い手段ですね。特に中央教育審議会で会議資料として公表されている各種データは、国内や他大学の状況を把握することにとても役立ちます。もちろん日常業務の中で研かれる感性が一番大切なのですが、感性を磨くためには注意深く自分自身あるいは他者の活動を意識しなければならないでしょう。

 このような相場観を発展させると、大学と社会との関係性、つまりマーケティングに近くなってくるかなと思っています。私自身未踏の分野ですのでモノは言えませんが、少子化進行に伴う志願者確保の激化なども考えると、相場観という概念はますます大切になってくるのかもしれません。まずは、学生数がどれくらいなのか、予算構造はどうなのか、特徴的な教育研究活動はどのようなものなのかなど、自大学の活動の「だいたい」を気にしてみてはどうでしょうか。