なぜ文科省は不思議な題目をつけるのか。

www.mext.go.jp

 文科省から謎の戦略(?)が公表されました。これを公表する根拠は何か、一体どこで検討されたのか、この戦略と中教審や科学技術・学術審議会の審議との関係は何か、なぜここに記載された事項が特出しされているのかなど、謎だらけです(内容の多くは既存の政策をまとめただけですが。。。)。加えて、「柴山イニシアチブ」という題目もなんとも言えません。

 振り返ってみると、文科省はこのように時の大臣の名前が付いた題目がいくつかありますね。

 どうせ一年程度で交代するのに、時の大臣の名前を付けると後々使いにくくなると思うのですが、なぜこのような題目を付けるのでしょうか。長期に渡って取り組む気がないのでしょうか。

単位互換事業の難しさと効果的な利用方法について

 最近何件か、遠方の大学の方とコンソーシアムにおける単位互換事業の運用について話をする機会がありました。近年の高等教育政策においても大学間連携の重要性が大きくなっており、その具体的な事業の一つとしても単位互換事業を実施は例に挙げられています。各大学間や大学コンソーシアムなどにおいてもすでに単位互換の取り組みは発達しているわけですが、改めて、単位互換事業の難しさと効果的な利用方法について、考えてみます。

単位互換とは何か

単位互換の関連法令

大学設置基準 抄

(他の大学又は短期大学における授業科目の履修等)

第二十八条 大学は、教育上有益と認めるときは、学生が大学の定めるところにより他の大学又は短期大学において履修した授業科目について修得した単位を、六十単位を超えない範囲で当該大学における授業科目の履修により修得したものとみなすことができる。

(大学以外の教育施設等における学修)

第二十九条 大学は、教育上有益と認めるときは、学生が行う短期大学又は高等専門学校の専攻科における学修その他文部科学大臣が別に定める学修を、当該大学における授業科目の履修とみなし、大学の定めるところにより単位を与えることができる。

2 前項により与えることができる単位数は、前条第一項及び第二項により当該大学において修得したものとみなす単位数と合わせて六十単位を超えないものとする。

(入学前の既修得単位等の認定)

第三十条 大学は、教育上有益と認めるときは、学生が当該大学に入学する前に大学又は短期大学において履修した授業科目について修得した単位(第三十一条第一項の規定により修得した単位を含む。)を、当該大学に入学した後の当該大学における授業科目の履修により修得したものとみなすことができる。

2 大学は、教育上有益と認めるときは、学生が当該大学に入学する前に行つた前条第一項に規定する学修を、当該大学における授業科目の履修とみなし、大学の定めるところにより単位を与えることができる。

3 前二項により修得したものとみなし、又は与えることのできる単位数は、編入学、転学等の場合を除き、当該大学において修得した単位以外のものについては、第二十八条第一項(同条第二項において準用する場合を含む。)及び前条第一項により当該大学において修得したものとみなす単位数と合わせて六十単位を超えないものとする。

 単位互換とは、自大学以外の教育により習得した学修を自大学の単位として見做すことができる制度のことです。大学設置基準第28条から30条を根拠としています。 なお、本稿では、大学設置基準第30条にある入学前の学修における単位互換について、言及しません。

単位互換制度の経緯

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 制度・教育改革ワーキンググループ(第16回) 配付資料には、単位互換制度の経緯が整理されています。上限単位数等徐々に拡大されてきました。

単位互換の実態

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 制度・教育改革ワーキンググループ(第16回) 配付資料には、単位互換制度の実態が整理されています。大きく分けると、

  1. 大学等の間の単位互換
  2. 大学等と放送大学との間の単位互換
  3. コンソーシアムや大学間連合など3以上の大学等の間の単位互換

でしょうか。本稿では、特に3.について、考えます。

単位互換事業の難しさ

加盟機関が増えれば調整の手間が急増する

 単位互換の協定に参画する機関が増えれば増えるほど、各大学間の調整は加速度的に増えていきます。ちょうど、点が増えるごとに、各点を結ぶ線分が指数関数的に増加するイメージです。(下記の線分の数を示す数式では、yが調整経路の数、nが加盟機関数と考えることができます。)

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y = n + \displaystyle \frac{n(n-3)}{2}(n\geqq2)

 事務局を設け、各大学間ではなく事務局を経由した調整を必須化する事も考えられます。その場合も、事務局に掛かる負担は一定程度以上でしょう。単位互換に申し込む学生数規模にもよりますが、もし多数の学生が単位互換を利用するのであれば、調整の手間は無視できるものではありません。 

履修登録期間や成績確定日をどのように調整するか

 単位互換を利用する学生は、科目開設大学において学籍を発生させるため、科目開設大学への履修申込が必要です。また、科目開設大学で成績が確定した後、所属大学内の然るべき会議体にて、単位の読み替えを確定させなければなりません。そのため、履修登録期間や成績確定日(科目開設大学から学生所属大学への成績通知日)は非常に大切です。

 大学コンソーシアム等における単位互換事業の履修登録期間は、以下の3つに大別できると考えます。

  1. 各科目開設期間の履修登録期間中に履修申し込みを行う(各機関で履修登録期間はバラバラ)。
  2. 加盟機関で履修登録期間を統一し、学内の履修登録期間もそれに準拠する。
  3. 単位互換用に履修登録期間を別途設定する。

 それぞれにデメリットがありますね。1.は学生にとってわかりにくく、2.は学内調整が非常に大変です。3.は、おそらく単位互換用の履修登録期間が各機関の履修登録期間よりも短くなることが予想されます。

 ポイントは加盟機関の属性と予想され得る申し込み学生規模でしょう。特に、大学のみではなく短期大学や高等専門学校、あるいは医療等資格系の学校が加盟している場合には、学年暦が各機関全く異なることが予想されます。申し込み方法や広報手段を統一し、履修登録機関は無理に統一しないというのが無難なところなのかもしれません。

e-Learningを行うだけでは教育効果が上がらない

 特に機関間の距離が離れている場合は、対面授業ではなく、同時配信による遠隔やe-Learningによる授業も考えられます。単位互換における授業の形態を大別すると、概ね以下のような感じでしょうか。

  1. 対面受講
  2. 同時配信による遠隔受講
  3. e-Learning
    1. 科目開設機関の学生は対面で受講し、その様子を録画して単位互換学生用に配信
    2. 科目開設機関、単位互換ともにネットで受講
  4. 対面とe-Learningを組み合わせたBlended Learning

 個人的には、最もリスクが高いのは2.の同時配信だと考えます。インフラの整備とともに、受講側でも人員の配置等が必要です。ネットワーク環境により意図せずに切断される(接続できなくなる)事もあり得ます。また、3.1.についても、対面受講の学生とe-Learningの学生への対応に差が出てくる事も懸念したい点ですね。教育効果を考えると、単純に遠方から受講できるようにするだけではなく、インストラクショナル・デザインをしっかり検討しなければならないと感じます。

 なお、文部科学省告示第114号では、大学設置基準第25条第2項(※大学は、文部科学大臣が別に定めるところにより、前項の授業を、多様なメディアを高度に利用して、当該授業を行う教室等以外の場所で履修させることができる。)の規定に基づき、大学が履修させることができる授業等について定める件として、以下の通り規定されています。

通信衛星光ファイバ等を用いることにより、多様なメディアを高度に利用して、文字、音声、静止画、動画等の多様な情報を一体的に扱うもので、次に掲げるいずれかの要件を満たし、大学において、大学設置基準第二十五条第一項に規定する面接授業に相当する教育効果を有すると認めたものであること。

一 同時かつ双方向に行われるものであって、かつ、授業を行う教室等以外の教室、研究室又はこれらに準ずる場所(大学設置基準第三十一条第一項の規定により単位を授与する場合においては、企業の会議室等の職場又は住居に近い場所を含む。以下次号において「教室等以外の場所」という。)において履修させるもの

二 毎回の授業の実施に当たって、指導補助者が教室等以外の場所において学生等に対面することにより、又は当該授業を行う教員若しくは指導補助者が当該授業の終了後すみやかにインターネットその他の適切な方法を利用することにより、設問解答、添削指導、質疑応答等による十分な指導を併せ行うものであって、かつ、当該授業に関する学生等の意見の交換の機会が確保されているもの

 最低限、この告示に書かれたことは遵守しなければなりません。 

単位互換事業の効果的な利用方法

共同授業の開発

 大学コンソーシアムでよくあるのが、加盟機関が連携してご当地に関する共同授業を開発し、複数の機関の学生が履修することです。例えば、大学コンソーシアム鹿児島では、「授業交流コーディネート科目」として、加盟機関の教員が共同で授業を形成しています。この場合、大学コンソーシアムが授業を開講することはできないため、加盟機関のいずれかを授業開設機関として指定する必要があります。

単科大学における組織的な履修指導

 単科大学が近隣の総合大学の授業を単位互換事業により履修することで、単科大学のみで困難な多様な授業(特に教養科目)を学ぶことができます。大切なことは、それを組織的に行うことです。ガイダンスや履修の手引きでの言及や、場合によっては卒業必要単位数に含めることができるなどの対応を行うことで、より意味のある形で単位互換事業を学生が利用することができるようになるでしょう。

履修登録に失敗した学生の救済手段

 履修登録期間が加盟機関で異なっている場合、条件が合致する(卒業要件として認めれるのか、履修登録が間に合うのか、など)のであれば履修登録に失敗した学生に対して、単位互換を利用して他機関の授業を履修・単位修得するという選択肢を示すことができます。この場合も、学生所属機関にて履修指導を行う職員が単位互換事業について理解し、説明できることが必要です。

東洋大学の事例から学生の懲戒退学を考える。

news.careerconnection.jp

東洋大学の学生が、同大の竹中平蔵教授を批判する立看板を設置してビラを撒き、大学から指導されていたことが1月22日までにわかった。学生は自身のFacebookで、大学職員から退学勧告されたと告発。物議を醸している。

学生の学内での無許可の立看板設置並びにビラ配布に関する本学の対応について | Toyo University

この度の本学内での無許可の立看板設置については、下記<<参考>>のように、学生に配付し周知している『学生生活ハンドブック』に禁止行為として記されており、立看板の撤去とビラ配布を止めるよう当該学生に対し指導いたしました。

その際、事実確認と禁止行為に関する説明を行いましたが、一部ネット等で散見されるような当該学生に対する退学処分の事実はありません。本件に関して、所属学部では退学としないことを確認しております。

 東洋大学にて立て看板の設置及びビラの配布を行った学生が退学を勧告されたと話題になっていました。東洋大学側はホームページにて、指導は行ったが退学は行わないことを公表しています。

 学務や教務関係職員ならば、手続き上、その場での(正式な)退学勧告がありえないことは自明であり、どこかおかしいなと思ったことでしょう。今回は、学生の退学に関する手続きについて、考えてみます。

退学とは

大学の教務Q&A (高等教育シリーズ)

退学:学校に在学中の者が、その学校の全課程を修了して卒業する以前に中途で学校から退き、その学校の学生としての身分を失うこと。(P148)

 大学の教務Q&Aでは、退学について、上記の定義が記載されています。また、学校教育法施行規則第4条により、退学について各大学等の学則に明記することとなっています。

 特に、今回のケースに関連する懲戒処分による退学については、学校教育法第11条及び学校教育法施行規則第26条により規定されています。

学校教育法 抄

第十一条 校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。

学校教育法施行規則 抄

第二十六条 校長及び教員が児童等に懲戒を加えるに当つては、児童等の心身の発達に応ずる等教育上必要な配慮をしなければならない。

2 懲戒のうち、退学、停学及び訓告の処分は、校長(大学にあつては、学長の委任を受けた学部長を含む。)が行う。

3 前項の退学は、公立の小学校、中学校(学校教育法第七十一条の規定により高等学校における教育と一貫した教育を施すもの(以下「併設型中学校」という。)を除く。)、義務教育学校又は特別支援学校に在学する学齢児童又は学齢生徒を除き、次の各号のいずれかに該当する児童等に対して行うことができる。

一 性行不良で改善の見込がないと認められる者

二 学力劣等で成業の見込がないと認められる者

三 正当の理由がなくて出席常でない者

四 学校の秩序を乱し、その他学生又は生徒としての本分に反した者

4 第二項の停学は、学齢児童又は学齢生徒に対しては、行うことができない。

5 学長は、学生に対する第二項の退学、停学及び訓告の処分の手続を定めなければならない。

 これらを踏まえ、大学の教務Q&Aでは、退学の以下の通り分類しています。なお、ここで言う除籍には、在学期間超過や授業料未納、死亡等があげられるとされています。

  • 本人の意思による退学:自主退学
  • 本人の意識に関わらない強制的な退学
    • 懲戒処分としての退学:懲戒退学
    • 懲戒処分ではない退学:除籍
(P39)

 以降は、今回のケースに関連する懲戒退学について、手順等を確認します。 

大学における学生懲戒の手順とは

 各大学では、様々な手続きが規定され、それを根拠として日々の業務が運営されています。当然、退学の手順も規定されているはずです。懲戒処分に伴う退学について、規定を確認しようと思ったのですが、東洋大学の規定が見つけられませんでした(おそらく、公表されていません)。そのため、名前が似ている公表されている東京大学の規定を確認します。

東京大学学部通則

(懲戒)

第25条 学生が法令若しくは本学の規則に違反し、又は学生としての本分に反する行為があったときは、学部長は、総長の命により、これを懲戒する。

2 前項の懲戒の方針については、教育研究評議会の議を経なければならない。

3 第1項の懲戒については、教育研究評議会に置かれる学生懲戒委員会の議を経なければならない。

4 懲戒は、退学又は停学の処分とする。

 ポイントは、以下の2点です。

  1. 東京大学では懲戒処分は学長の命を受けて学部長が行うこと
  2. 懲戒は学生懲戒委員会の議を経なければならないこと

 1.について、学校教育法施行規則第26条第2項に基づき、学部長に処分権が委ねられているものと思われます。ただし、あくまでも学長の命に基づくものであり、懲戒の決定は学長が行うものと整理されているのでしょう。

学校教育法施行規則

2 懲戒のうち、退学、停学及び訓告の処分は、校長(大学にあつては、学長の委任を受けた学部長を含む。)が行う。

 2.について、東京大学学生懲戒処分規程では、以下の通り明記されています。

(懲戒処分に関する部局の意見)

第6条 部局長は、懲戒処分の対象となりうる行為が当該部局の学生によって行われたことを知り得たときは、遅滞なく事実確認および当該学生に対する事情聴取を行い、懲戒処分が相当と判断した場合には、懲戒処分に関する意見を作成し、速やかに総長および当該学生にこれを通知する。部局による事情聴取にあたっては第11条第2項および第3項の手続にならって行うものとする。

2 懲戒処分に関する意見には、懲戒処分の根拠となる事実の認定、懲戒処分の相当性に関する判断および懲戒処分の量定に関する判断が含まれる。

(学生懲戒委員会)

第7条 教育研究評議会の下に学生懲戒委員会を置く。

2 学生懲戒委員会は、副学長1名、評議員、研究科に置かれる副研究科長および研究科以外の大学院組織に置かれる副部長(以下「評議員等」という。)のうちから5名ならびに教員15名(本学の教授または准教授であることを要する。)の計21名の委員によって構成される。

3 総長は、委員長をつとめる副学長を任命する。

4 教育研究評議会は、副学長以外の学生懲戒委員会委員を選任する。

5 総長は、前条に定めるところにより懲戒処分に関する意見が通知されたときは学生懲戒委員会に、懲戒処分の要否および懲戒処分を要する場合のその内容についての審査を付議する。

6 学生懲戒委員会は、前項に定めるところにより審査を付議されたときは学生懲戒委員会の中に担当班を設置する。個々の事案の懲戒処分手続は、学生懲戒委員会の担当班がこれを行う。

7 学生懲戒委員会の担当班は、学生懲戒委員会委員長である副学長、評議員等1名および教員3名の計5名によって構成される。担当班の班長は当該副学長が、副班長は当該評議員等がつとめる。

8 学生懲戒委員会は、担当班を組織するにあたり、懲戒手続の公平性の確保に努める。

 いくつかの国立大学の規程を確認したのですが、学生の懲戒は何かしらの会議体の審議を経ることになっていました。また、東京大学は公表していませんが、懲戒の基準を明確にしている大学もありました(例:金沢大学学生懲戒規程別表1「懲戒処分の標準例」)。

 東洋大学においても、おそらく、学生の懲戒処分の際には、懲戒委員会等何らかの会議体の審議を経ることになっているのではないかと思います。そのため、何かしらの違反行為があったとしても、その場で懲戒を決定することはできないでしょう。

教授会は退学を決定できない

 ちょっと違和感があるのは、一部ウェブページで大学側の電話応答時の発言として「退学処分にするかどうかは教授会で決める」とあり、公式発表にも「所属学部では退学としないこと」とある点です。これをそのまま捉えると、厳密に言えば、内部規程に沿っていない運用の恐れがあります。

 平成26年度の学校教育法及び同施行規則が改正され、様々な事項について、教授会は審議機関であり学長が決定権を持つことが明確化されました。本件に関連する改正箇所として、改正前学校教育法施行規則第144条が削除されるとともに、同施行規則第26条第5項が新設されました。

学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律及び学校教育法施行規則及び国立大学法人法施行規則の一部を改正する省令について(通知):文部科学省

4)学校教育法第93条第2項第1号で規定された以外の,学生の退学,転学,留学,休学については,本人の希望を尊重すべき場合など様々な事情があり得ることから,学校教育法施行規則第144条は削除し,教授会が意見を述べることを義務付けないこととしたこと。

ただし,懲戒としての退学処分等の学生に対する不利益処分については,教授会や専門の懲戒委員会等において多角的な視点から慎重に調査・審議することが重要であることから,同施行規則第26条第5項において,学長は,学生に対する同施行規則第26条第2項に規定する退学,停学及び訓告の処分の手続を定めなければならないこととしたこと。

なお,同施行規則の改正を受け,退学,転学,留学,休学,復学,再入学その他学生の身分に関する事項について,各大学において,大学への届出,審査等の新たな手続を定める必要があるか点検し,必要に応じて定めること。

 公表されている東洋大学の学則でも、以下の通り学長が退学等の懲戒処分を決定することとしています。  

東洋大学学則

(懲戒)

第57条 学長は、本学の学則その他の規程に反し、又は学生の本分に反する行為があった学生に対し、教授会の意見を聴いて、行為の軽重と教育上の必要とを考慮して、譴責、停学又は退学の処分をすることができる。

2 退学処分は、次の各号のいずれかに該当する者以外には、これを行うことはできない。

(1) 性行不良で改善の見込みがないと認められる者

(2) 学業を怠り、成業の見込みがないと認められる者

(3) 正当な理由なくして出席常でない者

(4) 本学の秩序を乱し、その他学生の本分に反した者

 東京大学と同様に、学校教育法施行規則第26条第2項に則り、公表されていない内部規定として学部長の専決事項になっている可能性は否定できません。ただ、その場合は学則に明記するでしょうし、やはり厳密に言えば、「教授会が退学(あるいは退学でないこと)を決める」というのは誤りであろうと思います。

 ただ、この運用はちょっとわかりにくく、大学側担当者はある程度端折って発言した可能性も十分にあり得るなと思います。また、実質的には教授会が審議し学長(及び役員)がそれを尊重して決定するという構図でしょうし、このように発言してしまうことは十分に推察できます。それにしても、公式なプレスリリースに教授会について言及することは個人的には避けるべきではないかなと思っています。

本件に関する所感

想像だにできない

 本件については、手続き論は些細なことであり、それ以外に大きな論点がいくつもあることは言うまでもありません。ただし、それは弊BLOGの所掌範囲外なので、言及はしません(大学構内でのビラ撒き等の規制と憲法に定める表現の自由等の関係はもう少し勉強が必要だと感じています)。

 私の想像だにできないところで、首都圏の大規模私大(W田さんやH政さんなど)では学生と職員の飽くなき闘いがあるのだろうなぁ、と思いを馳せています。あるいは、大学側は本件が拡大すると学外の様々な組織が大学に集まってくることを危惧しているのかもしれませんね。

どのように学生に対応するか

竹中平蔵教授の授業に反対した東洋大学の学生に「退学」騒動 大学側は退学処分を否定|ニフティニュース

「職員らは学生生活ハンドブックの条項を示しながら、『大学の秩序を乱す行為』に該当するとし、退学処分をちらつかせてきました。さらに『君には表現の自由があるけど、大学のイメージを損なった責任を取れるのか』と大きな声で言われたり、『入社した会社で立場が危うくなるのでは』とドーカツされたりしました」(当該学生)

 当該学生の声も報道されていました。録音等が公表されていないため、実際にどのようなやりとりがなされたのかは断言できません。また、当該学生がどのような者であったのか、東洋大学が本件のような事案についてどのようなポリシーで対応する事を決めていたのかもよくわからないため、対応の是非はちょっと判断し難いかもしれません(個人的には、上記報道の内容が事実であるとすれば、職員側が迂闊にモノを言い過ぎかなとも思います)。

 自分がもし本件について学生に対応するとしたら、当該行為は規則により禁止されていること、処分規定に則り懲戒処分される恐れがあることは言うでしょうね(数人がかりで2時間も話はしないでしょうが・・・)。ただし、それはあくまで注意喚起の趣旨であり、諸々の状況にもよりますが、その場で処分どうこうと言うことはなく淡々と済ませることになりそうです。

 職員対学生において、いくらその場で個人的意見と前置きしようとも、学生側は職員から言われたことを大学当局の見解と解釈することがほとんどです。そのため、仮に当該学生の思想に同調しようとも「主張を完遂するためには学内に教員の仲間を増やした方がいい」「主張と行動の関連性が薄いので戦略を練り直した方がいい」などと助言することはできず、まして学生の主張を論破することもできないでしょう。

 私自身も、学生に迂闊なことを言ったばかりに、学内手続き上ちょっと面倒なことになった経験があります。特に最近はSNS等の発達により、職員が行った学生への対応がすぐに学外へ発信される可能性が出てきました。それをどのように利用するのかと言う事も含め、慎重に対応しなければならないと改めて感じた次第です。

群馬大学と宇都宮大学の共同教育学部を考える。

headlines.yahoo.co.jp

群馬大学前橋市)と宇都宮大学宇都宮市)は21日、2020年度から全国初の「共同教育学部」を設置することをホームページ上で公表した。少子化の影響で教員採用数が減るのに伴い教育学部の縮小が求められる中、教員養成機関としての役割を維持・強化するのが狙い。群馬大は「連携することで引き続き幅広い専門性を満たし、地域への責任を果たせる。学生の視野も広がるのではないか」と話している。

 群馬大学宇都宮大学の共同教育学部設置に関する報道がありました。以前にも、弊ブログでは北陸3国立大学の共同教職課程について言及しましたが、それとはまた異なる案件です。すでに設置申請に向けて準備を進めているようですね。

両大学とも、ホームページで情報を公開しています。前期入試は、個別学力試験から面接と小論文になるようですね。

平成32年度群馬大学と宇都宮大学との共同教育学部の設置(構想中)に係る入試の主な変更について | 国立大学法人 群馬大学

http://www.utsunomiya-u.ac.jp/docs/190121_kyoiku.pdf

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 今回は、この共同教育学部について考えてみます。

共同教育学部設置の背景

 今回の共同教育学部の背景にあるのは文部科学省に設置された「国立教員養成大学・学部、大学院、附属学校の改革に関する有識者会議」の報告書である「教員需要の減少期における教員養成・研修機能の強化に向けて―国立教員養成大学・学部、大学院、附属学校の改革に関する有識者会議報告書―」です。この会議は平成28年から29年に設置され、今後の国立大学の教員養成学部・大学院や教育学部附属学校の在り方について議論されました。本年度には、本報告書を踏まえた対応について、教員養成学部を持つ各国立大学が文部科学省から状況を聴取されたと聞いています。

●国立教員養成大学・学部は、一部教科の教員養成機能の特定大学への集約や共同教育課程の設置、総合大学と教員養成単科大学の統合、教員養成単科大学同士の統合等を検討し、第3期中期目標期間中に一定の結論をまとめること。

① 同一県内や近隣の国公私立大学との間で連携・協力して以下を行うこと。

ⅰ)採用者数が少ない教科あるいは各大学が強みや特色を持つ教科などの養成機能を特定の大学に集約することにより、機能強化と効率化を図ること

ⅱ)複数大学が資源を出し合って一つの共同教育課程を設置して教員養成を担うことにより、各大学がともに機能強化と効率化を図ること

都道府県をまたいで存在する総合大学の教員養成学部同士が統合することにより、機能強化と効率化を図り、資源の集中による教員養成機能の充実や新学部の開設等を通じた社会のニーズに応える大学となること

大学や附属学校の組織・体制について、平成33年度末までに一定の結論をまとめるためには、他大学との相談・調整や設置認可の手続きその他に時間を要することを十分考慮に入れ、各大学は早急に検討に着手する必要がある。

なお、「平成33年度末まで」とは、対応可能なことは即座に開始するとともに、一定の時間を要する中期的な対応であっても、遅くとも33年度末までには結論をまとめるべきという趣旨である。

 報告書中、今回の共同教育学部と関連する箇所を抜粋しました。ここでは、大学間の連携による共同教育課程の設置などがうたわれており、まさに今回のケースに合致しますね。報告書では教科の集約(A大学とB大学の共同教育課程としてある教科の教職課程を持つが、A大学で授業を開講しB大学では授業を開講しない、など)や効率化などが言及されています。こちらも、報道にある「インターネット技術を使った遠隔授業」「両大学とも徐々に学生定員を減らす予定(つまり教員も減る見込み)」に合致しているように感じます。

 ちなみに、宇都宮大学から群馬大学へは、車で1時間半、鉄道(新幹線)やバスを用いると3時間半程度かかります。新幹線を使うのであれば、群馬大学から東京大学本郷キャンパスに行く方が速いぐらいですね。

共同教育課程とは

大学における教育課程の共同実施制度について:文部科学省

○経済・社会のグローバル化の中、大学は「知の拠点」として各地域の活性化への貢献とともに、国際的な大学間競争の中で新たな学際的・先端的領域への先導的な対応も必要。

○このため、複数の大学がそれぞれ優位な教育研究資源を結集し、共同でより魅力ある教育研究・人材育成を実現する大学間連携の仕組みを整備するもの。

 今回の共同教育学部は、共同教育課程という制度に則り設置が見込まれています。共同教育課程とは、複数の大学が共同して教育課程(学部・学科、研究科・専攻)を設置できる制度であり、大学設置基準の「第10章 共同教育課程に関する特例」により、基準が定められています。構成大学のうちの他の大学における授業科目の履修を自大学の授業科目の履修とみなすことができるかわりに、他大学の授業を一定単位数以上履修しなければなりません。教育学部の場合は31単位以上を他大学から履修することになります。

 この31単位ですが、両大学の学生が受講できる授業(A大学は対面B大学は遠隔あるいはA大学は遠隔B大学は対面)を一定数準備すれば何とかクリアできるのではないかと思います。教育学部の場合、教科専門系や教職系の講義科目ならば、比較的やりやすいのかもしれません。一方、報道にもあるとおり、模擬授業などを行う指導法科目や実習系(介護等体験を含む)は対面での現地授業になるでしょうね。

共同教育学部の設置に関する所感

各大学の担当教科がモザイク状になるのではないか

 群馬大学教育学部宇都宮大学教育学部の教職課程認定状況は、以下のとおりです。

現在取得できる免許状 群馬大学教育学部 宇都宮大学教育学部
幼一種免
小一種免
中一種免 国語
社会
数学
理科
音楽
美術
保健体育
技術
家庭
英語
高一種免 国語
地理歴史
公民
数学
理科
音楽
工芸 ×
美術 ×
保健体育
家庭
情報 ×
工業
英語
特支一種免 聴覚障害 ×
知的障害者
肢体不自由者
病弱者

 今後教員を削減していくのであれば、各教科の免許状を出せる程度の専任教員数を維持できない可能性があります。報道では「20年度以降も基本的に同様の体制を続ける見通し」とあるものの、両大学の特定の教科の教員をともに削減するのであれば、必要専任教員数は満たせるものの、各大学での教育研究力は低下する恐れがあります。そのため、例えば、群馬大学は国語に関する教員を削減し数学に関する教員を残すなど、各大学への教科の集約化が進行する可能性があります。共同教育課程ですので各教科の免許状を取得できることには変わりないのですが、各大学が担当する授業の面では上記の表がさらにモザイク化するという印象です。

 また、報道には「宇都宮大では聴覚障害の免許が取得できなかった(つまり視覚障害者の免許は取得できた)」とありますが、公表されている学則等を確認しても宇都宮大学教育学部で特別支援学校教諭一種免許状(視覚障害者)が取得できることはわかりませんでした。なお、報道にある「5領域すべてに対応している大学は珍しい」について、文部科学省の公表資料では、特別支援学校教諭一種免許状で5領域すべての免許状が取得できる課程は平成29年度時点で15課程であり、特支一種免を取得できる全191課程の8%程度です。やはり、知肢病(ちしびょう)と言われる知的障害者肢体不自由者・病弱者の3領域のセットが多いですね。

遠隔講義の質をいかに確保するか

 弊ブログでもたびたび言及してきましたが、インフラの整備維持も含め、遠隔講義の質を維持することはかなり大変だろうと思います。例えば、同時配信を受けている側の教室にも教員が張り付き学生に指導するなど、細やかなケアが必要になるでしょうね。遠隔環境においてアクティブラーニング要素をどのように担保していくのかも気になるところです。

 何にせよ、学生にとってのメリットや効果をもっと考えて示していく必要を感じます。

予算が付きそう

 現時点で公表ということは、文科省法人支援課や教員養成企画室の大まかな了解が得られたのでしょう。ということは、設置審に出して指摘事項に応え続けていれば、よっぽどのことがない限り認可されるだろうと思います。国の施策に合った取り組みであることやトップランナーであることを踏まえると、機能強化に関する予算が付く可能性は極めて高いですね。逆に言えば、それがなければ現状の予算ではインフラ整備は困難かもしれません。

 このように、現在の国立大学における経営は「いかにして国策に合ったトップランナーたり得るか」という点が問われていると感じています。

共同教職大学院はできるのか

 気の早い話ですが、学年進行に伴い学生の進学先の確保が気になるところです。国立大学間の共同教職大学院ができるかもしれませんね。

文部科学省は変われるのか。

文部科学省未来検討タスクフォース:文部科学省

自発的意思により参画した若手中心の173名が、文部科学省の目指すべき姿や課題を議論し、省改革に向けた提案を取りまとめました。

 昨年末に文部科学省未来検討タスクフォース報告が公表されました。本件は、2018年に発覚した文部科学省幹部職員の逮捕に伴う対応ではありますが、その前段階として2017年に発覚した組織的な再就職等規制違反にも目を向けたいところです。再就職等規制違反においても、「今後の文部科学省の在り方を考えるタスクフォース」が結成され、今後検討すべき対応策に関する報告書が公表されています。

第4回 今後の文部科学省の在り方を考えるタスクフォース:文部科学省

 併せて、文部科学省創生実行本部(第2回)議事要旨も公表されました。

文部科学省創生実行本部(第2回)議事要旨:文部科学省


 国立大学法人の所管省庁としての姿勢や組織マネジメントは気になるところですので、今回は、文部科学省未来検討タスクフォース報告や文部科学省創生実行本部の内容を確認してみます。

文部科学省未来検討タスクフォース報告について

評価できる点1:トップがメッセージを発信するとしたこと

省全体の取組達成に向け、事務次官は「文部科学省改善改革宣言(仮称)」を公表する。課長級以上の職員は、業務改善・業務削減の取組目標8を宣言し、その説明責任を負うとともに、その達成度を人事評価にも反映する。

 トップがわかりやすいメッセージを発信することは、組織運営において大切だと考えます。当該宣言がわかりやすいかはさておき、このような施策をとることは良いと思っています。

評価できる点2:具体的なアイディア例があること

 上司・部下・職員間の議論・コミュニケーションを増やす仕掛け作りのアイディア例を挙げている点は、実行に移しやすいという意味でも良いなと感じました。ただ、なぜコミュニケーションのアイディア例しか挙げられていないのかは気になりますね。議論をまとめていく中でわかりやすさを重視したのかもしれません。

残念な点1:個々の職員がどのように行動するのか不明なこと

こうした強い危機感に端を発し、職員の自発的意思によって今後の文部科学省の在り方を検討するため、文部科学省未来検討タスクフォース(以下「未来検討TF」という。)が、本年8月に大臣決定で設置された。構成員は省内公募により、多くの若手を含む173名(課長級:6名、室長・企画官級:30 名、課長補佐級:48 名、係長級:58 名、係員級:31 名。)の職員の参画を得た。

 (おそらく多くは)自発的に参加した173名の職員により本報告書は作られたようですが、この173名がどのようにこの報告書の実現に向け行動するのかは読み取れませんでした。この報告書に書かれた内容は組織的な対応(人事制度など)が中心ですが、だからと言って個人的な対応をしなくても良いということではないでしょう。組織の中にいる人が動かなければ組織的な秩序や向上は望めません。

 組織的な対応と個人的な行動は相補的に取り組まれるべきでしょう。その意味では、今回参画した173名こそが中心となるべきであり、個々人の行動に未来が掛かっているといっても過言ではありません(この173名だけが頑張るという意味ではありませんよ、念のため)。報告書中にある

職員一人一人が改めて自らを振り返り、行動すべきと考えることを示したもの

とはまさにこのことでしょう。検討の途中ではもちろん参加者個々人として考えてはいたものの、最終的に公表する報告書からは除かれたと考えたいところです。(余談ですが、組織的な決め事に反して個人(あるいは一部が結託した半法令的小組織)が動くことで対応した悪い例が「文部科学省における再就職等規制違反」だと考えています。組織と個人がともに動かなければ良い成果は得られにくいでしょうね。)

残念な点2:省外との関係性があまり書かれていないこと

自らの専門性を高めるための大学等での学修や所属局課・府省を超えた勉強会に、業務の所掌を超えて参加できる環境を醸成するとともに、各局課・職員が有するネットワーク・専門的な知見を共有するシステムを導入し、こうした学びや専門性に秀でる職員(他機関からの出向者や研修生等を含む。)の知見を有効に活用する。

職員の専門性向上や外部の知見を吸収するなど多様性の確保、マネジメント力の育成、若手職員にとっての将来に向けた多様な経験等の観点から、省外の機関(民間企業、地方公共団体、学校、独立行政法人、他省庁、国際機関等)との人事交流を開拓・拡大し、積極的に行う。 

 国立大学職員の立場としては、文部科学省外の関係機関との関係をどのように考えているのか気になるところです。また、特に苦労も多いであろう政治家や業界団体とどのように接していくのかも知りたいですね。ただ、本報告には、あまりその点(特に政務対応)は書かれていませんでした。

 研修生の数も職員全体の一定割合はいると思いますので、単なる労働力ではなく、どのように「知見を有効に活用する」のは気になります。もっと言うと、ここに書かれた文部科学省職員の在り方(案)を採用した場合、政務対応でこれとは異なることを求められた場合、どのように対応すればよいのでしょうね。国家公務員の皆さんは当然にも判断できるでしょうが、私にはわかりません。

文部科学省創生実行本部(第2回)議事要旨について

トップの考えと報告書との関係が微妙

事務次官に着任した際に職員に対して3つ求めた。議論をすべきときには議論する、一旦全員で決めた決定には従う、むやみに正当な理由なくそのプロセスは外に出さない。つまり、面従腹背をやめようということ。また、OBの影響の排除、旧文部省系・旧科学技術庁系の人事の一体化、若手の登用の3つを約束した。

今回残念ながら幹部系職員が2名、逮捕・起訴されており、その原因としては彼ら自身の責任、あるいは文部科学省の組織文化があるが、今の組織文化を作ったのは現役の職員だけでなくOBである。OBがどのように関与し、そういった人たちを育て、人事配置したのかを検証する必要がある。

 この発言は藤原事務事務官だろうと思いますが、非常にまずいなと感じます。何を以て「風通しの良い/悪い組織」とするのかにも寄りますが、例えばこのサイトに書かれた「風通しの悪い組織」の例と「議論をすべきときには議論する、一旦全員で決めた決定には従う、むやみに正当な理由なくそのプロセスは外に出さない」の親和性は高いように思えます。

blogs.itmedia.co.jp

  悪く言えば・・・
議論をすべきときには議論する 議論すべき時とすべきでない時がありその判断はだれがどのように行うのか不明。議論すべきではない時には議論してはならないという意味なのか。
一旦全員で決めた決定には従う 「全員」とは誰なのか。決定した後は黙って従うということなのか。
むやみに正当な理由なくそのプロセスは外に出さない 「むやみに」「正当な理由なく」が誰がどのように判断するのか。「外」とはどこまでを指すのか。

 邪推であることを祈ります。

修羅場をくぐらせること

人材育成の考え方として、教育行政の世界では経営がキーワードだとすれば、大学に出向した際に経営にどう貢献できるかがポイントだと思うが、高尚なことではなく、まずは例えば帳簿が読める、色々なことが起きる生々しい世界である労務管理ができるなどの経験でよい。そういう管理をやらせた方が、実際の教育現場で起きている生々しいところと若いうちに接点を持つことができる。エリートを鍛えるのは修羅場だと思うので、文部科学行政の中でも、政治家からも現場からも怒鳴られるような厳しいことを回していくことが大事。

 おそらく、省外の有識者の発言だろうと思います。大学にくる異動官職も、本部に引っ込んでいるよりは、もっと教育研究等活動に直に接しているところで働いてもらう方がよいのかもしません(お荷物な人が来たら大変ですが)。個人的には医学科の学務系や附属病院の医事課、附属学校の苦情対応などでボコボコにされてほしい経験を積んでほしいなと思っています。

どういう文部科学省ならば良いか聞いてはどうか

 文部科学省で働いていたころ、非常に違和感があったのが、来訪した大学関係者が文科省担当者に対してたくさんお礼を言うことです。多少はそのような気持ちがあるにせよ、大学の現場を踏まえると、お礼以外にももっと思っていることや感じていることがあるでしょう。ここにいても大学の現状をつぶさに把握することは難しいなと感じたことをよく覚えてます。(もちろん、私個人の人徳のなさという点も大きいとは思いますが。)

 せっかくなんで、この機会に関係機関に「どのような文部科学省ならば良いか、どのような文部科学省がダメか」を聞いてみてもいいんじゃないですかね。それが省としての360度評価ということでしょう。twitterにでも投げればよい大喜利ネタになると思いますよ(投げやり)。

総じて

 タスクフォースの報告がどの程度組織的に実行されるのかは、予断を許さない状況だろうと思います。上司に対する360度評価などは開始され始めたといった情報もありますし、引き続き、文部科学省創生実行本部が出す結論を関係機関の職員として注視していきます。

終わったことに費やす時間は少なくしたい。

※昔の下書きから発掘したので記事が少し古いです。

newspicks.com

エリックはレヴューを終えると、とっとと次の国へと成田に向かったのだが、驚いたのはその後だ。まだ成田へ向かう途中のエリックからeメールが届いた。Googleカレンダーの会議出席者宛のメールだった。開封してみるとなんと "minutes"と書いてある。議事録だ!読んでみると、会議での議論が要点よくまとめられ、最後にはnext stepsとして誰がいつまでに何をしなければならないか、特にエリック自身が何をするかまでが簡潔に書かれた後、これで間違いはないか?抜け漏れはないか?と書かれている。

 エリック・シュミットの退任に伴い、LINE株式会社の葉山さんがコメントを寄せられてます。そこに書かれた議事録の在り方は、まさに理想的なものだなと感じられますね。

 議事録については、弊BLOGでも過去に言及してきました(会議録は自分を再構成する。 - 大学職員の書き散らかしBLOG)。議事録ドリブンとまではいかなくとも、会議後1時間以内には議事要旨(案)の決裁を回し始められるようになったので、ある程度自分のやり方として定着したのかなと思います。(本当は決裁自体を無くしたいのですが。。。)

 このようなやり方を行う自分の根底にあるのは、終わったことに費やす業務時間を極力少なくしたいという思いです。議事録はすでに終わった会議の内容を文字として記録するものであり、あまりそこに全身全霊をかけることは生産的ではないと考えています。議事録の中には次に繋がる部分(エリックのnext steps)があるので、一概に力を抜くのではなく、部分部分で注力すべきところを判断するといったところでしょうか。

 こんな考えだからこそ、決算の大切さは理解しつつも、あまり得意ではないことは自覚しています。そのため、あらかじめ決算資料の様式や計算式を作っておき、そこにリアルタイムで数値を放り込んでいくことで、なんとか対応しているところです。

有給休暇取得の義務化を整理する。

headlines.yahoo.co.jp

workit.vaio.com

2018年6月29日、参院本会議で働き方改革関連法が可決・成立しました。国会審議では高度プロフェッショナル制度や、途中で取り下げられた裁量労働制の拡大に関する議論に時間が費やされました。しかし、企業とその社員への影響範囲の広さという点では、時間外労働の上限規制のほか、有給休暇の取得推進に関する法改正についても知っておきたいところです。ここでは、「有給休暇取得の義務化」と呼ばれる法改正の内容について解説し、企業における取り組みのポイントや休み方改革の事例を紹介します。

 あまり大学業界では話題になっていない気もしますが、働き方改革関連法の施行に伴い、2019年4月より、有給休暇取得が義務付けられます。今回は、自分用のメモという用途も含め、この義務化の内容を確認します。

1.労働基準法の条文

労働基準法(昭和22年法律第49号) 抄

第39条

7 使用者は、第一項から第三項までの規定による有給休暇(これらの規定により使用者が与えなければならない有給休暇の日数が十労働日以上である労働者に係るものに限る。以下この項及び次項において同じ。)の日数のうち五日については、基準日(継続勤務した期間を六箇月経過日から一年ごとに区分した各期間(最後に一年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日をいう。以下この項において同じ。)から一年以内の期間に、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならない。ただし、第一項から第三項までの規定による有給休暇を当該有給休暇に係る基準日より前の日から与えることとしたときは、厚生労働省令で定めるところにより、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならない。

8 前項の規定にかかわらず、第五項又は第六項の規定により第一項から第三項までの規定による有給休暇を与えた場合においては、当該与えた有給休暇の日数(当該日数が五日を超える場合には、五日とする。)分については、時季を定めることにより与えることを要しない。

第120条

次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。

一 (略)第39条第7項(略)の規定に違反した者

 改正された労働基準法第39条第7項には、使用者は5日間の有給休暇を労働者に与えなけれならないとされています。なお、この項には罰則規定が適用されます。

 注意しなければならないのは、”労働者が5日の有給休暇を取得しなければならない”のではなく、”使用者が労働者に5日の有給休暇を与えなければ(取得させなければ)ならない”という点だと考えます。あくまで、使用者側に責任が発生するということです。

 以降は、厚生労働省のパンフレットを踏まえ、実際の運用を確認します。

2.義務化される対象者

  取得させる有給休暇日数
付与される年次有給休暇が10日以上の労働者 5日
付与される年次有給休暇が9日以下の労働者 なし

 義務化の対象となっているのは、付与される年次有給休暇が10日以上の労働者です。なお、この中には、管理監督者(おおまかに言うと管理職)や有期雇用労働者(任期付き職員など)も含まれます。当然、裁量労働制の職員も対象となります。

 国立大学はおおむね国の基準に沿って就業規則を策定しているものと思います。そのため、おそらくは、正規職員や任期付きフルタイム職員、週5日勤務するパートタイム職員などは、採用直後や採用後6か月勤務した場合、あるいは暦年が変われば、所定の(多くは10日以上の)年次有給休暇が与えられるでしょう。よって、基本的には、正規職員など週5日勤務する職員は義務化の対象となっていると考えられます。こまごまとした点は、各機関の労務担当者から説明があるでしょうね。 

3.義務化される期間

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 労働基準法条文にある通り、対象となった労働者に対し、使用者は、年次有給休暇を付与した日から1年間の間に5日間の有給休暇を時季を指定して取得させなければなりません。ちょっと厄介だなと思うのが、付与日を基準としている点です。各労働者により対象となる1年間が異なる可能性があり、管理上若干困難になることが予想されます。この件について、厚生労働省のパンフレットでは、付与日を月頭に統一することで管理を用意する方法などが紹介されています。

 使用者が時季を指定する際も、労働者の意見を聞かずに勝手に決めるのではなく、労働者の意見を聴取・尊重したうえで時季を決めることが労働基準法施行規則で定められています。

労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)

第24条の6

使用者は、法第三十九条第七項の規定により労働者に有給休暇を時季を定めることにより与えるに当たつては、あらかじめ、同項の規定により当該有給休暇を与えることを当該労働者に明らかにした上で、その時季について当該労働者の意見を聴かなければならない。

2 使用者は、前項の規定により聴取した意見を尊重するよう努めなければならない。

 その他、期間の詳細についても、労働基準法施行規則第24条の5にて定められていますね。

4.自主的な休暇取得との関係

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 労働基準法条文にある通り、自主的に取得した有給休暇があれば、使用者が取得させなければならない休暇日数はその分減少します。つまり、使用者からの指定であれ、労働者の自主的な対応であれ、とにかく有給休暇を5日間取得させなければならないということです。

5.その他の留意点

5-1.特別休暇との違い

 各大学には、有給休暇以外にも、夏季休暇などの特別休暇が制度整備されていることと思います。この特別休暇と今回義務化される有給休暇取得との関係は、 基発1228第15号(労働基準法の解釈について)(平成30年12月28日付)にて、通達があります。

法定の年次有給休暇とは別に設けられた特別休暇(たとえば、法第115 条の時効が経過した後においても、取得の事由及び時季を限定せず、法定の年次有給休暇を引き続き取得可能としている場合のように、法定の年次有給休暇日数を上乗せするものとして付与されるものを除く。以下同じ。)を取得した日数分については、法第 39 条第8項の「日数」には含まれない。

なお、法定の年次有給休暇とは別に設けられた特別休暇について、今回の改正を契機に廃止し、年次有給休暇に振り替えることは法改正の趣旨に沿わないものであるとともに、労働者と合意をすることなく就業規則を変更することにより特別休暇を年次有給休暇に振り替えた後の要件・効果が労働者にとって不利益と認められる場合は、就業規則の不利益変更法理に照らして合理的なものである必要がある。

 特別休暇は今回の年次有給休暇とは別物なので、取得させるべき日数には含まれないということです。つまり、夏季休暇や一斉休業日などで5日間という義務要件を満たすことはできないということですね。

5-2.就業規則への反映

休暇に関する事項は就業規則の絶対的必要記載事項であるため、使用者が法第 39 条第7項による時季指定を実施する場合は、時季指定の対象となる労働者の範囲及び時季指定の方法等について、就業規則に記載する必要がある。 

  同じく、基発1228第15号には、本件に関する取り決めについて就業規則に記載する必要がある旨が明記されています。各大学では、就業規則の改正が進められていることでしょう。

5-3.時間休の取り扱い

労働者が半日単位で年次有給休暇を取得した日数分については、0.5 日として法第 39 条第8項の「日数」に含まれ、当該日数分について使用者は時季指定を要しない。なお、労働者が時間単位で年次有給休暇を取得した日数分については、法第 39 条第8項の「日数」には含まれない。

 同じく、基発1228第15号には、半日の有給休暇(半休)や時間単位の有給休暇(時間休)に対する対応が明記されています。半休は5日間の要件に含むが時間休は含まない、という整理のようです。この扱いの違いは、時間単位年休の概念によるものだと思います。

www.teamspirit.co.jp

時間単位年休とは、時間単位有休という場合もありますが、平成22年4月に施行された改正労働基準法で導入された、1年に5日分を限度として時間単位での年次有給休暇の取得を認める制度です。

 時間単位で年休が取れる制度は比較的新しいものであり、職場内に制度を制定には労使協定が必要です。一方で、半日単位の有給休暇は、基監発第33号(平成7年7月27日付)により、時間単位年休よりも前から、有給休暇として与えることが可能とされてきました。

半日単位での付与については、年次有給休暇の取得促進にも資するものと考えられることから、労働者がその取得を希望して時季を指定し、これに使用者が同意した場合であって、本来の取得方法による休暇取得の阻害とならない範囲で適切に運用される限りにおいて、問題がないものとして、取り扱うものとする。

 これらの点から、半休と時間休の取り扱いは異なるものと考えられます。個人的には、時間休を繰り返せば一定の時間数になるにも関わらずそれを5日間の要件から外すことにはあまり納得できていません。有給休暇そのものの趣旨との兼ね合いなのでしょうね。

6.今回の記事に関する所感 

 以上、有給休暇取得の義務化を簡単に整理してきました。これら以外にも様々なケースが考えられますので、就業規則や労使協定など職場の規程類を確認しつつ、人事労務担当部署と相談しながら進めていくことになるのでしょうね。

 今回は、特に、法令や通達など一次資料の引用にこだわりました。税務や労務などは、安易にわかりやすい解説に飛びつくのではなく、根拠となる法令等を確認することが重要だと思っています。なので、本記事を信用するのではなく、皆さん自身が一次資料にあたってください。

 なお、私の2018年有給休暇取得日数は4日間でした。頑張ります。