内部通報は大学に広まるのか。

国立大学法人評価委員会(第58回) 議事録:文部科学省

 11月に開催された国立大学法人評価委員会(第58回)の議事録が公表されています。読んでいるといろいろ思うところはあるのですが、特にコンプライアンスの在り方について、議論の俎上に上がっています。

【水野委員】先ほどのコンプライアンスなんですけど、根本的に考え方が合ってないなと思うところがありまして。多分、小山課長の御発言も他意はないと思うんですけど、大学が多様な活動をしているとおっしゃいましたが、コングロマリットで世界中でビジネスを展開している民間企業に比べたら、全然多様ではないわけでありまして、やはり1つでもインシデントが出るとかいうのは正直論外ですし、それを吸い上げられないような状態になっているとすれば、それは根本的なシステム的な欠陥があるとしか思えないので、やはりそこは、それでいいでしょうということではないと思います。

【田籠委員】逆の指摘をさせていただきたいんですが、私も民間企業なんですけれども、民間企業の方が圧倒的に不正案件が露見しております。その場合、大規模なものしか報道されませんが、私は民間企業にて、懲戒も担当しておりましたけれども、毎年数十件の懲戒案件がございます。けん責レベルになると、もう数百件になります。そうしますと、民間の方がむしろ襟を正さなければならない立場だろうと思います。それがゆえに、コンプライアンスの体制、インフラ、システム化等を進めています。
  一方、国立大学は公的機関なので、そもそも襟を正されている方々がきちっと運営されていますので、案件としては、私は少ないなと感じています。いずれにしても、お金が掛かりますね。コンプライアンスの制度を作るにしろ、情報セキュリティ強化、システム投資していくにしろ、投資が必要になってきますので、評価の観点というよりは、大学法人の1つの形、スキームの中にコンプライアンスや体制整備、システム化は、別の予算取りでやっていかないと。コンプライアンスだけ強化しますと活動が萎縮していきますので、本来の研究活動がマイナスに走らないように、不正が出てきたところは厳格に処罰するけれども、通常は性善説をとるべきではないでしょうか。研究費不正は、非常に金額も小さいですし、私は、余り大きな問題として本委員会で捉える点なのだろうかと思って聞いておりました。

 このように審議会の中でバランスをとれる委員の方は素晴らしいなと感じています。少し驚いたのが、以下の発言です。

【國井委員】内部通報の件数が余りにも少ないと、企業は、それは問題じゃないか、下からちゃんと上がってきているのかということを見ます。そういう統計的な把握も仕組みとしてした方がいいのではないかと思います。

 内部通報の件数を企業経営の指標とするとは知りませんでした。実際には、どのように運用されているのでしょうか。

内部通報制度について

www2.deloitte.com

内部通報制度は、法令違反等の早期発見と未然防止を主な目的として設置されることが多く、組織内外の者からの申告を受付け、調査・対応するために会社の内部に整備される制度です。 法令違反、規程違反、セクハラなどの個別の問題を処理するだけでなく、企業風土、内部統制の改善を行なうことを目的とする場合もあります。

 内部通報制度とは、組織内外からの申告を受け付け対応する制度であるようです。ざっと調べたところ、内部告発との違いはよくわかりませんでした。内部通報者の保護を定めた公益通報者保護法では、公益通報や保護すべき公益通報者について、以下のとおり定められています。
公益通報者保護法

(定義)
第二条 この法律において「公益通報」とは、労働者(労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第九条に規定する労働者をいう。以下同じ。)が、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく、その労務提供先(次のいずれかに掲げる事業者(法人その他の団体及び事業を行う個人をいう。以下同じ。)をいう。以下同じ。)又は当該労務提供先の事業に従事する場合におけるその役員、従業員、代理人その他の者について通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を、当該労務提供先若しくは当該労務提供先があらかじめ定めた者(以下「労務提供先等」という。)、当該通報対象事実について処分(命令、取消しその他公権力の行使に当たる行為をいう。以下同じ。)若しくは勧告等(勧告その他処分に当たらない行為をいう。以下同じ。)をする権限を有する行政機関又はその者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生若しくはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者(当該通報対象事実により被害を受け又は受けるおそれがある者を含み、当該労務提供先の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある者を除く。次条第三号において同じ。)に通報することをいう。
一 当該労働者を自ら使用する事業者(次号に掲げる事業者を除く。)
二 当該労働者が派遣労働者労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和六十年法律第八十八号。第四条において「労働者派遣法」という。)第二条第二号に規定する派遣労働者をいう。以下同じ。)である場合において、当該派遣労働者に係る労働者派遣(同条第一号に規定する労働者派遣をいう。第五条第二項において同じ。)の役務の提供を受ける事業者
三 前二号に掲げる事業者が他の事業者との請負契約その他の契約に基づいて事業を行う場合において、当該労働者が当該事業に従事するときにおける当該他の事業者

2 この法律において「公益通報者」とは、公益通報をした労働者をいう。

また、上場企業が守るべき指針である「コーポレートガバナンスコード」には、内部通報について以下のとおり原則が定められています。

【原則2-5.内部通報】

上場会社は、その従業員等が、不利益を被る危険を懸念することなく、違法または不適切な行為・情報開示に関する情報や真摯な疑念を伝えることができるよう、また、伝えられた情報や疑念が客観的に検証され適切に活用されるよう、内部通報に係る適切な体制整備を行うべきである。取締役会は、こうした体制整備を実現する責務を負うとともに、その運用状況を監督すべきである。

補充原則

2-5① 上場会社は、内部通報に係る体制整備の一環として、経営陣から独立した窓口の設置(例えば、社外取締役監査役による合議体を窓口とする等)を行うべきであり、また、情報提供者の秘匿と不利益取扱の禁止に関する規律を整備すべきである。

 消費者庁が作成した「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」では、民間事業者が内部通報制度を構築する際の留意点が整理されています。

 これらをざっと読んだのですが、そもそもどのような事象が内部通報の対象となり得るのかについては、いまいち理解することができませんでした。少なくとも、公益通報者保護法では、公益通報の対象となる事象については、法律違反等限定されています。

 各国立大学とも公益通報に関する取扱いや公益通報者の保護に関する規程を整備していますが、その対象は法令や規程違反が主となっている印象です。また、中央大学では、不適切な行為について通報を受け付けるとなっています。

www.chuo-u.ac.jp

公益通報(内部通報)制度について】

学校法人中央大学(以下「本学」という。)では、本学の業務に関して、法令又は本学が定める諸規程等に違反する行為や研究・教育・管理運営を損ねる不適切な行為(以下「不適切な行為」という。)について、早期に発見し是正措置を講じる目的で、内部監査室内及び本学外の機関に通報受付窓口を設置しています。

【通報できる人】

本学教職員及び派遣労働者、業務受託者、本学に在籍している学生生徒からの通報・相談を受け付けます。

【通報・相談内容】

本学の業務に関して、法令や本学が定める諸規程等に違反する行為や不適切な行為が、組織的または個人的になされている(またはなされようとしている)場合に、その違反・不適切な行為についての通報を受け付けます。

内部通報制度の実態について

 民間事業者における内部通報制度の実態については、消費者庁が調査しています。

平成28年度民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書

(1)内部通報制度の導入の有無(問3)

内部通報制度(*)を「導入している」事業者は全体の46.3%、「検討中」は13.2%、「導入する予定なし」は39.2%であった。「導入していたが廃止した」は0.1%(2事業者)であった。
従業員数別にみると、従業員数の多い事業者ほど、内部通報制度を「導入している」割合が高い。1,000 人を超える事業者では9割超が「導入している」一方、“50 人以下”では「導入している」が約1割(9.3%)であり、今後も「導入する予定なし」とする事業者は7割を超えている(73.7%)。

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 内部通報制度の導入は必ずしも全ての企業で行われていないようです。

6.通報対象事実の範囲(問7)

内部通報制度を「導入している」と回答した事業者(n=1,607)に対し、内部通報制度で対象としている通報内容にはどのようなものが含まれるかを尋ねた。
「会社のルールに違反する行為(就業規則等に違反する行為)」(68.9%)、「法令違反行為(公益通報者保護法の対象となる法令違反行為に限定していない)」(68.4%)、「職場環境を害する行為(パワハラ、セクハラなど)」(65.7%)が7割程度と高く、次いで「その他の不正行為」(51.2%)が続く。「限定していない」は24.5%であった。

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 公益通報者保護法の対象となる法令違反以外にも、広く内部通報の対象としている企業が多いようです。

(1)過去1年間に通報窓口に寄せられた内部通報件数(社内外合計)(問12)

通報受付窓口を社内外のいずれかに「設置している」と回答した事業者(n=1,592)に対し、過去1年間に通報窓口(社内・社外)に寄せられた内部通報件数を尋ねた。
「0件」が41.6%で最も高く、次いで「1~5件」(30.5%)と続く。通報件数が1件以上あった事業者の割合の合計は51.6%であった。従業員数別にみると、従業員数の少ない事業者ほど通報件数「0件」の割合が高い傾向が見られ、“50 人以下”では69.0%を占めているのに対し、“3,000 人超”では4.4%となっている。一方、「50件超」の割合は、3,000 人以下の事業者では1%に満たないのに対し、“3,000 人超”では11.9%となっている。

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 従業員の人数により、寄せられる内部通報の件数が異なるようです。もし、大学の教職員及び学生を従業員と仮定した場合、規模としては3000人超となる大学が多いでしょうから、一定数の内部通報の潜在的ニーズがあるのかもしれません。

(1)通報窓口に寄せられた通報の内容(問16)

通報受付窓口を社内外のいずれかに「設置している」と回答した事業者(n=1,592)に対し、通報窓口(社内・社外)に寄せられる通報の内容を尋ねた。
「職場環境を害する行為(パワハラ、セクハラなど)」が55.0%で最も高く、次いで「不正とまではいえない悩みなどの相談(人間関係など)」(28.3%)、「会社のルールに違反する行為(就業規則違反など)」(27.5%)の順となった。「窓口を設置して以来、通報はない」は20.6%であった。

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 やはり、法令違反のみならず、幅広い内容の通報が行われているようです。

toyokeizai.net

こうした考え方を基本に置き、東洋経済CSR調査で集めた「内部通報件数(相談等も含む)」をランキングとして発表している。今年のランキング対象は『CSR企業総覧(ESG編)』2017年版掲載1408社のうち内部通報の件数などを開示している537社。このうち2015年度の件数で上位100社をランキングした(『CSR企業白書』2017年版には200位まで掲載)。

 週刊東洋経済の内部通報件数ランキングでは、100人に一人が通報するという状態が一つの参考目安になるとしています。

大学ガバナンスコードの可能性について

 ここまでガバナンスの話を行ってきたのは、「大学ガバナンスコード」が今後政策の場に登場するのではないかと考えているからです。大学ガバナンスコードとは大学監査協会が策定中のものであり、現時点での策定状況は不明です。ただ、様々な政策文書にちらほらと関連する記述が見られ、今後大学ガバナンスの一つの在り方として確立している可能性があり得るかもしれないと思っています。以下にウェブでみられるものを一部示しますが、いくつかのウェブに出ていない資料でもチラリとその名称を目にしました。

私立大学等の振興に関する検討会議「議論のまとめ」

<大学の自主的なガバナンスの一層の向上に向けて>

○法令の規定によるものだけではなく、上場企業における「コーポレートガバナンス・コード」のように、私学団体や文部科学省等が協力して、私立大学が公共性と公益性を確保し、社会的責任を果たすためのガバナンスの在り方のガイドラインや留意すべき点等を示し、各学校法人における自主的な取組を促進することもきわめて有効であると考えられる。

松山内閣府特命担当大臣閣議後記者会見要旨 平成29年11月17日

(答)昨日総理から指示がありましたのは、若手研究者の活躍促進のための整備と大学改革というところであります。
 大学のガバナンス改革につきましては、有識者の議員から、プロボスト制度の拡大等を通じた経営と教学の機能分担、また1法人複数大学経営等の組織再編、三つ目に大学ガバナンスコードの策定等を行うべきと具体的な提案がございました。これらを踏まえて、大学が我が国のイノベーションの中核の拠点となるための取組、これを林文科大臣とも連携して、まずは強力に進めていきたいというふうに思っております。

総合科学技術・イノベーション会議(第32回)議事次第(経済財政諮問会議合同会議として開催)資料4-2「生産性革命」のためのイノベーション創出に向けて(参考資料)(有識者議員提出資料)

改革後の研究大学

①ガバナンス~経営型大学運営
 経営と教学の機能分担(プロボスト制度拡大等)
 組織再編(一法人複数大学経営等)
 産業界等の外部理事の複数登用ルール化
 大学ガバナンスコードの策定

 大学監査協会の大学ガバナンスコートには、内部通報に関して以下の記載があります。なお、主として学校法人を対象としたものですが、別途読み替え表により、国立大学法人公立大学にも適用できるようにしてあるようです。

【原則2-3 大学特有のリスクへの対応】

学校法人とその設置大学は、大学教職員の職務には、教育研究の枠組み設定、教育の研究実施及びそれらの成果への評価が含まれていることから、各種ステークホルダーとの関係で利益相反等大学特有のリスクが構造的に内包されるものであることを認識し、これらのリスクが忌避又は回避されるよう、適切な対応を行うべきである。とくに、学長、副学長及び学部長等の設置大学の校務をつかさどる者は、教育研究の自由を確保しつつ、これらのリスクを回避するために、リーダーシップを発揮すべきである。

補充原則

2-3① 学校法人とその設置大学は、大学における人的関係が、複雑な地位及び身分を有する者によって構成されており、アカデミックハラスメント等の大学に固有な問題の背景となっていることを認識し、対応を行うべきである。

2-3② とくに教員は、自らが教育研究の枠組みを設定し、学生に指導し、学生を評価するという特殊な地位を占めていることを強く自覚し、そこから生ずるリスクの忌避又は回避に積極的に取り組むべきである。

【原則2-4 内部通報】

学校法人とその設置大学は、その学生及び教職員等が、不利益を被る危険を懸念することなく、違法又は不適切な行為・情報開示に関する情報や真摯な疑念を伝えることができるよう、また、伝えられた情報や疑念が客観的に検証され適切に活用されるよう、内部通報に係る適切な体制整備を行うべきである。理事会は、こうした体制整備を実現する責務を負うとともに、その運用状況を監督すべきである。

補充原則

2-4① 学校法人とその設置大学は、可能な限り通報窓口を学外にも設けるべきである。

2-4② 学校法人とその設置大学は、内部通報及びそれへの対応が、教育研究を妨害する不当な手段として用いられることのないよう、十分な措置を講じるべきである。

 国立大学法人にとっては国が決めたガバナンス(のようなもの)に沿って対応しなければならない案件が多いですし、このような動きは今後とも注視していきたいですね。

「蜜蜂と遠雷」(著:恩田陸)を読んで

蜜蜂と遠雷 (幻冬舎単行本)

蜜蜂と遠雷 (幻冬舎単行本)

 

 第156回直木三十五賞と第14回本屋大賞を受賞した本作を読んだ。著者である恩田陸は言うまでもなく現代を生きる人気小説家の一人であり、私自身も「六番目の小夜子」「三月は深き紅の淵を」「ネバーランド」「麦の海に沈む果実」「ドミノ」「夜のピクニック」「ユージニア」などを読んできた。悪い言い方をすればジュブナイルに近いこともある作風ながらも、何か郷愁を感じさせるような世界観が魅力の一つだと思っている。本作のことも両賞受賞以前から知っていたが、私が苦手としているピアノ演奏に関する内容であったためなんとなく手が出なかった。先日来Kindle版の価格が低下していたこともあり、購入し読んでみたわけである。

 結論を言えば、素晴らしい作品だった。いや、その言葉だけでは足りないほどの感銘を受けた。止まることなく2時間で読み切った後-今までこんなことはなかったが-間髪入れずに再度冒頭から読み直した。この作品には音楽と喜びが溢れていると確信している。

 本作は、地方都市の国際ピアノコンクールを舞台とし、その挑戦者たちの内心の変化や演奏を中心として、一人一人の成長を描くものである。様々な天才たちやその周りの者が、音楽に真摯に取り組み演奏活動を通じて内心を再構成することで、過去に向き合い、未来を思い、次の一歩を踏み出していく。2週間にもわたるコンクールの過程における演奏描写は圧巻であり、演奏描写と心理描写、風景描写を執拗なほど繰り返していくことで、本作の世界観を構築している。

 私自身も音楽活動に取り組んでいたことがあり、その描写には過去の体感を思い出して涙が出てきた。身体をツルンと裏返して体内の感覚器官を全て外気に曝け出すようなあの感覚、一瞬が永遠となり永遠が一瞬となるようなあの感覚、音楽に没頭し自分自身が消えて無くなるようなあの感覚、悪寒にも似た身震いが全身を貫くあの感覚は忘れることができない。文字だけでそれを思い出すことができるとは、しばらく音楽活動を離れている私にとっては非常に驚きだった。以下の描写なども、コンサート前の静かな興奮をよく表現している。

ステージドアが開いた。
ぞろぞろとオーケストラの団員が、舞台に吸い込まれていく。客席の喝采が、さざなみのように伝わってくる。
ああ、音楽が満ちていく。
亜夜はそう感じた。
流れのように一人一人の音楽がステージに流れこんでいき、ひたひたとステージの上に満ちていく。
満々と湛えられた音楽を、あたしたちは世界に向かって流し出す。観客の心という河口をを目指して。
コンサートマスターがピアノでAの音を鳴らした。
オーボエから始まり、弦楽器が、木管が、金管が、Aを鳴らし、何かの小さなフレーズを弾く。
これから始まる音楽への予感が、期待が、いっぺんに膨れ上がる。
そして、静寂が来る。
抑えた緊張と興奮。
亜夜は目を閉じた。
静寂。沈黙。
世界の中心が、亜夜の額の真ん中に集まってきたと感じる。
(「熱狂の日」より)

 本作では、演奏描写のみではなく、作中の風景描写からも音楽を感じることができる。普通の小説では登場人物が前面に出てくるが、本作では演奏描写や風景描写が登場人物を包み込むように飛び出してくるように感じられた。だからこそ、作品に没頭できる世界観を作り出すことに成功しているのだろう。

 私自身も、とある演奏会にて演奏された水の精霊をモチーフとした楽曲のピアノ冒頭部F音連打に、水の満ち満ちた様子を感じ取ったことがある。ただ、このような感覚は録音ではなかなか味わい難く、やはり実演の場だからこそできたことなのだろう。その意味では、本作において演奏描写や風景描写から様々な内心を描くことは、ファンタジーなどではなく、逆にリアリティを持った描写となり得ているのではないかと思っている。

 本作を読んで、やはり音楽とは自己と向き合い、他者への意識や交流を通じ、より良い自己を表現していく営みであると強く感じた。多くの者にはその過程は辛く苦しくもあるが、同時にそれは喜びへの道でもある。

何かが上達する時というのは階段状だ。
ゆるやかに坂を上るように上達する、というのは有り得ない。
弾けども弾けども足踏みばかりで、ちっとも前に進まない時がある。これがもう限界なのかと絶望する時間がいつ果てるともなく続く。
しかし、ある日突然、次の段階に上がる瞬間がやってくる。
なぜか突然、今まで弾けなかったものが弾けていることに気付く。
それは、喩えようのない感激と驚きだ。
本当に、薄暗い森を抜けて、見晴らしのよい場所に立ったようだ。
ああ、そうだったのかと納得する瞬間。文字通り、新たな視野が開け、なぜ今まで分からなかったのだろうと上ってきた道を見下ろす瞬間。
(「謝肉祭」より)

 本作を読み終わった後に頭の中に鳴り響いている音楽、生命の歓喜と躍動、これこそが「蜜蜂と遠雷」なのだろう。

平成29年度私立大学等改革総合支援事業(タイプ5)の採択結果から考える採択・不採択の分かれ目

私立大学等改革総合支援事業:文部科学省

 平成29年度私立大学等改革総合支援事業の採択結果が公表されました。弊BLOGでも注目していたタイプ5に関する結果も出ていますね。

文科省以外の概算要求事項における大学関係予算 - 大学職員の書き散らかしBLOG

私立大学等改革総合支援事業タイプ5は地方私立大学再編も視野に入っているのではないか - 大学職員の書き散らかしBLOG

  申請数 選定数
地方型 プラットフォーム数 13 6
大学等数 58 28
都市型 プラットフォーム数 8 3
大学等数 61 46
総数 プラットフォーム数 21 9
大学等数 119 74

 プラットフォーム数で見ると、採択率は50%を若干下回る程度でしょうか。この状況について、委員長所見では以下のとおり言及されています。

今年度から新設したタイプ5については、事業初年度で事業趣旨の周知期間や公募期間が必ずしも十分でなかったこと、また、自治体との連携を必須とするなど厳しい申請要件を課していたにも関わらず、広く全国各地から予想を上回る申請が寄せられ、私立大学等の各地域における高等教育の活性化に向けた機運の高まりが感じられた。また、今年度においては、外形的な体制整備がなされているかどうかまでを選定の主な評価対象としていたところ、地域の高等教育の係る中長期計画を既に策定し、計画の実行に着手しているプラットフォームが複数見られ、今後の進捗が大いに期待される。
タイプ5については、平成30年度より地方交付税措置が予定されており、自治体から地方創生に向けた取組への支援がより活性化することと推測される。各大学等において、自治体のニーズに対応した地域の活性化に資する取組がより加速化することを期待する。
今回の選定プロセスで把握できた実態や各大学等からの意見も踏まえ、また、支援の重点化を図るため、評価項目(設問)の実質化など更なる改善・充実を図ること。特に、タイプ5については、来年度より「スタートアップ型」と「発展型」の2層での支援を予定していることから、審査方法等についても改善・充実を図ること。その際、地方自治体からの評価についても考慮すること。

 地方交付税の件については、別サイトに解説記事が公表されています。

次年度予算案-改革総合支援事業のプラットフォーム参加自治体に交付税 | 大学改革を知る | Between情報サイト

 注目すべきは、この事業で大学と連携し、財政負担が生じる地方自治体に対して総務省からの特別交付税措置が予定されていることだ。補助率は8割になる見通し。これにより、自治体が積極的にプラットフォームに参加することが期待され、事業の実質化につながりやすいと文科省は説明する。
 例えば、地域の大学群が学生のインターンシップを支援する場合、自治体には地元企業の情報把握と提供、説明会の開催といった役割が期待される。しかし、厳しい財政状況の下、予算をねん出できない自治体も多い。特別交付税によってそのハードルを下げるべく、文科省総務省に連携を働きかけていた。大学群が社会人の学び直しを支援する場合には、自治体が講座プログラムの開発に協力したり、受講者への経済支援をしたりすることを想定している。

 設問毎の該当件数が公表されていますので、それをもとに、採択プラットフォーム(以下、「PF」)と不採択PFの状況の違いを確認します。

設問 最高点 採択PF平均点 不採択PF平均点 採択PF得点率 不採択PF得点率
プラットフォーム形成大学等、自治体及び産業界との協議体制 3 2.44 2.75 81.5% 91.7%
自治体との包括連携協定の締結と協議の実施 5 5.00 3.33 100.0% 66.7%
産業界との包括連携協定の締結 3 2.33 1.50 77.8% 50.0%
プラットフォーム形成大学間の定期的な協議 5 5.00 5.00 100.0% 100.0%
中長期計画策定・実施のための体制整備 4 4.00 4.00 100.0% 100.0%
プラットフォーム形成大学等の数 6 5.33 3.75 88.9% 62.5%
地域におけるプラットフォーム形成大学等の割合 6 5.33 3.83 88.9% 63.9%
自治体からの支援 5 4.00 3.33 80.0% 66.7%
産業界からの支援 4 3.11 2.50 77.8% 62.5%
高等教育の現状と課題の分析・公表 5 4.78 1.17 95.6% 23.3%
学術分野マップの作成・公表 4 4.00 2.33 100.0% 58.3%
地域の高等教育のビジョン・目標の公表 5 4.44 0.83 88.9% 16.7%
ロードマップの作成・公表 5 4.00 0.67 80.0% 13.3%
個別取組に対する数値目標の設定 5 3.22 0.00 64.4% 0.0%
地域の教育政策や教育のあり方等に関する協議 3 2.33 0.25 77.8% 8.3%
プラットフォーム形成大学等間の単位互換等の取組 4 2.00 1.75 50.0% 43.8%
共同のFD・SD 1 1.00 0.58 100.0% 58.3%
教職員の人事交流 2 0.44 0.25 22.2% 12.5%
地域課題解決のための共同研究 1 0.44 0.17 44.4% 16.7%
共同で実施する奨学金事業 2 0.00 0.00 0.0% 0.0%
施設・設備の共同利用 1 0.67 0.42 66.7% 41.7%
共同IRの実施 1 0.44 0.08 44.4% 8.3%
学生募集活動にかかる取組 2 1.00 0.25 50.0% 12.5%
地域の教育支援活動 1 0.89 0.58 88.9% 58.3%
共同の公開講座の企画・実施 1 0.89 0.75 88.9% 75.0%
就職を促進するための地方自治体又は産業界との共同の取組 1 0.78 0.58 77.8% 58.3%
地域のリスクマネジメントの検討 1 0.56 0.25 55.6% 25.0%

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 採択PF、不採択PFの回答状況からそれぞれ平均得点を算出し、それを各設問の最大点で除して得点率を求めました(各設問毎に最大点が異なるためこのような処理をしています)。ここから、採択PF・不採択PFで特に得点率のかい離が大きいのは、以下の設問であるとわかります。

  • 高等教育の現状と課題の分析・公表
  • 学術分野マップの作成・公表
  • 地域の高等教育のビジョン・目標の公表
  • ロードマップの作成・公表
  • 個別取組に対する数値目標の設定
  • 地域の教育政策や教育のあり方等に関する協議

 これらは中長期計画の策定に関する設問であり、ビジョンや中長期計画の審議を実質的に行い、策定にこぎつけたのかが評価されたと考えられます。採択されたPFのウェブページ等を確認すると、平成29年10月ごろに協定書を締結した組織がいくつも見られました。概算要求時点や予算編成時点である程度予告されていたとは言え、8月に文科省から依頼文書の発出、11月に申請書の提出という非常にタイトなスケジュールの中で、採択PFとも協定所締結からビジョン・計画の策定まで、かなり本気で取り組んだ結果だろうと思われます。

 採択一覧を見た際、思ったよりも既存の大学コンソーシアムが少ないなと感じました。名称としてはキャンパス・コンソーシアム函館と大学コンソーシアム京都、その直接的な出自を推測するとひょうご産官学連携協議会(おそらく大学コンソーシアムひょうご神戸が出自)、九州西部地域大学・短期大学連合産学官連携プラットフォーム(おそらく大学コンソーシアム佐賀と大学コンソーシアム長崎が出自)でしょうか。既存の大学コンソーシアムが本事業に申請しなかったあるいは採択されなかったことは、以下の点が影響しているのではないかと考えています。

1.大学コンソーシアムのトップが国立大学であること

 大学コンソーシアムが地域の大学等の集まりであることから、大学等の規模感等も踏まえ、各地域の国立大学がトップや事務局を務めることがよくあります。特に、都道府県単位でコンソーシアムを組んでいる場合は、それが多いかなという印象です。全国大学コンソーシアム協議会が公表している情報を見ても、連絡先が国立大学内にあるコンソーシアムはいくつもあります。

全国大学コンソーシアム協議会事業(事務局運営) | 公益財団法人 大学コンソーシアム京都

 今回の事業は私立大学等改革総合支援事業の一部であり、国立大学には直接的には影響を与えません(もっと言うと採択されても国立大学への直接的な予算配分はありません)。そのため、対応が遅くなったか、あるいは対応が弱くなった可能性があると考えます。コンソ函館やコンソ京都、コンソひょうごは私立大学が結構活発に活動しているという印象ですので、コンソーシアムとしても対応しやすかったのかもしれません。

2.本事業が大学コンソーシアムのミッションに含まれていないこと

 本事業は地域の高等教育に関する中長期計画の策定や実行を行うものとなっています。私が知る限り、このようなミッション(目的)を掲げ、実質的な活動を行っている既存の大学コンソーシアムはほぼありません。大学コンソーシアムの典型的な活動と言えば、単位互換事業の実施や公開講座の開催などであり、大学の教育研究等活動を地域社会などに広める活動はできても、自機関のみならず広く高等教育に関する中長期計画を策定することは今まであまり経験がなかったのではないでしょうか。そのため、短期間での体制整備やビジョン・計画策定は経験のないことであり、及び腰になった可能性も考えられます。

3.大学コンソーシアムの組織が大きいこと

 既存の大学コンソーシアムは、半数以上が都道府県単位で設置されています。当然、加盟機関の学長や理事長級が最高意思決定機関の委員となっており、事業に応じてさらに細かい内部組織が設けられていることでしょう。つまり、比較的大きな組織運営を必要とする組織が多いという印象です。このような組織では意思決定が遅れ気味になりがちです。本事業においては、依頼から申請までの短期間におけるスピード感が非常に重要であり、重厚な大学コンソーシアムの組織運営体制では迅速に動けなかった可能性があると考えられます。

 

 上記の3点の理由により、少なくとも本年度の本事業においては、既存の大学コンソーシアムではなかなか取り組みにくかったのではないかと推測します。次年度の本事業に向け、どのように取り組んでいくべきか、既存の大学コンソーシアムを用いることが最も良い方法なのか、枠組み自体を検討する必要があるのかもしれません。逆に言えば、既存の大学コンソーシアムを出自としているであろう採択PFは本当に真剣に取り組んだ結果なのだろうと思います。

国立大学の留年状況を知る。

※リストから東京芸術大学が欠落していたため追記しました。 

 修学指導や学生支援などに関わる指標の一つとして留年率があります。認証評価においても、留年に関する言及があります。

大学改革支援・学位授与機構

6-1-① 各学年や卒業(修了)時等において学生が身に付けるべき知識・技能・態度等について、単位修得、進級、卒業(修了)の状況、資格取得の状況等から、あるいは卒業(学位)論文等の内容・水準から判断して、学習成果が上がっているか。

【根拠となる資料・データ等例】

・学部、研究科等ごとの標準修業年限内の卒業(修了)率(※1)及び「標準修業年限×1.5」年内卒業(修了)率(※2)(過去5年分)〔提出必須〕

・単位修得率、進級率、留年・休学・退学の状況、資格取得者数、卒業(修士・博士)論文、卒業制作

大学基準協会

<点検・評価項目>

学生支援に関する大学としての方針に基づき、学生支援の体制は整備されているか。また、学生支援は適切に行われているか。

<評価の視点>

・留年者及び休学者の状況把握と対応

日本高等教育評価機構

エビデンス集(データ編)一覧

表2-3 学部、学科別退学者及び留年者数の推移(過去3年間)

 また、学校教育法施行規則に定められた教育情報の公表の一部として、留年率を公表している大学もありますね。そのほか、大学ランキング系の各種冊子でも留年率が公表されています。

 ただ、大学の留年率がどの程度なのか、その相場感は意外と共有されていないと感じています。そのため、本稿では、改めて国立大学の留年率を確認します。

<留意事項>

  • 各数値は、大学改革支援・学位授与機構の大学基本情報の2017年度状況別卒業者数,入学年度別卒業者数から取得しました。
  • 編入生を除く卒業者数のうち、標準修業年限を超えて卒業した者の割合を留年率と定義しました。そのため、原級留置の者のみならず、休学等も留年として整理しています。
  • 大学院を除き、学部を対象としました。

各国立大学の留年率

大学名 卒業生 編入生 標準修業年限内卒業生 標準修業年限外卒業生 留年率
北海道大学 2510 52 2153 213 12.2%
北海道教育大学 1234 9 1151 57 5.8%
室蘭工業大学 557 32 454 47 13.1%
小樽商科大学 484 3 425 39 10.8%
帯広畜産大学 251 10 218 19 9.1%
旭川医科大学 182 10 152 14 11.0%
北見工業大学 382 5 321 37 14.3%
弘前大学 1377 33 1229 83 8.0%
岩手大学 1115 27 1001 50 7.8%
東北大学 2484 52 2200 166 9.5%
宮城教育大学 370 0 346 20 6.5%
秋田大学 995 37 880 58 8.0%
山形大学 1660 33 1495 92 7.5%
福島大学 939 39 828 51 7.7%
茨城大学 1536 33 1372 93 8.2%
筑波大学 2268 115 1849 232 13.9%
筑波技術大学 80 0 72 8 10.0%
宇都宮大学 996 52 812 103 13.7%
群馬大学 1175 79 1025 49 5.9%
埼玉大学 1649 59 1410 120 10.7%
千葉大学 2453 136 2106 151 8.6%
東京大学 3140 51 2417 539 21.3%
東京医科歯科大学 281 10 247 15 8.9%
東京外国語大学 776 34 253 418 65.5%
東京学芸大学 1131 1 994 100 11.4%
東京農工大学 912 72 759 51 8.6%
東京芸術大学 449 0 414 35 7.7%
東京工業大学 1113 12 968 94 11.3%
東京海洋大学 474 14 416 32 9.6%
お茶の水女子大学 495 0 449 38 9.1%
電気通信大学 652 35 513 60 15.9%
一橋大学 970 3 722 211 25.2%
横浜国立大学 1607 10 1371 159 13.7%
新潟大学 2310 109 2002 141 8.6%
長岡技術科学大学 495 407 81 4 8.0%
上越教育大学 169 0 165 4 2.4%
山梨大学 841 17 742 62 9.7%
信州大学 2017 96 1714 135 10.3%
富山大学 1745 48 1543 115 8.7%
金沢大学 1812 68 1568 139 9.5%
福井大学 898 56 743 69 11.2%
岐阜大学 1270 65 1105 70 7.6%
静岡大学 1884 18 1619 168 12.5%
浜松医科大学 184 16 154 9 8.3%
名古屋大学 2268 61 1946 198 11.6%
愛知教育大学 930 0 869 39 6.1%
名古屋工業大学 942 2 865 50 7.2%
豊橋技術科学大学 480 384 80 9 15.6%
三重大学 1399 79 1211 68 7.5%
滋賀大学 777 18 645 80 14.2%
滋賀医科大学 190 30 141 15 11.9%
京都大学 2963 37 2324 410 19.3%
京都教育大学 309 0 287 15 6.8%
京都工芸繊維大学 611 0 551 42 9.3%
大阪大学 3413 84 2556 624 22.3%
大阪教育大学 893 0 829 49 7.1%
兵庫教育大学 169 0 159 9 5.9%
神戸大学 2729 128 2118 371 17.6%
奈良教育大学 261 0 244 10 6.1%
奈良女子大学 524 22 464 28 6.8%
和歌山大学 947 29 804 79 11.4%
鳥取大学 1174 8 986 124 14.8%
島根大学 1158 43 964 110 13.5%
岡山大学 2176 75 1905 135 8.8%
広島大学 2378 50 2093 167 9.7%
山口大学 1936 29 1648 165 12.8%
徳島大学 1246 50 1029 131 13.5%
鳴門教育大学 106 0 98 7 7.5%
香川大学 1222 44 1060 91 9.7%
愛媛大学 1767 65 1510 142 10.8%
高知大学 1098 33 948 83 10.3%
福岡教育大学 654 3 586 44 9.1%
九州大学 2360 30 2088 162 9.4%
九州工業大学 961 80 773 70 11.4%
佐賀大学 1316 49 1102 111 12.4%
長崎大学 1588 27 1355 144 12.2%
熊本大学 1743 55 1491 136 11.1%
大分大学 1089 28 911 106 13.2%
宮崎大学 1008 10 899 65 9.6%
鹿児島大学 1943 52 1607 220 14.7%
鹿屋体育大学 199 18 173 3 3.9%
琉球大学 1392 29 1085 188 19.7%

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 東京外国語大学の留年率が突出して高いですが、おそらく、海外留学等で留年あるいは休学する学生が多いからだろうと推測します。国立大学全体の平均留年率は12.8%、東京外国語大学を除くと12.4%でした。

男女別の留年率

 続いて、性別による留年率を確認します。

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 男女別の留年率は上記グラフのとおりです。女性のほうが留年率が低い傾向にあることがわかります。なお、平均留年率は男性14.9%、女性9.5%でした。

学部別の留年率

 続いて、学部別の留年率を確認します。

順位 大学 学部名 卒業生 編入生 標準修業年限内卒業生 標準修業年限外卒業生 留年率
1 大阪大学 国語学 604 3 197 404 67.2%
2 東京外国語大学 国際社会学 354 18 123 213 63.4%
3 東京外国語大学 言語文化学部 350 15 130 205 61.2%
4 神戸大学 国際文化学部 160 0 85 75 46.9%
5 東京大学 教養学部 184 0 104 80 43.5%
6 宇都宮大学 国際学部 121 10 69 42 37.8%
7 東京大学 文学部 338 16 202 120 37.3%
8 徳島大学 歯学部(専門課程) 48 3 29 16 35.6%
9 筑波大学 社会・国際学群 208 11 129 68 34.5%
10 大阪大学 歯学部 62 0 41 21 33.9%
11 京都大学 総合人間学部 134 1 89 44 33.1%
12 琉球大学 観光産業科学部 112 0 75 37 33.0%
13 長崎大学 歯学部 53 0 36 17 32.1%
14 東京大学 法学部 395 2 276 117 29.8%
15 京都大学 法学部 336 8 231 97 29.6%
16 京都大学 文学部 223 1 158 64 28.8%
17 東京大学 教育学部 90 0 65 25 27.8%
18 一橋大学 経済学部 273 1 197 75 27.6%
19 一橋大学 商学部 298 1 220 77 25.9%
19 九州大学 歯学部 58 0 43 15 25.9%

 留年率が高い学部は上記表のとおりです。なお、学生募集を停止した学部や卒業生がいない学部は除外しています。

 やはり、国際系の学部が多いという印象です。また、歯学部も留年率が高い傾向にあるようですね。東大法と京大法が並んでいるのは、微笑ましくもあります。なお、留年率0%の学部は、学生募集停止学部を除くと、10個以下でした。つまり、国立大学であっても、標準修業年限を超えて卒業する者がいることはごくごく余り前のことだと言えると考えます。

学部分野別の留年率

 続いて、分野別の留年率の違いを確認します。

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 分野別の留年率は上記グラフのとおりです。分野の分類は学校基本調査の学科系統分類表により区分しました。分野別にみると人文科学と商船の留年率が高いことがわかります。分類上、外国語学部が人文科学に分類されますので、その影響も多少あるのでしょう。

標準修業年限による留年率

 続いて、標準修業年限(4年制か6年制か)による留年率の違いを確認します。

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 4年制と6年制の教育課程の違いによる留年率は上記グラフのとおりです。この場合の6年制とは医歯薬獣医の学部(あるいは学科)を指します。6年制の教育課程が存在する大学が離散しているためわかりにくいですが、4年制と6年制でそれほど大きな違いはないように感じます。なお、平均した留年率は4年制14.9%、6年制12.7%でした。

養成学部による留年率

 続いて、養成学部とそうでない学部の留年率の違いを確認します。

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 養成学部の留年率は上記グラフのとおりです。教育学部(教員養成)や医学部(医学科及び看護学科)、歯学部(6年制)、獣医系学部(農学部6年制)などを養成学部と整理し、区分しました。学部名称のみにより判断したため、若干の誤差が含まれている可能性があります。こちらも離散したグラフになっていますが、養成学部の方が留年率が全体的に低いように感じます。留年率が高い歯学部はありましたが、大学で平均すればその影響が消えるのでしょう。平均した留年率は、養成学部が8.6%に対し、非養成学部が 14.1%でした。

 

 様々な点から留年率(標準修業年限外卒業者の割合)を確認してきましたが、国立大学においては概ね10%前後は標準修業年限を超えて大学を卒業する者がいるという相場感を得ることができました。 

平均給与などから見る国立大学職員の現状と変遷(その3〜東京大学を例に)

 前回、前々回に引き続き、各国立大学法人が公表している役員の報酬等及び職員の給与の水準から、今回は東京大学の事務・技術職員の職位別の状況を確認します。なお、書かれている推測について、裏を取ったわけではなく、全て私の妄想です。

東京大学の事務・技術職員人員の推移

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 平成16年度以降大きく数を減らしているのは一般職員、技術職員です。主任や係長級が数を大きく減らしていないことを踏まえると、数を減らしたのは一般職員ではなく技術職員ではないかと推測します。

 また、平成16年度以降大きく数を増やしているのは、再任用職員及び非常勤職員です。こちらは、総数1800名程度を維持するように増加していることがわかります。その他の職員数の減少をカバーするために投入されていると推測します。

東京大学事務・技術職員平均年齢の推移

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 上記のグラフより以下の点がわかります。

  • 再雇用職員は平均年齢が最も高く60歳を超えていること
  • 主査・専門職員及び一般職員・技術職員の平均年齢が低下していること
  • 部長、課長・事務長、副課長等の平均年齢が近しいこと
  • 非常勤職員の平均年齢は年により変動していること

 再雇用職員は定年後の職員を再度雇用していると思われるため、平均年齢が60歳を超えることは当然だと推測します。また、非常勤職員については、年により採用する者が異なることも考えられるため、平均年齢が変動することも十分にあり得るでしょう。

 部長、課長・事務長、副課長等の平均年齢が近しいことは、前々回も述べた"上がりのポジション"問題なのだろうと推測します。これら職位の中には、大きく分けて東大プロパー職員、文科省異動官職、エリア異動官職の3者が混在しているはずです。このような状況で東大プロパー職員にどのようなキャリアパスを提示できるかはなかなか難しい問題かもしれません。

 一方、主査・専門職員の平均年齢が低下していることは、従来が"上がりのポジション"の一種だったものが、名称に合わせてスタッフ職化しているのかもしれません。あるいは、上が詰まっているので、一時避難的に係長級を昇進させている可能性も考えられます。

東京大学事務・技術職員平均給与の推移

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 上記のグラフより以下の点がわかります。

  • 職位が上がるにつれ平均給与が高まること
  • 平成16年度からの平均給与の変動は概ねの職位で+5%〜-10%程度であること
  • 再雇用職員の平均給与が最も低いこと
  • 非常勤職員の平均給与は年により変動していること

 再雇用職員は時短勤務である可能性も高いですので、平均給与が低いことは容易に想像がつきます。非常勤職員は、前述と同様の理由でしょう。

 想像していたよりも平均給与の変動が少ないなと感じています。また、職位間の平均給与の差は、等差ではなく等比的であるとも見えます。

その他雑感

 今回は東洋経済オンラインのランキングへの対応という形でデータを整理しましたが、以前から、私立大学においても、このようにある程度職員の給与・報酬状況を公表してもいいのではないかな、と思っています。いまだに忘れることができない議論として、文科省私立大学等の振興に関する検討会議第5回で以下のような審議がありました。

【濵口委員】

この中で,国立大学の学長経験者は私一人だと思いますので,ちょっと憎まれ役の質問をさせていただきたいと思います。それはですね,私,1年ちょっと前まで学長をやっていて,その実感で,本当に苦しんだことであります。それは何かというと,教員が間々にして私立大学へ移られるんですね。特に優秀な人材で,50代前半の,これから働き盛りというのが,ある日突然移るんですよ。年間,法学部なんて,もう何人と移るんですね。
これ,なぜかというのを,実は調べたんです,私。十分に情報公開がされているかどうか,ここの質問が1つなんですけど,やっぱり給与水準が随分違う。場合によっては,月収が4割ぐらい高いんですね。しかも,退職年限が70を超えていると。それは当然移るわけですね。
かつては国立大学は,それでもみんな安月給で働いていたのは,時間の自由があった。今は,実に繁忙を極めている状況があって,忙しさは変わらないと,一人一人聞いたんですよ。変わらないと。だから,給料のいいところへ移るのは当たり前でしょうと。
その移った先を聞いてみますと,場合によって,赤字になっているというお話のところが,表の給料以外に手当がいっぱい出ていて,学部長より高い人が結構あるんです。傾きかけていてもですね。そこら辺の情報公開と考えます。つまり,しっかりした管理運営ができているのか。(略)

【小出委員】

御指摘ありがとうございます。
国立大学の実態,実情に関しては,私は十分知り得ません。今,濵口先生御指摘の点に関しては,特に給料実態の問題と退職金制度の問題,あと,階層性に基づくという,世界基準と,専門性の高いところと,地域貢献という三区分といいましたか,そのあたりの大学の運営に関わる側面に関しましては,十分なるデータを持ち合わせておりません。そこに学ぶ学生へのファンディングの視点から,意見を申し上げましたので,国立大学のこの間の取組などに関しては,承知はしておるところではありますが,お尋ねの私立大学の実態は存じ上げませんので,ちょっとコメントは控えさせていただきたいと思います。

【濵口委員】

質問は,情報公開をしていただきたいということですね。本当の実態のある給与水準をですね。その上で,学生の支援の問題とは,これは別の問題です。経営として,これはきっちり議論しないと,話がまとまりませんですね。

 全く何も質問に答えていないですよね。これで私学関係者への私の印象がだいぶ下がりました。最近は無邪気なイコールフッティング論を語る声は一時期ほどは聞かれなくなったかと思いますが、税金投入に際して給与水準の公表という点は重要だろうと考えます。現時点でも、私立大学等経常費補助金の算出根拠の一部には人件費に関する事項がありますので、私立大学職員の給与に税金が全く投入されていないとは、補助割合等や金額の多寡はあるとは言え、なかなか言い難いのではないかと思っています。

私立大学等経常費補助金配分基準

Ⅲ 経常的経費の算定

補助金算定の基礎となる私立大学等ごとの経常的経費は、次に定めるところによる。

1.専任教員等給与費

ア 学部等ごとにⅡの 1 による専任教員等の数に、専任教員等 1 人当たりの年間標準給与費の額(大学5,731 千円、短期大学 4,871 千円、高等専門学校 4,871 千円とする。)と私立大学等ごとの専任教員等 1人当たりの年間平均給与費(Ⅱの1の(1)及び(2)により補助金算定の基礎とした者のうち当該年度の前々年度の 1 月 1 日までに採用されたもので、かつ、当該年度の前々年度の 1 月 1 日から当該年度の前年度の 12 月 31 日までに給与が支給されている者の年間支給総額(当該年度の前々年度の 1 月 1 日から当該年度の前年度の 12 月 31 日までに支給される給与総額)の平均額とする。)とのいずれか低い額を乗じて得た金額とする。

2.専任職員給与費

ア 私立大学等ごとにⅡの 2 による専任職員の数に、専任職員 1 人当たりの年間標準給与費の額(3,601千円とする。)と私立大学等ごとの専任職員 1 人当たりの年間平均給与費(Ⅱの2の(1)及び(2)により補助金算定の基礎とした者のうち当該年度の前々年度の 1 月 1 日までに採用されたもので、かつ、当該年度の前々年度の 1 月 1 日から当該年度の前年度の 12 月 31 日までに給与が支給されている者の年間支給総額(当該年度の前々年度の 1 月 1 日から当該年度の前年度 12 月 31 日までに支給される給与総額)の平均額とする。)とのいずれか低い額を乗じて得た金額とする。

補助金の基準額の算定

私立大学等を設置する学校法人に対する補助金の基準となる額は次に掲げる金額の合計額とする。

1.専任教員等給与費

Ⅲの 1 により算定した金額に 5/10 を乗じて得た金額

2.専任職員給与費

Ⅲの 2 により算定した金額に 5/10 を乗じて得た金額

 学生や保護者への説明という点でもそうですし、教職員への就職、転職においても非常に重要な情報提供となり得ますので、是非とも給与水準の公表に取り組んでいってほしいと思っているところです。

平均給与などから見る国立大学職員の現状と変遷(その2)

 前回に引き続き、各国立大学法人が公表している役員の報酬等及び職員の給与の水準から、今回は事務・技術職員の職位別の状況を確認します。

 公表資料の中には、職位別年間給与の分布状況があり、代表的な職階(多くは課長、課長補佐、係長、主任、係員)の人員、平均年齢、年間給与額の平均値が記載されています。これを用い、職位別の状況を確認します。なお、課長より上の部長・次長級や局長については、記載の信頼性が乏しい(あくまで代表的な職位を記すため記載していない法人もある。)と判断したため、課長級以下を分析対象とします。また、各法人により職位名称が若干異なりますが、大きく課長級、課長補佐級、係長級、主任級、係員級と分類しました。

事務・技術職員の人員数について

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 平成28年度の職位別人数では、課長級以下の40%程度が係長級であることがわかります。法人別にみても、多くの法人は係長級の人数が多く、その前後は人数が比較的少ないことがわかります。なお、もっとも係長級が多い法人は東京大学です。

 これらから、係長級と言えども部下が少なくマネジメントのみではなく実務にも携わっていること(むしろ実務対応がメインである?)が推測できます。平均部下人数を見ても、係長級一人に対し部下は1.1人と、ほぼ一人係長に近しい状況であると考えられます(実際にはここに非常勤職員や派遣職員が加わるため、もっと増えるとは思いますが)。

事務・技術職員の平均年齢・給与について

 続いて、法人別の職位別平均年齢と平均給与を示します。給与は前回の定義と同様です。なお、グラフが途切れている部分は該当人数が少ないことなどを理由として情報が公開されていませんでした。

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 ここから、平均年齢は課長級と課長補佐級で近しいこと、平均給与は職位の順序により分かれていることがわかります。年齢については、定年時の職位、いわゆる"上がりのポジション"として、課長補佐級で定年を迎える者と課長級で定年を迎える者がいるのだろうと推測できます。また、一部課長級は異動官職(文科組及びエリア組)があてがわれるため、年齢が若干下がるのではないかとも思えます。これらの理由により、課長級と課長補佐級の平均年齢が近しいものと考えます。

 前回も述べましたが、基本的には国立大学職員の給与は年齢と在勤地の影響が大きいと考えています。それを確認するため、前回と同様に平均年齢と平均給与の関係を確認します。なお、前回と同様に、地域手当の割合を推測し、その分を平均給与から除した補正値を用いています。

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 平成28年度のデータでは、職位、平均年齢、平均給与が線形に並んでいることがわかります。年齢と給与の関係では、大学教員よりも事務・技術職員のほうが影響が大きいのかもしれません。なお、課長級では一部のプロットが上方に移動していますが、これはよくある高年齢者の昇給抑制とは矛盾しています。異動官職に係る地域手当の移行措置(以前の在勤地の地域手当が一定程度継承されること。各法人の給与規程に明記されていることが多い。)により当該法人の他職員よりも給与が高くなっている可能性が指摘できます。

平成16年度時点との比較について

 前回は、平成16年度(あるいはウェブ上で見つかるもっとも古い時点)と平成28年度の比較を行いました。今回も、職位別に、人員、平均年齢、平均給与の推移を示します。なお、平成28年度と比較が困難であった16法人は除いています。

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 係員級や主任級の人員は減少傾向にある一方、係長級や課長補佐級の人員は増加傾向にあること、各職位とも平均年齢が推移しており課長補佐級の平均年齢低下や課長級の平均年齢上昇などの傾向がみられることなどがわかります。管理職の内部登用を進めた結果、課長補佐級の平均年齢が下がり課長級の平均年齢が上昇したとも考えられますね。

 もう少し明確に平成16年度時点との差異が現れるかと思っていたのですが、それほど大きくは変化していないように感じます。平均化すると変化が現れにくいので、各法人の内部データを確認すれば、年齢構成などの変化がわかるのかもしれません。

 係員級の人員数は大きく減少している法人があります。これは東京大学なのですが、次回はみんな大好き東京大学の事務・技術職員の状況を経年変化から確認します。

 

平均給与などから見る国立大学職員の現状と変遷(その1)

toyokeizai.net

では、国立大学の大学職員になると、どのくらいの給与がもらえるのだろうか。さらに、教授などその「教員」になると、給与はどのくらいになるのだろうか。各国立大学の年収は、文部科学省が毎年実施・公表している、「文部科学省所管独立行政法人国立大学法人等及び特殊法人の役員の報酬等及び職員の給与の水準」の調査から分かる。文科省の集計表によると、国立大学の事務技術職員の平均年収は570万円、大学職員の平均は873万円となっている。

 東洋経済オンラインが国立大学の常勤職員・教員の年収ランキングを掲載しています。もとになっているのは、各国立大学法人が毎年度公表している「役員の報酬等及び職員給与の水準」です。これは、「国立大学法人等の役員の報酬等及び職員給与の水準の公表方法について(ガイドライン)」に基づき、各法人に公表が義務付けられているものです。

http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/gyoukan/kanri/pdf/satei2_05_02.pdf

ガイドラインは、国立大学法人等(国立大学法人及び大学共同利用機関法人をいう。以下同じ。)の役員の報酬等及び職員の給与の水準に関する情報を、国民及び関係者に分かりやすく提供するため、文部科学大臣において公表されるべき事項等について取りまとめたものである。

役員の報酬等及び職員給与の水準の公表について — 京都大学

 東洋経済のランキング見たんですが、大学の全常勤職員(大学教員、事務・技術職員、医療職員)をまとめた平均年収を使用しているため、並べて比較することに意義を見出しにくいと感じました。そもそも大学教員や事務・技術職員は給与の水準が全く異なるため、分けて考えたほうが妥当です。

 また、注意深く見れば気づくと思いますが、帯広畜産大学の教員が5名となっています。これは、公表されている情報に年俸制教員が含まれていないからです。

国立大学法人帯広畜産大学の役職員の報酬・給与等について

年俸制移行教員115名については,比較対象外のため,教育職員の人数には含めていない。

 このように、いろいろと物足りない感があったので、自分で平均年収等データをまとめてみました。また、特に法人化時点の平成16年度の比較を行うことで、大学職員を取り巻く状況がどのように変化したということも、併せて推察しています。

平成28年度財務情報 | 東京大学

 数値の根拠としたのは、上記のように各国立大学法人で公表されている「役職員の報酬・給与等について」であり、平成28年度と平成16年度(平成16年度が公表されていない場合はウェブ上で公表されている最も古い年度で代用:基準年度)の職種別支給状況(事務・技術及び教育職種(大学教員))です。また、職階の人員や平均年齢の変化を見るため、事務・技術職員の職位別年間給与の分布状況の数値も用います。

<留意点>

  • 4大学院大学を除く82法人のデータを整理しました。
  • 給与は各種手当を加算した税引き前の年間給与金額(千円)(いわゆる"額面")です。
  • 前述のとおり年俸制教員の数値(人員、平均年齢、平均給与)は含んでいません。
  • 大学教員について、平成19年度の職階変更や年俸制等多様な雇用形態の状況により比較が容易にはできませんので、今回は特に事務・技術系を中心に状況を確認しました。

大学教員の状況

大学教員 基準年度 平成28年
基準 人員 平均年齢 平均給与 人員 平均年齢 平均給与 人員 平均年齢 平均給与
北海道大学 H16 1880 47 9031 1317 47.6 8482 -563 0.6 -549
北海道教育大学 H16 390 51.5 9398 329 52 8584 -61 0.5 -814
室蘭工業大学 H16 183 49.7 9120 144 50.8 8535 -39 1.1 -585
小樽商科大学 H16 120 46 8891 93 48.9 8432 -27 2.9 -459
帯広畜産大学 H24 114 49.1 8127 5 48.9 8432 -109 -0.2 305
旭川医科大学 H16 203 44.5 8130 239 48.1 7176 36 3.6 -954
北見工業大学 H23 131 51 8436 118 49.6 8174 -13 -1.4 -262
弘前大学 H16 597 48.4 8818 610 48.2 7946 13 -0.2 -872
岩手大学 H16 394 49.4 9146 356 51.8 8601 -38 2.4 -545
東北大学 H16 1722 46.5 8946 1876 48 8674 154 1.5 -272
宮城教育大学 H16 125 50.9 9489 97 52.6 9196 -28 1.7 -293
秋田大学 H16 469 47.6 8779 442 49 7979 -27 1.4 -800
山形大学 H16 495 49 8982 694 48.4 8324 199 -0.6 -658
福島大学 H16 228 48.6 9086 198 49.2 8435 -30 0.6 -651
茨城大学 H16 524 50.1 9087 463 50.9 9261 -61 0.8 174
筑波大学 H16 1384 49.1 9867 1313 49.8 9573 -71 0.7 -294
筑波技術大学 H18 104 50.8 9138 93 53.1 9750 -11 2.3 612
宇都宮大学 H16 348 50 9203 286 49 8776 -62 -1 -427
群馬大学 H16 599 47.9 8739 560 47.6 7952 -39 -0.3 -787
埼玉大学 H17 432 49.4 9658 384 50.1 9648 -48 0.7 -10
千葉大学 H16 1115 48.1 9229 923 50 9308 -192 1.9 79
東京大学 H16 2861 45.4 9540 2961 48.7 9933 100 3.3 393
東京医科歯科大学 H16 574 47.3 9438 563 48.1 9164 -11 0.8 -274
東京外国語大学 H16 208 48.6 9982 167 52.7 9706 -41 4.1 -276
東京学芸大学 H16 342 49.5 10034 294 52.2 9638 -48 2.7 -396
東京農工大学 H16 369 48.8 9841 322 49 9384 -47 0.2 -457
東京藝術大学 H16 169 54.9 10390 161 56.2 10024 -8 1.3 -366
東京工業大学 H16 956 45.8 9634 916 48.1 9638 -40 2.3 4
東京海洋大学 H18 211 49.1 9884 185 49.8 10033 -26 0.7 149
お茶の水女子大学 H16 189 50.2 10541 152 53.4 10302 -37 3.2 -239
電気通信大学 H16 322 47.6 9432 263 49.6 9660 -59 2 228
一橋大学 H16 363 49 10442 333 50.6 9570 -30 1.6 -872
横浜国立大学 H17 549 48.5 9940 490 50.5 9961 -59 2 21
新潟大学 H16 751 49.7 9202 869 48.5 8182 118 -1.2 -1020
長岡技術科学大学 H16 205 46.4 8655 169 49.7 8414 -36 3.3 -241
上越教育大学 H16 150 50.2 9045 126 51.6 8539 -24 1.4 -506
山梨大学 H16 494 48.2 8612 492 48.9 8081 -2 0.7 -531
信州大学 H16 648 50.5 9256 739 48.7 8200 91 -1.8 -1056
富山大学 H18 771 48.3 8661 664 49.7 8494 -107 1.4 -167
金沢大学 H18 913 48 8894 814 48.7 8322 -99 0.7 -572
福井大学 H16 484 47.4 8728 439 49.2 8292 -45 1.8 -436
岐阜大学 H16 649 48.2 9024 586 49.1 8729 -63 0.9 -295
静岡大学 H16 643 49.7 9297 593 49.3 8731 -50 -0.4 -566
浜松医科大学 H16 178 47.9 8471 202 49.6 8213 24 1.7 -258
名古屋大学 H16 1440 46.2 9446 1314 48.9 9699 -126 2.7 253
愛知教育大学 H16 256 49.1 9163 202 49.8 9224 -54 0.7 61
名古屋工業大学 H16 336 46.9 9717 275 49.7 9887 -61 2.8 170
豊橋技術科学大学 H16 192 46.5 8737 158 45.8 8247 -34 -0.7 -490
三重大学 H16 417 47.4 8882 581 49.5 8557 164 2.1 -325
滋賀大学 H16 217 49 9218 170 49.7 8994 -47 0.7 -224
滋賀医科大学 H16 231 46.6 8423 218 49.1 8354 -13 2.5 -69
京都大学 H16 2524 46.5 9462 2317 48.4 9168 -207 1.9 -294
京都教育大学 H16 108 49.8 10025 100 52.8 9593 -8 3 -432
京都工芸繊維大学 H16 270 49 9826 249 51.6 9416 -21 2.6 -410
大阪大学 H16 1983 45.9 9543 1944 48.3 9317 -39 2.4 -226
大阪教育大学 H16 287 49.9 9461 216 52.5 9712 -71 2.6 251
兵庫教育大学 H16 151 49.8 9281 122 52.8 8870 -29 3 -411
神戸大学 H20 1198 48.1 9212 1012 47.8 9293 -186 -0.3 81
奈良教育大学 H16 107 51 9566 90 52 9485 -17 1 -81
奈良女子大学 H16 189 48.9 9587 148 49.4 9070 -41 0.5 -517
和歌山大学 H16 264 47.6 9203 228 50.4 9118 -36 2.8 -85
鳥取大学 H16 574 48.1 8801 582 47.1 7838 8 -1 -963
島根大学 H16 484 47.4 8707 531 48.7 8030 47 1.3 -677
岡山大学 H20 1182 48.2 8266 812 49 8508 -370 0.8 242
広島大学 H16 1093 47.9 9002 1203 50.8 8979 110 2.9 -23
山口大学 H16 708 48.2 9054 772 48.7 8127 64 0.5 -927
徳島大学 H16 780 46.7 8552 645 49.4 8371 -135 2.7 -181
鳴門教育大学 H16 154 49.4 8922 125 53.6 8851 -29 4.2 -71
香川大学 H16 517 47.5 8735 490 49.6 8298 -27 2.1 -437
愛媛大学 H16 758 48 8758 741 48.3 8207 -17 0.3 -551
高知大学 H16 530 47.6 8741 514 49.8 8236 -16 2.2 -505
福岡教育大学 H16 182 48.6 9102 151 50.3 8784 -31 1.7 -318
九州大学 H16 1970 46.8 9152 1459 46.6 8659 -511 -0.2 -493
九州工業大学 H19 355 46.9 9017 278 48.7 8667 -77 1.8 -350
佐賀大学 H16 587 47.5 8674 524 49.6 8332 -63 2.1 -342
長崎大学 H16 831 47.5 8757 926 48.2 8028 95 0.7 -729
熊本大学 H16 809 48.5 8736 810 49.7 8293 1 1.2 -443
大分大学 H16 435 48.4 8817 477 49 7923 42 0.6 -894
宮崎大学 H16 427 48.8 8811 485 48.5 8119 58 -0.3 -692
鹿児島大学 H16 885 48.8 8826 899 48.7 7968 14 -0.1 -858
鹿屋体育大学 H16 55 49.2 8783 53 49.1 7992 -2 -0.1 -791
琉球大学 H16 716 48.6 8711 733 50.1 8099 17 1.5 -612

 

傾向 増員高齢増収 増員高齢減収 増員低齢増収 増員低齢減収 減員高齢増収 減員高齢減収 減員低齢増収 減員低齢減収
記号 +++ ++- +-+ +-- -++ -+- --+ ---
法人数 1 11 0 7 12 42 2 7

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 各法人の基準年度と平成28年度との差異を示します。なお、グラフにおける基準年度と平成28年度の間は補完値であり、実測値ではありません。全体的な傾向として、人員は増えたり減ったり、平均年齢は上昇、平均給与は減少という傾向が見て取れます。平均年齢で最上位を推移しているのは東京藝術大学、平均給与で最上位を推移しているはお茶の水女子大学、最下位を推移しているのは旭川医科大学です。

 なお、大きく人員が減少している法人は年俸制への移行教員数が多い可能性があることに留意が必要です。

 比較的年功序列型の組織であること、地域手当が存在することを踏まえると、国立大学職員の給与は年齢と在勤地が大きく左右していると推測できます。両者の相関関係を確認するため、平均年齢と平均給与を軸として散布図を作成します。なお、地域手当の影響を排除するため、人事院規則九—四九別表第一にある支給地域に本部が所在する場合は、その級地の割合を除して補正平均給与値を算出しました。

<留意事項>

  • 地域手当は各法人の給与規程により定められること、特に複数キャンパスが存在する場合はその在勤地より地域手当が支給される可能性があることにより、かなり単純化して補正値を算出しています。
  • 地域手当という名称は法人より異なり、例えば東京大学では教育研究連携手当、京都大学では都市手当が地域手当に相当するものであると推測できます。

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 縦軸に平均年齢を、横軸に平均給与を置いた散布図を示します。線形回帰ではあまり当てはまりがよくないところですが、平成28年度と基準年度のプロットを比較すると全体的に左上に移行していることが見て取れます。左上とは、年齢が上昇し給与が減少する象限ですので、地域手当の影響を除いてもなお、各国立大学法人の大学教員の平均的な傾向としてそのような状況にあるということでしょう。

事務・技術職員の状況

続いて、事務・技術職員の状況を確認します。留意事項等は前項と同様です。

事務・技術職員 基準年度 平成28年
基準 人員 平均年齢 平均給与 人員 平均年齢 平均給与 人員 平均年齢 平均給与
北海道大学 H16 974 44.2 5952 926 41.2 5547 -48 -3 -405
北海道教育大学 H16 178 42 5803 177 41.6 5703 -1 -0.4 -100
室蘭工業大学 H16 99 42.4 5627 81 41.9 5538 -18 -0.5 -89
小樽商科大学 H16 47 42 5956 54 42.1 5738 7 0.1 -218
帯広畜産大学 H24 72 41.2 5340 64 41.9 5618 -8 0.7 278
旭川医科大学 H16 141 43.6 5693 135 44.2 5130 -6 0.6 -563
北見工業大学 H23 94 42.2 5283 88 43.9 5716 -6 1.7 433
弘前大学 H16 303 40.9 5422 308 41.3 5348 5 0.4 -74
岩手大学 H16 225 44.1 5887 228 42.3 5583 3 -1.8 -304
東北大学 H16 1117 43.6 5810 1156 40.6 5591 39 -3 -219
宮城教育大学 H16 55 43.6 6049 50 41.9 5832 -5 -1.7 -217
秋田大学 H16 271 45.9 6011 280 39 5165 9 -6.9 -846
山形大学 H16 362 45.9 6050 345 41.9 5472 -17 -4 -578
福島大学 H16 111 41.7 5658 100 43.7 5579 -11 2 -79
茨城大学 H16 229 45.7 6082 227 41.3 5635 -2 -4.4 -447
筑波大学 H16 974 44.4 5917 797 45.5 6302 -177 1.1 385
筑波技術大学 H18 57 43.4 5792 41 45.2 6129 -16 1.8 337
宇都宮大学 H16 195 43.2 5703 171 43 5807 -24 -0.2 104
群馬大学 H16 309 46 5979 276 43.1 5586 -33 -2.9 -393
埼玉大学 H17 169 45.8 6585 153 43.8 6189 -16 -2 -396
千葉大学 H16 482 43.6 6029 517 42.1 5883 35 -1.5 -146
東京大学 H16 1649 42.7 6205 1542 44.2 6694 -107 1.5 489
東京医科歯科大学 H16 225 42.8 6523 374 39.3 5891 149 -3.5 -632
東京外国語大学 H16 91 41.6 6043 82 43.7 6321 -9 2.1 278
東京学芸大学 H16 178 43.9 6550 167 43.6 6249 -11 -0.3 -301
東京農工大学 H16 184 42.3 6061 174 44.1 6468 -10 1.8 407
東京藝術大学 H16 90 42.8 6581 77 42.6 6129 -13 -0.2 -452
東京工業大学 H16 453 41.6 6098 455 42.8 6314 2 1.2 216
東京海洋大学 H18 119 40.9 6091 119 43.6 6505 0 2.7 414
お茶の水女子大学 H16 84 41.6 6253 85 43.1 6282 1 1.5 29
電気通信大学 H16 148 41.6 6026 129 44.2 6436 -19 2.6 410
一橋大学 H16 120 43 6766 137 41.6 6127 17 -1.4 -639
横浜国立大学 H17 230 42.2 6167 238 42 6041 8 -0.2 -126
新潟大学 H16 486 44.7 5836 443 42.9 5524 -43 -1.8 -312
長岡技術科学大学 H16 124 43.5 6079 113 44.2 5450 -11 0.7 -629
上越教育大学 H16 81 42.2 5966 82 47.3 5886 1 5.1 -80
山梨大学 H16 295 43.7 6812 266 44.4 5440 -29 0.7 -1372
信州大学 H16 419 44.6 5787 416 42.2 5436 -3 -2.4 -351
富山大学 H18 379 46.9 6180 348 45.9 5796 -31 -1 -384
金沢大学 H18 430 41.5 5478 420 42.2 5614 -10 0.7 136
福井大学 H16 283 46.1 6084 267 46.1 5645 -16 0 -439
岐阜大学 H16 287 46 5876 281 41.4 5579 -6 -4.6 -297
静岡大学 H16 285 45 6058 260 42.9 5633 -25 -2.1 -425
浜松医科大学 H16 151 44.9 6016 144 43.9 5365 -7 -1 -651
名古屋大学 H16 762 45.3 6435 743 41.5 6089 -19 -3.8 -346
愛知教育大学 H16 119 45.6 6403 112 42.3 5861 -7 -3.3 -542
名古屋工業大学 H16 135 43.9 6249 139 43.5 6356 4 -0.4 107
豊橋技術科学大学 H16 113 41.7 5716 106 43.9 5686 -7 2.2 -30
三重大学 H16 316 45.3 5843 302 41.2 5431 -14 -4.1 -412
滋賀大学 H16 81 45.5 6316 85 44.2 5987 4 -1.3 -329
滋賀医科大学 H16 147 44.9 6119 142 44.7 5618 -5 -0.2 -501
京都大学 H16 1232 43.5 6142 1177 42.1 6165 -55 -1.4 23
京都教育大学 H16 64 43.1 6333 64 41.1 5873 0 -2 -460
京都工芸繊維大学 H16 123 44.3 6484 123 41.9 5790 0 -2.4 -694
大阪大学 H16 923 44.4 6383 916 42.5 6079 -7 -1.9 -304
大阪教育大学 H16 126 43.2 6157 127 42.2 5999 1 -1 -158
兵庫教育大学 H16 88 43 5943 86 44.7 5770 -2 1.7 -173
神戸大学 H20 536 43.2 5865 562 42.5 6011 26 -0.7 146
奈良教育大学 H16 39 46.9 6594 49 42.7 6084 10 -4.2 -510
奈良女子大学 H16 71 42.4 5938 72 42.2 5653 1 -0.2 -285
和歌山大学 H16 111 42.6 5750 109 42.2 5678 -2 -0.4 -72
鳥取大学 H16 328 43.6 5705 321 41.7 5256 -7 -1.9 -449
島根大学 H16 329 45.2 5921 288 45.2 5456 -41 0 -465
岡山大学 H20 496 42.4 5410 467 43.7 5706 -29 1.3 296
広島大学 H16 587 43.7 5897 540 43.1 5854 -47 -0.6 -43
山口大学 H16 367 44.9 5800 384 41.1 5300 17 -3.8 -500
徳島大学 H16 354 44.5 5905 331 43.9 5448 -23 -0.6 -457
鳴門教育大学 H16 78 41.7 5718 75 46.2 5819 -3 4.5 101
香川大学 H16 329 42.8 5679 337 44.8 5570 8 2 -109
愛媛大学 H16 406 46.7 5977 365 43.2 5349 -41 -3.5 -628
高知大学 H16 289 45.1 5895 275 45.6 5538 -14 0.5 -357
福岡教育大学 H16 91 45.8 6014 92 41.3 5516 1 -4.5 -498
九州大学 H16 1003 42.6 5871 966 42.3 5947 -37 -0.3 76
九州工業大学 H19 181 41.7 5586 168 44.5 5682 -13 2.8 96
佐賀大学 H16 329 44.2 5838 290 44 5459 -39 -0.2 -379
長崎大学 H16 428 43.9 5900 473 41.5 5303 45 -2.4 -597
熊本大学 H16 428 43.7 5719 426 43.3 5467 -2 -0.4 -252
大分大学 H16 310 44.5 5918 267 47.7 5812 -43 3.2 -106
宮崎大学 H16 293 42.7 5645 268 41.7 5265 -25 -1 -380
鹿児島大学 H16 451 44.2 5753 429 43.2 5347 -22 -1 -406
鹿屋体育大学 H16 52 41.3 5745 53 41.4 5331 1 0.1 -414
琉球大学 H16 367 46.5 5957 346 43.2 5321 -21 -3.3 -636

 

傾向 増員高齢増収 増員高齢減収 増員低齢増収 増員低齢減収 減員高齢増収 減員高齢減収 減員低齢増収 減員低齢減収
記号 +++ ++- +-+ +-- -++ -+- --+ ---
法人数 3 5 2 16 12 10 13 31

 

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 各法人の基準年度と平成28年度との差異を示します。全体的な傾向として、人員は同程度か若干の減少傾向、平均年齢は若干低下しつつもばらつきが大きくなっている、平均給与は減少傾向ならば一部法人は上昇といったところでしょうか。特に、平均年齢のばらつきが大きくなっていることはおもしろい傾向だと感じます。独自採用や早期退職など職員の人事形態も影響しているのかもしれません。平均年齢でH28に47歳を超えているのは大分大学上越教育大学、40歳を下回っているのは秋田大学東京医科歯科大学です。平均給与では、H28の最上位は東京大学でした。

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 大学教員と同様に、平均年齢と平均給与の関係を散布図に表現しました。こちらも線形回帰の当てはまりはよくありませんが、プロットが若干左下の象限に移動したように見受けられます。平均的な傾向として、平均年齢が減少し平均給与も減少する状況にあるといったところでしょうか。

 また、大学教員と比較すると、基準年度からの推移が法人ごとに多様であると考えられます。これは大学教員と比較し事務・技術職員の数が少なく、一人一人の変動が平均値に大きく影響を与えているための推測できます。

 

 大学教員、事務・技術職員とも、法人化時点あるいは一定程度以前に比べると、少なくとも給与面を見ると決して環境が良くなっていると言えないと考えます。一方、事務・技術職員の平均年齢が若干でも減少傾向にあることは、運営面にプラスになる形で効果が出てくれば良いなと思っています。

 次回は、事務・技術職員を職位別(課長、係長など)に分けた状況を確認します。