平均給与などから見る国立大学職員の現状と変遷(その3〜東京大学を例に)
前回、前々回に引き続き、各国立大学法人が公表している役員の報酬等及び職員の給与の水準から、今回は東京大学の事務・技術職員の職位別の状況を確認します。なお、書かれている推測について、裏を取ったわけではなく、全て私の妄想です。
東京大学の事務・技術職員人員の推移
平成16年度以降大きく数を減らしているのは一般職員、技術職員です。主任や係長級が数を大きく減らしていないことを踏まえると、数を減らしたのは一般職員ではなく技術職員ではないかと推測します。
また、平成16年度以降大きく数を増やしているのは、再任用職員及び非常勤職員です。こちらは、総数1800名程度を維持するように増加していることがわかります。その他の職員数の減少をカバーするために投入されていると推測します。
東京大学事務・技術職員平均年齢の推移
上記のグラフより以下の点がわかります。
- 再雇用職員は平均年齢が最も高く60歳を超えていること
- 主査・専門職員及び一般職員・技術職員の平均年齢が低下していること
- 部長、課長・事務長、副課長等の平均年齢が近しいこと
- 非常勤職員の平均年齢は年により変動していること
再雇用職員は定年後の職員を再度雇用していると思われるため、平均年齢が60歳を超えることは当然だと推測します。また、非常勤職員については、年により採用する者が異なることも考えられるため、平均年齢が変動することも十分にあり得るでしょう。
部長、課長・事務長、副課長等の平均年齢が近しいことは、前々回も述べた"上がりのポジション"問題なのだろうと推測します。これら職位の中には、大きく分けて東大プロパー職員、文科省異動官職、エリア異動官職の3者が混在しているはずです。このような状況で東大プロパー職員にどのようなキャリアパスを提示できるかはなかなか難しい問題かもしれません。
一方、主査・専門職員の平均年齢が低下していることは、従来が"上がりのポジション"の一種だったものが、名称に合わせてスタッフ職化しているのかもしれません。あるいは、上が詰まっているので、一時避難的に係長級を昇進させている可能性も考えられます。
東京大学事務・技術職員平均給与の推移
上記のグラフより以下の点がわかります。
- 職位が上がるにつれ平均給与が高まること
- 平成16年度からの平均給与の変動は概ねの職位で+5%〜-10%程度であること
- 再雇用職員の平均給与が最も低いこと
- 非常勤職員の平均給与は年により変動していること
再雇用職員は時短勤務である可能性も高いですので、平均給与が低いことは容易に想像がつきます。非常勤職員は、前述と同様の理由でしょう。
想像していたよりも平均給与の変動が少ないなと感じています。また、職位間の平均給与の差は、等差ではなく等比的であるとも見えます。
その他雑感
今回は東洋経済オンラインのランキングへの対応という形でデータを整理しましたが、以前から、私立大学においても、このようにある程度職員の給与・報酬状況を公表してもいいのではないかな、と思っています。いまだに忘れることができない議論として、文科省の私立大学等の振興に関する検討会議第5回で以下のような審議がありました。
【濵口委員】
この中で,国立大学の学長経験者は私一人だと思いますので,ちょっと憎まれ役の質問をさせていただきたいと思います。それはですね,私,1年ちょっと前まで学長をやっていて,その実感で,本当に苦しんだことであります。それは何かというと,教員が間々にして私立大学へ移られるんですね。特に優秀な人材で,50代前半の,これから働き盛りというのが,ある日突然移るんですよ。年間,法学部なんて,もう何人と移るんですね。
これ,なぜかというのを,実は調べたんです,私。十分に情報公開がされているかどうか,ここの質問が1つなんですけど,やっぱり給与水準が随分違う。場合によっては,月収が4割ぐらい高いんですね。しかも,退職年限が70を超えていると。それは当然移るわけですね。
かつては国立大学は,それでもみんな安月給で働いていたのは,時間の自由があった。今は,実に繁忙を極めている状況があって,忙しさは変わらないと,一人一人聞いたんですよ。変わらないと。だから,給料のいいところへ移るのは当たり前でしょうと。
その移った先を聞いてみますと,場合によって,赤字になっているというお話のところが,表の給料以外に手当がいっぱい出ていて,学部長より高い人が結構あるんです。傾きかけていてもですね。そこら辺の情報公開と考えます。つまり,しっかりした管理運営ができているのか。(略)【小出委員】
御指摘ありがとうございます。
国立大学の実態,実情に関しては,私は十分知り得ません。今,濵口先生御指摘の点に関しては,特に給料実態の問題と退職金制度の問題,あと,階層性に基づくという,世界基準と,専門性の高いところと,地域貢献という三区分といいましたか,そのあたりの大学の運営に関わる側面に関しましては,十分なるデータを持ち合わせておりません。そこに学ぶ学生へのファンディングの視点から,意見を申し上げましたので,国立大学のこの間の取組などに関しては,承知はしておるところではありますが,お尋ねの私立大学の実態は存じ上げませんので,ちょっとコメントは控えさせていただきたいと思います。【濵口委員】
質問は,情報公開をしていただきたいということですね。本当の実態のある給与水準をですね。その上で,学生の支援の問題とは,これは別の問題です。経営として,これはきっちり議論しないと,話がまとまりませんですね。
全く何も質問に答えていないですよね。これで私学関係者への私の印象がだいぶ下がりました。最近は無邪気なイコールフッティング論を語る声は一時期ほどは聞かれなくなったかと思いますが、税金投入に際して給与水準の公表という点は重要だろうと考えます。現時点でも、私立大学等経常費補助金の算出根拠の一部には人件費に関する事項がありますので、私立大学職員の給与に税金が全く投入されていないとは、補助割合等や金額の多寡はあるとは言え、なかなか言い難いのではないかと思っています。
Ⅲ 経常的経費の算定
補助金算定の基礎となる私立大学等ごとの経常的経費は、次に定めるところによる。
1.専任教員等給与費
ア 学部等ごとにⅡの 1 による専任教員等の数に、専任教員等 1 人当たりの年間標準給与費の額(大学5,731 千円、短期大学 4,871 千円、高等専門学校 4,871 千円とする。)と私立大学等ごとの専任教員等 1人当たりの年間平均給与費(Ⅱの1の(1)及び(2)により補助金算定の基礎とした者のうち当該年度の前々年度の 1 月 1 日までに採用されたもので、かつ、当該年度の前々年度の 1 月 1 日から当該年度の前年度の 12 月 31 日までに給与が支給されている者の年間支給総額(当該年度の前々年度の 1 月 1 日から当該年度の前年度の 12 月 31 日までに支給される給与総額)の平均額とする。)とのいずれか低い額を乗じて得た金額とする。
2.専任職員給与費
ア 私立大学等ごとにⅡの 2 による専任職員の数に、専任職員 1 人当たりの年間標準給与費の額(3,601千円とする。)と私立大学等ごとの専任職員 1 人当たりの年間平均給与費(Ⅱの2の(1)及び(2)により補助金算定の基礎とした者のうち当該年度の前々年度の 1 月 1 日までに採用されたもので、かつ、当該年度の前々年度の 1 月 1 日から当該年度の前年度の 12 月 31 日までに給与が支給されている者の年間支給総額(当該年度の前々年度の 1 月 1 日から当該年度の前年度 12 月 31 日までに支給される給与総額)の平均額とする。)とのいずれか低い額を乗じて得た金額とする。
Ⅳ 補助金の基準額の算定
私立大学等を設置する学校法人に対する補助金の基準となる額は次に掲げる金額の合計額とする。
1.専任教員等給与費
Ⅲの 1 により算定した金額に 5/10 を乗じて得た金額
2.専任職員給与費
Ⅲの 2 により算定した金額に 5/10 を乗じて得た金額
学生や保護者への説明という点でもそうですし、教職員への就職、転職においても非常に重要な情報提供となり得ますので、是非とも給与水準の公表に取り組んでいってほしいと思っているところです。