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分野別質保証に思う 〜新たな大学評価の在り方〜

大学一般

 いまや「質保証」と言えば、大学を巡る一つのキーワードになっています。特に、「教育の質保証」は、認証評価をはじめとして全ての大学が避けて通れない事項ですね。全ての大学に受審が義務付けられている大学機関別認証評価で質保証と言った場合、個別の学部研究科ではなく大学全体として教育の改善をどのように行っているかという観点が大切になります。しかし、各分野において教育研究の手法や内容が異なる以上、大学全体のみではなく各教育研究分野の事情に合った質保証の在り方も検討されており、それは「分野別質保証」と言われています。

 平成16年度から始まった認証評価制度においては、専門職大学院を対象とした専門分野別認証評価がすでにあり、それも分野別と言えば分野別質保証の一部だと言えなくもないでしょう。ただ、どちらかと言えば、今言われている分野別質保証は学協会など同一分野内で行う外部評価という意味合いが強いと感じています。

分野別質保証は、平成20年度に中央教育審議会から出された「学士課程教育の構築に向けて(答申)」にて言及されました。

第2章学士課程教育における方針の明確化

第1節学位授与の方針について〜幅広い学び等を保証し,21世紀型市民にふさわしい学習成果の達成を〜

(4) 具体的な改善方策

【国によって行われるべき支援・取組】

◆ 国として,学士課程で育成する21世紀型市民の内容(日本の大学が授与する学士が保証する能力の内容)に関する参考指針を示すことにより,各大学における学位授与の方針等の策定や分野別の質保証枠組みづくりを促進・支援する。

◆ 将来的な分野別評価の実施を視野に入れて,大学間の連携,学協会を含む大学団体等を積極的に支援し,日本学術会議との連携を図りつつ,分野別の質保証の枠組みづくりを促進する。

 例えば,大学の個性化・特色化に伴う教育の多様性の確保に配慮しつつ,学習成果や到達目標の設定,コア・カリキュラムの策定,モデル教材やFDプログラムの研究開発などを促進する。あわせて,海外の先導的な事例に関する情報収集を行い,その成果を広く提供する。(P12) 

第3章学士課程教育の充実を支える学内の教職員の職能開発

1 教員の職能開発

(1) 現状と課題

①職能開発の重要性とその実質化
これまでの調査結果などを踏まえると,現在のFDの課題として,次のようなものが考えられる。

第六として,学協会による分野別の質保証の仕組みが未発達であり,分野別FDを展開する基盤が十分に形成されていない。(P39) 

第4章公的及び自主的な質保証の仕組みの強化

2 第三者評価

(2) 改革の方向

(イ)第三者評価制度の見直しに当たっては,分野別の評価をどのように進めていくかが重要な課題となる。分野別の質保証の枠組みづくりを進めつつ,分野別評価へどのように進化させ,普及を図っていくか,その場合,第三者評価制度との関連をどのように考えていくか,「評価疲れ」という批判もある中,機関別・分野別両者の効率的で実効ある評価の仕組みはどうあるべきか等について,十分な研究を行い,平成23年度からの第二期に向けた着実な準備を進めていくことが必要である。(P47)

6 大学団体等の役割

(1) 現状と課題

(ウ) これまでの累次の答申等において,学協会や大学団体に対し,分野別のコア・カリキュラムの策定,教員の職能開発プログラムの開発・実施,外部評価の推進に関する主体的な取組への期待が表明されてきた。その結果,例えば,大学関係者による自主的な分野別等の質保証の仕組みも見られる。また,近年,複数の大学が教育活動を連携して行う大学コンソーシアムの形成も活発化しており,これらは,大学間の質保証のための様々な取組を実施する契機となり得る。しかしながら,一部の分野において,そうした取組が見られるものの,総じて取組が低調であると言わざるを得ない。

(2) 改革の方向

(オ) このような大学団体等の役割に期待しつつ,その取組を促進し,かつ共通理解に立った対応がなされるよう,本年5月,文部科学省において,日本学術会議に対し,大学教育の分野別質保証の在り方について審議依頼を行っている。これにより,今後,各分野の学位水準の向上など質保証の枠組みづくりに向けた取組が積極的に進むことを求めたい。その審議に当たっては,大学の個性化・特色化に伴う教育の多様性の確保に配慮するとともに,学位に付記する専攻名称の在り方なども含めて,分野の捉え方にも検討が加えられることを期待したい。(P51)

第4章公的及び自主的な質保証の仕組みの強化

(3) 本章に関する具体的な改善方策

【国によって行われるべき支援・取組】

◆ 将来的な分野別評価の実施を視野に入れて,大学間の連携,学協会を含む大学団体等を積極的に支援し,日本学術会議との連携を図りつつ,分野別の質保証の枠組みづくりを促進する。大学の個性化・特色化に伴う教育の多様性の確保に配慮しつつ,学習成果や到達目標の設定,コア・カリキュラムの策定,モデル教材やFDプログラムの研究開発などを促進する。あわせて,海外の先導的な事例に関する情報収集を行い,その成果を広く提供する。また,産学官の連携に向けた対話の機会を設け,産業界の理解と協力を求める。(P53)

この流れを受け、日本学術会議にて、分野別質保証の検討が行われました。

大学教育の分野別質保証委員会|日本学術会議

 大学教育の分野別質保証委員会は、大学教育の分野別質保証に資するため、各分野の教育課程編成上の参照基準を作成するとともに、関連する事項について必要な審議を行うため、幹事会附置委員会として設置されました。

大学教育の分野別質保証の在り方について

 以上をまとめれば、「分野別の質保証」において取り組むべき課題は、「学士課程において、一体学生は何を身に付けることが期待されるのか」という問いに対して、「学士力」が求める普遍性と、各分野に固有の特性との双方を踏まえつつ、専門分野の教育という側面から一定の基準となるものを提示する枠組みを構築し、実際に個々の分野について基準を提示することにあると 言えよう。(P2)

 以上を踏まえて、新たに構築される分野別の質保証枠組みの基本的な役割は、最も中核的な意味において、すべての学生が基本的に身に付けるべきことを同定し、これを「教育課程編成上の参照基準」として各大学に提供することであると考える。(P4)

 参照基準の具体的な構成要素については次節で述べるが、これらは、教育課程の編成が上記のようなプロセスを経てなされるべきであるとの認識の下に、実際に教育課程を編成する上で、プロセス全体の参考となるよう提示するものであり、個々の授業科目の直接的な開設指針として供するものではない。また、参照基準は、あくまで一つの「出発点」として、分野の理念・哲学並びに中核的要素の同定に留まるものであり、それにどのように肉付けをし、具体化を図っていくかは各大学の手に委ねられるものでなければならない。さらに、教育課程が、独自の体系性と学術的な意義とを備えたものとして、社会や学生に対して十分に説明が可能なものであれば、独自性の高い教育理念を有する大学が、参照基準を利用しないということも否定されるべきではないと考える。(P5)

 日本学術会議は、分野別質保証の構築という問いかけに対し、学生が身につけるべき基本的な能力等を参照基準として定めるという回答を行い、各分野で策定を進めるとしました。参照基準自体は各大学に強制するものではなく、あくまで参考であるというスタンスのようです。

 現在までに定められている参照基準は以下のとおりです。

 また、専門職大学院等で示されている主なモデル・コア・カリキュラム等を下記に示します。現状でどこまで決まっているのかわかりにくいものもある点に留意が必要です。

 参照基準はあくまで参考であるのは、教授の自由に配慮したためでしょう。しかし、このような取り扱いであると、各大学で参照基準に沿ったカリキュラムが編成されているか確認することの意味合いが薄れ、分野別質保証という意義が曖昧になるなと感じます。一方、いろいろ話を聞いていると、医師養成など国家試験に直結している分野についてはかなりカリキュラムの共通化が進んでおり、学協会などによる外部評価が行われる予定であると聞きます。その最たるものが、医学教育にかかる国際認証への対応なのでしょう。本件については、弊BLOGでも言及してきたところです(2023年問題に思う 〜医学教育の新たな地平〜 - 大学職員の書き散らかしBLOG)。

 今後は「分野」という概念がもっと前面に出てくるのではないかと考えています。中央教育審議会でも、大学教育の質的転換を促すための 大学教育の質保証の在り方に関する中長期的な検討課題例として、

学位プログラムへの移行 ・組織ごとの収容定員に基づく教員組織、校地校舎等の基準から、学位プログラムに基づく基準への転換

ということが掲げられています。学部学科体制からの転換ということでなかなかイメージにしにくいところですが、この場合の学位とはつまり分野のことでしょう。教育組織と教員組織の分離もこれに関連してきそうですね。

 これまで、分野別質保証は大学全体の評価の文脈の中ではあまり触れられてこなかったという印象があります。特に、複数の分野が存在する総合大学においては、外部評価等各部局で勝手にやっていたという現状があるのではないでしょうか。だからこそ、大学全体の認証評価等においても、各部局において教育活動に差があることが明らかになったりするわけです。

 しかし、考えてみると、各分野において特性が異なる以上、これは当然のことのようにも感じます。大学全体の教学活動としての取り組みや各学部研究科での取り組みを整理し、それらを縦糸と横糸のように織り込みながら、大学全体の質保証を行う設計をすることが大切でしょう。その中で、分野別質保証とは各大学の特色を担保するものになると思います。本来、最も「役に立つ」評価とは、自分たちが尊敬する者を評価者に選んで行う外部評価であると思います。その意味で、立命館大学が全ての学部・研究科において外部評価を進めているということは、非常に理にかなったことではないでしょうか。認証評価や国立大学法人評価などの第三者評価のコストをうまくコントロールしながら、外部評価などを用いた分野別質保証を行うことが、新たな大学評価の在り方の一つではないかと考えています。