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2023年問題に思う 〜医学教育の新たな地平〜

大学一般

 世の中には、「○○年問題」と言われるものがたくさんあります。代表的なものは2000年問題(Y2K)でしょう。年号下二桁がゼロになり処理上問題が発生するため、様々な問題が生じると当時は言われていましたね。それほど大きな問題は起きなかったように記憶しています。最近では、地上アナログ放送が終了する2011年が記憶に新しいです。

 そんな「○○年問題」ですが、大学業界においても「2023年問題」があることは一部関係者を除いてあまり知られていません。

日本の名医が海外流出? 医学部受験の基準が変わる「2023年問題」

 2023年からは、地球上のすべての国の医学部の学生に対して、アメリカが決めたグローバルスタンダード教育規定に沿った医学教育を修了した者が医師としてアメリカで働くことを許可されるようになります。アメリカの話だから日本には関係ないだろうと思われるでしょうが、すでにアメリカは日本の医学部にもグローバルスタンダードに沿った教育改革を選択することを打診していると聞いています。もちろん拒否はできますが、これが将来の日本の医師育成にどう影響してくるかは大問題です。約10年先のことではありますが、医学部の6年間教育を考えるとすぐ目の前にある教育改革です。

 米国の医師免許取得には、大きく分けて2段階あります。まず、Educational Commission for Foreign Medical Graduates(ECFMG:NGO団体)が実施するUnited States Medical Licensing Examination(USMLE)を受験し、この試験に合格します。その後、米国各州において医師免許を取得します。(※米国は各州において医師免許を発行しています。)この流れは、下記BLOGにて詳しく記載されています。

Eng"R"ishman in New York: アメリカで医師免許を獲得するまで USMLE and Beyond

 日本だと医師国家試験に合格すればすぐに医師免許がもらえ、日本全国どこでも医療行為ができます。アメリカはちょっと違います、というかすごく違います。アメリカは試験に合格したからといって医師免許は自動的に手に入りません。さらに州ごとに医師免許を申請しないといけません。日本とアメリカの医師免許を両方持つEng"R"ishmanが以下に医師免許試験と、試験合格から免許取得までのプロセスについて述べさせて頂きます。

 しかし、ECFMGは、米国医師免許取得の第一段階であるUSMLEの受験に際し、2023年から、アメリカ医科大学協会(AAMC)または世界医学教育連盟(WFME,WHOの下部組織)の基準により認証を受けた医学部卒業生以外の受験を認めないと言ってきました。米国の医師の質を保証するためのようです。当該宣言は、ECFMGのHPにも掲載されています。

ECFMG | Medical School Accreditation Requirement

Medical School Accreditation Requirement for ECFMG Certification
ECFMG® has announced that, effective in 2023, physicians applying for ECFMG Certification will be required to graduate from a medical school that has been appropriately accredited. To satisfy this requirement, the physician’s medical school must be accredited through a formal process that uses criteria comparable to those established for U.S. medical schools by the Liaison Committee on Medical Education (LCME) or that uses other globally accepted criteria, such as those put forth by the World Federation for Medical Education (WFME).
2023年には、ECFMG Certification (※アメリカで臨床を行う資格の証明書。前述の第一段階合格に当たる。)の発行に際し、発行を受ける者が適切な認証を受けたメディカル・スクールを卒業した者であることを要件とします。このため、各メディカル・スクールは、米国のLiaison Committee on Medical Education(LCME)の基準やWorld Federation for Medical Education(WFME)のような国際的に認められた基準に相当するような認証基準を用い、公式な手続きによって認証を受ける必要があります。

 今までは、Foundation for Advancement of International Medical Education and Research(FAIMER)のInternational Medical Education Directory(IMED)に登録されている医学部を卒業していれば申請できたわけですし、大きな転換であると言えます。なお、IMEDには日本の医学部を持つ大学が全て登録されています。

ECFMG 2014 Information Booklet - Application for ECFMG Certification

If you are a medical school graduate, you will be asked to confirm that you are a graduate of a medical school located outside the United States and Canada that is listed in IMED and that your graduation year is included in the school’s IMED listing. To confirm that you meet these requirements, access IMED through the ECFMG website.

IMED - FAIMER International Medical Education Directory - Search Results

 文部科学省資料によれば、日本の医科系大学を卒業した者でUSMLEを受験している者は、年50名以上100名未満といったところです。
平成24年度国公私立医学部長・医学部附属病院長会議資料1

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 ただし、毎年100名に満たない者のために大騒ぎしているわけではありません。日本の医学教育の質が世界水準になっていないことは日本の医療の停滞にも繋がりかねないですし、医学系留学生の受け入れにも影響がでる可能性があります。特に、国際基準と比較すると、我が国では診療参加型臨床実習の比重が軽いと言われているようですし、これは医療の質に直結する問題だと思います。

 このような状況に対し、国や医学界はすでに行動を起こし、来たるべき2023年に対し着々と取組を行っています。文部科学省は、大学改革推進等補助金として「医学・歯学教育認証制度等の実施」を採択し、医学・歯学ともに国際基準の認証評価制度構築に向けて支援を行っています。

「基礎・臨床を両輪とした医学教育改革によるグローバルな医師養成」

 また、全国医学部長病院長会議や日本医学教育学会等より、日本医学教育認証評価評議会(Japan Accreditation Council for Medical Education: JACME)が結成され、「世界医学教育連盟(WFME)グローバルスタンダード準拠 医学教育分野別評価基準日本版」が作成されました。今後は、数大学によるトライアル評価をスタートさせ、徐々に各大学へ実施範囲を広めていくようです。

世界医学教育連盟(WFME)グローバルスタンダード準拠、医学教育分野別評価基準日本版

藤崎和彦先生(岐阜大学医学部医学教育開発研究センター)インタビュー - インタビュー

 当該基準の中身を少し見てみます。当該基準は、9領域とその下位に位置する36の下位領域で構成されています。

1.医科大学の使命と目標
1 . 1 使命と目標の開示
1 . 2 使命と目標策定への参画
1 . 3 大学の自律性
1 . 4 教育成果
2.教育プログラム
2 . 1 カリキュラムと教育方略
2 . 2 科学的方法
2 . 3 基礎医学
2 . 4 行動科学と社会医学および医療倫理
2 . 5 臨床医学と技能
2 . 6 カリキュラム構造、構成と教育期間
2 . 7 プログラム管理
2 . 8 臨床実践と医療制度の連携
3.学生評価
3 . 1 評価方法
3 . 2 評価と学習との関連
4.学生
4 . 1 アドミッションポリシーと入学者選抜
4 . 2 学生の受け入れ
4 . 3 学生支援とカウンセリング
4 . 4 学生の教育への参画
5.教員
5 . 1 任用指針
5 . 2 教員に関する指針
6.教育資源
6 . 1 施設・設備
6 . 2 臨床実習のための資源
6 . 3 情報通信技術
6 . 4 研究
6 . 5 医学教育専門家
6 . 6 教育の交流
7.プログラム評価
7 . 1 プログラム/カリキュラム評価体制
7 . 2 教員と学生からのフィードバック
7 . 3 学生の実績・成績
7 . 4 教育関係者の参画
8.管理運営
8 . 1 統括
8 . 2 教学におけるリーダーシップ
8 . 3 教育予算と資源配分
8 . 4 管理職と運営
8 . 5 保健医療機関との交流
9.継続的改良
※領域と下位領域の関連は必ずしも1 対1ではなく、複雑に連関する。(WFME見解)

 大学機関別認証評価の大学評価基準と同じような領域もありますが、4.4や7.4は学生の参画を求めるなど、少し発展的になっていると感じる部分もあります。

4 . 4 学生の教育への参画
基本的水準:医科大学・医学部は、カリキュラムの計画、運営、評価、および他の学生関連事項への学生の参画についての方針を持たなければならない。

7 . 4 教育関係者の参画
基本的水準:プログラム評価には、医科大学・医学部の管理運営者、教職員、学生が関与しなければならない。

 文部科学省資料を見ると、こちらも概ね大学機関別認証評価と同様のスケジュールで実施されるようです。ただ、現地視察調査が4日間程度と比較的長いという印象を持ちました。

学部長会議等配付資料:文部科学省

医学系出身国立大学長懇談会(平成25年11月5日)
外部評価(現地視察調査)

JACME委員を中心に、約6名の評価委員が医学部を視察調査する。
日程:
月曜日午後:委員が集合、調査方針討議
火~木曜日:医学部関係者と討議(自己点検評価報告書の確認、質疑)、講義・実習等視察
金曜日午前:評価委員が報告書作成、医学部教職員を集めて講評
報告書を医学部に送付、フィードバック
医学部からの応答を経て、最終報告書作成、公開

 ここまで、医師免許や医学教育に関する国外及び国内の動向を確認しました。国外からの影響(いわゆる「黒船」)により、日本の医学教育が大きく転換を迫られていることがわかります。実は、獣医学教育についても、同様の動きがあります。(と言っても、獣医師免許に関わるほどシビアな状況ではないと思いますが。)今回は詳しく触れませんが、こちらの動きも注視しています。

 コア・カリキュラムの策定など、数年前から分野別の質保証の動きが加速していると感じています。第2期教育振興基本計画においても、「高度専門人材の育成に向けて,大学及び高等専門学校における分野別質保証の構築・充実に向けた取組を促進する。」と記載されています。その延長での分野別評価の流れなのでしょう。

 ただ、大学はすでに自己点検・評価の実施や認証評価の受審が義務付けられており、それに加え国立大学法人には毎年度及び6年間に一度の国立大学法人評価を受けなければなりません。大学全体としての評価活動が複数あるなかで、分野ごとの評価をどのように位置付けていくかというのはなかなか難しい問題だと思います。そんなこと大学内の制度の中で整理しろと言われればそれまでなのですが、国や学会等において評価設計をする者がそれをどの程度考えているかは不明です。

 さらに、医学部や獣医学科など、いわゆる免許学部と言われているような部局の教育は、その出口であるところの国家試験等と密接に関連しています。法科大学院の例を見るまでもなく、教育内容のみ進展しても国家試験内容がそれに付いてこなければ、非常に本末転倒なことになるでしょう。今回の医学教育認証は教育内容というよりは教育の枠組みの話がメインだという印象ですのでそのようなことはないと思いますが、努々気をつけなければならないと思っています。

 このような管理コストが増大する流れには非常に危機感をいただいています。重複する評価制度が並列するようならば、各学部等においては分野別認証評価や外部評価、法人本部においては国立大学法人評価というように、対応する評価制度を限定して目標・計画を作っていく必要を感じています。