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大学通信教育設置基準の改正に思う 〜後続は現れるのか〜

大学通信教育設置基準の改正について:文部科学省

次の事項について,理由を添えて諮問します。 

大学通信教育設置基準の改正について

(理由)

    平成24年4月に構造改革特別区域推進本部で決定された「構造改革特別区域において講じられた規制の特例措置の在り方に係る評価・調査委員会の評価意見等に関する今後の政府の対応方針」においては,「インターネット等のみを用いて授業を行う大学における校舎等施設に係る要件の弾力化による大学設置事業」について,教員と学生との対面性を補完し得る方策などインターネット大学に関する課題について,専門的な見地から十分な検討を行った上で,平成25年度中を目途に全国展開を行うこととされている。

    このため,別紙のとおり,大学通信教育設置基準の改正を行う必要があるので,学校教育法第94条の規定に基づき標記の諮問を行うものである。

 文部科学省HPに大学通信教育設置基準の改正に係る諮問が公表されていました。インターネット等のみを用いて授業を行う大学について校舎等面積の基準を緩和するというのが改正の趣旨です。

大学通信教育設置基準

大学通信教育設置基準(昭和五十六年十月二十九日文部省令第三十三号)

(校舎等の施設)

第十条  通信教育学部を置く大学は、当該学部に係る大学設置基準第三十六条第一項 に規定する校舎を有するほか、特に添削等による指導並びに印刷教材等の保管及び発送のための施設(第三項において「通信教育関係施設」という。)について、教育に支障のないようにするものとする。

2  前項の校舎等の施設の面積は、別表第二のとおりとする。

3  昼間又は夜間において授業を行う学部が通信教育を併せ行う場合にあつては、大学は、通信教育関係施設及び面接授業を行う施設について、教育に支障のないようにするものとする。

4  図書館の閲覧室には、通信教育を受ける学生の利用に支障のないよう相当数の座席を備えるものとする。 

大学設置基準

大学設置基準(昭和三十一年十月二十二日文部省令第二十八号)

(校舎等施設)

第三十六条  大学は、その組織及び規模に応じ、少なくとも次に掲げる専用の施設を備えた校舎を有するものとする。ただし、特別の事情があり、かつ、教育研究に支障がないと認められるときは、この限りでない。

一  学長室、会議室、事務室

二  研究室、教室(講義室、演習室、実験・実習室等とする。)

三  図書館、医務室、学生自習室、学生控室

2  研究室は、専任の教員に対しては必ず備えるものとする。

3  教室は、学科又は課程に応じ、必要な種類と数を備えるものとする。

4  校舎には、第一項に掲げる施設のほか、なるべく情報処理及び語学の学習のための施設を備えるものとする。

5  大学は、校舎のほか、原則として体育館を備えるとともに、なるべく体育館以外のスポーツ施設及び講堂並びに寄宿舎、課外活動施設その他の厚生補導に関する施設を備えるものとする。

6  夜間において授業を行う学部(以下「夜間学部」という。)を置く大学又は昼夜開講制を実施する大学にあつては、研究室、教室、図書館その他の施設の利用について、教育研究に支障のないようにするものとする。 

 元々、卒業に要する124単位全てをインターネット等通信教員で取得する大学というのは、平成13年から設置可能になっていました。ただ、その場合でも、通常の大学と同様に校地校舎などの基準が設けられ、例え授業がインターネット等であっても学長室等は大学設置基準に準じて設置しなければいけません。実際、校地校舎が適切でないとして、設置が不可になった大学もありました(それだけが原因ではありませんが。。。)。旭インターネット大学院大学を「不可」とする理由:文部科学省

構造改革特別区域推進本部

 構造改革特別区域推進本部は、各地域の特性に応じて規制の特例措置を定めた構造改革特別区域を設定し、教育、農業、社会福祉などの分野における構造改革を推進し、地域の活性化を図り、国民経済を発展させることを目的として、平成14年12月18日、構造改革特別区域法に基づき設置された組織です。

 このような状況の中、規制緩和の一環として、構造改革特別区域制度(特区制度)により、平成16年に「インターネット等のみを用いて授業を行う大学における校舎等施設に係る要件の弾力化による大学設置事業」(特区832)が設けられるとともに、文部科学省関係構造改革特別区域法第三十四条に規定する政令等規制事業に係る省令の特例に関する措置を定める省令が公布され、特区のインターネット大学において校地校舎の面積基準が緩和されることとなりました。そのような背景の下設置されたのが、サイバー大学及びビジネスブレイクスルー大学です。なお、同制度を活用した大学院については、現在まで設置されていません。

通信制大学 | サイバー大学 | オンラインでITとビジネスを学び、大学卒業資格(学士号)を取得できる

BBT大学(ビジネス・ブレークスルー大学) | 大前研一の通信制オンライン大学

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kouzou2/hyouka_chousa.html

構造改革特別区域において講じられた規制の特例措置のあり方に係る評価・調査委員会の評価意見等に関する今後の政府の対応方針(平成24年4月9日)

 規制所管省庁によると、特区計画の履行状況については、2つの認定特区のうち、平成21年度の調査において問題点が指摘されていた1特区において一定の改善が図られているとのことであった。また、図書館やコミュニケーションのためのスペース不足や充実の必要性等の課題について、学生・教員双方から少なからず指摘されている状況である。一方、評価・調査委員会の調査では、時間的・地理的制約を超えた専門教育を受ける機会を提供することによる人材育成がはかられていることが確認された。

 また、校舎等施設の維持整備にあてる資金を教員の人件費に回すことによって、教授陣及び研究活動の充実が図られ、雇用創出効果等の経済的効果があることも確認された。以上を踏まえ、大学については、規制所管省庁の指摘のとおり改善すべき課題は依然残っているが、評価・調査委員会として、全国展開を視野に課題を検討することは重要であると考える。

 したがって、規制所管省庁において、教員と学生との対面性を補完しうる方策などインターネット大学に関する課題を克服する方策について、専門的な見地から十分な検討を行った上で、平成25年度を目途に全国展開を行う。

大学通信教育等における情報通信技術の活用に関する調査研究協力者会議:文部科学省

大学教育部会 議事要旨・議事録・配付資料:文部科学省

 特区832については、平成24年の構造改革特区推進本部にて、全国展開することが決定されています。そのため、今回の大学通信教育設置基準の改正となったわけです。なお、改正にあたっては、大学通信教育等における情報通信技術の活用に関する調査研究協力者会議及び中央教育審議会大学分科会大学教育部会で審議されたようです。ここまでの流れを簡単に図にまとめておきました。文部科学省というよりは、官邸に置かれた構造改革特別区域推進本部から流れがスタートしていることがわかります。

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大学通信教育等における情報通信技術の活用に関する調査研究協力者会議(第1回) 配付資料:文部科学省

 同協力者会議第1回配付資料には、参考資料として、大学通信教育等に関する基礎資料があります。これを見ると、大学通信教育学生数(学部)はH23:173,645人(18-22歳:15,288人、23-29歳:36,115人、30-39歳:46,157人、40-49歳:37,001人、50-59歳:20,501人、60-歳:18,583人)であり、44大学が学部の通信教育課程を設置しています。なお、国立大学では設置されていないようです。思ったよりも規模が大きいなと言うのが率直な感想です。

 また、中央教育審議会大学分科会大学教育部会(第27回)配付資料3-2において、改正にあたっての留意事項が以下のとおり示されています。

1.校舎等の施設について

 校舎等の施設の面積基準を満たさない場合であっても、当該大学の教育研究に必要な校舎等を備えること(第10条第1項に規定する教室・研究室・図書室・等の校舎等は備える必要があること)

 卒業要件内で面接授業を行いたい場合は、従来通り校舎等の施設の面積基準を満たす必要があること

2.学生への支援について

 インターネット等を利用して行う授業の特性を踏まえ、学生に対する技術面・教育面での十分な支援を行うとともに、学生の心理面への十分な配慮が必要であること

学生のうち、特に社会人経験のない者への十分な配慮が必要であること

3.対面性の補完について

 対面性を補完するための方策として、個々の学生の総合的な能力や学習成果を確認すべきと考えられる場面に絞って、教員と学生本人の一対一のやりとりが可能となる同時双方向の手段を適切に導入すること

 1.について、卒業要件124単位の中で面接等対面授業を行う場合、つまり対面授業が必修単位の場合は、改正の適応除外になるようです。これについて、協力者会議の報告書では以下のとおり記載があります。

 まず,学外で行われる実習,実地調査など「校地校舎を使用しない面接授業であれば,卒業要件である124単位の中で実施してもかまわない」との意見が提示された。具体的には,大学通信教育設置基準における校舎等の面積基準は,校舎等を使用した面接授業の実施に十分な面積の確保を求めるために設定されたものであることから,実習,実地調査などに係る面接授業を学外で行う場合は校舎面積が問われることはないのではないか,との主張もあった。また,大学通信教育の実施分野の多様性を促すため,大学通信教育において実施できる教育分野が限定されないようにすべきであり,卒業要件内であっても,一定の条件の下に面接授業の実施を認めるべきではないかとの意見もあった。 

 しかしながら,協力者会議の議論では,インターネット大学について特例を認めたのは,単にこうした形態の大学の設置を促すのみならず,インターネットを活用した様々な教育手法を現出させるという目的もあったことに鑑みれば,安易に従来型の面接授業の実施を認めることは適切ではないが,「卒業要件である124単位の外であれば,面接授業を実施しても差し支えない」とする意見が大勢を占めた。

 なんだかわかるようなわからないような、釈然としない気持ちがあります。面接授業を必修単位の中で認めてしまうと、従来通りその担保としての校地校舎が必要になるという理解もわかります。一方、先んじて設置されたサイバー大学の学生へのアンケート調査から、「教員と対面でコミュニケーションをとる施設が不十分」という回答が多くあったようです。

 2.について、協力者会議の報告書では以下のとおり記載があります。

 一方,「インストラクショナルデザイナーの配置」については,これを常勤の者とするかどうかの別はさておき,インターネットによる授業の設計,配信等に係る専門的知識を有する者を配置し,その技術・能力を活用できる体制を整えておくことが必要であると考えられることから,インターネット大学の質を保証するためにも,何らかの規定を置くべきとする意見が多かった。また,基本的には教員と学生とが対面せず,インターネット環境を通じて密なコミュニケーションを取る中で教育活動・学習活動を積み重ねていくというインターネット大学としての特質に照らせば,取組の方向性として,少なくとも教育的・技術的なサポート体制については,しっかりとこれを整備するよう求めるべきとの意見も強く主張された。 

 このほか,インターネット大学の設置目的の一つとして,社会人向け教育の充実が掲げられているが,実際には高校を卒業した後,社会人を経験せずにこれらの大学に入学してくる者も相当数あるのが現状である。これらの者は,人格形成の途上にあると考えられることから,大学として彼らに対する適切な指導をしてもらう必要があることに鑑み,委員から,インターネット大学について,教育課程外で,面接や集団活動の機会を設ける等,特に社会人経験のない者に対する教育上の配慮を欠かさぬよう求めることが望ましいとの意見が出た。 

 インストラクショナルデザイナーという言葉は、「学士課程教育の構築に向けて(答申)」(平成20年12月24日 中央教育審議会)にも登場しました。

 加えて,新たな職員業務として需要が生じてきているものとしては,インストラクショナル・デザイナーといった教育方法の改革の実践を支える人材が挙げられる。また,研究コーディネーター,学生生活支援ソーシャルワーカー,大学の諸活動に関する調査データを収集・分析し,経営を支援する職員といった多様な職種が考えられる。国際交流を重視する大学であれば,留学生受入れ等に関する専門性のある職員も必要となろう。

インストラクショナルデザイン - Wikipedia

 インストラクショナルデザイン(英: instructional design、あるいはインストラクショナルシステムデザイン)は、教育の場などにおいて、学習者の自由度を保ったままで高い学習効果が生じることを意図して、具体的な計画を立てることである。

 インストラクショナルデザイナーの養成と言えば、熊本大学大学院社会文化科学研究科教授システム学専攻が思い浮かびます。

教授システム学専攻

 特に通信教育では、学びの仕掛け作りが通常の大学よりも大切になるため、このような人員の配置が必要となるのでしょう。ただ、心理面での配慮、社会人経験のない学生への配慮については、通信教育という枠組みの中で具体的にどのような対応が取れるのか、面接や集団活動など例は挙がっているものの、今ひとつハッキリとしないところです。しかも、前述の通り、これらは必修単位外あるいは正課外に行われることになるでしょう。

 3.について、協力者会議の報告書では以下のとおり記載があります。

 これらの意見を踏まえ,協力者会議としては,毎回の授業,全ての授業科目においてではなく,卒業試験や卒業論文,卒業制作に係る指導など,学位の授与に際し,個々の学生の総合的な能力や学習成果を確認すべきと考えられる場面に絞って,教員と学生本人の一対一のやりとりが可能となる同時双方向の手段を適切に導入するよう求めるべきではないか,とする意見が大勢を占めた。 

 特に通信教育においては、本人確認は通常の大学よりも厳密に行われるべきなのは言うまでもありません。過去、サイバー大学は、本人確認をせずに単位を付与していたという疑いももたれていました。

「サイバー大学」本人確認せず 不正に卒業資格取得する恐れ : J-CASTニュース

 「一度も通学することなく学士の資格が取得できる」。こんな触れ込みでスタートしたインターネット大学「サイバー大学」(福岡市、吉村作治学長)が、在校生620人のうち180人もの本人確認をしていないことがわかった。本人はなにもせず、他人に勉強させて大卒の資格だけ取る、といった不正行為が横行する恐れがあるわけだ。この中には既に卒業資格に関わる単位を得ている人もいる、という報道もあり、文部科学省は同大学に改善指導をする方針だ。

サイバー大学、在学生の本人確認について | プレスリリース 2008年 | 大学案内 | サイバー大学 | オンラインでITとビジネスを学べる通信制大学

 すべての授業をインターネットで行う日本初の4年制大学「サイバー大学」(所在地:福岡市、学長:吉村作治)では在学生の本人確認を進めており、2008年1月21日(月)時点で、正科生620人のうち440人の本人確認が終了しています。(中略)なお、サイバー大学では、本人確認ができていない学生への単位認定は行っていません。2007年度に入学した在学生については、2008年3月末に行う教授会にて、成績および本人確認の実施状況を審議して単位認定を行います。また、現時点で文部科学省からの改善指導も受けておりません。 

「本人確認せず単位付与」は事実誤認、サイバー大学の吉村学長が会見

 サイバー大学は21日、同大学が学生の本人確認をせずに単位を認定していたと報じた読売新聞の記事に対して、単位認定の事実を否定した。同日に開かれた会見で学長の吉村作治氏は、本人確認が遅れている事実は認めたものの、「記事の内容は全くの事実誤認」と強調。記事による風評被害で入学者が減ることも想定されるとして、読売新聞社に法的手段を検討する考えを示した。 

 なにが事実なのかはわかりませんが、少なくとも本人確認が円滑に行われていたとは言い難い状況であったことは間違いないようです。このあたりが協力者会議でどのように議論されたのか、気になるところです。

 近年は、各所から大学に対して様々なことが要求されています。教育関係だけ考えてみても、キャリア教育、アクティブラーニング、質保証などがパッと思い浮かぶところです。インターネット大学も、その役割は基本的には通常の大学と変わりませんので、これらの取組を推進しなければなりません。既存の通信教育課程がこのような課題にどのように対応しているのかもそうですが、新たにできるインターネット大学は特にその対応に注目されることと思います。124単位を習得させる教育において、インターネット大学がどのように教育効果を上げられるのか、特区の後に続く大学は出てくるのか、気になるところです。