講習開設機関担当者から見た教員免許更新制の課題
教員免許の更新、講習に申し込み殺到 定員超えで追加開講の大学も|下野新聞「SOON」
教員免許の更新に必要な講習への申し込みが殺到し、受講しにくい状況が全国で発生している。2009年に更新制度が始まり、その制度で免許を取得した教員が本格的に更新時期を迎えたため、例年より更新対象者が増えた。県内は約3千人の更新対象者に対し、およそ1400人分の講習が不足しているという。更新しなければ教員免許が失効する事態に、宇都宮大は「異例の申し込みの多さ」として講習の追加実施を決めた。
教員免許状更新講習の不足に関しての記事が出ていました。栃木県のことではありが、全国的に同様の状況であることは弊BLOGでも指摘したところです。
広島県で教員不足 公立小・中学校など35校 | 教育新聞 電子版
県教委によると県内の35校で、臨時採用の教員26人、非常勤講師12人の合わせて38人の教員が不足していた。このうち呉市の吉浦中学校では、18年度当初に必要な教員を確保することができず、国語と理科の授業を予定通り実施することができなかった。
教員の不足についても数年前から全国各地で表出化してきました。この一因として教員免許更新制が導入されたことを指摘する方もいます。
ドキュメント「教員免許失効」~更新を忘れた教師の末路(田中 圭太郎) | 現代ビジネス | 講談社(1/4)
しかし、この制度が導入されてから、更新を忘れて免許を失効する教員が後を絶たないのだ。去る4月24日には、滋賀県の公立小学校の40代女性教諭が、手続きを忘れ免許失効となり、失職したことが発覚した。「間抜けな話」と片付けるのは簡単である。だが、その責任は本人だけにあるのか。実際に免許を失効した職員に話を聞いてみると、意外な落とし穴が見えてきた。
教員免許状の更新手続き(免除申請)を忘れあわや失効というケースも紹介されています。
私は教員免許状更新講習の開設機関担当者として、受講対象者である学校教諭や免許管理者である教育委員会、講習開設機関である他大学、教職員組合などに属する様々な当事者の方と、更新講習についていろいろな話を重ねてきました。そんな中で、教員免許状更新講習による教員免許更新制の課題をいろいろと感じているところです。今回はそれを書き記します。
教員免許状更新講習による教員免許更新制の課題
講習の開講数や開講定員が保証できない
弊BLOGでもたびたび述べていますが、更新講習で最も重要な要素は定員(正確に言えば受け入れ人数)です。更新講習には学校教諭の職業人生がかかっており、講習内容も大切なのですが、まずは講習を受けなければ話になりません。
更新講習を開設できる機関は教育職員免許法及び免許状更新講習規則で定められています。
(免許状更新講習)
第九条の三 免許状更新講習は、大学その他文部科学省令で定める者が、次に掲げる基準に適合することについての文部科学大臣の認定を受けて行う。
(講習開設者の資格)
第一条 教育職員免許法(昭和二十四年法律第百四十七号。以下「免許法」という。)第九条の三第一項各号列記以外の部分に規定する文部科学省令で定める者は、次に掲げる者とする。
一 免許法第五条第一項に規定する養護教諭養成機関、免許法別表第一備考第二号の三及び第三号に規定する教員養成機関、免許法別表第二の二備考第二号に規定する栄養教諭の教員養成機関並びに教育職員免許法施行規則(昭和二十九年文部省令第二十六号。第九条第一項第一号において「免許法施行規則」という。)第六十四条第一項の表の下欄及び同条第二項の表の第四欄に規定する特別支援学校の教員養成機関
二 都道府県又は地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市若しくは同法第二百五十二条の二十二第一項の中核市の教育委員会
三 国立大学法人法(平成十五年法律第百十二号)第二条第四項に規定する大学共同利用機関
四 前三号に掲げる者のほか、文部科学大臣が指定する者
また、教員免許更新制の実施に係る関係省令等の整備について(通知)(平成20年4月1日)では、講習の開設者として、教員養成の課程を有する大学がまず想定されています。
教員養成の学部を置く大学をはじめとして教員養成の課程を有する各大学におかれては、教員免許更新制の目的である最新の知識技能の修得の場としての役割を果たすことについて、各地域において大きな期待が寄せられているところであり、免許状更新講習の開設に格段の取組をいただきますようお願いいたします。
第4 教育職員免許法及び教育職員免許法施行規則の改正並びに免許状更新講習規則の制定に関する留意事項
3 免許状更新講習規則の制定関係
1.講習の開設者に関する事項(更新講習規則第2条関係)
免許状更新講習の開設主体については、主に教員養成の課程を有する大学をはじめとする大学が想定されるものであり、都道府県、指定都市又は中核市の教育委員会(以下「都道府県等の教育委員会」という。)が免許状更新講習の開設を行うのは、教員養成の課程を有する大学における開設が不十分な場合、十年経験者研修等の現職研修の一部をなす講習を免許状更新講習として実施する場合、都道府県等の教育委員会が免許状更新講習の内容等について特に優れた知見を有している場合等、講習を開設する必要が特にあると都道府県等の教育委員会が判断する場合であること。
現状の講習開講を見ると、大学や短期大学が最も開講数が多く、その後に教育委員会や専門学校、各種法人と続くといった感じでしょうか。ただし、対面講習の開講状況を見ると、増加した受講希望者に十分に対応できていないことは以前の記事でも紹介したところです。
大学にとっては、社会貢献活動の一部(場合によっては自己収入確保の一手段)として講習を開講していると考えられます。ただし、それは教育活動や研究活動よりも必ずしも優先されるものではありません。全ての大学が教員研修の全てに責任を負っているわけではなく、自らが可能な範囲以内で開講しているに過ぎないのでしょう。各大学を取り巻く環境が厳しくなっている中で、大学が開講する講習の数や定員は保証されているものではないと考えます。
学校教育に関する職種が多様になってきたため対象者の判断が困難
更新講習は誰でも受講できるわけではなく、受講対象者が法令で定められています。
(免許状更新講習)
第九条の三 3 免許状更新講習は、次に掲げる者に限り、受けることができる。
一 教育職員及び文部科学省令で定める教育の職にある者
二 教育職員に任命され、又は雇用されることとなつている者及びこれに準ずるものとして文部科学省令で定める者
(講習を受講できる者)
第九条 免許法第九条の三第三項第一号に規定する文部科学省令で定める教育の職にある者は、次に掲げる者であって、普通免許状若しくは特別免許状を有する者、普通免許状に係る所要資格を得た者、教員資格認定試験に合格した者、免許法第十六条の三第二項若しくは第十七条第一項に規定する文部科学省令で定める資格を有する者又は教育職員免許法施行法(昭和二十四年法律第百四十八号)第二条の表の上欄各号に掲げる者とする。
一 校長、副校長、教頭、実習助手、寄宿舎指導員、学校給食法(昭和二十九年法律第百六十号)第七条に規定する職員その他の学校給食の栄養に関する専門的事項をつかさどる職員のうち栄養の指導及び管理をつかさどる主幹教諭並びに栄養教諭以外の者並びに教育委員会の事務局において学校給食の適切な実施に係る指導を担当する者並びに免許法施行規則第六十九条の三に規定する幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校又は就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律(平成十八年法律第七十七号)第二条第七項に規定する幼保連携型認定こども園(以下「幼保連携型認定こども園」という。)(次項第一号において「学校」という。)において専ら幼児、児童又は生徒の養護に従事する職員で常時勤務に服する者
二 指導主事、社会教育主事その他教育委員会において学校教育又は社会教育に関する専門的事項の指導等に関する事務に従事している者として免許管理者が定める者
三 国若しくは地方公共団体の職員又は次に掲げる法人の役員若しくは職員で、前号に掲げる者に準ずる者として免許管理者が定める者
イ 国立大学法人法第二条第一項に規定する国立大学法人及び同条第三項に規定する大学共同利用機関法人
ロ 地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第六十八条第一項に規定する公立大学法人
ハ 私立学校法(昭和二十四年法律第二百七十号)第三条に規定する学校法人
ニ 社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)第二十二条に規定する社会福祉法人(幼保連携型認定こども園を設置するものに限る。)
ホ 独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人であつて、文部科学大臣が指定したもの
四 前三号に掲げる者のほか、文部科学大臣が別に定める者
2 免許法第九条の三第三項第二号に規定する文部科学省令で定める者は、次に掲げる者であって、普通免許状若しくは特別免許状を有する者、普通免許状に係る所要資格を得た者、教員資格認定試験に合格した者、免許法第十六条の三第二項若しくは第十七条第一項に規定する文部科学省令で定める資格を有する者又は教育職員免許法施行法第二条の表の上欄各号に掲げる者とする。
一 学校の校長、副校長、教頭又は教育職員であった者であって、教育職員となることを希望する者(前項第一号から第三号までに該当する者を除く。)
二 次に掲げる施設に勤務する保育士(国家戦略特別区域法(平成二十五年法律第百七号)第十二条の四第五項に規定する事業実施区域内にある施設にあっては、保育士又は当該事業実施区域に係る国家戦略特別区域限定保育士)
イ 就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律第二条第六項に規定する認定こども園(幼保連携型認定こども園を除く。)
ロ 児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第三十九条第一項に規定する保育所
ハ 児童福祉法第五十九条第一項に規定する施設のうち同法第三十九条第一項に規定する業務を目的とするもの(幼稚園を設置する者が設置するものに限る。)
三 教育職員に任命され、又は雇用されることが見込まれる者
例えば、現在学校教諭として働いておらず、過去においてもそうではない/今後においてもその予定がない者は更新講習を受講することができません。
教員免許更新制の実施に係る関係省令等の整備について(通知)(平成20年4月1日)
6.講習の受講対象者について(更新講習規則第9条関係)
免許状更新講習の開設者は、受講申込時に、受講申込を行う者が更新講習規則第9条に規定する受講対象者に該当するか否かについて、証明者が証明した書類の提出を求めることなどにより確認すること。
この受講対象者であるかの判断は一義的には講習開設機関が行うこととなっています。ただ、最近の受講者の状況を見ていると、学校支援員や児童支援職など、この対象者に該当するのか自明ではない者が増えていると感じています。これは学校教育に関する職種が多様化しているためと思われますが、市町村教育委員会での制度運用や登用も多く、確認に苦労します。
この判断について、そもそも当該職種がどのような特性なのか(教員免許状が必要な職種なのか、その根拠は何か、更新講習受講対象者なのか、など)、教育委員会自身も明確に判断できないこともありました。講習対象者、というよりは”講習を受講できない者”を文部科学省が今一度明確にし教育委員会等に通知すべきではないかと感じています。
幼保関係者の受講が急増している一方、幼保に関する講習の開講が困難
目的
教員免許更新制は、その時々で求められる教員として必要な資質能力が保持されるよう、定期的に最新の知識技能を身に付けることで、教員が自信と誇りを持って教壇に立ち、社会の尊敬と信頼を得ることを目指すものです。
※ 不適格教員の排除を目的としたものではありません。
免許状更新講習の受講対象者の拡大について
このたび、「子ども・子育て支援法及び就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律の一部の施行期日を定める政令(平成25年政令第193号)」が平成25年6月26日に公布され、同年7月1日に施行されるとともに、平成25年8月8日より「免許状更新講習規則の一部を改正する省令(平成25年文部科学省令第23号)」が公布され、同日から施行されます。
この改正省令では、幼稚園教諭免許状を保有している認可保育所の保育士が、免許状更新講習を受講できるよう、受講資格が拡大されました。
幼稚園教諭免許状を所持する者として、認定こども園や幼稚園、保育所勤務者も更新講習を受講することができます。保有免許状ごとの受講者数は公表されていませんが、保育所勤務者、特に幼稚園教諭二種免許状のみを所持する受講希望者が増加しているように感じています。
従前より、教員免許更新制は小中高特別支援学校の学校教諭を主眼においた制度ではないかと思っていました。そんな中で、幼保の受講者が増加することは、講習の内容などを検討し直さなければなりません。そもそも、幼保の講習を担当できる者が少なく、場合によっては講習の開設自体が困難なのではないかと考えられます。
学校種 | 本務教員数 | 合計 |
---|---|---|
幼稚園 | 118,095 | 1,359,190 |
幼保連携型認定こども園 | 86,905 | |
小学校 | 459,155 | |
中学校 | 293,086 | |
義務教育学校 | 2,007 | |
高等学校 | 307,019 | |
中等教育学校 | 3,352 | |
特別支援学校 | 89,571 | |
保育所型認定こども園 | 39,571 | 2,081,335 |
保育所 | 2,041,764 |
上記の表は、各学校種の本務教員数を示したものです。幼稚園から特別支援学校までは文部科学統計要覧(平成30年版)から、保育所型認定こども園以降は平成28年社会福祉施設等調査から数値を拾いました。ここから、学校教諭より保育所勤務者の方が合計数が多く、講習受講対象者のうち過半数が保育所勤務者であると考えることもできます。保育所勤務者全員が講習を受講するわけではありませんが、幼保連携型認定こども園への移行が増加していることもあり、幼稚園教諭免許状を有効にしておきたい保育所勤務者は相当数に上ると想像しています。
このような状況の中、各大学において幼保関係者に有益な講習を開講することは、当該大学の教育研究上の特性もあり、遍く全ての機関で対応できません(個人的には、講師がいないという問題が大きいのではないかと思っています)。また、幼保の受講希望者の急増に対応できる程度のキャパシティも必ずしも持ち合わせているとは限らないでしょう。職場環境や組織構造など小中高学校教諭と大きく異なる状況にある幼保関係者の講習受講への対応は、かなり難しい問題なのではないかと思っています。
一担当者として、上記のような課題を毎日感じながら業務に当たっています。それでは、これを解決するにはどのような対応策が考えられるでしょうか。
対応策
更新講習以外による免許更新を可能とする
免許更新制は教員職員免許法で定められており、それを廃止するためには法改正が必要です。一般的に、法改正は現状の制度をより良くするためになされるため、建前論として良い話だと思われやすい免許更新制を廃止することは難しいのではないかと思っています。そのため、免許更新制を廃止するのではなく、免許更新の要件を更新講習受講以外にも広めるべきではないか、ひいては更新講習を受講せずとも免許更新を可能とできないかと考えています。
「その時々で求められる教員として必要な資質能力が保持されるよう、定期的に最新の知識技能を身に付けることで、教員が自信と誇りを持って教壇に立ち、社会の尊敬と信頼を得ることを目指す」という教員免許更新制の目的は、果たして現在の更新講習の受講による免許更新により達せられているのでしょうか。また、現在教壇に立っている者と過去教職経験者、教員採用見込み者が同じ講習を受けることが最も良い方法なのでしょうか。例えば現職教員は更新講習受講以外の方法で免許更新を可能とするなど、更新講習によらない免許更新制を検討しなければ、持続可能な免許更新制を構築できないかもしれません。
国としてe-Learning教材を開発しテストを各地で行う
特に幼保関係の講習開講を確保するため、教職員支援機構などが学校種別にe-Learningによる更新講習を開発することも考えられます。その上で、機構等から送られたテスト用紙を用いて各大学等でテストを実施し回答用紙を機構へ返送するといった、大学入試センター試験に近しい方式により講習を開講することもあり得るのではないでしょうか。各大学にとっては、講師の調達や内容の調整、申し込みの処理が最も手間がかかるところです。それを除いてテストのみ担当するとなれば、各大学も手を挙げやすくなるでしょう。
これらの対応策は一担当者の妄想でありますが、なんにせよ、現状を見ていると教員免許更新制は持続可能な制度であるとは思い難いところがあります。何かしら抜本的な対応をしなければ、学校教諭も各大学等も不幸になるのではないかと案じています。