教員免許状更新講習は受講希望者を十分に受け入れられない。
そろそろ夏季に開講される教員免許状更新講習の申し込みが終わりかけた頃でしょうか。本年度及び来年度は旧免許状所持者の第10グループが受講年度に該当しますが、第10グループは昭和59年4月2日以降に生まれた者全てを含むことや新免許状所持者が受講し始めるため、更新講習を受講する対象者が増加する見込みです。文部科学省からも講習の積極的な開講について各機関へ通知が来ているところです。例えば、YAHOO!リアルタイム検索で「教員免許状更新講習」「教員免許更新」などと検索すると、講習の定員がすぐに埋まるなどの発言が見受けられます。(不思議なのは、「教員免許状更新講習」ではなく「教員免許更新講習」と入力している方が多いことです。)
弊BLOGでも、教員免許状更新講習が受講希望者を受け入れられるのか、懸念を示してきたところです。
平成30年4月10日付事務連絡にて、文部科学省から各大学や教育委員会等に対し、第3回までに認定された講習の状況と受講対象者推計との比較が連絡されました。各都道府県別に比較されていましたので、どの程度受講希望者を受け入れられる余地があるのか、検討してみます。なお、第3回までの認定ですので今後の講習が増えることが予想されますが、概ね夏季に行われる講習は第3回までに認定されることが多いと思いますので、とりあえずこの夏の状況であると考えてよいかと思っています。
必修領域講習、選択必修領域講習、選択領域講習に分け、都道府県別の状況を示します。青い棒が第9グループと第10グループの受講対象者数推計値の平均値(一年間の受講対象者推計)、赤い棒が第3回までに認定された講習の都道府県別の総定員、黒い線がその差です。なお、対面講習のみを表示しました。
これらを見ると、黒い線が0より下にある都道府県、つまり受講対象者推計よりも講習の総定員が少ない講習が多いことがわかります。
必修領域講習 | 選択必修領域講習 | 選択領域講習 | |
---|---|---|---|
"総定員>受講対象者推計の平均"である都道府県 | 14 | 19 | 18 |
"総定員<受講対象者推計の平均"である都道府県 | 33 | 28 | 29 |
表で整理しても、過半数の都道府県において受講対象者推計よりも講習の総定員が少ないですね。つまり、対面講習では、受講希望者を十分に受け入れられる余地がない都道府県が多いと言えます。
さらに厄介な問題もあります。ここで言う第9グループと第10グループの受講対象者数推計がどのように算出されたものかはわかりませんが、もしこれが更新講習受講義務者である現職教員を中心とした数値であるならば、これ以外にも、受講可能者である保育所勤務者や教員勤務経験者、すでに修了確認期限を超過した者などが受講することも考えられ、受講者がさらに増加する可能性があります。
特に、私の感覚では、保育所で勤務する幼稚園教諭二種免許状を所持する者の受講がかなり増加するのではないかと思っています。これらの者は、小中高等学校を中心とする学校教員とは職務内容や職場環境などが大きく異なり、従来の講習内容や対応等でこなすにはなかなか難しいところがあるのではないでしょうか。そもそも、幼保の専門家の数も小中高のそれほど多くないとも思われ、教育委員会も所掌範囲外である部分があるため、講習の開設自体が困難であることが容易に想像できます。
必修領域講習 | 選択必修領域講習 | 選択領域講習 | |
---|---|---|---|
受講対象者数推計の平均(A) | 125,131 | 125,131 | 125,131 |
対面講習の総定員(B) | 96,389 | 107,600 | 106,221 |
通信・放送・インターネット等による講習の総定員(C) | 54,730 | 195,340 | 130,768 |
受講希望者推計と総定員との差(B+C-A) | 25,988 | 177,809 | 111,858 |
一応、通信・放送・インターネット等による講習を含めれば、受講対象者推計を大きく上回る数の定員が確保されています。ただし、通信・放送・インターネット等による講習の多くは、講習受講ではそれらの手段を用いますが、評価試験はどこかしらの現地で行います。つまり、通信・放送・インターネット等による講習と言えども全国どこからでも受講できるわけではなく、受講者にとってはある程度地理的な制約が課せられます。単純に通信・放送・インターネット等による講習があるから大丈夫という話ではないでしょう。評価試験の開催場所を踏まえ、通信・放送・インターネット等による講習を受講希望者に対して案内する必要があります。
受講希望者と話をすると、近場の対面講習での受講を望まれる方が多いという印象を受けます。特に、大都市圏以外でその傾向が顕著なのではないかとも思います。講習の担い手は大学や教育委員会が多いですが、特に大学においては様々な事情により本務である教育研究等活動に対するコストが上昇しており、そのうえで更新講習を拡充するというのはかなり困難なところがあります。
本年度来年度あたりが受講者数のピークかとも思いますが、学校教員の定年延長の話もあり受講者は常に一定数以上存在します。各大学が今後も受講希望者数に見合った一定数以上の講習を提供し続けられる保証はどこにもないと思っていますし、更新講習により免許を更新する現在の制度も厳しい局面に入ったのではないかと考えています。