職員と学生の関わりに思う 〜非学務系職員は学生と関われるのか?〜

 早速ですが、私には大学職員である上での負い目があります。それは、学生と関わったことがほとんどないということです。大学は学生のためにあるという言説は理解できるし納得もできるのですが、それを切実感を持って語れないことは経験年数が上がってくるにつれてちょっと危機感を抱いているところです。

 私自身の負い目を一般化するわけではありませんが、もしかして私立大学に比べて国立大学は学生に接したことのない職員が多いのではないかと考えています。勤務校を見ても日常的に学生に接する位置にいる職員は全職員の概ね1,2割程度だと推測していますし、大学の規模が大きくなるにつれてさらにこの割合は低下するでしょう。従来、国立大学は行政機関の一部であり、人事や財務、総務などの内政部局にウェイトをかけていた可能性が考えられ、その状況が法人化以降もなかなか変わっていないのではないかと思っています。(このあたりの状況を研究した論文があればいいのですが、見つけられませんでした。)

 例えば大学本部の財務部署の職員などは平常業務中に学生と関わる機会はほとんどないと推測できますが、大学の構成員として学生はその一角を成すため、全く学生を意識しないということはやはり職員として不健全なのではないでしょうか。また、学生との関わりにより、職員のコミュニケーション力、目的・目標設定と問題解決力、マネジメント力、リアルな学生実態把握が養成されるという研究結果もあります*1。ということで、私自身の整理も兼ね、普段全く学生を接することがないであろう国立大学の職員(大学本部の職員など)が学生と接する機会を少し具体的に考えてみます。

1.授業での関わり

 最近では授業の中で職員と学生が関わる機会が増えています。例えば、キャリア教育科目の中で職員が話をすることやインターンシップ等での職員の引率などが各大学で行われていますね。また、職員が学生とともに授業を受講することも考えられますし、事実私はそれを体験しました(大学職員が講義を履修してみた。)。

 ただ、これは各大学の教育課程にも依りますし、該当する授業等があったとしてもなかなか非学務系職員には声がかかりにくいとも推測できます。たとえ学生の中に飛び込む気があったとしても、なかなかチャンスはないかもしれませんね。

2.学生参画型FDでの関わり

 近年は学生が参画したFDいわゆる「学生FD」が行われる大学も増えています*2。有名なところでは立命館大学でしょうか。

 学生FDは通常参加者を制限するものではないと思いますので、予定が合えば参加することは可能だろうと思います。また、職員の参加者はそれほど多くないと思いますので、一度参加すれば継続して案内が来るなど比較的つながりやすいのではないでしょうか。

 実際に私も学生FDに参加し学生や教員とグループディスカッションなどを行い、その後も機会があればそのような場に参加し続けています。学生FDは業務時間内に行われる場合と業務時間外に行われる場合の両方がありますが、可能ならば事前に自分の上司やFDを担当している部署に一声かけておいてもいいかもしれませんね。

3.サークル活動での関わり

 特に私立大学では、学生のサークル活動の顧問やコーチを職員が務めるという話を聞きます。これは自校出身職員が多いということもあるのでしょう。しかし、国立大学で同様の取組が行われているという話はほとんど聞きません。あるいは、自校出身職員が個人的に出身のサークル活動に関わるということもあるかもしれませんが、少なくとも国立大学ではあまり一般的なケースではないと推測します。

4.その他、職員と学生が関わる組織的な取組

 各大学の個別事例になりますが、職員と学生との接点を増やす取組を積極的に行っている大学もあります。例えば、早稲田大学では実践型産学連携プロジェクト プロフェッショナルズ・ワークショップとして、職員と学生と企業とが連携して実践型教育プロジェクトを実施しています。以前、これを担当されている早稲田大学の職員の方に話を伺った際には、本プログラムの模式図では大学と学生と企業が連携することが示されているが実質的に大学側はほとんど職員で対応していること、職員の立候補制にしていること、平常業務とは別に各自で対応していることなどを聞きました(数年前の状況なので現在は異なるのかもしれません。)。普段学生と関わりのなさそうな部署の職員もメンバーに含まれていましたので、職員と学生との接点を増やす役割もあるのだろうと推測します。

 また、高等教育情報誌Between2011.12-2012.1月号には、愛知東邦大学の取組として、

 学生とほとんど接点のない職員は「学生に話しかけ隊プロジェクト」で 昼食時に学食で隣に座った学生に話しかけたり、携帯電話で撮影した写真のコンテストや新入生歓迎の餅つき大会 を学生と一緒に行ったりするさまざまなプロジェクトを企画した。これらのプロジェクトは、通常のルーチンワークの発想だけでは生まれない職員の自由な取り組みに結びつき、学生の学ぶ意欲を引き出すことに大いに貢献した。また、かかわった学生たち、特に「おまえはその程度」と言われてきた学生は、職員や学生同士の人間関係を通して、「自分も期待されているんだ」「役に立つんだ」という実感を得て、大学で学ぶ楽しさを考えるようになってきた。(P11)

ということが紹介されています。文中にあるとおり学生とほとんど接点のない職員でプロジェクトを行い学生自身の成長も得られたという点でとても興味深い取組だと思いますし、なんとか本学でも取り込めないかと考えています。

 ここまで、普段全く学生を接することがないであろう国立大学の職員(大学本部の職員など)が学生と接する機会を考えてみました。思いつくままに記載したためMECEというわけではありませんが、それにしてもどれだけ意欲があったとしても機会としての接点は少ないなと思いました。しかし、逆に言えば、SDなどでこのあたりにニーズがあるのかもしれないなとも感じています。非学務系職員に提供するSDプログラムとしても学生と協働する取組を検討することは価値があるのではないでしょうか。

 今回は職員と学生の関わりについてどのような機会があるのかを考えましたので、どのような既存の取組がありそこにどのように参画できるかという視点で検討を行いました。そうではなく、新規に場を設定するということ、極端な話を言えばキャンパス内で学生に声を掛ければ学生と関われるだろうという話も・・・ちょっとないかもしれませんがあるかもしれません。機会を設定することは自分のみならず他の職員に対しても効用を提供することになり、職員の能力開発の一環としてもとても意義があることだと思います。その際は、非学務系職員のみではプログラムの構築は困難ですので、学務系職員や場合によっては学生も加え、プログラムを作成することになるでしょう。SDプログラムの作成自体が職員の能力開発につながることになり、良い効用を生むのではないかと考えています。

 ただ、やはり単発のプログラムにしても、その関わりを維持し学生に対する意識を涵養するには限界があるでしょう。以前、愛媛大学は採用直後の職員を必ず学務系部署に配属するという人事方針であると聞いたことがあります(現在は不明です。)。このように、職員のキャリアの中で学生とどのタイミングでどのように関わらせていけるのかというのは、職員の人事施策の中で検討していくことがまずもって必要なのでしょう。