地域における国立大学の役割に思う その5

(続く)

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 図17及び図18に、有識者調査及び自治体調査における大学院就学への対応の回答を示します。図17が有識者調査の結果、図18が自治体調査の結果です。図17から、各大学とも概ね同じ傾向であり、8割程度の有識者は原則として大学院就学を認めていないことがわかります。有識者の職場ではまだまだ当該地方国立大学への大学院就学は進んでいないということでしょう。てっきり規模が大きくプログラムが多い広島大学は別の傾向が出るかと思っていたのですが、そのように成らなかったのはまた別の要因があるのでしょう。

 一方、図18では、香川大学に異なる傾向が現れていることがわかります。総じて、自治体から香川大学大学院への就学は比較的前向きに捉えられているということでしょうか。香川大学には、所謂ビジネススクールである大学院地域マネジメント研究科が設置されており、自治体等からも社会人学生を受け入れているようです。この取組が認知されているのかもしれません。

 ここまで5回に渡り、国立大学協会政策研究所が作成した「地域における国立大学の役割に関する調査研究」の結果を、報告書から読み解いてきました。ここまでの結果から、比較をした4大学もしくは3大学において、各大学の特色も一部見られながらも、概ね同様の認識傾向を示していることがわかります。ここから、調査対象となった大学以外の地方国立大学における本調査結果の適応性が示唆されます。

 私としては、地域連携の課題について、地方自治体側も問題意識を感じていることが明らかになった点に注目しています。これまで、大学における3つ目の機能は社会貢献でありどんどん地域連携をしなければならないという文脈の上で、地方国立大学はリソースを投入して地域連携にとり組んできました。しかし、本調査結果を受け、必ずしも全てがうまくいっていないというのは、大学側のみではなく自治体側の受入体制にも依るところもあるのではないかと考えています。自治体側の問題に大学がどのように介入できるかは難しいところです。

 また、人口減少による地方消滅・地方自治体消滅の話もあり、従来の大学自治体間協定を基にした地域連携について、その在り方の転換が必要ではないでしょうか。大学が行う地域連携とは教育研究活動を元ネタとすることが基本であり、その教育研究活動は各教員が行っています。様々なリソースが縮小していく中で、実績のある現場レベルでの地域連携をどのように見つけ増やすか、大学としてピックアップするかという点がこれから重要なのではないかと考えています。

 本報告書の第1章では、平成14年以降の国立大学における地域連携を振り返り、その課題を1.立地する地域の問題と2.大学側のみの資源の持ち出しと指摘するとともに、地域と国立大学は互恵的で対等な関係の構築にあたらなければならないとしています。大学は地域の便利屋ではなく、地域の課題全てに関わることは不可能です。大学としてどのような点に力点を置いて地域貢献をするのか、それにより地域はどのように良くなるのか、またそれに際し地方自治体はどのような在り方で臨んでほしいのか、大学は地方自治体に対し何を求めるのかという特定領域における大学の関わり方を明らかにしつつも、各教員が自主的にとり組んでいる事業を保護し必要に応じて拡充支援していくという両輪体制で今後の地域連携に臨んでいくことが必要なのでしょう。