改正学校教育法等に思う 〜審議過程から分かること、分からないこと〜

教授会役割限定 改正学校教育法など成立 NHKニュース

 学長主導で大学改革を進めるため、多くの大学で事実上の意思決定機関となってきた「教授会」の役割を限定するなどとした改正学校教育法などが、20日の参議院本会議で可決・成立しました。改正学校教育法と改正国立大学法人法は、急速なグローバル化が進むなかで、各大学が国際競争力を高めていくため、学長のリーダーシップの下で、それぞれの強みや特色を生かした運営ができるよう、大学の組織の規定や学長の選考の在り方を見直すものです。

 以前弊BLOG記事(学校教育法及び国立大学法人法の改正案に思う 〜結局、教授会は何を話し合うのか〜 - 大学職員の書き散らかしBLOG)でも触れました学校教育法及び国立大学法人法人法改正が成立したというニュースが出ていました。施行は平成27年4月からです。

 文部科学省の成立法ページ(第186回国会における文部科学省成立法律(平成26年1月24日~):文部科学省)には未だ掲載されていませんが、衆議院法制局のページ(第186国会衆法情報|衆議院法制局)によれば、当初政府案から一部修正が行われたようです。

(当初政府案)
第九十三条 2 三 前二号に掲げるもののほか、教育研究に関する重要な事項で、学長が教授会の意見を聴くことが必要であると認めるもの
(修正後)
第九十三条
三 前二号に掲げるもののほか、教育研究に関する重要な事項で、教授会の意見を聴くことが必要なものとして学長が定めるもの

 教授会に意見を聞く事項を予め学長が定めるようにしたようです。おそらく、この「定める」過程において教授会等の意見を聞くことになるのでしょう。つまり、想像ですが、教授会の意見を聞く事項を、教授会に意見を聞いた上で、学長が定めることになると思います。

 さらに、衆議院参議院での審議において、附帯決議 がついています。

学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律案に対する附帯決議
 政府及び関係者は、本法の施行に当たり、次の事項について特段の配慮をすべきである。

一 憲法で保障されている学問の自由や大学の自治の理念を踏まえ、国立大学法人については、学長のリーダーシップにより全学的な取組ができるよう、学長選考会議、経営協議会、教育研究評議会等をそれぞれ適切に機能させることによって、大学の自主的・自律的な運営の確保に努めること。

二 私立大学の自主性・自律性・多様性、学問分野や経営規模など各大学の実態に即した改革がなされるよう配慮すること。

三 学校教育法第九十三条第二項第三号の規定により、学長が教授会の意見を聴くことが必要な事項を定める際には、教授会の意見を聴いて参酌するよう努めること。

四 国立大学法人の経営協議会の委員の選任や会議の運営に当たっては、学内外の委員の多様な意見を適切に反映し、学長による大学運営の適正性を確保する役割を十分に果たすことができるよう、万全を期すこと。

五 学長の業務執行状況のチェック機能を確保すること。

六 教育の機会均等を保障するため、国立大学の配置は全国的に均衡のとれた配置を維持すること。

七 国のGDPに比した高等教育への公的財政支出は、OECD諸国中最低水準であることに配慮し、高等教育に係る全体の予算拡充に努めること。

学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律案に対する附帯決議 平成二十六年六月十九日参議院文教科学委員会
 政府及び関係者は、本法の施行に当たり、次の事項について特段の配慮をすべきである。

一、学校教育法第九十三条第二項第三号の規定により、学長が教授会の意見を聴くことが必要な事項を定める際には、教授会の意見を聴いて参酌するよう努めること。

二、憲法で保障されている学問の自由や大学の自治の理念を踏まえ、国立大学法人については、学長のリーダーシップにより全学的な取組ができるよう、学長選考会議、経営協議会、教育 研究評議会等をそれぞれ適切に機能させることによって、大学の自主的・自律的な運営の確保に努めること。

三、学長選考会議は、学長選考基準について、学内外の多様な意見に配慮しながら、主体性を持って策定すること。

四、監事の監査、学長選考組織による選考後の業務評価等学長の業務執行状況のチェック機能を確保すること。

五、国立大学法人の経営協議会の委員の選任や会議の運営に当たっては、学内外の委員の多様な意見を適切に反映し、学長による大学運営の適正性を確保する役割を十分に果たすことができるよう、万全を期すこと。

六、本法施行を受け、各大学等の学内規則の見直しと必要な改正が円滑に行われるよう、説明会の開催等関係者に改正の趣旨について周知に努めること。

七、私立大学の自主性・自律性・多様性、学問分野や経営規模など各大学の実態に即した改革がなされるよう配慮すること。

八、大学力を強化するため若手研究者や女性の登用が積極的に行われ、若手研究者等の意欲を高める雇用形態が整備されるよう、その環境の整備に努めること。

九、国のGDPに比した高等教育への公的財政支出は、OECD諸国中、最低水準であることに留意し、高等教育に係る予算の拡充に努めること。

 本法案は、衆議院文部科学委員会及び参議院文教科学委員会にて、実質的な審議が行われました。参議院文教科学委員会の議事録は未だ公表されていませんが、衆議院文部科学委員会の議事録は公表されています。当該法案の審議が行われた衆議院文部科学委員会第20号(平成26年5月23日(金曜日))、第21号(平成26年6月4日(水曜日))、第22号(平成26年6月6日(金曜日))の議事録の中から、特に気になった質疑を抜粋します。なお、前述の修正案は第22号の際に提出されましたので、それ以前と以後で質疑応答の前提条件が異なっている可能性があります。

第186回国会 文部科学委員会 第20号(平成26年5月23日(金曜日))

 今回の法律改正におきましては、九十三条の教授会に関する規定の中で、教授会が教育研究に関する事項について、その字義どおり審議することを規定するとともに、決定権者である学長に対して意見を述べる関係にあることを明確にしたところでございまして、これによって、大学における権限と責任の一致が明らかになるものと考えております。(吉田高等教育局長)

 学教法改正案の趣旨を述べた部分です。以下、3回に渡り、いたるところに「権限と責任の一致」という文言が出てきます。つまり「権限と責任の一致」が本改正案のポイントであろうと推測できます。ただし、ここでいう「権限」とは何か、「責任」とは何かという点については、以降あまり言及されていないように感じました。

 国立大学の学長選考会議の関係でございますけれども、大学のミッションを実現できる適任者を獲得するために必要となる、学長に求められる資質能力の明示が事前に十分になされていないとか、事実上、教職員による投票の結果を追認するような例が見受けられるなど、一部には、主体的に選考を行っているとは言いがたい状況があるという指摘がなされております。このため、今回、学長選考は、学長選考会議が定める基準により行うことを定めることによりまして、学長選考会議による主体的な選考を促進する必要があると考えております。学長選考会議みずからが大学のミッションを見通した上で、求めるべき学長像を明確に示した基準を定めることで、大学のミッションや社会のニーズに照らして、ふさわしい候補者の選定がより容易になるものと考えております。(吉田高等教育局長)

 法人法改正案の学長選考に関して述べた部分です。学長選考会議が主体的に選考を行えということだと思いますが、現行では外部委員が入り数度しか行われていないことが多いため、なかなか主体的にと言われても想像し難いところです。また、基準を定めることにより選定がより容易になるかどうかもわかりませんね。

 まさに大学力は国力そのものでありまして、大学が変わらなければ、大学そのものが地盤沈下するということだけでなく、日本そのものも地盤沈下していくということにつながっていくのではないかと思います。我が国の大学力を強化するために、大学の教育研究について量的な拡大と質的な向上をともに進めていくことが重要課題であると考え、その方向性を明確に示す必要があると思います。このため、さまざまな課題を抱える大学の従来の教育研究のあり方やマネジメントのあり方などを抜本的に見直し、大学改革を力強く進め、優秀な学生を育てる、また、海外からも優秀な学生を集めるような、そういう知的基盤の中心として日本の大学が世界の中で十分戦っていけるような環境づくりをバックアップしてまいりたいと思います。(下村文部科学大臣

 そうですね、私もそう思います。だからこそ、国費投入をもっと拡充してほしいと思っています。

 一つ具体的な例を挙げますと、東京工業大学、ここでは、項目だけですけれども、教授会の議事録をホームページで公表する、こういうことを行っておりまして、現にこうした大学も出てきていることから、国としても教授会の情報公開を促進するような支援をするべきである、このように考えますが、御見解を伺いたいと思います。(稲津委員)
 既に、御指摘ありましたが、一部の大学においては、教授会の議事概要や審議事項等をホームページで公開するなど、教授会の情報公開の動きも出始めており、各大学や学部等が積極的に教授会における審議内容の透明化を進めていくことが期待をされるところであります。(下村文部科学大臣

 私自身も何ヶ月か前に発見した際オッと思ったのですが、かなり以前から東京工業大学は教授会議事概要を公表しています。(教授会議事要録 | 学内規則に基づき公表する情報 | 情報公開 | 東工大について | 東京工業大学)教授会議事録は行政文書開示請求の対象となりますし、予め公表しようと思えばできるということですね。それにしても、他国立大学ではなかなか見ない取組です。

 御指摘のように、現行の学校教育法施行規則第百四十四条では、「学生の入学、退学、転学、留学、休学及び卒業は、教授会の議を経て、学長が定める。」と規定をしております。今回の学校教育法改正案では、学生の入学、卒業につきまして、学長が決定を行うに当たり教授会が意見を述べるものとしたところでございまして、本改正法案が成立した際には、その法律との関係をよくよく見きわめて、この施行規則の見直しを行う必要があるものと考えております。(吉田高等教育局長)

 やはりというか、当然というか、施行規則は見直されるようですね。

 その「その他文部科学省令で定める事項」としては、学長選考会議が学長選考の基準に照らして選考した学長を適切というふうに判断をした理由、選考の結果誰を選んだというだけではなくて、なぜその方が選ばれたのかという理由を明示していただくということ、それから、学長選考会議で行われた選考のプロセス、どういった過程を経てその方が選ばれたのかというこのプロセス、これにつきまして公表していただくよう、その省令の内容を固めていきたいというふうに思っております。(吉田高等教育局長)

 学長選考における公表事項は、今後省令検討が行われるようです。理由とプロセスは、恐らく確定でしょうか。

 今回の法律改正は、学長選考会議などの国立大学法人の組織が果たすべき役割を明確化するものでありまして、学長に新たな権限を付与するものではありませんが、もとより、学長はその権限を適切に行使する必要があります。このため、御指摘のとおり、学長の業務に対するチェック機能が重要であり、その仕組みとして、監事による監査や、自己点検・評価、認証評価等の評価、学長選考会議による業務執行状況の評価等が可能となっております。(下村文部科学大臣

 この部分は看過できません。学長のチェックツールとして「自己点検・評価、認証評価等の評価」が挙げられています。両評価は確かに目標に対する達成度評価的側面も含んでおり、見方によっては目標を達成できたかどうかは学長の業績評価であるとも言うことができます。ただ、基本的には法人や大学、各組織の評価であり、学長の業績評価まで含んだ設計はなされていないはずです。

 ただでさえ、日本の大学評価には水準判定、達成度判定など複数の判定方法、改善や行政判断など複数の役割が入り交じって、実質的な効力が低い状態にあります。その上、学長の業績評価まで役割に含むとなると、もはや誰に対して誰に役立つ評価なのかは分からなくなるでしょう。どのような意図でこのような答弁になったのか知りたいところです。

 ところが、今回の改正案を見ますと、審議会が指摘したこの四項目のうちの一と二、つまり、学位の部分と学生の部分のみが改正案には盛り込まれた。なおかつ、教授会の審議を十分に考慮してという文言が採用されずに、法律の改正案の中では、「意見を述べるものとする。」という表現にとどまったというふうに思います。つまり、中教審のまとめに比べると、今回の改正案というのは、教授会の役割、権限がより限定的に、かつ、いわば曖昧にされたようにも思うんですが、どういう事情でまとめと改正案が違ってきたのか、どういう理由でそうされたのか、お伺いしたいと思います。(吉田委員)
 限定的との御指摘でありますが、中教審の審議まとめで挙げられた事項のうち、3の教育課程の編成、それから4の教員の教育研究業績の審査につきましては、これは各大学において多様な実態があることから、法律上はあえて規定をせずに、大学に対する新たな法律上の義務については限定的にしたという経緯がございます。また、曖昧との御指摘もありましたが、第九十三条第二項第三号は、教育研究に関する重要な事項で、学長が教授会の意見を聞くことを必要と認めるものと規定しておりまして、学長の裁量に基づいた運用を可能としたものであります。(下村文部科学大臣

 学教法改正案と答申との違いについて、特に教授会の権限が縮小されているのではないかという質疑です。ちょっと答弁が分かりにくいですが、むしろ法律上に定めないことにより大学側の自由度を増した、つまり運用上教授会の権限を保持できるようにしたということでしょうか。この論点は、以降も出てきます。

 今回の改正の趣旨は、学長が大学における最終的な決定権者であることを明確化するものでありまして、その趣旨を踏まえ、各大学において、内部規則やその運用の点検を行い、今回の改正の趣旨にのっとって必要な見直しの検討がなされるものと期待をしているところであります。(下村文部科学大臣

 明治大学学部教授会規程では「教授会は議決する。」となっているが、という問いに対する答弁です。基本的に、規程は見直しされることになるのでしょうね。各大学に強制しませんよというニュアンスはいかにも国会答弁らしいと感じます。

 当然ですが、教授会そのものの存在を否定しているわけでは全くないわけでありまして、我が国の大学の教育力や研究力は、教員一人一人、そしてその総体としての教授会が高い次元で教育研究に取り組むことができるかにかかっているというふうに思います。諸外国の大学におきましても、アカデミックな事項については教員組織が重要な役割を果たしており、我が国の大学が国際的通用性のある大学として評価されるためにも、教授会が将来にわたりその専門性を発揮して、教育研究力の向上に寄与することを期待しております。(下村文部科学大臣

 教授会の将来像とはという質疑に対する答弁です。あくまで、教育研究という点に力を注いでほしいという思いが伝わってきます。これだけ大学に要請される事項が多くなった今では、同僚性というのはどこまで成立するのか考えてしまいます。

 国立大学の建学の精神と申しましょうか、設置の趣旨ということでございますけれども、これは、我が国の学術研究と研究者養成の中核を担うとともに、全国的に均衡のとれた配置によりまして、地域の教育、文化、産業の基盤を支え、学生の経済状況に左右されない進学機会を提供するという重要な役割を担うべきものということでございます。(吉田高等教育局長)

 国立大学の設置意義に関する答弁です。「全国的に均衡のとれた配置」「経済状況に左右されない進学機会を提供」という点が、個人的に押さえておきたい点です。

 大学は、本来、学長と教員組織との理解と協力のもとで運営されるべきもので当然ありまして、今回の改正を踏まえ、学長が教員に改革のビジョンを伝え、その意欲と能力を最大限に引き出して大学の教育研究機能を高めること、これが必要だと思いますし、そういうふうに期待をしているところであります。(下村文部科学大臣

 そのとおりですね。

 そこで、一つ別の視点で聞きますけれども、審議まとめの「学生の身分に関する審査」というものと法案の「学生の入学、卒業及び課程の修了」というものは決して同じことではありません。現行学校教育法施行規則第百四十四条では、「入学、退学、転学、留学、休学及び卒業は、教授会の議を経て、学長が定める。」とされております。この両者を比べたときに、退学、転学、留学、休学というものが抜けているわけですけれども、これは一体どこに行ったんですか、局長。(宮本委員)
 御指摘のように、九十三条二項第一号では、「学生の入学、卒業及び課程の修了」ということについては、学長が決定を行うに当たり、教授会が意見を述べるものというふうにしております。一方、学校教育法施行規則第百四十四条では、それ以外に退学、転学、留学、休学ということについても、「教授会の議を経て、学長が定める。」というふうな規定を置いております。これの関係につきましては、この改正法案が成立した際には、法律と省令との関係をいま一度見直しをしておきたいというふうに思っております。(吉田高等教育局長)

 学教法改正案と現行施行規則との矛盾に関する質疑応答です。確かに、退学、転学、留学、休学がないことは気になっていました。今後、施行規則で同定されると思いますが、なぜ学教法改正案に明記がないかは不明です。

第186回国会 文部科学委員会 第21号(平成26年6月4日(水曜日))

 一人一人の構成員がそれぞれ自由闊達に多様な個性を発揮しつつ最大のパフォーマンスを上げることは、もとより組織の活力向上に資するものであり、組織の運営をしていく上で大変重要なことであります。しかしながら、それが行き過ぎると個の方向性がばらばらになってしまい、その結果、組織全体の方向性が定まらないどころか、厳しいあつれきすら生じかねない状況になります。大学の運営に当たっては、大学本部と部局、個人の間に適度な緊張関係を築くことも重要であります。しかしながら、この緊張関係を、対立ではなく、前に進むための駆動力に変換する必要がございます。これが大学運営の困難さですが、あるいは、困難さではありますが、大学運営の真髄でもございます。では、いかにしてこの緊張関係を前向きの駆動力に変えることができるか。そのためには、志、理念、戦略、戦術を明確にする必要があります。その上で、対話と恕の心、すなわち、相手の立場を思いやる心が重要であると考えています。(平野大阪大学総長)

 そのとおりですね。

 これまでの国会審議の速記録なんかを見ましても、学長に特別な権限を与えるわけではないとおっしゃっている。まさに私はそうであると思っております。権限を与えるのではなくて、周りの条件を、教授会が関与できる部分を縮小した結果として、学長の権限が自由に振る舞えるような条件づくりをやろう、そういうことでありますね。その結果としては、教授会がいろいろな問題に関与できなくなる、そして、教員は大学全体の運営に興味をなくして、個別化してばらばらになる、大学が一体として教育や研究あるいは地域貢献などを行う情熱を失ってしまう、その危険性が非常に高いと私は考えております。その結果として、本当に望まれている、知的基盤社会を構成し機能させる人材を養成するという、大学の非常に重要な社会的責務を全うできる条件がどんどん小さくなっていく、私はそのように非常に憂えております。(池内名古屋大学名誉教授)

 このような言説も理解できるところです。だからこそ、平野総長が言っているような対話が大切なのでしょう。

 学校教育法九十二条には、学長は校務をつかさどる、これは責任と権限、それと第九十三条に、大学に教授会を置かなければならない、重要審議をするということで書いてあるわけですけれども、この九十二条と九十三条、要するに、大学学長の責任、権限と教授会の関係が現在のこの法文では非常に不明確である。それがまた今回によって整理されたものと考えています。そうはいっても、先ほど来言いましたが、ほかの参考人の方も言われましたけれども、単に学長が強権を発してリーダーシップだけを全面的に出したら大学がうまくいくかといったら、それでは決してありません。必ず、トップダウンボトムアップ、それの協調関係が最も基本であり、さらに重要なのは、学長のリーダーシップというのは、結局、志とか理念を打ち出し、それをいかに大学構成員一人一人、教授会を含めて一人一人に、その理念、志、そういう意識を共有するか、そこが学長のリーダーシップなんですね。その裏に権限と責任というのが一致しているということはあったとしても、これを直接発揮するためには、やはりあくまでも意志、志、それを構成員といかに共有するか、いかに全体的な合意形成を形づくっていけるか、これが学長のリーダーシップであり、大学運営のやはり基本であります。(平野大阪大学総長)

 学長と教授会との関係の質疑に対する答弁です。トップダウンボトムアップの協調関係、意識共有の重要性を言われていますね。大阪大学では、このような協調関係や意識共有、対話はどのように試みられ、どのような成果を上げているのか気になるところです。

 私の案は非常に単純明快でありまして、現在、高等教育にかけられている国の予算はGDPに対して〇・五%であります。OECD諸国は一%以上であります。半分以下です。半分以下の予算しかかけずに、さまざまな事柄を大学に要求している。この点が一番問題でありまして、私は、予算を二倍にしなさい、それによって国際化もいろいろな事柄も、あるいは教職員の人もふやせるし、そういう状況が生まれる、それが改革の基本的な全くの第一歩であるというふうに僕は思っております。(池内名古屋大学名誉教授)

 日本の大学をより良いものにしていく上で一番大切なものはという質疑に対する答弁です。全くの同感です。

 経営協議会は、私が今まで経験してきた大学においては、経営協議会がそんなに機能的にうまくいっているというふうには思っておりません。やはり、外部に主な仕事を持っている人が、一年に四回とか五回とかぐらいあって、状況を聞くだけということですよね。その意味では、私自身は、過半数になったってそんなに変わらぬと思っているんですが、経営協議会の人々が世間の常識ということ自身は余り考える必要はない。それは、いろいろな意見があって、まさにいろいろな意見が聞ける場として機能するということで結構なんではないかと思っております。(池内名古屋大学名誉教授)

 経営協議会の外部委員を過半数にするという点は如何かという質疑に対する答弁です。かなり率直に現状を発言されています。そのとおりなのでしょう。学長選考会議もそうですが、非常勤が半数程度で年数度しか開かれない会議体にどれほどの責任と権限があるのかはもっと考えないといけないですね。

 私自身は、国立大学が法人化されて以来、この十年間なんですが、国立大学は疲弊しているというのが、もうはっきりした私の観察事例であります。この十年間で、いわゆる運営費交付金は一〇%削減されました。一千億円です。それは基本的には各教員の経常研究費として使われるのが多かったんですが、経常研究費がほとんどなくなる状態になったわけです。その結果として、今言われました競争的資金というものに頼らざるを得なくなっている。まさに、競争で資金をとらないと研究ができない状況に追い込まれている。(略)そして、特任教授とか特定教授とか、新しいタイプの教授、任期つきの教授をどんどんふやしていって、その分専任教員に負担がどんどんかかるという状況で、教育デューティーとか国際化のためのさまざまな活動とか、そういうことにまさに時間をとられて、結局のところ研究力が非常に落ちている。これは僕は否めない事実であると思います。これは国立大学法人化のいろいろな白書等を見ていただいても、そういう実態が明らかにあらわれております。したがって、トップ何とかとかそういうふうにおっしゃるけれども、現実においては、国立大学の法人化以来、教員が疲弊し、より研究力が弱体化する傾向が私自身は目に見えているというふうに思っております。(池内名古屋大学名誉教授)

 国立大学の法人化以降はどうだったかという質疑に対する答弁です。おそらくお人柄なのだろうと思いますが、この答弁においてもかなり率直に現状を発言されています。私自身も同じ思いです。

 学問の府たる大学を、目先の利益、成果優先、産業競争力に必要な人材づくりの場に変えていくのではないか、こういう危惧を私は持っているんですが、先生の御見解をお伺いしたいと思います。(宮本委員)

 私の考えを申し上げますと、やはり日本の方がいかにも底の浅い改革、要するに、手っ取り早くとにかく学長にリーダーシップを発揮させるように、ややこしいものは落としましょうなんというそういう発想ですよね。今言われたように、ヨーロッパ、アメリカでは、それなりに意見を徴収していろいろな議論を尽くすということが常態になっているわけです。日本は非常に安っぽい議論であると僕は思っております。その一例は、要するに、日本は今、国立大学等を初めとして大学は専門学校化しているんではないかと私は思っております。とにかく手っ取り早く企業に役立つ人間を育てよう。衆知を集めてじっくりと考えて、長い目で見て知的生産物をつくり上げていくという、そういう大学の本来の役割を放棄して、とにかく早く資格を取らせる、早く専門化させる。今、少しは揺り戻しがあって、教養部改革、教養部を復活させようなんという声も出始めておりますけれども、要するに、大学が本来つくるべき人材を忘れて、手っ取り早くとにかく使える人間だけをつくる。その場合は、ある意味では学問は死に絶えますよ。数年間はうまく回ったとしても、本当に根底から物事を考え改革する、変えていく、そういう人間をつくることができなくなるわけです。だから、その意味では、今の経済界等の圧力で文科省が変えていっているのは、安直に過ぎる。もっと衆知を尽くして、より大学らしいものを。それで、迅速ということを常に言われますが、無論、ある一定限度の時間的な制約は課して構わないとは思いますが、その間でどれだけ衆知を尽くすかということ、それを学長としてやっていくか、それこそがリーダーシップではないかと私は思っております。(池内名古屋大学名誉教授)

 「専門学校化」という言葉には違和感がありますが、概ね文意は同意できます。ただ、「長い目」というのが、一体誰から見た「長い目」であり、それはどの程度の長さなのか、どの程度の長さならば許容しうるのかという点は、もっと議論してもよい気がします。

 そこで、現行法の第九十三条の「審議」という文言には決定権まで含まれているのか、含まれないのか。また、改正案では「教授会は、」「意見を述べる」と規定されておりますが、この言葉には決定権は含まれないと理解しておりますけれども、いかがですか。お答えください。(宮内委員)
 現行法の「審議」、それから、改正法におきます「意見を述べる」、このいずれにつきましても、決定権は含まれないと解しております。(吉田高等教育局長)

 改めて言葉の定義がはっきりしましたね。現行法においても、改正法においても、教授会に決定権はないということです。

 つまり、教授会に決定権があるわけではないけれども、専門的知見とかを生かして、自主的に教育研究に関する事項について審議、発信することは妨げない、こういうことを明確におっしゃっていただいたというふうに思います。関係者の不安を十分取り除くことができたのではないかというふうに思います。(宮内委員)

 意見を述べることは、条文上明記がないことであっても可能であるということですね。

 国立大学の学長の選考については、文部科学大臣の任命権を前提として、その選考方法を法律で規定しているのに対しまして、私立大学における学長の選考は、建学の精神に基づき、最終的な意思決定機関である理事会が任命権者として責任を持って決定するものとされております。このため、中教審の審議まとめにあるように、私立大学においても、求めるべき学長像を明確に示し、候補者のビジョンを確認した上で決定することは重要でありまして、学校法人みずからが学長選考方法を再点検し、学校法人の主体的な判断により見直していくことを通知等で促してまいりたいと考えます。(吉田高等教育局長)

 私立大学にも学長選考について見直しを促していくようですね。今回の学教法改正は、全設置主体の大学に対し影響を与える点で、大きな特徴があると思っています。国立大学は、(ある意味で)国からのどうのこうのには慣れていますが、私立大学に取っては大きな変化・脅威となり得ているのでしょう。むしろ、私立大学は学内と理事会との関係性の方が重要ではないかとも思っています。

 御指摘のように、学長がリーダーシップを発揮していくためには、学長を補佐する体制を充実させることが必要でございます。中教審の審議のまとめでは、御指摘のように、リサーチアドミニストレーターですとかアドミッションオフィサーなどの高度専門職の設置の提言がございまして、それに必要な制度の整備を検討する旨が記述されているところでございます。現在、文科省では、この審議まとめを踏まえまして、高度専門職を制度として明確化するために、関係法令の見直しなどにつきまして検討を進めているところでございます。なお、各大学の判断におきまして既に高度専門職を設置している場合もあります。特に、御指摘のありましたリサーチアドミニストレーターにつきましては、文部科学省としても、大学における研究マネジメント強化のために、研究大学強化促進事業などの事業を通じまして、その配置の支援を行っているところでございます。(吉田高等教育局長)

 「高度専門職を制度として明確化するために、関係法令の見直しなどにつきまして検討」という点は、気になるところです。

 私は、教授会の審議を十分に考慮してということと意見を述べるものというのでは、教授会の役割、位置づけ、重み、事実上のその果たしてきたものに対する認識が全然違うんじゃないのかな、そういうふうに思わざるを得ないんですけれども、なぜこのような規定にしたわけでしょうか。お答えをお願いします。(鈴木(望)委員) 
 委員御指摘のように、中教審の審議まとめでは、教授会が審議すべき重要な事項について、「教授会の審議を十分に考慮した上で、学長が最終決定を行う必要がある。」というふうにしております。これを今回の改正案の九十三条第二項では、学長が決定を行うに当たり教授会が意見を述べるものというふうな条文のつくりにしております。これは、学長と教授会の関係を今回明確にしようというものでございまして、そこでの教授会の意見というものについては、これはやはり、必ずそれについては教授会の意見を聞くということにしているわけでございますから、基本的にはこれは尊重されるべきものでございまして、中教審の審議まとめの趣旨を反映した条文になっているというふうに考えております。(吉田高等教育局長)

 ここは重要な答弁という認識です。「教授会の意見は基本的には尊重されるべきもの」ということが明らかになりました。基本的及び尊重の程度の問題は残りますが、「意見を言う」という比較的軽いと感じられる条文上の文言ではあるけれども、それの意見は学長の決定に当たり基本的には尊重されるということですね。

 そしてもう一点お伺いをしたいのですが、三項の、教授会は学長等がつかさどる教育研究に関する事項について審議しとございます。学長等が意見を求めないことについても、教授会の判断で審議することは認められるというふうな解釈でよろしいでしょうか。(青木委員)
 大学における教育研究の充実のために、学長等の求めの有無にかかわらず、教授会が教育研究に関する事項について審議をするということは、これまた重要なことでもございますから、学長等が意見を求めないことについても、教授会の判断で審議をすることは、これはもう自由でございます。(吉田高等教育局長)

 ここも重要な答弁です。学長が意見を求めないことについても、教授会にて審議を行うことは可能であるということです。審議結果についても、学長に進言すること自体は禁止されているわけではないでしょう。

 今言ったような非常に枢要なポスト、理事だとか事務局長だとかあるいは副学長といった、そういう非常に重要なポストに文科省の役人、キャリアの方がつくということは、大学側から言われたにしても、結果的にいえば、文科省が大学法人の経営や運営に文科省の考えを、間接的といいますか、直接的と言ってもいいかもわかりませんが、反映させるということにつながっているのではないかというふうに思いますけれども、この点はいかがですか。(吉川(元)委員)
 このような交流人事につきましては、文部科学省側といたしましては、国立大学法人の実際の業務等の知見を文部科学省の行政に反映させることができる、それから、大学側におきましても、例えば国立大学協会におきましては、国立大学法人の幹部職員の人事交流によりましてさらに幹部職員の知見を高めていくということの意義が言われておりまして、そういった事柄につきましても、人事交流のルールの一つということで定められているということでございます。ただ、いずれにいたしましても、先ほど大臣が申し上げましたように、大学側からの要請に基づきまして、文部科学省といたしましてはその要請を踏まえた適切な者を推薦するということでございまして、最終的には学長の御判断によりまして、私どもの職員も大学側で活躍させていただいているということでございます。(戸谷大臣官房長)

 所謂、異動官職に関する答弁です。余談となる私の印象ですが、課長級の異動官職よりも部長理事級の異動官職の方が、質の分散が大きいと感じています。その意味で、経営に深く関与する理事級の質が保証されていないのは、不安があります。異動官職について、以前弊BLOG記事でも触れたところ(異動官職について思う - 大学職員の書き散らかしBLOG)ですが、答弁中に含まれる数値には違和感があります。実際、各国立大学にどれほどの異動官職が存在するのかは、いずれ弊BLOGにてきちんと数的に表していきたいと思っています。

第186回国会 文部科学委員会 第22号(平成26年6月6日(金曜日))

 そこで大臣にお伺いしたいんですが、九十三条二項三号の「教育研究に関する重要な事項」について施行通知を出されるというふうに聞いております。先ほど既に馳委員の方からは発言がありましたけれども、これは大臣から御発言いただくことの意味というのは非常に大きいと思いますので、この部分についてどういう施行通知を出されるのか、まずそのことについて御答弁をいただきたいと思います。(細野委員)
 これは、修正案がもし可決された後の想定ですから施行通知案でありますけれども、「学校教育法第九十三条第二項第三号の「教育研究に関する重要な事項」には、教育課程の編成、教員の教育研究業績の審査等が含まれており、その他学長が教授会の意見を聴くことが必要である事項を定める際には、教授会の意見を聴いて定めること。」でございます。(下村文部科学大臣

 施行通知案の内容が明らかになりました。なお、施行通知は省内の有識者会議の議論を経て定められるようです。

 この評価、著しく目標に達していないという評価、これはどこがやるんでしょうか。(柏倉委員)
 まずは、各大学において自己点検・評価といったものが大事になろうか、こう思います。その際に、学長選考会議が有する役割というのは非常に大きいものがあろうか、こういうふうに思います。学長選考会議の役割については、中教審の取りまとめにおきましても、学長選考会議が学長の業務執行状況について恒常的な確認を行うということが求められておりますので、この点については、この法律成立の暁には、この施行通知等において周知を図り、各大学における取り組みを促してまいりたいと思います。(吉田高等教育局長)

 中期目標・中期計画の評価に対し、学長選考会議が関与するという話が出てきました。これは現行のスキームには存在しない観点です。

 先ほど、審議の取りまとめのところで、十分な知識を得ないとかという、確かにそれは審議のまとめの中で指摘がございます。これは、経営協議会の中に学外委員を入れる趣旨は趣旨としながらも、実際の運用をしていく際に、経営協議会の学外委員に対しまして、十分な情報提供なり、あるいは会議出席についての日程上の便宜なり、そういったものをより確保して、経営協議会の学外委員がその経営協議会において期待されている役割を十分に果たし得るようなそういった工夫をすべきだ、そういうくだりでございます。そういった指摘も踏まえまして、私どもとしては、まず、大学の実情を踏まえた適切な学外委員を各大学においては選任していただくこと、そして、学外委員に対する積極的な情報提供を行っていただくこと、また、多くの学外委員の出席が可能となる会期日程の設定をしていただくこと、また、欠席された学外委員に対してはきちっとその会議情報のフォローアップをしていただくことなど、各国立大学法人における経営協議会の運営の改善を促しつつ、同時に、経営協議会の学外委員がより主導的かつ積極的に審議に参画できるように、今回、経営協議会における学外委員の割合を過半数とする提案をさせていただいているところでございます。(吉田高等教育局長)

 経営協議会の外部委員へのフォローに関する答弁です。

 総じて、教授会の審議事項についてはある程度明らかになったと感じましたが、学長の業績評価についてはまだまだ不明瞭な部分が多いですね。監事や学長選考会議等が定期的にモニターするのかもしれませんが、いまいちイメージできません。

 さて、今回の学校教育法改正については、各所で反対運動が行われてきました。反対運動をすること自体は特にその是非を問われるものではないと思いますし、私自身も必要性を感じればそれに参画すると思います。ただし、今回の件でweb上でいくつか見られる「声明」について、その内容には非常にガッカリしました。そこにあるのは、大学の生い立ちから始まる意義の話や学内政治的な言説ばかりで、広く国民に興味を抱かせるような内容は少ないと感じました。言うなれば、非常に内向きで、大学関係者(もっと言うなら同じような運動を展開している者)にのみ向けたような声明だと思いました。

 大学の意義等を問い直すのは意味のあることだと思いますが、もし本気で廃案を目指すならば、戦略的に主権者たる国民に訴えかける必要があります。それは、「今まで私たちは〜〜を行い皆さんに〜〜という便益を提供してきたが、改正により〜〜という活動ができなくなりこれにより皆さんに〜〜という損害を与えます。」ということをその裏付けとともに具体的に言うことだと思っています。改組等設置申請書の部局から上がってきた学内初案が自己都合しか書かれていないことが多いのと同様に、声明のほとんどが自己都合だったことは残念でした。

 なんにせよ、改正学校教育法及び改正国立大学法人法は成立しましたので、各大学は施行に向け準備を進めなければなりません。まずは、学内規程の総点検でしょうか。