初めての業務に挑む時のポイント

 そろそろ人事異動シーズンでしょう。望むにも望まないにも関わらず、人事異動はやってきます。私も3年ほど前に人事異動で今の職務に就いたとき、全く初めての業務ばかりでしたので、かなり当惑したことを記憶しています。基礎知識を学ぶことも必要なのですが、改めて、初めての業務に挑む時のポイントを整理しておきます。

 総じると、規則性を知り、関係者を理解し、規範を身につけることが大切だと考えています。

1.規則性を知る

 業務には、必ず規則性が存在します。年間季間月間週間日間に何を行うのかもある程度整理できますし、個別の業務にしても「これをしたらこうなって、それを基に次はこれをして」という手順が必ずあります。それを理解し、その規則性に身を委ねることで、業務そのものには慣れていくことと思います。

 規則性を知る手がかりは、やはり過去の業務状況でしょう。前年度になにを行っていたのか、送信メールや業務書類などから確認し整理することが必要です。できれば、前年度だけではなく、2年前、3年前の状況も確認したいところです。

2.関係者を理解する

 業務には、必ず学内外に関係者が存在します。書類をやり取りする者や会議の出席者だけではなく、その業務が影響を与える者を想像してください。それらの関係者がどのような思いを抱いているのか、組織としてはどのようにアプローチしたいのか、どのように変化してほしいのかなど、関係者を理解することでより良く業務を運営できます。

 関係者を理解する手がかりは、業務のフローを想像することでしょう。このタイミングで行う業務は最終的に誰に届けるために行うのか考えることができれば、当該業務の関係者も明らかになるかもしれません。

3.規範を身につける

 業務には、その業務ならではの価値観、いわば規範が存在します。それを身につけることで、 優先順位やトラブルなどの価値判断が容易になります。概ね、

  • 最も避けなければならないこと、取り返しのつかないことは何か、それはなぜか
  • 最低限こなさなければならないことは何か、それはなぜか
  • 努力し向上させなければならないことは何か、それはなぜか
  • 特に積極的にならなくてもよいことは何か、それはなぜか
  • 各関係者にとって当該業務はなぜ必要(あるいは重要)なのか

といったことでしょうか。

 大切なことは、この規範を身につけ、自分の職務上の行動をこれに沿ったものにすることです。上司や部下などにも「〜〜は〜〜することを最も避けなければならないので、〜〜に取り組みます」などとことあるごとに話し、規範を自らの言葉で話し行動できるようしておく必要があると考えます。

国立大学法人と文部科学省との人事交流の改革について

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 2月15日の文部科学大臣記者会見において、国立大学法人文部科学省との人事交流(いわゆる異動官職)の改革が打ち出されました。記者会見の文字起こしを、以下に掲載します。

わたくしは、就任以来、幹部職員の天下り問題や幹部職員の逮捕起訴事案などにより損なわれた文部科学省に対する信頼を一刻も早く取り戻すことが大変重要であると考え、文部科学省未来検討タスクフォースや創成実行本部からもご意見をいただきながら、わたくし自身が先頭に立って、省一丸となり、再発防止策の検討を行い、新生文部科学省の創成に向けて取り組んでまいりました。

その中で、私が特に重要と考えているのが、職員の意識改革と能力育成です。この観点から、文部科学省の人事政策、人材育成のあり方の見直しこそが急務であると考え、文部科学省全体の改革案の取りまとめに先立ち、本日、わたくしの案を提示させていただくことにいたしました。

内容は大きく2点あります。一つ目は、文部科学省における人事改革で、具体的には、教育改革を実行し、また、不祥事の再発防止の徹底を期すための組織人事の在り方自体の改革、採用区分や年次に囚われない適材適所の人事配置、女性若手一般職の積極的登用、若手の現場経験重視、自治体や民間との人事交流の促進などです。二つ目は、国立大学法人との人事交流の改革です。

具体的には、本年4月に交代となる理事出向者は半減を目指す、文部科学省からの理事出向は現在国会提出中の国立大学法人法改正案の施行日である2020年4月以降は学外理事が法定数確保されていることを前提とするなどです。この人事交流の見直しは、結果として国立大学法人の自律性を高める意義もあると考えております。この点については、しっかりと政治主導によって進めてまいります。今後、文部科学省創成実行本部や大学など関係の方々のご意見もお聞きした上で、速やかにとりまとめ、可能なものはこの4月の人事から実施したいと考えております。広くご意見をお寄せいただければと思います。

人事改革に関して、理事を半減するということを明言されていますが、そこの狙いを改めてお伺いしたい。

文部科学省の職員の国立大学法人の出向については、従来行われてきたわけなんですが、職員が現場の実情を熟知しそれにより培った現場感覚を文部科学行政に反映させるなど、行政官として基本的な素養を身につけるという意義はある反面、行政の透明性について疑義をもたれかねない面もあると考えております。こうしたメリットデメリットも踏まえ、まずは理事という役職に注目し、今回の人事改革案を踏まえ、本年4月人事から実行させていただき、その結果もよく分析したうえで、さらに今後どうするかということを検討していきたい。

各国立大学の実情も様々かと思いますので、適切に実施する必要はあると思います。この改革案の狙いとしては、国立大学法人の自律性を高め、戦略的な経営が一層できるように後押しをするということも含まれていることを付言させていただきます。

国立大学法人の人事交流について、私案なのか、文部科学省として取り組むことなのか。また、学外理事が一定する確保されていることについての理由を教えていただきたい。

私案ということで申し上げたが、文部科学省の一連の不祥事の再発防止を徹底するとともに文部科学省の創成を期するためには、やはり人事改革が不可欠である。ただ、現場から、あるいは創成実行本部の有識者の方々から、人事の透明性や柔軟性ということについて問題提議がされましたければとも、これを具体的にドライブしていくためには、政治主導であることが不可欠であると考えたことから、わたくしのプロポーザルということで問題提議をさせていただき、そのうえで、関係のステークホルダー、大学の皆様のご意見もお伺いする機会を設けたいと考えたわけです。

学外理事が法定数確保されていることを前提とするということは、要は文部科学省からの理事の出向、これまでもおそらく人事交流は若いうちは当然のことながら、国立大学も含めていろいろ行っていくと、これは今までと同じ方針ですけれども、そういった方を理事の段階で学外理事と扱うことがふさわしいのかという問題提議です。

正式にはいつ決まるのか。利益相反と透明性の確保についてわかりやすく話してほしい。

時期について、創成実行本部にわたくしからのプロポーザルとしてご提案し、3月中に検討しご意見をいただきたい。

従来の人事について、文部科学省国立大学法人との人事交流について、国民から疑念を持たれないように、できるだけ透明性を高めることが必要だと考えています。利益相反などにおいても、配慮する必要があります。一方で、国立大学法人運営費交付金については、一定のルールに基づいて、機械的に算定される経費などが大半を占めているわけですから、現役出向者からの働きかけによって運営費交付金が恣意的に配分されることは制度上はないと思っています。

やはり、意思決定のポジションにいる方がたとの利益相反ということに対して、国民の皆様に疑いをもたれないようにするということが、今民間でも利益相反に対する制度設計、社外取締役の確保なども進んでいるわけですから、ガバナンス改革の一環としてプロポーザルをさせていただいたということでございます。

 ポイントは、以下のとおりです。

  1. 国立大学法人への文科省からの理事出向者は半減を目指す。
  2. 早ければ2019年4月の人事から取り組んでいきたい。
  3. 私案であるが、政治主導で取り組みたい。

 異動官職については、幣BLOGでもたびたび言及してきました。主には、以下の記事です。

文部科学省出身の国立大学法人幹部に思う 〜異動官職の是非〜 - 大学職員の書き散らかしBLOG

異動官職について思う - 大学職員の書き散らかしBLOG

 交流人事については、建前上は、学長から文部科学大臣への要請という形になっていたと思いますので、その整理をどのように付けていくのかが気になる点です。また、学外理事の確保との関係性は、この文脈ではわかりにくいですね。法人法が改正されるので、それに合わせて対応するという当たり前のことを言っている気がします。

 個人的には、

  1. 文科省若手職員の出向については、大学本部ではなく、学部研究科の事務長補佐クラスに配置する。
  2. 国立大学法人幹部職員については公募制とし、学内応募者や学外応募者とともに、文科省職員も面接等を受験し、選抜する。

 という形にならないかなと思っています。

 いずれにしろ、国立大学法人のマネジメントや職員のキャリアパスが大きく変わりそうで、ワクワクしますね。

学校教育法の改正は内部質保証の一助となるか。

 学校教育法等の一部を改正する法律案が公表されました。この中には、学校教育法や国立大学法人法私立学校法独立行政法人大学改革支援・学位授与機構法などの一部改正が含まれています。

 今回は、学校教育法の改正について、その内容を確認します。

 大きな改正条文は以下のとおりです。いずれも新設条文です。

  • 第109条⑤ 第二項及び第三項の認証評価においては、それぞれの認証評価の対象たる教育研究等状況(第二項に規定する大学の教育研究等の総合的な状況及び第三項に規定する専門職大学等又は専門職大学院の教育課程、教員組織その他教育研究活動の状況をいう。次項及び第七項において同じ。)が大学評価基準に適合しているか否かの認定を行うものとする。
  • 第109条⑥ 大学は、教育研究等状況について大学評価基準に適合している旨の認証評価機関の認定(事項において「適合認定」という。)を受けるよう、その教育研究水準の向上に努めなければならない。
  • 第109条⑦ 文部科学大臣は、大学が教育研究等状況について適合認定を受けられなかったときは、当該大学に対し、当該大学の教育研究等状況について、報告又は資料の提出を求めるものとする。

 学校教育法には認証評価に関する条文が追記されます。現行法令上、文部科学大臣は認証評価機関に対してのみ制約を発生し得る状況であり、細目省令で定められた基準を認証した後は、基本的には認証評価機関の裁量に任せられていました。

 また、あまり知られていませんが、認証評価機関が大学評価基準に適合しているかどうかを判定することも大学が評価基準に適合するよう努力することも、法科大学院以外は法令上に明記されず、各認証評価機関の定めの中で運営されてきました。

 法科大学院認証評価においては、法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律(いわゆる連携法)第5条において、「適格認定」等が明記されています。

法科大学院の適格認定等)

第五条 文部科学大臣は、法科大学院の教育課程、教員組織その他教育研究活動の状況(以下単に「教育研究活動の状況」という。)についての評価を行う者の認証の基準に係る学校教育法第百十条第三項に規定する細目を定めるときは、その者の定める法科大学院に係る同法第百九条第四項に規定する大学評価基準(以下この条において「法科大学院評価基準」という。)の内容が法曹養成の基本理念(これを踏まえて定められる法科大学院に係る同法第三条に規定する設置基準を含む。)を踏まえたものとなるように意を用いなければならない。

2 学校教育法第百九条第二項に規定する認証評価機関(以下この条において単に「認証評価機関」という。)が行う法科大学院の教育研究活動の状況についての同条第三項の規定による認証評価(第四項において単に「認証評価」という。)においては、当該法科大学院の教育研究活動の状況が法科大学院評価基準に適合しているか否かの認定をしなければならない。

3 大学は、その設置する法科大学院の教育研究活動の状況について法科大学院評価基準に適合している旨の認証評価機関の認定(第五項において「適格認定」という。)を受けるよう、その教育研究水準の向上に努めなければならない。

4 文部科学大臣は、法科大学院の教育研究活動の状況について認証評価を行った認証評価機関から学校教育法第百十条第四項の規定によりその結果の報告を受けたときは、遅滞なく、これを法務大臣に通知するものとする。

5 文部科学大臣は、大学がその設置する法科大学院の教育研究活動の状況について適格認定を受けられなかったときは、当該大学に対し、当該法科大学院の教育研究活動の状況について、報告又は資料の提出を求めるものとする。

 今回の改正では、大学評価基準に適合しているしている認定を与えること、大学は大学評価基準に適合するよう努力すること、認定を得られなかった場合は文部科学大臣から各大学へ直接指示が出せることが明記されました。これに際し、連携法の条文を参考にしたことは明白ですね。

 これらの条文の新設により、認証評価を用いた内部質保証体制が学校教育法上に明記されたという印象です。

教職課程経過措置における編入学・転入学の取り扱いについて

 本日、文部科学省より各教職課程設置大学担当者宛に連絡がありました。学力に関する証明書の新様式例の公表とともに、経過措置に関するQ&A集が更新されていましたね。特に、Q&A集のNo.64は全ての大学・短大に影響があるかと思います。

1.通知の内容

Q:

編入学」及び「転入学」の定義は何か。例えば、平成31年3月31日にA大学B学部を退学し、平成31年4月1日にC大学D学部の3年次に入学した学生の場合に、転入学生と取り扱って良いか(経過措置が適用され、旧法適用となるか。)

A:

○大学への編入学については、学校教育法等に定めるとおり、以下のいずれかに該当する方に限り認められる。

1. 短期大学(外国の短期大学及び、我が国における、外国の短期大学相当として指定された学校(文部科学大臣指定外国 大学(短期大学相当)日本校)を含む。)を卒業した者(学校教育法第108条第7項)

2.高等専門学校を卒業した者(学校教育法第122条)

3.専修学校の専門課程(修業年限が2年以上、総授業時数が 1,700時間以上又は62単位以上であるものに限る)を修了した者(学校教育法第132条)

4.修業年限が2年以上その他の文部科学大臣が定める基準を満たす高等学校専攻科修了者(学校教育法施行規則第100条の2)

 これらに該当する者については、いずれもそれぞれの課程の学修を修了して新たに学士課程での学修を開始するものであるため、平成30年5月18日付け質問回答集No.3のとおり、施行の際現に大学に在学している者に該当しない。

○大学への転入学については、同じ学位課程の学修を継続しつつ在籍関係の異動が生じている場合であり、平成30年5月18日付質問回答集No4,5,6のとおり、経過措置の対象となりうる。ただし、ある大学を退学後、別の大学に転入学するまでにどこの大学にも在籍していない空白期間が生じている場合には、学位課程の学修が継続していることにはならない。

○したがって、設例の場合、在学期間に空白が生じずに継続していることから、施行の際現に大学に在学している者に該当する。

  これを読むと、3年次編入だけではなく、他大学を退学し、間を置かずに、自大学に1年生として入学した場合も転入学として取り扱うことになりそうです。

 この前提に立つと、理論上は、かなりの期間(7年後まで)、旧課程を残さなければならない可能性が生じます。例えば、現在の1年生が4年生終了時に退学し、間を置かずに他大学の1年生として入学する場合も、転入学となり旧課程が適用されるのではないでしょうか。

2.対応

 来るかもわからない一人のために旧課程を残しておくのも流石に非効率的ですので、新課程の科目を旧課程にも位置付け、「新課程と旧課程を兼ねる科目」として開講することが無難な対応でしょうか。必要に応じて、本年度末までに変更届を提出することになりますね。

3.問題をややこしくしている点

 この件がややこしいのは、各大学で使用している「編入学」「転入学」の定義と今回文科省が示した「編入学」「転入学」の定義が必ずしも一致していないことです。学内に説明する際には、学内の定義ではなく文科省が示した定義に沿って対応することを丁寧に話さなければなりません。

なぜ文科省は不思議な題目をつけるのか。

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 文科省から謎の戦略(?)が公表されました。これを公表する根拠は何か、一体どこで検討されたのか、この戦略と中教審や科学技術・学術審議会の審議との関係は何か、なぜここに記載された事項が特出しされているのかなど、謎だらけです(内容の多くは既存の政策をまとめただけですが。。。)。加えて、「柴山イニシアチブ」という題目もなんとも言えません。

 振り返ってみると、文科省はこのように時の大臣の名前が付いた題目がいくつかありますね。

 どうせ一年程度で交代するのに、時の大臣の名前を付けると後々使いにくくなると思うのですが、なぜこのような題目を付けるのでしょうか。長期に渡って取り組む気がないのでしょうか。

単位互換事業の難しさと効果的な利用方法について

 最近何件か、遠方の大学の方とコンソーシアムにおける単位互換事業の運用について話をする機会がありました。近年の高等教育政策においても大学間連携の重要性が大きくなっており、その具体的な事業の一つとしても単位互換事業を実施は例に挙げられています。各大学間や大学コンソーシアムなどにおいてもすでに単位互換の取り組みは発達しているわけですが、改めて、単位互換事業の難しさと効果的な利用方法について、考えてみます。

単位互換とは何か

単位互換の関連法令

大学設置基準 抄

(他の大学又は短期大学における授業科目の履修等)

第二十八条 大学は、教育上有益と認めるときは、学生が大学の定めるところにより他の大学又は短期大学において履修した授業科目について修得した単位を、六十単位を超えない範囲で当該大学における授業科目の履修により修得したものとみなすことができる。

(大学以外の教育施設等における学修)

第二十九条 大学は、教育上有益と認めるときは、学生が行う短期大学又は高等専門学校の専攻科における学修その他文部科学大臣が別に定める学修を、当該大学における授業科目の履修とみなし、大学の定めるところにより単位を与えることができる。

2 前項により与えることができる単位数は、前条第一項及び第二項により当該大学において修得したものとみなす単位数と合わせて六十単位を超えないものとする。

(入学前の既修得単位等の認定)

第三十条 大学は、教育上有益と認めるときは、学生が当該大学に入学する前に大学又は短期大学において履修した授業科目について修得した単位(第三十一条第一項の規定により修得した単位を含む。)を、当該大学に入学した後の当該大学における授業科目の履修により修得したものとみなすことができる。

2 大学は、教育上有益と認めるときは、学生が当該大学に入学する前に行つた前条第一項に規定する学修を、当該大学における授業科目の履修とみなし、大学の定めるところにより単位を与えることができる。

3 前二項により修得したものとみなし、又は与えることのできる単位数は、編入学、転学等の場合を除き、当該大学において修得した単位以外のものについては、第二十八条第一項(同条第二項において準用する場合を含む。)及び前条第一項により当該大学において修得したものとみなす単位数と合わせて六十単位を超えないものとする。

 単位互換とは、自大学以外の教育により習得した学修を自大学の単位として見做すことができる制度のことです。大学設置基準第28条から30条を根拠としています。 なお、本稿では、大学設置基準第30条にある入学前の学修における単位互換について、言及しません。

単位互換制度の経緯

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 制度・教育改革ワーキンググループ(第16回) 配付資料には、単位互換制度の経緯が整理されています。上限単位数等徐々に拡大されてきました。

単位互換の実態

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 制度・教育改革ワーキンググループ(第16回) 配付資料には、単位互換制度の実態が整理されています。大きく分けると、

  1. 大学等の間の単位互換
  2. 大学等と放送大学との間の単位互換
  3. コンソーシアムや大学間連合など3以上の大学等の間の単位互換

でしょうか。本稿では、特に3.について、考えます。

単位互換事業の難しさ

加盟機関が増えれば調整の手間が急増する

 単位互換の協定に参画する機関が増えれば増えるほど、各大学間の調整は加速度的に増えていきます。ちょうど、点が増えるごとに、各点を結ぶ線分が指数関数的に増加するイメージです。(下記の線分の数を示す数式では、yが調整経路の数、nが加盟機関数と考えることができます。)

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y = n + \displaystyle \frac{n(n-3)}{2}(n\geqq2)

 事務局を設け、各大学間ではなく事務局を経由した調整を必須化する事も考えられます。その場合も、事務局に掛かる負担は一定程度以上でしょう。単位互換に申し込む学生数規模にもよりますが、もし多数の学生が単位互換を利用するのであれば、調整の手間は無視できるものではありません。 

履修登録期間や成績確定日をどのように調整するか

 単位互換を利用する学生は、科目開設大学において学籍を発生させるため、科目開設大学への履修申込が必要です。また、科目開設大学で成績が確定した後、所属大学内の然るべき会議体にて、単位の読み替えを確定させなければなりません。そのため、履修登録期間や成績確定日(科目開設大学から学生所属大学への成績通知日)は非常に大切です。

 大学コンソーシアム等における単位互換事業の履修登録期間は、以下の3つに大別できると考えます。

  1. 各科目開設期間の履修登録期間中に履修申し込みを行う(各機関で履修登録期間はバラバラ)。
  2. 加盟機関で履修登録期間を統一し、学内の履修登録期間もそれに準拠する。
  3. 単位互換用に履修登録期間を別途設定する。

 それぞれにデメリットがありますね。1.は学生にとってわかりにくく、2.は学内調整が非常に大変です。3.は、おそらく単位互換用の履修登録期間が各機関の履修登録期間よりも短くなることが予想されます。

 ポイントは加盟機関の属性と予想され得る申し込み学生規模でしょう。特に、大学のみではなく短期大学や高等専門学校、あるいは医療等資格系の学校が加盟している場合には、学年暦が各機関全く異なることが予想されます。申し込み方法や広報手段を統一し、履修登録機関は無理に統一しないというのが無難なところなのかもしれません。

e-Learningを行うだけでは教育効果が上がらない

 特に機関間の距離が離れている場合は、対面授業ではなく、同時配信による遠隔やe-Learningによる授業も考えられます。単位互換における授業の形態を大別すると、概ね以下のような感じでしょうか。

  1. 対面受講
  2. 同時配信による遠隔受講
  3. e-Learning
    1. 科目開設機関の学生は対面で受講し、その様子を録画して単位互換学生用に配信
    2. 科目開設機関、単位互換ともにネットで受講
  4. 対面とe-Learningを組み合わせたBlended Learning

 個人的には、最もリスクが高いのは2.の同時配信だと考えます。インフラの整備とともに、受講側でも人員の配置等が必要です。ネットワーク環境により意図せずに切断される(接続できなくなる)事もあり得ます。また、3.1.についても、対面受講の学生とe-Learningの学生への対応に差が出てくる事も懸念したい点ですね。教育効果を考えると、単純に遠方から受講できるようにするだけではなく、インストラクショナル・デザインをしっかり検討しなければならないと感じます。

 なお、文部科学省告示第114号では、大学設置基準第25条第2項(※大学は、文部科学大臣が別に定めるところにより、前項の授業を、多様なメディアを高度に利用して、当該授業を行う教室等以外の場所で履修させることができる。)の規定に基づき、大学が履修させることができる授業等について定める件として、以下の通り規定されています。

通信衛星光ファイバ等を用いることにより、多様なメディアを高度に利用して、文字、音声、静止画、動画等の多様な情報を一体的に扱うもので、次に掲げるいずれかの要件を満たし、大学において、大学設置基準第二十五条第一項に規定する面接授業に相当する教育効果を有すると認めたものであること。

一 同時かつ双方向に行われるものであって、かつ、授業を行う教室等以外の教室、研究室又はこれらに準ずる場所(大学設置基準第三十一条第一項の規定により単位を授与する場合においては、企業の会議室等の職場又は住居に近い場所を含む。以下次号において「教室等以外の場所」という。)において履修させるもの

二 毎回の授業の実施に当たって、指導補助者が教室等以外の場所において学生等に対面することにより、又は当該授業を行う教員若しくは指導補助者が当該授業の終了後すみやかにインターネットその他の適切な方法を利用することにより、設問解答、添削指導、質疑応答等による十分な指導を併せ行うものであって、かつ、当該授業に関する学生等の意見の交換の機会が確保されているもの

 最低限、この告示に書かれたことは遵守しなければなりません。 

単位互換事業の効果的な利用方法

共同授業の開発

 大学コンソーシアムでよくあるのが、加盟機関が連携してご当地に関する共同授業を開発し、複数の機関の学生が履修することです。例えば、大学コンソーシアム鹿児島では、「授業交流コーディネート科目」として、加盟機関の教員が共同で授業を形成しています。この場合、大学コンソーシアムが授業を開講することはできないため、加盟機関のいずれかを授業開設機関として指定する必要があります。

単科大学における組織的な履修指導

 単科大学が近隣の総合大学の授業を単位互換事業により履修することで、単科大学のみで困難な多様な授業(特に教養科目)を学ぶことができます。大切なことは、それを組織的に行うことです。ガイダンスや履修の手引きでの言及や、場合によっては卒業必要単位数に含めることができるなどの対応を行うことで、より意味のある形で単位互換事業を学生が利用することができるようになるでしょう。

履修登録に失敗した学生の救済手段

 履修登録期間が加盟機関で異なっている場合、条件が合致する(卒業要件として認めれるのか、履修登録が間に合うのか、など)のであれば履修登録に失敗した学生に対して、単位互換を利用して他機関の授業を履修・単位修得するという選択肢を示すことができます。この場合も、学生所属機関にて履修指導を行う職員が単位互換事業について理解し、説明できることが必要です。