国立大学法人と文部科学省との人事交流の改革について
2月15日の文部科学大臣記者会見において、国立大学法人と文部科学省との人事交流(いわゆる異動官職)の改革が打ち出されました。記者会見の文字起こしを、以下に掲載します。
わたくしは、就任以来、幹部職員の天下り問題や幹部職員の逮捕起訴事案などにより損なわれた文部科学省に対する信頼を一刻も早く取り戻すことが大変重要であると考え、文部科学省未来検討タスクフォースや創成実行本部からもご意見をいただきながら、わたくし自身が先頭に立って、省一丸となり、再発防止策の検討を行い、新生文部科学省の創成に向けて取り組んでまいりました。
その中で、私が特に重要と考えているのが、職員の意識改革と能力育成です。この観点から、文部科学省の人事政策、人材育成のあり方の見直しこそが急務であると考え、文部科学省全体の改革案の取りまとめに先立ち、本日、わたくしの案を提示させていただくことにいたしました。
内容は大きく2点あります。一つ目は、文部科学省における人事改革で、具体的には、教育改革を実行し、また、不祥事の再発防止の徹底を期すための組織人事の在り方自体の改革、採用区分や年次に囚われない適材適所の人事配置、女性若手一般職の積極的登用、若手の現場経験重視、自治体や民間との人事交流の促進などです。二つ目は、国立大学法人との人事交流の改革です。
具体的には、本年4月に交代となる理事出向者は半減を目指す、文部科学省からの理事出向は現在国会提出中の国立大学法人法改正案の施行日である2020年4月以降は学外理事が法定数確保されていることを前提とするなどです。この人事交流の見直しは、結果として国立大学法人の自律性を高める意義もあると考えております。この点については、しっかりと政治主導によって進めてまいります。今後、文部科学省創成実行本部や大学など関係の方々のご意見もお聞きした上で、速やかにとりまとめ、可能なものはこの4月の人事から実施したいと考えております。広くご意見をお寄せいただければと思います。
人事改革に関して、理事を半減するということを明言されていますが、そこの狙いを改めてお伺いしたい。
文部科学省の職員の国立大学法人の出向については、従来行われてきたわけなんですが、職員が現場の実情を熟知しそれにより培った現場感覚を文部科学行政に反映させるなど、行政官として基本的な素養を身につけるという意義はある反面、行政の透明性について疑義をもたれかねない面もあると考えております。こうしたメリットデメリットも踏まえ、まずは理事という役職に注目し、今回の人事改革案を踏まえ、本年4月人事から実行させていただき、その結果もよく分析したうえで、さらに今後どうするかということを検討していきたい。
各国立大学の実情も様々かと思いますので、適切に実施する必要はあると思います。この改革案の狙いとしては、国立大学法人の自律性を高め、戦略的な経営が一層できるように後押しをするということも含まれていることを付言させていただきます。
国立大学法人の人事交流について、私案なのか、文部科学省として取り組むことなのか。また、学外理事が一定する確保されていることについての理由を教えていただきたい。
私案ということで申し上げたが、文部科学省の一連の不祥事の再発防止を徹底するとともに文部科学省の創成を期するためには、やはり人事改革が不可欠である。ただ、現場から、あるいは創成実行本部の有識者の方々から、人事の透明性や柔軟性ということについて問題提議がされましたければとも、これを具体的にドライブしていくためには、政治主導であることが不可欠であると考えたことから、わたくしのプロポーザルということで問題提議をさせていただき、そのうえで、関係のステークホルダー、大学の皆様のご意見もお伺いする機会を設けたいと考えたわけです。
学外理事が法定数確保されていることを前提とするということは、要は文部科学省からの理事の出向、これまでもおそらく人事交流は若いうちは当然のことながら、国立大学も含めていろいろ行っていくと、これは今までと同じ方針ですけれども、そういった方を理事の段階で学外理事と扱うことがふさわしいのかという問題提議です。
正式にはいつ決まるのか。利益相反と透明性の確保についてわかりやすく話してほしい。
時期について、創成実行本部にわたくしからのプロポーザルとしてご提案し、3月中に検討しご意見をいただきたい。
従来の人事について、文部科学省と国立大学法人との人事交流について、国民から疑念を持たれないように、できるだけ透明性を高めることが必要だと考えています。利益相反などにおいても、配慮する必要があります。一方で、国立大学法人運営費交付金については、一定のルールに基づいて、機械的に算定される経費などが大半を占めているわけですから、現役出向者からの働きかけによって運営費交付金が恣意的に配分されることは制度上はないと思っています。
やはり、意思決定のポジションにいる方がたとの利益相反ということに対して、国民の皆様に疑いをもたれないようにするということが、今民間でも利益相反に対する制度設計、社外取締役の確保なども進んでいるわけですから、ガバナンス改革の一環としてプロポーザルをさせていただいたということでございます。
ポイントは、以下のとおりです。
異動官職については、幣BLOGでもたびたび言及してきました。主には、以下の記事です。
文部科学省出身の国立大学法人幹部に思う 〜異動官職の是非〜 - 大学職員の書き散らかしBLOG
交流人事については、建前上は、学長から文部科学大臣への要請という形になっていたと思いますので、その整理をどのように付けていくのかが気になる点です。また、学外理事の確保との関係性は、この文脈ではわかりにくいですね。法人法が改正されるので、それに合わせて対応するという当たり前のことを言っている気がします。
個人的には、
- 文科省若手職員の出向については、大学本部ではなく、学部研究科の事務長補佐クラスに配置する。
- 国立大学法人幹部職員については公募制とし、学内応募者や学外応募者とともに、文科省職員も面接等を受験し、選抜する。
という形にならないかなと思っています。
学校教育法の改正は内部質保証の一助となるか。
学校教育法等の一部を改正する法律案が公表されました。この中には、学校教育法や国立大学法人法、私立学校法、独立行政法人大学改革支援・学位授与機構法などの一部改正が含まれています。
今回は、学校教育法の改正について、その内容を確認します。
大きな改正条文は以下のとおりです。いずれも新設条文です。
- 第109条⑤ 第二項及び第三項の認証評価においては、それぞれの認証評価の対象たる教育研究等状況(第二項に規定する大学の教育研究等の総合的な状況及び第三項に規定する専門職大学等又は専門職大学院の教育課程、教員組織その他教育研究活動の状況をいう。次項及び第七項において同じ。)が大学評価基準に適合しているか否かの認定を行うものとする。
- 第109条⑥ 大学は、教育研究等状況について大学評価基準に適合している旨の認証評価機関の認定(事項において「適合認定」という。)を受けるよう、その教育研究水準の向上に努めなければならない。
- 第109条⑦ 文部科学大臣は、大学が教育研究等状況について適合認定を受けられなかったときは、当該大学に対し、当該大学の教育研究等状況について、報告又は資料の提出を求めるものとする。
学校教育法には認証評価に関する条文が追記されます。現行法令上、文部科学大臣は認証評価機関に対してのみ制約を発生し得る状況であり、細目省令で定められた基準を認証した後は、基本的には認証評価機関の裁量に任せられていました。
また、あまり知られていませんが、認証評価機関が大学評価基準に適合しているかどうかを判定することも大学が評価基準に適合するよう努力することも、法科大学院以外は法令上に明記されず、各認証評価機関の定めの中で運営されてきました。
法科大学院認証評価においては、法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律(いわゆる連携法)第5条において、「適格認定」等が明記されています。
(法科大学院の適格認定等)
第五条 文部科学大臣は、法科大学院の教育課程、教員組織その他教育研究活動の状況(以下単に「教育研究活動の状況」という。)についての評価を行う者の認証の基準に係る学校教育法第百十条第三項に規定する細目を定めるときは、その者の定める法科大学院に係る同法第百九条第四項に規定する大学評価基準(以下この条において「法科大学院評価基準」という。)の内容が法曹養成の基本理念(これを踏まえて定められる法科大学院に係る同法第三条に規定する設置基準を含む。)を踏まえたものとなるように意を用いなければならない。
2 学校教育法第百九条第二項に規定する認証評価機関(以下この条において単に「認証評価機関」という。)が行う法科大学院の教育研究活動の状況についての同条第三項の規定による認証評価(第四項において単に「認証評価」という。)においては、当該法科大学院の教育研究活動の状況が法科大学院評価基準に適合しているか否かの認定をしなければならない。
3 大学は、その設置する法科大学院の教育研究活動の状況について法科大学院評価基準に適合している旨の認証評価機関の認定(第五項において「適格認定」という。)を受けるよう、その教育研究水準の向上に努めなければならない。
4 文部科学大臣は、法科大学院の教育研究活動の状況について認証評価を行った認証評価機関から学校教育法第百十条第四項の規定によりその結果の報告を受けたときは、遅滞なく、これを法務大臣に通知するものとする。
5 文部科学大臣は、大学がその設置する法科大学院の教育研究活動の状況について適格認定を受けられなかったときは、当該大学に対し、当該法科大学院の教育研究活動の状況について、報告又は資料の提出を求めるものとする。
今回の改正では、大学評価基準に適合しているしている認定を与えること、大学は大学評価基準に適合するよう努力すること、認定を得られなかった場合は文部科学大臣から各大学へ直接指示が出せることが明記されました。これに際し、連携法の条文を参考にしたことは明白ですね。
これらの条文の新設により、認証評価を用いた内部質保証体制が学校教育法上に明記されたという印象です。
教職課程経過措置における編入学・転入学の取り扱いについて
本日、文部科学省より各教職課程設置大学担当者宛に連絡がありました。学力に関する証明書の新様式例の公表とともに、経過措置に関するQ&A集が更新されていましたね。特に、Q&A集のNo.64は全ての大学・短大に影響があるかと思います。
1.通知の内容
Q:
「編入学」及び「転入学」の定義は何か。例えば、平成31年3月31日にA大学B学部を退学し、平成31年4月1日にC大学D学部の3年次に入学した学生の場合に、転入学生と取り扱って良いか(経過措置が適用され、旧法適用となるか。)
A:
○大学への編入学については、学校教育法等に定めるとおり、以下のいずれかに該当する方に限り認められる。
1. 短期大学(外国の短期大学及び、我が国における、外国の短期大学相当として指定された学校(文部科学大臣指定外国 大学(短期大学相当)日本校)を含む。)を卒業した者(学校教育法第108条第7項)
2.高等専門学校を卒業した者(学校教育法第122条)
3.専修学校の専門課程(修業年限が2年以上、総授業時数が 1,700時間以上又は62単位以上であるものに限る)を修了した者(学校教育法第132条)
4.修業年限が2年以上その他の文部科学大臣が定める基準を満たす高等学校専攻科修了者(学校教育法施行規則第100条の2)
これらに該当する者については、いずれもそれぞれの課程の学修を修了して新たに学士課程での学修を開始するものであるため、平成30年5月18日付け質問回答集No.3のとおり、施行の際現に大学に在学している者に該当しない。
○大学への転入学については、同じ学位課程の学修を継続しつつ在籍関係の異動が生じている場合であり、平成30年5月18日付質問回答集No4,5,6のとおり、経過措置の対象となりうる。ただし、ある大学を退学後、別の大学に転入学するまでにどこの大学にも在籍していない空白期間が生じている場合には、学位課程の学修が継続していることにはならない。
○したがって、設例の場合、在学期間に空白が生じずに継続していることから、施行の際現に大学に在学している者に該当する。
これを読むと、3年次編入だけではなく、他大学を退学し、間を置かずに、自大学に1年生として入学した場合も転入学として取り扱うことになりそうです。
この前提に立つと、理論上は、かなりの期間(7年後まで)、旧課程を残さなければならない可能性が生じます。例えば、現在の1年生が4年生終了時に退学し、間を置かずに他大学の1年生として入学する場合も、転入学となり旧課程が適用されるのではないでしょうか。
2.対応
来るかもわからない一人のために旧課程を残しておくのも流石に非効率的ですので、新課程の科目を旧課程にも位置付け、「新課程と旧課程を兼ねる科目」として開講することが無難な対応でしょうか。必要に応じて、本年度末までに変更届を提出することになりますね。
3.問題をややこしくしている点
この件がややこしいのは、各大学で使用している「編入学」「転入学」の定義と今回文科省が示した「編入学」「転入学」の定義が必ずしも一致していないことです。学内に説明する際には、学内の定義ではなく文科省が示した定義に沿って対応することを丁寧に話さなければなりません。
なぜ文科省は不思議な題目をつけるのか。
単位互換事業の難しさと効果的な利用方法について
最近何件か、遠方の大学の方とコンソーシアムにおける単位互換事業の運用について話をする機会がありました。近年の高等教育政策においても大学間連携の重要性が大きくなっており、その具体的な事業の一つとしても単位互換事業を実施は例に挙げられています。各大学間や大学コンソーシアムなどにおいてもすでに単位互換の取り組みは発達しているわけですが、改めて、単位互換事業の難しさと効果的な利用方法について、考えてみます。
単位互換とは何か
単位互換の関連法令
大学設置基準 抄
(他の大学又は短期大学における授業科目の履修等)
第二十八条 大学は、教育上有益と認めるときは、学生が大学の定めるところにより他の大学又は短期大学において履修した授業科目について修得した単位を、六十単位を超えない範囲で当該大学における授業科目の履修により修得したものとみなすことができる。
(大学以外の教育施設等における学修)
第二十九条 大学は、教育上有益と認めるときは、学生が行う短期大学又は高等専門学校の専攻科における学修その他文部科学大臣が別に定める学修を、当該大学における授業科目の履修とみなし、大学の定めるところにより単位を与えることができる。
2 前項により与えることができる単位数は、前条第一項及び第二項により当該大学において修得したものとみなす単位数と合わせて六十単位を超えないものとする。
(入学前の既修得単位等の認定)
第三十条 大学は、教育上有益と認めるときは、学生が当該大学に入学する前に大学又は短期大学において履修した授業科目について修得した単位(第三十一条第一項の規定により修得した単位を含む。)を、当該大学に入学した後の当該大学における授業科目の履修により修得したものとみなすことができる。
2 大学は、教育上有益と認めるときは、学生が当該大学に入学する前に行つた前条第一項に規定する学修を、当該大学における授業科目の履修とみなし、大学の定めるところにより単位を与えることができる。
3 前二項により修得したものとみなし、又は与えることのできる単位数は、編入学、転学等の場合を除き、当該大学において修得した単位以外のものについては、第二十八条第一項(同条第二項において準用する場合を含む。)及び前条第一項により当該大学において修得したものとみなす単位数と合わせて六十単位を超えないものとする。
単位互換とは、自大学以外の教育により習得した学修を自大学の単位として見做すことができる制度のことです。大学設置基準第28条から30条を根拠としています。 なお、本稿では、大学設置基準第30条にある入学前の学修における単位互換について、言及しません。
単位互換制度の経緯
制度・教育改革ワーキンググループ(第16回) 配付資料には、単位互換制度の経緯が整理されています。上限単位数等徐々に拡大されてきました。
単位互換の実態
制度・教育改革ワーキンググループ(第16回) 配付資料には、単位互換制度の実態が整理されています。大きく分けると、
- 大学等の間の単位互換
- 大学等と放送大学との間の単位互換
- コンソーシアムや大学間連合など3以上の大学等の間の単位互換
でしょうか。本稿では、特に3.について、考えます。
単位互換事業の難しさ
加盟機関が増えれば調整の手間が急増する
単位互換の協定に参画する機関が増えれば増えるほど、各大学間の調整は加速度的に増えていきます。ちょうど、点が増えるごとに、各点を結ぶ線分が指数関数的に増加するイメージです。(下記の線分の数を示す数式では、yが調整経路の数、nが加盟機関数と考えることができます。)
事務局を設け、各大学間ではなく事務局を経由した調整を必須化する事も考えられます。その場合も、事務局に掛かる負担は一定程度以上でしょう。単位互換に申し込む学生数規模にもよりますが、もし多数の学生が単位互換を利用するのであれば、調整の手間は無視できるものではありません。
履修登録期間や成績確定日をどのように調整するか
単位互換を利用する学生は、科目開設大学において学籍を発生させるため、科目開設大学への履修申込が必要です。また、科目開設大学で成績が確定した後、所属大学内の然るべき会議体にて、単位の読み替えを確定させなければなりません。そのため、履修登録期間や成績確定日(科目開設大学から学生所属大学への成績通知日)は非常に大切です。
大学コンソーシアム等における単位互換事業の履修登録期間は、以下の3つに大別できると考えます。
それぞれにデメリットがありますね。1.は学生にとってわかりにくく、2.は学内調整が非常に大変です。3.は、おそらく単位互換用の履修登録期間が各機関の履修登録期間よりも短くなることが予想されます。
ポイントは加盟機関の属性と予想され得る申し込み学生規模でしょう。特に、大学のみではなく短期大学や高等専門学校、あるいは医療等資格系の学校が加盟している場合には、学年暦が各機関全く異なることが予想されます。申し込み方法や広報手段を統一し、履修登録機関は無理に統一しないというのが無難なところなのかもしれません。
e-Learningを行うだけでは教育効果が上がらない
特に機関間の距離が離れている場合は、対面授業ではなく、同時配信による遠隔やe-Learningによる授業も考えられます。単位互換における授業の形態を大別すると、概ね以下のような感じでしょうか。
- 対面受講
- 同時配信による遠隔受講
- e-Learning
- 科目開設機関の学生は対面で受講し、その様子を録画して単位互換学生用に配信
- 科目開設機関、単位互換ともにネットで受講
- 対面とe-Learningを組み合わせたBlended Learning
個人的には、最もリスクが高いのは2.の同時配信だと考えます。インフラの整備とともに、受講側でも人員の配置等が必要です。ネットワーク環境により意図せずに切断される(接続できなくなる)事もあり得ます。また、3.1.についても、対面受講の学生とe-Learningの学生への対応に差が出てくる事も懸念したい点ですね。教育効果を考えると、単純に遠方から受講できるようにするだけではなく、インストラクショナル・デザインをしっかり検討しなければならないと感じます。
なお、文部科学省告示第114号では、大学設置基準第25条第2項(※大学は、文部科学大臣が別に定めるところにより、前項の授業を、多様なメディアを高度に利用して、当該授業を行う教室等以外の場所で履修させることができる。)の規定に基づき、大学が履修させることができる授業等について定める件として、以下の通り規定されています。
通信衛星、光ファイバ等を用いることにより、多様なメディアを高度に利用して、文字、音声、静止画、動画等の多様な情報を一体的に扱うもので、次に掲げるいずれかの要件を満たし、大学において、大学設置基準第二十五条第一項に規定する面接授業に相当する教育効果を有すると認めたものであること。
一 同時かつ双方向に行われるものであって、かつ、授業を行う教室等以外の教室、研究室又はこれらに準ずる場所(大学設置基準第三十一条第一項の規定により単位を授与する場合においては、企業の会議室等の職場又は住居に近い場所を含む。以下次号において「教室等以外の場所」という。)において履修させるもの
二 毎回の授業の実施に当たって、指導補助者が教室等以外の場所において学生等に対面することにより、又は当該授業を行う教員若しくは指導補助者が当該授業の終了後すみやかにインターネットその他の適切な方法を利用することにより、設問解答、添削指導、質疑応答等による十分な指導を併せ行うものであって、かつ、当該授業に関する学生等の意見の交換の機会が確保されているもの
最低限、この告示に書かれたことは遵守しなければなりません。
単位互換事業の効果的な利用方法
共同授業の開発
大学コンソーシアムでよくあるのが、加盟機関が連携してご当地に関する共同授業を開発し、複数の機関の学生が履修することです。例えば、大学コンソーシアム鹿児島では、「授業交流コーディネート科目」として、加盟機関の教員が共同で授業を形成しています。この場合、大学コンソーシアムが授業を開講することはできないため、加盟機関のいずれかを授業開設機関として指定する必要があります。
単科大学における組織的な履修指導
単科大学が近隣の総合大学の授業を単位互換事業により履修することで、単科大学のみで困難な多様な授業(特に教養科目)を学ぶことができます。大切なことは、それを組織的に行うことです。ガイダンスや履修の手引きでの言及や、場合によっては卒業必要単位数に含めることができるなどの対応を行うことで、より意味のある形で単位互換事業を学生が利用することができるようになるでしょう。
履修登録に失敗した学生の救済手段
履修登録期間が加盟機関で異なっている場合、条件が合致する(卒業要件として認めれるのか、履修登録が間に合うのか、など)のであれば履修登録に失敗した学生に対して、単位互換を利用して他機関の授業を履修・単位修得するという選択肢を示すことができます。この場合も、学生所属機関にて履修指導を行う職員が単位互換事業について理解し、説明できることが必要です。
東洋大学の事例から学生の懲戒退学を考える。
東洋大学の学生が、同大の竹中平蔵教授を批判する立看板を設置してビラを撒き、大学から指導されていたことが1月22日までにわかった。学生は自身のFacebookで、大学職員から退学勧告されたと告発。物議を醸している。
学生の学内での無許可の立看板設置並びにビラ配布に関する本学の対応について | Toyo University
この度の本学内での無許可の立看板設置については、下記<<参考>>のように、学生に配付し周知している『学生生活ハンドブック』に禁止行為として記されており、立看板の撤去とビラ配布を止めるよう当該学生に対し指導いたしました。
その際、事実確認と禁止行為に関する説明を行いましたが、一部ネット等で散見されるような当該学生に対する退学処分の事実はありません。本件に関して、所属学部では退学としないことを確認しております。
東洋大学にて立て看板の設置及びビラの配布を行った学生が退学を勧告されたと話題になっていました。東洋大学側はホームページにて、指導は行ったが退学は行わないことを公表しています。
学務や教務関係職員ならば、手続き上、その場での(正式な)退学勧告がありえないことは自明であり、どこかおかしいなと思ったことでしょう。今回は、学生の退学に関する手続きについて、考えてみます。
退学とは
退学:学校に在学中の者が、その学校の全課程を修了して卒業する以前に中途で学校から退き、その学校の学生としての身分を失うこと。(P148)
大学の教務Q&Aでは、退学について、上記の定義が記載されています。また、学校教育法施行規則第4条により、退学について各大学等の学則に明記することとなっています。
特に、今回のケースに関連する懲戒処分による退学については、学校教育法第11条及び学校教育法施行規則第26条により規定されています。
学校教育法 抄
第十一条 校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。
第二十六条 校長及び教員が児童等に懲戒を加えるに当つては、児童等の心身の発達に応ずる等教育上必要な配慮をしなければならない。
2 懲戒のうち、退学、停学及び訓告の処分は、校長(大学にあつては、学長の委任を受けた学部長を含む。)が行う。
3 前項の退学は、公立の小学校、中学校(学校教育法第七十一条の規定により高等学校における教育と一貫した教育を施すもの(以下「併設型中学校」という。)を除く。)、義務教育学校又は特別支援学校に在学する学齢児童又は学齢生徒を除き、次の各号のいずれかに該当する児童等に対して行うことができる。
一 性行不良で改善の見込がないと認められる者
二 学力劣等で成業の見込がないと認められる者
三 正当の理由がなくて出席常でない者
四 学校の秩序を乱し、その他学生又は生徒としての本分に反した者
4 第二項の停学は、学齢児童又は学齢生徒に対しては、行うことができない。
5 学長は、学生に対する第二項の退学、停学及び訓告の処分の手続を定めなければならない。
これらを踏まえ、大学の教務Q&Aでは、退学の以下の通り分類しています。なお、ここで言う除籍には、在学期間超過や授業料未納、死亡等があげられるとされています。
(P39)
- 本人の意思による退学:自主退学
- 本人の意識に関わらない強制的な退学
- 懲戒処分としての退学:懲戒退学
- 懲戒処分ではない退学:除籍
以降は、今回のケースに関連する懲戒退学について、手順等を確認します。
大学における学生懲戒の手順とは
各大学では、様々な手続きが規定され、それを根拠として日々の業務が運営されています。当然、退学の手順も規定されているはずです。懲戒処分に伴う退学について、規定を確認しようと思ったのですが、東洋大学の規定が見つけられませんでした(おそらく、公表されていません)。そのため、名前が似ている公表されている東京大学の規定を確認します。
(懲戒)
第25条 学生が法令若しくは本学の規則に違反し、又は学生としての本分に反する行為があったときは、学部長は、総長の命により、これを懲戒する。
2 前項の懲戒の方針については、教育研究評議会の議を経なければならない。
3 第1項の懲戒については、教育研究評議会に置かれる学生懲戒委員会の議を経なければならない。
4 懲戒は、退学又は停学の処分とする。
ポイントは、以下の2点です。
- 東京大学では懲戒処分は学長の命を受けて学部長が行うこと
- 懲戒は学生懲戒委員会の議を経なければならないこと
1.について、学校教育法施行規則第26条第2項に基づき、学部長に処分権が委ねられているものと思われます。ただし、あくまでも学長の命に基づくものであり、懲戒の決定は学長が行うものと整理されているのでしょう。
2 懲戒のうち、退学、停学及び訓告の処分は、校長(大学にあつては、学長の委任を受けた学部長を含む。)が行う。
2.について、東京大学学生懲戒処分規程では、以下の通り明記されています。
(懲戒処分に関する部局の意見)
第6条 部局長は、懲戒処分の対象となりうる行為が当該部局の学生によって行われたことを知り得たときは、遅滞なく事実確認および当該学生に対する事情聴取を行い、懲戒処分が相当と判断した場合には、懲戒処分に関する意見を作成し、速やかに総長および当該学生にこれを通知する。部局による事情聴取にあたっては第11条第2項および第3項の手続にならって行うものとする。
2 懲戒処分に関する意見には、懲戒処分の根拠となる事実の認定、懲戒処分の相当性に関する判断および懲戒処分の量定に関する判断が含まれる。
(学生懲戒委員会)
第7条 教育研究評議会の下に学生懲戒委員会を置く。
2 学生懲戒委員会は、副学長1名、評議員、研究科に置かれる副研究科長および研究科以外の大学院組織に置かれる副部長(以下「評議員等」という。)のうちから5名ならびに教員15名(本学の教授または准教授であることを要する。)の計21名の委員によって構成される。
3 総長は、委員長をつとめる副学長を任命する。
4 教育研究評議会は、副学長以外の学生懲戒委員会委員を選任する。
5 総長は、前条に定めるところにより懲戒処分に関する意見が通知されたときは学生懲戒委員会に、懲戒処分の要否および懲戒処分を要する場合のその内容についての審査を付議する。
6 学生懲戒委員会は、前項に定めるところにより審査を付議されたときは学生懲戒委員会の中に担当班を設置する。個々の事案の懲戒処分手続は、学生懲戒委員会の担当班がこれを行う。
7 学生懲戒委員会の担当班は、学生懲戒委員会委員長である副学長、評議員等1名および教員3名の計5名によって構成される。担当班の班長は当該副学長が、副班長は当該評議員等がつとめる。
8 学生懲戒委員会は、担当班を組織するにあたり、懲戒手続の公平性の確保に努める。
いくつかの国立大学の規程を確認したのですが、学生の懲戒は何かしらの会議体の審議を経ることになっていました。また、東京大学は公表していませんが、懲戒の基準を明確にしている大学もありました(例:金沢大学学生懲戒規程別表1「懲戒処分の標準例」)。
東洋大学においても、おそらく、学生の懲戒処分の際には、懲戒委員会等何らかの会議体の審議を経ることになっているのではないかと思います。そのため、何かしらの違反行為があったとしても、その場で懲戒を決定することはできないでしょう。
教授会は退学を決定できない
ちょっと違和感があるのは、一部ウェブページで大学側の電話応答時の発言として「退学処分にするかどうかは教授会で決める」とあり、公式発表にも「所属学部では退学としないこと」とある点です。これをそのまま捉えると、厳密に言えば、内部規程に沿っていない運用の恐れがあります。
平成26年度の学校教育法及び同施行規則が改正され、様々な事項について、教授会は審議機関であり学長が決定権を持つことが明確化されました。本件に関連する改正箇所として、改正前学校教育法施行規則第144条が削除されるとともに、同施行規則第26条第5項が新設されました。
学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律及び学校教育法施行規則及び国立大学法人法施行規則の一部を改正する省令について(通知):文部科学省
4)学校教育法第93条第2項第1号で規定された以外の,学生の退学,転学,留学,休学については,本人の希望を尊重すべき場合など様々な事情があり得ることから,学校教育法施行規則第144条は削除し,教授会が意見を述べることを義務付けないこととしたこと。
ただし,懲戒としての退学処分等の学生に対する不利益処分については,教授会や専門の懲戒委員会等において多角的な視点から慎重に調査・審議することが重要であることから,同施行規則第26条第5項において,学長は,学生に対する同施行規則第26条第2項に規定する退学,停学及び訓告の処分の手続を定めなければならないこととしたこと。
なお,同施行規則の改正を受け,退学,転学,留学,休学,復学,再入学その他学生の身分に関する事項について,各大学において,大学への届出,審査等の新たな手続を定める必要があるか点検し,必要に応じて定めること。
公表されている東洋大学の学則でも、以下の通り学長が退学等の懲戒処分を決定することとしています。
(懲戒)
第57条 学長は、本学の学則その他の規程に反し、又は学生の本分に反する行為があった学生に対し、教授会の意見を聴いて、行為の軽重と教育上の必要とを考慮して、譴責、停学又は退学の処分をすることができる。
2 退学処分は、次の各号のいずれかに該当する者以外には、これを行うことはできない。
(1) 性行不良で改善の見込みがないと認められる者
(2) 学業を怠り、成業の見込みがないと認められる者
(3) 正当な理由なくして出席常でない者
(4) 本学の秩序を乱し、その他学生の本分に反した者
東京大学と同様に、学校教育法施行規則第26条第2項に則り、公表されていない内部規定として学部長の専決事項になっている可能性は否定できません。ただ、その場合は学則に明記するでしょうし、やはり厳密に言えば、「教授会が退学(あるいは退学でないこと)を決める」というのは誤りであろうと思います。
ただ、この運用はちょっとわかりにくく、大学側担当者はある程度端折って発言した可能性も十分にあり得るなと思います。また、実質的には教授会が審議し学長(及び役員)がそれを尊重して決定するという構図でしょうし、このように発言してしまうことは十分に推察できます。それにしても、公式なプレスリリースに教授会について言及することは個人的には避けるべきではないかなと思っています。
本件に関する所感
想像だにできない
本件については、手続き論は些細なことであり、それ以外に大きな論点がいくつもあることは言うまでもありません。ただし、それは弊BLOGの所掌範囲外なので、言及はしません(大学構内でのビラ撒き等の規制と憲法に定める表現の自由等の関係はもう少し勉強が必要だと感じています)。
私の想像だにできないところで、首都圏の大規模私大(W田さんやH政さんなど)では学生と職員の飽くなき闘いがあるのだろうなぁ、と思いを馳せています。あるいは、大学側は本件が拡大すると学外の様々な組織が大学に集まってくることを危惧しているのかもしれませんね。
どのように学生に対応するか
竹中平蔵教授の授業に反対した東洋大学の学生に「退学」騒動 大学側は退学処分を否定|ニフティニュース
「職員らは学生生活ハンドブックの条項を示しながら、『大学の秩序を乱す行為』に該当するとし、退学処分をちらつかせてきました。さらに『君には表現の自由があるけど、大学のイメージを損なった責任を取れるのか』と大きな声で言われたり、『入社した会社で立場が危うくなるのでは』とドーカツされたりしました」(当該学生)
当該学生の声も報道されていました。録音等が公表されていないため、実際にどのようなやりとりがなされたのかは断言できません。また、当該学生がどのような者であったのか、東洋大学が本件のような事案についてどのようなポリシーで対応する事を決めていたのかもよくわからないため、対応の是非はちょっと判断し難いかもしれません(個人的には、上記報道の内容が事実であるとすれば、職員側が迂闊にモノを言い過ぎかなとも思います)。
自分がもし本件について学生に対応するとしたら、当該行為は規則により禁止されていること、処分規定に則り懲戒処分される恐れがあることは言うでしょうね(数人がかりで2時間も話はしないでしょうが・・・)。ただし、それはあくまで注意喚起の趣旨であり、諸々の状況にもよりますが、その場で処分どうこうと言うことはなく淡々と済ませることになりそうです。
職員対学生において、いくらその場で個人的意見と前置きしようとも、学生側は職員から言われたことを大学当局の見解と解釈することがほとんどです。そのため、仮に当該学生の思想に同調しようとも「主張を完遂するためには学内に教員の仲間を増やした方がいい」「主張と行動の関連性が薄いので戦略を練り直した方がいい」などと助言することはできず、まして学生の主張を論破することもできないでしょう。
私自身も、学生に迂闊なことを言ったばかりに、学内手続き上ちょっと面倒なことになった経験があります。特に最近はSNS等の発達により、職員が行った学生への対応がすぐに学外へ発信される可能性が出てきました。それをどのように利用するのかと言う事も含め、慎重に対応しなければならないと改めて感じた次第です。
群馬大学と宇都宮大学の共同教育学部を考える。
群馬大学(前橋市)と宇都宮大学(宇都宮市)は21日、2020年度から全国初の「共同教育学部」を設置することをホームページ上で公表した。少子化の影響で教員採用数が減るのに伴い教育学部の縮小が求められる中、教員養成機関としての役割を維持・強化するのが狙い。群馬大は「連携することで引き続き幅広い専門性を満たし、地域への責任を果たせる。学生の視野も広がるのではないか」と話している。
群馬大学と宇都宮大学の共同教育学部設置に関する報道がありました。以前にも、弊ブログでは北陸3国立大学の共同教職課程について言及しましたが、それとはまた異なる案件です。すでに設置申請に向けて準備を進めているようですね。
両大学とも、ホームページで情報を公開しています。前期入試は、個別学力試験から面接と小論文になるようですね。
平成32年度群馬大学と宇都宮大学との共同教育学部の設置(構想中)に係る入試の主な変更について | 国立大学法人 群馬大学
http://www.utsunomiya-u.ac.jp/docs/190121_kyoiku.pdf
今回は、この共同教育学部について考えてみます。
共同教育学部設置の背景
今回の共同教育学部の背景にあるのは文部科学省に設置された「国立教員養成大学・学部、大学院、附属学校の改革に関する有識者会議」の報告書である「教員需要の減少期における教員養成・研修機能の強化に向けて―国立教員養成大学・学部、大学院、附属学校の改革に関する有識者会議報告書―」です。この会議は平成28年から29年に設置され、今後の国立大学の教員養成学部・大学院や教育学部附属学校の在り方について議論されました。本年度には、本報告書を踏まえた対応について、教員養成学部を持つ各国立大学が文部科学省から状況を聴取されたと聞いています。
●国立教員養成大学・学部は、一部教科の教員養成機能の特定大学への集約や共同教育課程の設置、総合大学と教員養成単科大学の統合、教員養成単科大学同士の統合等を検討し、第3期中期目標期間中に一定の結論をまとめること。
① 同一県内や近隣の国公私立大学との間で連携・協力して以下を行うこと。
ⅰ)採用者数が少ない教科あるいは各大学が強みや特色を持つ教科などの養成機能を特定の大学に集約することにより、機能強化と効率化を図ること
ⅱ)複数大学が資源を出し合って一つの共同教育課程を設置して教員養成を担うことにより、各大学がともに機能強化と効率化を図ること
④ 都道府県をまたいで存在する総合大学の教員養成学部同士が統合することにより、機能強化と効率化を図り、資源の集中による教員養成機能の充実や新学部の開設等を通じた社会のニーズに応える大学となること
大学や附属学校の組織・体制について、平成33年度末までに一定の結論をまとめるためには、他大学との相談・調整や設置認可の手続きその他に時間を要することを十分考慮に入れ、各大学は早急に検討に着手する必要がある。
なお、「平成33年度末まで」とは、対応可能なことは即座に開始するとともに、一定の時間を要する中期的な対応であっても、遅くとも33年度末までには結論をまとめるべきという趣旨である。
報告書中、今回の共同教育学部と関連する箇所を抜粋しました。ここでは、大学間の連携による共同教育課程の設置などがうたわれており、まさに今回のケースに合致しますね。報告書では教科の集約(A大学とB大学の共同教育課程としてある教科の教職課程を持つが、A大学で授業を開講しB大学では授業を開講しない、など)や効率化などが言及されています。こちらも、報道にある「インターネット技術を使った遠隔授業」「両大学とも徐々に学生定員を減らす予定(つまり教員も減る見込み)」に合致しているように感じます。
ちなみに、宇都宮大学から群馬大学へは、車で1時間半、鉄道(新幹線)やバスを用いると3時間半程度かかります。新幹線を使うのであれば、群馬大学から東京大学本郷キャンパスに行く方が速いぐらいですね。
共同教育課程とは
○経済・社会のグローバル化の中、大学は「知の拠点」として各地域の活性化への貢献とともに、国際的な大学間競争の中で新たな学際的・先端的領域への先導的な対応も必要。
○このため、複数の大学がそれぞれ優位な教育研究資源を結集し、共同でより魅力ある教育研究・人材育成を実現する大学間連携の仕組みを整備するもの。
今回の共同教育学部は、共同教育課程という制度に則り設置が見込まれています。共同教育課程とは、複数の大学が共同して教育課程(学部・学科、研究科・専攻)を設置できる制度であり、大学設置基準の「第10章 共同教育課程に関する特例」により、基準が定められています。構成大学のうちの他の大学における授業科目の履修を自大学の授業科目の履修とみなすことができるかわりに、他大学の授業を一定単位数以上履修しなければなりません。教育学部の場合は31単位以上を他大学から履修することになります。
この31単位ですが、両大学の学生が受講できる授業(A大学は対面B大学は遠隔あるいはA大学は遠隔B大学は対面)を一定数準備すれば何とかクリアできるのではないかと思います。教育学部の場合、教科専門系や教職系の講義科目ならば、比較的やりやすいのかもしれません。一方、報道にもあるとおり、模擬授業などを行う指導法科目や実習系(介護等体験を含む)は対面での現地授業になるでしょうね。
共同教育学部の設置に関する所感
各大学の担当教科がモザイク状になるのではないか
群馬大学教育学部と宇都宮大学教育学部の教職課程認定状況は、以下のとおりです。
現在取得できる免許状 | 群馬大学教育学部 | 宇都宮大学教育学部 | |
幼一種免 | ○ | ○ | |
小一種免 | ○ | ○ | |
中一種免 | 国語 | ○ | ○ |
社会 | ○ | ○ | |
数学 | ○ | ○ | |
理科 | ○ | ○ | |
音楽 | ○ | ○ | |
美術 | ○ | ○ | |
保健体育 | ○ | ○ | |
技術 | ○ | ○ | |
家庭 | ○ | ○ | |
英語 | ○ | ○ | |
高一種免 | 国語 | ○ | ○ |
地理歴史 | ○ | ○ | |
公民 | ○ | ○ | |
数学 | ○ | ○ | |
理科 | ○ | ○ | |
音楽 | ○ | ○ | |
工芸 | × | ○ | |
美術 | ○ | × | |
保健体育 | ○ | ○ | |
家庭 | ○ | ○ | |
情報 | ○ | × | |
工業 | ○ | ○ | |
英語 | ○ | ○ | |
特支一種免 | 聴覚障害者 | ○ | × |
知的障害者 | ○ | ○ | |
肢体不自由者 | ○ | ○ | |
病弱者 | ○ | ○ |
今後教員を削減していくのであれば、各教科の免許状を出せる程度の専任教員数を維持できない可能性があります。報道では「20年度以降も基本的に同様の体制を続ける見通し」とあるものの、両大学の特定の教科の教員をともに削減するのであれば、必要専任教員数は満たせるものの、各大学での教育研究力は低下する恐れがあります。そのため、例えば、群馬大学は国語に関する教員を削減し数学に関する教員を残すなど、各大学への教科の集約化が進行する可能性があります。共同教育課程ですので各教科の免許状を取得できることには変わりないのですが、各大学が担当する授業の面では上記の表がさらにモザイク化するという印象です。
また、報道には「宇都宮大では聴覚障害の免許が取得できなかった(つまり視覚障害者の免許は取得できた)」とありますが、公表されている学則等を確認しても宇都宮大学教育学部で特別支援学校教諭一種免許状(視覚障害者)が取得できることはわかりませんでした。なお、報道にある「5領域すべてに対応している大学は珍しい」について、文部科学省の公表資料では、特別支援学校教諭一種免許状で5領域すべての免許状が取得できる課程は平成29年度時点で15課程であり、特支一種免を取得できる全191課程の8%程度です。やはり、知肢病(ちしびょう)と言われる知的障害者・肢体不自由者・病弱者の3領域のセットが多いですね。
遠隔講義の質をいかに確保するか
弊ブログでもたびたび言及してきましたが、インフラの整備維持も含め、遠隔講義の質を維持することはかなり大変だろうと思います。例えば、同時配信を受けている側の教室にも教員が張り付き学生に指導するなど、細やかなケアが必要になるでしょうね。遠隔環境においてアクティブラーニング要素をどのように担保していくのかも気になるところです。
何にせよ、学生にとってのメリットや効果をもっと考えて示していく必要を感じます。
予算が付きそう
現時点で公表ということは、文科省法人支援課や教員養成企画室の大まかな了解が得られたのでしょう。ということは、設置審に出して指摘事項に応え続けていれば、よっぽどのことがない限り認可されるだろうと思います。国の施策に合った取り組みであることやトップランナーであることを踏まえると、機能強化に関する予算が付く可能性は極めて高いですね。逆に言えば、それがなければ現状の予算ではインフラ整備は困難かもしれません。
このように、現在の国立大学における経営は「いかにして国策に合ったトップランナーたり得るか」という点が問われていると感じています。
共同教職大学院はできるのか
気の早い話ですが、学年進行に伴い学生の進学先の確保が気になるところです。国立大学間の共同教職大学院ができるかもしれませんね。