平成29年度私立大学等改革総合支援事業(タイプ5)の採択結果から考える採択・不採択の分かれ目

私立大学等改革総合支援事業:文部科学省

 平成29年度私立大学等改革総合支援事業の採択結果が公表されました。弊BLOGでも注目していたタイプ5に関する結果も出ていますね。

文科省以外の概算要求事項における大学関係予算 - 大学職員の書き散らかしBLOG

私立大学等改革総合支援事業タイプ5は地方私立大学再編も視野に入っているのではないか - 大学職員の書き散らかしBLOG

  申請数 選定数
地方型 プラットフォーム数 13 6
大学等数 58 28
都市型 プラットフォーム数 8 3
大学等数 61 46
総数 プラットフォーム数 21 9
大学等数 119 74

 プラットフォーム数で見ると、採択率は50%を若干下回る程度でしょうか。この状況について、委員長所見では以下のとおり言及されています。

今年度から新設したタイプ5については、事業初年度で事業趣旨の周知期間や公募期間が必ずしも十分でなかったこと、また、自治体との連携を必須とするなど厳しい申請要件を課していたにも関わらず、広く全国各地から予想を上回る申請が寄せられ、私立大学等の各地域における高等教育の活性化に向けた機運の高まりが感じられた。また、今年度においては、外形的な体制整備がなされているかどうかまでを選定の主な評価対象としていたところ、地域の高等教育の係る中長期計画を既に策定し、計画の実行に着手しているプラットフォームが複数見られ、今後の進捗が大いに期待される。
タイプ5については、平成30年度より地方交付税措置が予定されており、自治体から地方創生に向けた取組への支援がより活性化することと推測される。各大学等において、自治体のニーズに対応した地域の活性化に資する取組がより加速化することを期待する。
今回の選定プロセスで把握できた実態や各大学等からの意見も踏まえ、また、支援の重点化を図るため、評価項目(設問)の実質化など更なる改善・充実を図ること。特に、タイプ5については、来年度より「スタートアップ型」と「発展型」の2層での支援を予定していることから、審査方法等についても改善・充実を図ること。その際、地方自治体からの評価についても考慮すること。

 地方交付税の件については、別サイトに解説記事が公表されています。

次年度予算案-改革総合支援事業のプラットフォーム参加自治体に交付税 | 大学改革を知る | Between情報サイト

 注目すべきは、この事業で大学と連携し、財政負担が生じる地方自治体に対して総務省からの特別交付税措置が予定されていることだ。補助率は8割になる見通し。これにより、自治体が積極的にプラットフォームに参加することが期待され、事業の実質化につながりやすいと文科省は説明する。
 例えば、地域の大学群が学生のインターンシップを支援する場合、自治体には地元企業の情報把握と提供、説明会の開催といった役割が期待される。しかし、厳しい財政状況の下、予算をねん出できない自治体も多い。特別交付税によってそのハードルを下げるべく、文科省総務省に連携を働きかけていた。大学群が社会人の学び直しを支援する場合には、自治体が講座プログラムの開発に協力したり、受講者への経済支援をしたりすることを想定している。

 設問毎の該当件数が公表されていますので、それをもとに、採択プラットフォーム(以下、「PF」)と不採択PFの状況の違いを確認します。

設問 最高点 採択PF平均点 不採択PF平均点 採択PF得点率 不採択PF得点率
プラットフォーム形成大学等、自治体及び産業界との協議体制 3 2.44 2.75 81.5% 91.7%
自治体との包括連携協定の締結と協議の実施 5 5.00 3.33 100.0% 66.7%
産業界との包括連携協定の締結 3 2.33 1.50 77.8% 50.0%
プラットフォーム形成大学間の定期的な協議 5 5.00 5.00 100.0% 100.0%
中長期計画策定・実施のための体制整備 4 4.00 4.00 100.0% 100.0%
プラットフォーム形成大学等の数 6 5.33 3.75 88.9% 62.5%
地域におけるプラットフォーム形成大学等の割合 6 5.33 3.83 88.9% 63.9%
自治体からの支援 5 4.00 3.33 80.0% 66.7%
産業界からの支援 4 3.11 2.50 77.8% 62.5%
高等教育の現状と課題の分析・公表 5 4.78 1.17 95.6% 23.3%
学術分野マップの作成・公表 4 4.00 2.33 100.0% 58.3%
地域の高等教育のビジョン・目標の公表 5 4.44 0.83 88.9% 16.7%
ロードマップの作成・公表 5 4.00 0.67 80.0% 13.3%
個別取組に対する数値目標の設定 5 3.22 0.00 64.4% 0.0%
地域の教育政策や教育のあり方等に関する協議 3 2.33 0.25 77.8% 8.3%
プラットフォーム形成大学等間の単位互換等の取組 4 2.00 1.75 50.0% 43.8%
共同のFD・SD 1 1.00 0.58 100.0% 58.3%
教職員の人事交流 2 0.44 0.25 22.2% 12.5%
地域課題解決のための共同研究 1 0.44 0.17 44.4% 16.7%
共同で実施する奨学金事業 2 0.00 0.00 0.0% 0.0%
施設・設備の共同利用 1 0.67 0.42 66.7% 41.7%
共同IRの実施 1 0.44 0.08 44.4% 8.3%
学生募集活動にかかる取組 2 1.00 0.25 50.0% 12.5%
地域の教育支援活動 1 0.89 0.58 88.9% 58.3%
共同の公開講座の企画・実施 1 0.89 0.75 88.9% 75.0%
就職を促進するための地方自治体又は産業界との共同の取組 1 0.78 0.58 77.8% 58.3%
地域のリスクマネジメントの検討 1 0.56 0.25 55.6% 25.0%

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 採択PF、不採択PFの回答状況からそれぞれ平均得点を算出し、それを各設問の最大点で除して得点率を求めました(各設問毎に最大点が異なるためこのような処理をしています)。ここから、採択PF・不採択PFで特に得点率のかい離が大きいのは、以下の設問であるとわかります。

  • 高等教育の現状と課題の分析・公表
  • 学術分野マップの作成・公表
  • 地域の高等教育のビジョン・目標の公表
  • ロードマップの作成・公表
  • 個別取組に対する数値目標の設定
  • 地域の教育政策や教育のあり方等に関する協議

 これらは中長期計画の策定に関する設問であり、ビジョンや中長期計画の審議を実質的に行い、策定にこぎつけたのかが評価されたと考えられます。採択されたPFのウェブページ等を確認すると、平成29年10月ごろに協定書を締結した組織がいくつも見られました。概算要求時点や予算編成時点である程度予告されていたとは言え、8月に文科省から依頼文書の発出、11月に申請書の提出という非常にタイトなスケジュールの中で、採択PFとも協定所締結からビジョン・計画の策定まで、かなり本気で取り組んだ結果だろうと思われます。

 採択一覧を見た際、思ったよりも既存の大学コンソーシアムが少ないなと感じました。名称としてはキャンパス・コンソーシアム函館と大学コンソーシアム京都、その直接的な出自を推測するとひょうご産官学連携協議会(おそらく大学コンソーシアムひょうご神戸が出自)、九州西部地域大学・短期大学連合産学官連携プラットフォーム(おそらく大学コンソーシアム佐賀と大学コンソーシアム長崎が出自)でしょうか。既存の大学コンソーシアムが本事業に申請しなかったあるいは採択されなかったことは、以下の点が影響しているのではないかと考えています。

1.大学コンソーシアムのトップが国立大学であること

 大学コンソーシアムが地域の大学等の集まりであることから、大学等の規模感等も踏まえ、各地域の国立大学がトップや事務局を務めることがよくあります。特に、都道府県単位でコンソーシアムを組んでいる場合は、それが多いかなという印象です。全国大学コンソーシアム協議会が公表している情報を見ても、連絡先が国立大学内にあるコンソーシアムはいくつもあります。

全国大学コンソーシアム協議会事業(事務局運営) | 公益財団法人 大学コンソーシアム京都

 今回の事業は私立大学等改革総合支援事業の一部であり、国立大学には直接的には影響を与えません(もっと言うと採択されても国立大学への直接的な予算配分はありません)。そのため、対応が遅くなったか、あるいは対応が弱くなった可能性があると考えます。コンソ函館やコンソ京都、コンソひょうごは私立大学が結構活発に活動しているという印象ですので、コンソーシアムとしても対応しやすかったのかもしれません。

2.本事業が大学コンソーシアムのミッションに含まれていないこと

 本事業は地域の高等教育に関する中長期計画の策定や実行を行うものとなっています。私が知る限り、このようなミッション(目的)を掲げ、実質的な活動を行っている既存の大学コンソーシアムはほぼありません。大学コンソーシアムの典型的な活動と言えば、単位互換事業の実施や公開講座の開催などであり、大学の教育研究等活動を地域社会などに広める活動はできても、自機関のみならず広く高等教育に関する中長期計画を策定することは今まであまり経験がなかったのではないでしょうか。そのため、短期間での体制整備やビジョン・計画策定は経験のないことであり、及び腰になった可能性も考えられます。

3.大学コンソーシアムの組織が大きいこと

 既存の大学コンソーシアムは、半数以上が都道府県単位で設置されています。当然、加盟機関の学長や理事長級が最高意思決定機関の委員となっており、事業に応じてさらに細かい内部組織が設けられていることでしょう。つまり、比較的大きな組織運営を必要とする組織が多いという印象です。このような組織では意思決定が遅れ気味になりがちです。本事業においては、依頼から申請までの短期間におけるスピード感が非常に重要であり、重厚な大学コンソーシアムの組織運営体制では迅速に動けなかった可能性があると考えられます。

 

 上記の3点の理由により、少なくとも本年度の本事業においては、既存の大学コンソーシアムではなかなか取り組みにくかったのではないかと推測します。次年度の本事業に向け、どのように取り組んでいくべきか、既存の大学コンソーシアムを用いることが最も良い方法なのか、枠組み自体を検討する必要があるのかもしれません。逆に言えば、既存の大学コンソーシアムを出自としているであろう採択PFは本当に真剣に取り組んだ結果なのだろうと思います。