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プロジェクト型業務に思う ~トータル・アドミニストレーションという考え方~

その他

TED Talks 組織と協力に思う 〜義務と意欲と能力の重ね合わせ〜 - 大学職員の書き散らかしBLOG

 前回、幣BLOG記事では、義務と意欲と能力の重ね合わせによる理想的な仕事のあり方について、お話ししました。今回は、それをどのように実現するかという一例を考えてみます。

 現在多くの国立大学では、事務分掌規則が定められ、それに従って各部課グループ等単位で業務が行われていることと思います。たとえば、東京大学本部事務組織所掌事務規定では、課ごとに所掌業務(主要業務)が定められています。

東京大学本部事務組織所掌事務規程

東京大学本部事務組織所掌事務規程 平成19年6月29日制定東大規則第12号
(趣旨)
第1条 この規程は、東京大学事務組織規則第2条に基づき、各課の所掌事務その他必要な事項について定めるものとする。
(所掌事務)
第2条 各課の所掌事務は、別表の所掌事務(主要業務)欄に掲げるとおりとする。

 既存の「処理」的な面が強い業務では、このような業務範囲を特定する方法は強みを発揮するでしょう。ただ、国立大学への要請がさまざま巻き起こるなかで、たとえばグローバル人材養成やCOC事業など、複数の業務分野に跨る業務が発生しています。もっと具体的に言うと、外国版ホームページを作りましょう、充実させましょうとなったときに、国際部署が担当なのか、広報部署が担当なのか、情報部署が担当なのかという(ある意味でどうでもいいような)問題が発生することが想定できます。このように、既存の業務体系の隙間にある業務は着実に増加していると感じており、また、そのような隙間業務にうまく対応できる大学こそ今後生き残っていくのだろうな、と考えています。そのような隙間業務への対応として、以前幣BLOG記事での言及した、職員によるプロジェクト型業務が有効ではないでしょうか。

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 図1に、既存の業務との関係性を簡単に示します。各部単位での平常業務、いわば1階部分に対し、部横断的なプロジェクト型業務、2階部分を設定しています。プロジェクト型業務には、必要に応じて、学生や教員を加えたチームを形成することも考えられます。なお、財務部と学務部と企画部の者がプロジェクトAを担当するという意味ではなく、3部署に渡る課題に対しプロジェクトを設定しているという意味です。

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 図2に、プロジェクト型業務のイメージ図を示します。役員会等での問題意識を受け、課題解決を担当する理事が理事補佐等に検討を指示します。それを受け、当該理事補佐が指名もしくは公募によりチームをつくり、課題を検討します。検討の結果を理事に伝え、その結果をもとに理事が解決案を検討して、役員会等に解決策を提案するという流れです。課題が役員会等から出るのではなく、理事等個人の問題意識からスタートすることも考えられますし、当該理事が直接チームメンバーを指名することもあるでしょう。あくまで、流れの一例です。

 このプロジェクト型業務には、大切なことが3つあると考えています。

  1. 課題を限定的に定める。
  2. 期間を定める。
  3. 命令者を明確にする。

 1.について、プロジェクトチームが具体的な解決策を期日までに提案できるためには、与えられた課題が限定的である必要があります。たとえば、「大学の国際化を進めるにはどうすれば良いか」という大きな課題ではなく、「事務職員の英語能力を向上させるためにどうすれば良いか」という比較的細かい課題設定のほうが、より課題に即した解決策がでてくるでしょう。もちろん、事前に課題提案者である理事等が、なぜそれを課題と思っているのか、その課題が解決されればどんな良いことがあるのかをチームに明確に伝えておく必要があるのは、言うまでもありません。

 2.について、プロジェクトチームはあくまでプロジェクトのためのチームであるため、検討期間を明確に定める必要があります。たとえプロジェクトチームの提案が大学全体の取組として実施することになったとしても、チームは実施の責任を負うものではありません。あくまで、定められた期間のみ特命的に業務にあたるということにしなければ、自由な議論ができないでしょう。

 3.について、前述のとおり、プロジェクトチームは期間限定であり責任を負うことができません。責任は、あくまで、課題を提案しチーム結成を命令した命令者個人(図2でいう理事B)にあります。そのため、チームの検討結果・解決策提案は命令者に行うとともに、それをどのように扱うか(私見を加え上位会議体に提案する、新たなチームを集めて検討しなおす、廃案にするなど)は命令者個人の責任で行うことになります。もちろん、徒労感を与えないためにも、命令者個人の検討結果や上位会議体の結論は、チームへフィードバックする必要があるでしょう。

 従来のワーキンググループ形式は、たいてい、課題提案者である理事等がグループのトップとなり、その周辺の職階(部長職等)がメンバーとなり行われていたという印象があります。それのみでなく、もっと職員のリソースを活用し、新しい観点を含む議論を行うという点が、このプロジェクト型業務との違いと考えます。

 このようなプロジェクト型業務へ参加する職員個人へのメリットは2点あると考えています。

 1点目は、職場内で新たな居場所ができることです。人脈や新たな居場所は、他方で言えないことやできないことをできるという意味で、個人のセーフティネットにもつながります。

 2点目は、個人の意欲や能力が直接反映され、能力育成につながるということです。従来の能力開発では、その職務・職階についているからという理由で研修等を受けさせられており、必ずしも個人の意欲や能力に考慮した能力開発ができているわけではないと考えています。つまり、従来型の公務員的業務では異動の有無に関わらずある程度誰でも業務ができるというミニマム・リクワイアメントの水準が求められていたにも関わらず、研修等では個人として能力向上を求められており、研修の意欲がわかないという事態になっていたのではないでしょうか。このあたりは、従来の組織的な能力開発の限界だと感じています。対し、個人の意欲や能力が直接提案に反映されるような少人数プロジェクト型業務では、個人としての意見や貢献が求められ、通常の業務では得られない経験や成長が得られるのではないでしょうか。

 一方、実施するにあたっての問題点は2点あると考えています。

 1点目は、従来業務との時間的な兼ね合いとどうするのかということです。これについては、以前幣BLOG記事でも述べたとおり、業務改善などをうまく使っていく必要があると思います。

業務改善のジレンマ - 大学職員の書き散らかしBLOG

 もちろん、それだけでは既存の業務時間を圧縮することは困難でしょう。ただ結局、各業務にどれほどの時間をかけるかという点は個人に依るでしょうし、パーキンソンの法則のように与えられた時間目いっぱいかけるということも想定できます。

パーキンソンの法則 - Wikipedia

 いわば業務の主専攻副専攻のような形になっていますが、その時間配分割合はどうにもできないところもあるし、どうにでもできるところもあり、議論がしにくいです。GoogleやHPが導入している(していた)「勤務時間の○%は、通常の職務を離れて自分のやりたいことに取り組んでよい」ということに似ていますが、全職員がプロジェクト型業務に従事するわけではないという点が異なりますね。

Google、Yahoo!、HP...成功事例に学ぶ「20%ルール」を導入するポイント : ライフハッカー[日本版]

 2点目は、チームメンバーをどのように集めるのかということです。一つの解決策は、学内に「○○という課題を解決するチームメンバーを募集します。」と募集をかけるやり方が考えられます。この場合、立候補してきた者の特性等を命令者は判断する必要があるでしょう。

 もう一つの解決策は、命令者が直接指名する場合です。ただ、見知った者以外の職員となると、どのような能力や意欲を持っているのかがわからず、効果的な指名が難しい場合があります。そんな事態に備え、人事担当部署は履歴書や目標管理・能力評価シートなど職員の能力等を示す提出物を整理し、「○○という課題には、△△学部出身の□□さんが役立つかもしれません。」と、命令者の要望に合った職員を紹介できれば良いでしょうね。よく企業向けに学内教員の専門分野等が記載した冊子が作られていますが、あれの職員版として整理するイメージです。

 最終的には、このようなプロジェクト型業務への参加が人事評価や報酬へつながることが望ましいと考えています。

早稲田大学 実践型産学連携プロジェクト プロフェッショナルズ・ワークショップ

 企業・自治体が実際に抱える問題について、各企業・自治体のプロフェッショナルズと学部/学年をこえて集まった有志の早稲田大学学生が共同で問題解決に取り組み、解決策を提案します。

 既存の取り組みでは、早稲田大学が行っているプロフェッショナルズ・ワークショップが近いと思っています。HPには主にキャリア教育的側面が書かれていますが、実際に担当している職員のお話では、教員はあまりタッチしておらず、学生と企業と職員がチームとなって取り組んでいるそうです。

 前回BLOG記事では、義務と意欲と能力の重ね合わせという考え方を示しました。そのなかで、最も良くないことは、各者が孤立することです。義務を持った者が孤立すると「なんでこんな業務しないといけないんだ」、意欲を持った者が孤立すると「なんであんなにやる気がないんだ。あいつはダメだ。」、能力が孤立すると「もっとうまいやり方があるのになぜあんなやり方なんだ。」とフラストレーションがたまり、組織や個人への不信感の醸成にもつながりかねません。

 特に、国立大学は、今後とも人員削減が続くと考えた方が無難でしょうし、部署等にとらわれず、一人一人の力を結集して事に当たる必要があります。構成員各人の力をもって大学の課題に立ち向かう、いわば「トータル・アドミニストレーション」のような形が構築できないかと考えています。