3つのポリシーは新参若手管理職のようなものである

kakichirashi.hatenadiary.jp

 前回の記事では教学マネジメントについて言及しましたが、教学マネジメントの中では3つのポリシー(特にDP)が重要であるとされています。改めて、3つのポリシーの性格や位置付けを考えていたんですが、まるで新参の若手管理職みたいだなと感じた次第です。今回は、そのことを記します。

1.3つのポリシーとは何か

 中央教育審議会大学分科会大学教育部会が策定した「「卒業認定・学位授与の方針」(ディプロマ・ポリシー),「教育課程編成・実施の方針」(カリキュラム・ポリシー)及び「入学者受入れの方針」(アドミッション・ポリシー)の策定及び運用に関するガイドライン」では、3つのポリシーは下記表のように整理されています。

語句 意味
ディプロマ・ ポリシー 各大学,学部・学科等の教育理念に基づき,どのような力を身に付けた者に卒業を認定し,学位を授与するのかを定める基本的な方針であり,学生の学修成果の目標ともなるもの。
カリキュラム・ ポリシー ディプロマ・ポリシーの達成のために,どのような教育課程を編成し,どのような教育内容・方法を実施し,学修成果をどのように評価するのかを定める基本的な方針。
アドミッション・ ポリシー 各大学,学部・学科等の教育理念,ディプロマ・ポリシー,カリキュラム・ポリシーに基づく教育内容等を踏まえ,どのように入学者を受け入れるかを定める基本的な方針であり,受け入れる学生に求める学習成果(「学力の3要素」についてどのような成果を求めるか)を示すもの。

 この3つのポリシーですが、文部科学省の文書で初めて大きく取り上げられたのは、平成17年に公表された中央教育審議会答申「我が国の高等教育の将来像」だと認識しています。

第2章 新時代における高等教育の全体像

3 高等教育の多様な機能と個性・特色の明確化

(3)学習機会全体の中での高等教育の位置付けと各高等教育機関の個性・特色

 高等教育の将来像を考える際には、初等中等教育との接続にも十分留意する必要がある。その際、入学者選抜の問題だけでなく、教育内容・方法等を含め、全体の接続を考えていくことが必要であり、初等中等教育から高等教育までそれぞれが果たすべき役割を踏まえて一貫した考え方で改革を進めていく視点が重要である。また、より良い教員養成の在り方についても検討していく必要がある。

 このため、各大学は、入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)を明確にし、選抜方法の多様化や評価尺度の多元化の観点を踏まえ、適切に入学者選抜を実施していく必要がある。また、教育の実施や卒業認定・学位授与に関する方針(カリキュラム・ポリシーやディプロマ・ポリシー)を明確にし、教育課程の改善や「出口管理」の強化を図ることも求められる。

 生涯学習との関連でも、高等教育機関は履修形態の多様化等により、重要な役割を果たすことが期待される。 

 その後、平成28年には学校教育施行規則が改正され、平成29年度以降の3つのポリシーの策定及び公表が各大学等に義務付けられました。当時発出された通知では、改正の趣旨について、以下の通り記載されています。

今回の改正は,大学及び高等専門学校(以下「大学等」という。)が,自らの教育理念に基づき,育成すべき人材像を明確化した上で,それを実現するための適切な教育課程を編成し,体系的・組織的な教育活動を行うとともに,当該大学等の教育を受けるにふさわしい学生を受け入れるための入学者選抜を実施することにより,その使命をよりよく果たすことができるよう,全ての大学等において,その教育上の目的を踏まえて,「卒業の認定に関する方針」,「教育課程の編成及び実施に関する方針」及び「入学者の受入れに関する方針」(以下「三つの方針」という。)を策定し,公表することを求めるものです。

2.3つのポリシーの性質

 なぜ"3つのポリシーは新参若手管理職"であると感じたのか、以下の通り整理します。

2−1.新参

 3つのポリシーは、大学での策定・公表が義務付けられてまだ数年です。

2−2.若手

 3つのポリシーは、行政機関の公的文書に挙げられてからまだ10数年程度です。これは、多くの大学にとっては、建学の精神や教育目標、卒業認定単位などに比べて非常に歴史が浅いでしょう。

2−3.管理職

 3つのポリシーをもとにして教育課程を構築するのであれば、様々な教育活動が3つのポリシーにより規定されることになります。この役割は、事業に取り組む際の管理職と同じだと感じています。

3.3つのポリシーにどのように付き合っていくか

 3つのポリシーを新参若手管理職だと捉えると、以下のような状態だろうと思います。

  • 今までの文化(建学の精神、教育目的、教育課程、卒業認定基準など)がすでに定着している中で、外部から飛び込んできた新参者
  • 周りは老獪な先輩(建学の精神、教育目的、教育課程、卒業認定基準など)ばかり
  • これまでの経緯もよくわからず「君が中心となって立て直してくれ」と上から言われている
  • 「君自身の業務の達成度(ポリシーの到達度)も明確にしてくれよ」と上から言われている

 なかなか厳しい状況なのかもしれません。この場合は、古いものと新しいものがお互いを理解し歩み寄り譲り合いつつ、物事を成していかなければならないでしょう。同じように、既存の建学の精神、教育目的、教育課程、卒業認定基準などと3つのポリシーも、歩み寄り譲り合う形で関係性を整理した方がいいでしょうね。

教学マネジメントは広まるのか。

教学マネジメント特別委員会(第2回) 議事録:文部科学省

 教学マネジメント特別委員会の議事録が公表されています。この委員会は、各大学等における教学マネジメントの確立に向けた方策(学修成果の可視化や情報公表の在り方を含む)について専門的な調査審議を行うために、中央教育審議会大学分科会の下に設置されています。全ての大学等の教育活動に関することですので、内容が気になるところです。簡単に所感を記しておきます。

1.教学マネジメント(案)の内容

 同委員会第3回会議資料3には、教学マネジメント(案)が掲載されています。

f:id:samidaretaro:20190220225412p:plain

 内容を見ると、既存の政策が繰り返し言及されているのではないかと思われます。今まであまり言及されてこなかった事項としては、

  • DPとの関係が明らかでない科目は見直しや取りやめを場合により検討
  • 経営層への研鑽

あたりでしょうか。

2.委員の気になる発言

第2回議事録から、委員の気になる発言を挙げてみます。

あともう1点については,どこにどう入れたらいいのかよく分からないんですが,例えば授業評価をやっていくとか,あるいは学修成果を把握したり,それを可視化していく,情報公開していくといったときに,大学はどうも自前主義に走り過ぎるところがある気がします。共通化できる部分はすればよいのに、それぞれの大学で多大な開発コストを掛けて,ローカル版を大学の中でも学部版,学科版とか作って,後でうまく連携できないとかということが結構起きている気がします。この先,どう考えても厳しい時代を迎えていくので,こういったものを支える基盤的なものをできるだけ共有化していくとか,できるだけ自前主義を脱して何とか全体で効率性と高い効果をあげていく、といったことを実現できないかという観点をどこかに入れた上で議論したらいいなと思いました。

要するに,労力を掛けて教学マネジメントを整えても甲斐のない社会の仕組みになっているのではないか。そうした状況の中で全国的に教学マネジメントを進めていっても,労力に見合った成果が見込まれないとすれば,大学教員のコミットメントを取り付けることは難しいのではないか。教学マネジメントを進めるためには,取組が評価される環境を整えなければ,十分な協力は得られないということを考える必要があると思います。
今回,具体的な項目が16ぐらいですかね,挙げられているんですが,出てきている用語自体は決して新規のものではないと思います。これまで答申とか外部評価とか補助金申請に当たっての条件として提示されてきたんですけれども,なぜこれを繰り返しここで出さなければいけないのかということについても考えなきゃいけないかなと思っております。

 これら点については、後述する「なぜ当たり前のはずの教学マネジメントが行われていないのか」と大きく関係しているように考えています。

経営改革に積極的な企業は,きちっとしたジョブ・ディスクリプションを作成しています。仕事の責任は何か,何をすると評価されて,何を頑張っても駄目なのかなどをはっきりさせています。そのジョブ・ディスクリプションを遂行する前提は、どんな事が出来るかという能力、そして、何に適性があるかです。

 「きちっとしたジョブ・ディスクリプション」は気になりますね(それ以上に「きちっとしていないジョブ・ディスクリプション」が気になりますが。。。」)。是非とも会議資料として提出していただきたいです。

DPと卒業の質保証との関係を,私は初めてこの委員会に参加しているので,実は現場でもかなり今,学内でそこが議論になっていて,どこまで精度を持ったDPを作るかというところで,いつもここで止まるんです。

大森委員が書かれていることについて,私も非常に強く感じているところがありまして,申し上げたいと思います。私,今ちょうど,京都大学の中で3ポリシーの見直し作業に関わっておりまして,そのときにDPのレベルで学修目標を明確かつ具体的に書くということは非常に難しいなと感じています。ところが,ここの箇所ではDPで明確かつ具体的にと求められているので,DPを書かれる教員や職員の方々から,どの程度明確かつ具体的に書くんですか,学位プログラム全体でそういうことが書けるんでしょうかという悩みが出てきます。

DPに関しては,やっぱり抽象度が高いものにならざるを得ないだろうと思っております。

こういう議論というのは,大体,ともすれば理想的になり過ぎる。教育の議論というのは大体そういうのが多くて,きょうのも,ディプロマ・ポリシーについて,それがひも付けられてカリキュラムができて,科目が決まりということが前提で全部話が出ていたんですけれど,現実にはそれは非常に難しいわけです。それは森委員がおっしゃったように,そもそもディプロマ・ポリシーの到達基準なんていうのは,まだそんなことを測定している例というのはないわけですから,更に数値化なんていうのはとてもできないという,そういうような状況にあるのですけれど,きょうの議論というのはどっちかというと,こういうふうになればいいよねという議論になってしまっている。そこのところで非常に気になるのが,そういった場合に,できない場合どうするかという担保が必要だと思うのです。そういう議論がないので,ちょっと理想的になり過ぎているというのは気になります。

そこで,本題に戻るのですけれど,3ページの上のところに,ディプロマ・ポリシーにおいて「できるようにすること」,これはそのとおりですけど,逆算して,必要な授業科目を開設し,体系的に教育課程を編成することが必要である,これも理想論としてはそのとおりなんです。ただ,今申し上げたように,それが本当にできるかというと,かなり難しい。その上で,「同方針への貢献が見込まれない科目については,内容の見直しや取りやめを検討する必要もある」と。これはかなりきつい書き方ですね。

 ともすれば理想論になりがちの話を引き戻してくれる発言だと感じました。

コースのカリキュラム・授業レベルで見ていく部分と,非常に抽象度の高いところで汎用的に見ていく部分と,それは様々にあって,非常に個別的な水準においては,大学が独自にアセスメントしていくしかもちろんないと思いますし,それが大事だと思いますが,非常に高いところでは,やはり社会の方々が見て,ああ,そうか,ここの大学の学生というのはこういう感じで力が付いてきているのかとか,あるいは付いているのかということをやっぱり見たい,見せなければならないんだと思うんですね。それで初めて社会との関係とか信頼が修復されていくといいますか,関係がとれていく。

 言っていることは正論で理解できるのですが、これは大学の数が10や20程度の時に成立することなのではないでしょうか。大学が800弱短期大学が350程度ある中で、DPは抽象的なものになると言っていることを踏まえると、「ここの大学の学生というのはこういう感じで力が付いてきているのかとか,あるいは付いているのかということをやっぱり見たい,見せなければならない」というのは、姿勢としては共感できるのですが、どのような違いが出せるのかちょっとイメージできないです。常に忘れてはいけないことは、全国の1000以上の大学短期大学がこの教学マネジメントに取り組んでいかなければならないことです。

そうすると,具体的には何をすればいいかというと,1科目当たりの単位数を増やす。つまり,1単位ないし2単位の科目をなくしていって,4単位以上の科目を基本にする体制に変えていくという,これをどうするかということが,この授業科目・教育課程の編成にとって根本の問題だと私は思っていますので,それを提起させていただきたいと思います。

ゼミとか非常に豊かなインタラクションであったり議論というのが,卒業研究とかそういうのができるのは,やっぱり同じ教員で,同じ学生たちで,多くの時間を共有して,結構お互いの共有情報というか,そういうのも蓄積されて心が動くんですよね。そういう認知的ないわゆる学修というのが一方で大事なんですが,他方で,いわゆる情意面といいますか,そういうお互いの,同じ教師の授業ですね,先ほどの吉見委員の話をちょっと加えたら,4単位というだけじゃなくて多分週複数回という,そこがとても大事で,それを大分以前のように年間4単位で週1回やっていたのでは話は変わりませんので,やっぱり週複数回で単位を3単位,4単位と増やしていって,同じ先生の同じ学生を週複数回見ていくというのが,私なんかは,非常に心も動いてお互いの共有知も増えて学修が深くなっていく一つの制度的な在り方かなと思います。

単位制度の運用というのが日本の場合は非常に難しいので,そこのところは教学マネジメントの基盤になる部分だと私は思います。単位制度の運用状況というのもどこかで入れておいた方が質保証の面ではいいと思います。

 科目数や単位数の話も出ています。日本の大学の授業の単位数が細分化していった経緯を読んだ気もするのですが、出典が思い出せません。

3.教学マネジメントを巡る議論への所感

3-1.なぜ教学マネジメントに取り組んでいないのか

 教学マネジメントとは、3つのポリシー、特にDiplomaPolicy(DP:卒業認定、学位授与に関する方針)をもとに、体系的な教育課程を構築し、点検・評価・改善を繰り返しながら、それらについて適切に情報公開を行なっていくことだと理解しています。これだけ見ると、極めて普通で当たり前に行うべきことのように感じます。私が最も興味があるのは、なぜ当たり前に思えるような教学マネジメント(あるいはこの名称でなくとも同様の取り組み)が多くの大学で取り組まれていないのか(あるいは取り組まれていると思われていないのか)です。例えば、

  • 教学マネジメントに取り組むべきだと考えていない
  • 重要性は理解しているが取り組むリソースがない
  • 重要性は理解しリソースもあるが方法がわからない
  • 重要性は理解しリソースもあり方法もわかるが効果が上がっていない
  • 重要性は理解しリソースもあり方法もわかり効果も上がっているが適切に情報発信できていない

などが考えられます。なぜ取り組まれていないのか(あるいは取り組まれていると思われていないのか)という点をある程度整理しなければ、効果がある形で広めていくことは難しいかもしれません(どこかで資料を見た気がしないでもないですが)。

3−2.DPを達成・測定する必要はあるのか

 今までの大学教育に関する議論は全く無視しますが、そもそもDPはあくまでPolicyであり、私のイメージでは到達できないほど遠くにあるもの(その方向に向かうべきもの)だと整理すべきではないか思っています。雑な例えをすると、私学の建学の精神と同じような”目指すべきもの”と捉えています。私が知る限り、建学の精神がどの達成されているか、建学の精神を直接的に尺度として測定している私学は聞いたことがありません。

 DPは、あくまで教育課程を構築する際の方針であり、科目を積み上げることにより学生がDPに(ある意味で擬似的に)近づくものだと考えます。この科目の積み上げとは、つまり卒業要件単位のことです。卒業時に修得した単位や授業などから学生がどの程度の能力を習得したかを仮定しこれがDPとどのように関連付けられるかを検討するのは良いのですが、修得単位等を無視してアンケート等にてDPを測定しようとするのは明らかに悪手だと感じます。

 もっと言うと、DPを巡る議論の際に卒業要件単位への言及があまりないことは非常に不満を感じています。DPと卒業とを関連づけるのであれば、DPに合わせて卒業要件単位を再構築すべきです。そうでなければ、理論上はDPに合わせた教育課程の構築はできないのではないでしょうか。

3−3.まずはカリキュラムの体系化を強力に押し進めるべき

 学修成果の可視化や情報公開など様々な要素が混在してわかりにくいのですが、最も早くかつ力を入れて取り組むべきは、カリキュラムの体系化だと考えています。各授業がどのように接続しているのか、授業名称や履修年次のみではなく、シラバスの内容や授業担当者の思いも含めて擦り合わせを行い、1科目ごとの授業相関図を作成すべきです。その検討過程で、既存の授業内容では接続の前後関係を明確にできない場合は、授業内容の変更も含めて検討することになるでしょう。どのような流れで学生に学んでいってほしいのか、注力して道筋を整理することで、教学マネジメントの大抵の事柄には対応できるのではないかと考えています。事務的に一部の教員が案を作りそれを確認するのではなく、特定の組織の全教員が参加して策定する形に持っていきたいですね。

初めての業務に挑む時のポイント

 そろそろ人事異動シーズンでしょう。望むにも望まないにも関わらず、人事異動はやってきます。私も3年ほど前に人事異動で今の職務に就いたとき、全く初めての業務ばかりでしたので、かなり当惑したことを記憶しています。基礎知識を学ぶことも必要なのですが、改めて、初めての業務に挑む時のポイントを整理しておきます。

 総じると、規則性を知り、関係者を理解し、規範を身につけることが大切だと考えています。

1.規則性を知る

 業務には、必ず規則性が存在します。年間季間月間週間日間に何を行うのかもある程度整理できますし、個別の業務にしても「これをしたらこうなって、それを基に次はこれをして」という手順が必ずあります。それを理解し、その規則性に身を委ねることで、業務そのものには慣れていくことと思います。

 規則性を知る手がかりは、やはり過去の業務状況でしょう。前年度になにを行っていたのか、送信メールや業務書類などから確認し整理することが必要です。できれば、前年度だけではなく、2年前、3年前の状況も確認したいところです。

2.関係者を理解する

 業務には、必ず学内外に関係者が存在します。書類をやり取りする者や会議の出席者だけではなく、その業務が影響を与える者を想像してください。それらの関係者がどのような思いを抱いているのか、組織としてはどのようにアプローチしたいのか、どのように変化してほしいのかなど、関係者を理解することでより良く業務を運営できます。

 関係者を理解する手がかりは、業務のフローを想像することでしょう。このタイミングで行う業務は最終的に誰に届けるために行うのか考えることができれば、当該業務の関係者も明らかになるかもしれません。

3.規範を身につける

 業務には、その業務ならではの価値観、いわば規範が存在します。それを身につけることで、 優先順位やトラブルなどの価値判断が容易になります。概ね、

  • 最も避けなければならないこと、取り返しのつかないことは何か、それはなぜか
  • 最低限こなさなければならないことは何か、それはなぜか
  • 努力し向上させなければならないことは何か、それはなぜか
  • 特に積極的にならなくてもよいことは何か、それはなぜか
  • 各関係者にとって当該業務はなぜ必要(あるいは重要)なのか

といったことでしょうか。

 大切なことは、この規範を身につけ、自分の職務上の行動をこれに沿ったものにすることです。上司や部下などにも「〜〜は〜〜することを最も避けなければならないので、〜〜に取り組みます」などとことあるごとに話し、規範を自らの言葉で話し行動できるようしておく必要があると考えます。

国立大学法人と文部科学省との人事交流の改革について

www.youtube.com

 2月15日の文部科学大臣記者会見において、国立大学法人文部科学省との人事交流(いわゆる異動官職)の改革が打ち出されました。記者会見の文字起こしを、以下に掲載します。

わたくしは、就任以来、幹部職員の天下り問題や幹部職員の逮捕起訴事案などにより損なわれた文部科学省に対する信頼を一刻も早く取り戻すことが大変重要であると考え、文部科学省未来検討タスクフォースや創成実行本部からもご意見をいただきながら、わたくし自身が先頭に立って、省一丸となり、再発防止策の検討を行い、新生文部科学省の創成に向けて取り組んでまいりました。

その中で、私が特に重要と考えているのが、職員の意識改革と能力育成です。この観点から、文部科学省の人事政策、人材育成のあり方の見直しこそが急務であると考え、文部科学省全体の改革案の取りまとめに先立ち、本日、わたくしの案を提示させていただくことにいたしました。

内容は大きく2点あります。一つ目は、文部科学省における人事改革で、具体的には、教育改革を実行し、また、不祥事の再発防止の徹底を期すための組織人事の在り方自体の改革、採用区分や年次に囚われない適材適所の人事配置、女性若手一般職の積極的登用、若手の現場経験重視、自治体や民間との人事交流の促進などです。二つ目は、国立大学法人との人事交流の改革です。

具体的には、本年4月に交代となる理事出向者は半減を目指す、文部科学省からの理事出向は現在国会提出中の国立大学法人法改正案の施行日である2020年4月以降は学外理事が法定数確保されていることを前提とするなどです。この人事交流の見直しは、結果として国立大学法人の自律性を高める意義もあると考えております。この点については、しっかりと政治主導によって進めてまいります。今後、文部科学省創成実行本部や大学など関係の方々のご意見もお聞きした上で、速やかにとりまとめ、可能なものはこの4月の人事から実施したいと考えております。広くご意見をお寄せいただければと思います。

人事改革に関して、理事を半減するということを明言されていますが、そこの狙いを改めてお伺いしたい。

文部科学省の職員の国立大学法人の出向については、従来行われてきたわけなんですが、職員が現場の実情を熟知しそれにより培った現場感覚を文部科学行政に反映させるなど、行政官として基本的な素養を身につけるという意義はある反面、行政の透明性について疑義をもたれかねない面もあると考えております。こうしたメリットデメリットも踏まえ、まずは理事という役職に注目し、今回の人事改革案を踏まえ、本年4月人事から実行させていただき、その結果もよく分析したうえで、さらに今後どうするかということを検討していきたい。

各国立大学の実情も様々かと思いますので、適切に実施する必要はあると思います。この改革案の狙いとしては、国立大学法人の自律性を高め、戦略的な経営が一層できるように後押しをするということも含まれていることを付言させていただきます。

国立大学法人の人事交流について、私案なのか、文部科学省として取り組むことなのか。また、学外理事が一定する確保されていることについての理由を教えていただきたい。

私案ということで申し上げたが、文部科学省の一連の不祥事の再発防止を徹底するとともに文部科学省の創成を期するためには、やはり人事改革が不可欠である。ただ、現場から、あるいは創成実行本部の有識者の方々から、人事の透明性や柔軟性ということについて問題提議がされましたければとも、これを具体的にドライブしていくためには、政治主導であることが不可欠であると考えたことから、わたくしのプロポーザルということで問題提議をさせていただき、そのうえで、関係のステークホルダー、大学の皆様のご意見もお伺いする機会を設けたいと考えたわけです。

学外理事が法定数確保されていることを前提とするということは、要は文部科学省からの理事の出向、これまでもおそらく人事交流は若いうちは当然のことながら、国立大学も含めていろいろ行っていくと、これは今までと同じ方針ですけれども、そういった方を理事の段階で学外理事と扱うことがふさわしいのかという問題提議です。

正式にはいつ決まるのか。利益相反と透明性の確保についてわかりやすく話してほしい。

時期について、創成実行本部にわたくしからのプロポーザルとしてご提案し、3月中に検討しご意見をいただきたい。

従来の人事について、文部科学省国立大学法人との人事交流について、国民から疑念を持たれないように、できるだけ透明性を高めることが必要だと考えています。利益相反などにおいても、配慮する必要があります。一方で、国立大学法人運営費交付金については、一定のルールに基づいて、機械的に算定される経費などが大半を占めているわけですから、現役出向者からの働きかけによって運営費交付金が恣意的に配分されることは制度上はないと思っています。

やはり、意思決定のポジションにいる方がたとの利益相反ということに対して、国民の皆様に疑いをもたれないようにするということが、今民間でも利益相反に対する制度設計、社外取締役の確保なども進んでいるわけですから、ガバナンス改革の一環としてプロポーザルをさせていただいたということでございます。

 ポイントは、以下のとおりです。

  1. 国立大学法人への文科省からの理事出向者は半減を目指す。
  2. 早ければ2019年4月の人事から取り組んでいきたい。
  3. 私案であるが、政治主導で取り組みたい。

 異動官職については、幣BLOGでもたびたび言及してきました。主には、以下の記事です。

文部科学省出身の国立大学法人幹部に思う 〜異動官職の是非〜 - 大学職員の書き散らかしBLOG

異動官職について思う - 大学職員の書き散らかしBLOG

 交流人事については、建前上は、学長から文部科学大臣への要請という形になっていたと思いますので、その整理をどのように付けていくのかが気になる点です。また、学外理事の確保との関係性は、この文脈ではわかりにくいですね。法人法が改正されるので、それに合わせて対応するという当たり前のことを言っている気がします。

 個人的には、

  1. 文科省若手職員の出向については、大学本部ではなく、学部研究科の事務長補佐クラスに配置する。
  2. 国立大学法人幹部職員については公募制とし、学内応募者や学外応募者とともに、文科省職員も面接等を受験し、選抜する。

 という形にならないかなと思っています。

 いずれにしろ、国立大学法人のマネジメントや職員のキャリアパスが大きく変わりそうで、ワクワクしますね。

学校教育法の改正は内部質保証の一助となるか。

 学校教育法等の一部を改正する法律案が公表されました。この中には、学校教育法や国立大学法人法私立学校法独立行政法人大学改革支援・学位授与機構法などの一部改正が含まれています。

 今回は、学校教育法の改正について、その内容を確認します。

 大きな改正条文は以下のとおりです。いずれも新設条文です。

  • 第109条⑤ 第二項及び第三項の認証評価においては、それぞれの認証評価の対象たる教育研究等状況(第二項に規定する大学の教育研究等の総合的な状況及び第三項に規定する専門職大学等又は専門職大学院の教育課程、教員組織その他教育研究活動の状況をいう。次項及び第七項において同じ。)が大学評価基準に適合しているか否かの認定を行うものとする。
  • 第109条⑥ 大学は、教育研究等状況について大学評価基準に適合している旨の認証評価機関の認定(事項において「適合認定」という。)を受けるよう、その教育研究水準の向上に努めなければならない。
  • 第109条⑦ 文部科学大臣は、大学が教育研究等状況について適合認定を受けられなかったときは、当該大学に対し、当該大学の教育研究等状況について、報告又は資料の提出を求めるものとする。

 学校教育法には認証評価に関する条文が追記されます。現行法令上、文部科学大臣は認証評価機関に対してのみ制約を発生し得る状況であり、細目省令で定められた基準を認証した後は、基本的には認証評価機関の裁量に任せられていました。

 また、あまり知られていませんが、認証評価機関が大学評価基準に適合しているかどうかを判定することも大学が評価基準に適合するよう努力することも、法科大学院以外は法令上に明記されず、各認証評価機関の定めの中で運営されてきました。

 法科大学院認証評価においては、法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律(いわゆる連携法)第5条において、「適格認定」等が明記されています。

法科大学院の適格認定等)

第五条 文部科学大臣は、法科大学院の教育課程、教員組織その他教育研究活動の状況(以下単に「教育研究活動の状況」という。)についての評価を行う者の認証の基準に係る学校教育法第百十条第三項に規定する細目を定めるときは、その者の定める法科大学院に係る同法第百九条第四項に規定する大学評価基準(以下この条において「法科大学院評価基準」という。)の内容が法曹養成の基本理念(これを踏まえて定められる法科大学院に係る同法第三条に規定する設置基準を含む。)を踏まえたものとなるように意を用いなければならない。

2 学校教育法第百九条第二項に規定する認証評価機関(以下この条において単に「認証評価機関」という。)が行う法科大学院の教育研究活動の状況についての同条第三項の規定による認証評価(第四項において単に「認証評価」という。)においては、当該法科大学院の教育研究活動の状況が法科大学院評価基準に適合しているか否かの認定をしなければならない。

3 大学は、その設置する法科大学院の教育研究活動の状況について法科大学院評価基準に適合している旨の認証評価機関の認定(第五項において「適格認定」という。)を受けるよう、その教育研究水準の向上に努めなければならない。

4 文部科学大臣は、法科大学院の教育研究活動の状況について認証評価を行った認証評価機関から学校教育法第百十条第四項の規定によりその結果の報告を受けたときは、遅滞なく、これを法務大臣に通知するものとする。

5 文部科学大臣は、大学がその設置する法科大学院の教育研究活動の状況について適格認定を受けられなかったときは、当該大学に対し、当該法科大学院の教育研究活動の状況について、報告又は資料の提出を求めるものとする。

 今回の改正では、大学評価基準に適合しているしている認定を与えること、大学は大学評価基準に適合するよう努力すること、認定を得られなかった場合は文部科学大臣から各大学へ直接指示が出せることが明記されました。これに際し、連携法の条文を参考にしたことは明白ですね。

 これらの条文の新設により、認証評価を用いた内部質保証体制が学校教育法上に明記されたという印象です。

教職課程経過措置における編入学・転入学の取り扱いについて

 本日、文部科学省より各教職課程設置大学担当者宛に連絡がありました。学力に関する証明書の新様式例の公表とともに、経過措置に関するQ&A集が更新されていましたね。特に、Q&A集のNo.64は全ての大学・短大に影響があるかと思います。

1.通知の内容

Q:

編入学」及び「転入学」の定義は何か。例えば、平成31年3月31日にA大学B学部を退学し、平成31年4月1日にC大学D学部の3年次に入学した学生の場合に、転入学生と取り扱って良いか(経過措置が適用され、旧法適用となるか。)

A:

○大学への編入学については、学校教育法等に定めるとおり、以下のいずれかに該当する方に限り認められる。

1. 短期大学(外国の短期大学及び、我が国における、外国の短期大学相当として指定された学校(文部科学大臣指定外国 大学(短期大学相当)日本校)を含む。)を卒業した者(学校教育法第108条第7項)

2.高等専門学校を卒業した者(学校教育法第122条)

3.専修学校の専門課程(修業年限が2年以上、総授業時数が 1,700時間以上又は62単位以上であるものに限る)を修了した者(学校教育法第132条)

4.修業年限が2年以上その他の文部科学大臣が定める基準を満たす高等学校専攻科修了者(学校教育法施行規則第100条の2)

 これらに該当する者については、いずれもそれぞれの課程の学修を修了して新たに学士課程での学修を開始するものであるため、平成30年5月18日付け質問回答集No.3のとおり、施行の際現に大学に在学している者に該当しない。

○大学への転入学については、同じ学位課程の学修を継続しつつ在籍関係の異動が生じている場合であり、平成30年5月18日付質問回答集No4,5,6のとおり、経過措置の対象となりうる。ただし、ある大学を退学後、別の大学に転入学するまでにどこの大学にも在籍していない空白期間が生じている場合には、学位課程の学修が継続していることにはならない。

○したがって、設例の場合、在学期間に空白が生じずに継続していることから、施行の際現に大学に在学している者に該当する。

  これを読むと、3年次編入だけではなく、他大学を退学し、間を置かずに、自大学に1年生として入学した場合も転入学として取り扱うことになりそうです。

 この前提に立つと、理論上は、かなりの期間(7年後まで)、旧課程を残さなければならない可能性が生じます。例えば、現在の1年生が4年生終了時に退学し、間を置かずに他大学の1年生として入学する場合も、転入学となり旧課程が適用されるのではないでしょうか。

2.対応

 来るかもわからない一人のために旧課程を残しておくのも流石に非効率的ですので、新課程の科目を旧課程にも位置付け、「新課程と旧課程を兼ねる科目」として開講することが無難な対応でしょうか。必要に応じて、本年度末までに変更届を提出することになりますね。

3.問題をややこしくしている点

 この件がややこしいのは、各大学で使用している「編入学」「転入学」の定義と今回文科省が示した「編入学」「転入学」の定義が必ずしも一致していないことです。学内に説明する際には、学内の定義ではなく文科省が示した定義に沿って対応することを丁寧に話さなければなりません。