授業目的公衆送信補償金制度のオンライン説明会に参加しました

 令和2年10月7日に行われた文化庁著作権課及び一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS)主催の授業目的公衆送信補償金制度のオンライン説明会に参加しましたので、記録を示しておきます。なお、私が理解できた範囲での記録ですので誤りが含まれる可能性があり、本記事の内容に起因する行為への責任は当方は一切負いません。

制度の概要説明(趣旨と目的など)【文化庁著作権課】

・ 授業目的公衆送信補償金制度は著作権法に定められた制度であり,著作物の利用円滑化と著作権者の利益保護のバランスを図ったものである。他人の著作物は無料で使用できるわけではなく,基本的には利用において対価が発生する。教育活動での利用においても,基本的には同様である。

著作権制度は,流通・利用と権利制限とのバランスが重要である。

・ 権利者であれば,利用条件を決めることができ,他人の無許可利用を禁止できる。他人の著作物を利用する際には,原則として,著作物の利用ごとに許諾を得ることが必要である。

・ 公益性の高い利用や権利者の利益に与える影響が少ないなど,一定の条件下において,権利者の権利が制限される場合がある。これは著作権法第35条に明示されている。

著作権法第35条では,対象施設・対象主体・目的限度・行為・権利者利益への影響を整理し,学校その他営利を目的としない教育機関であること,教員を担当する者と授業を受ける者であること,授業の過程における利用に必要と認められる限度であること,複製・公衆送信などが対象となっていること,著作権者の利益を不当に害しないことであれば,権利者の許諾を得ずに著作物を利用できる。

・ 平成30年度に改正された著作権法における授業目的公衆送信補償金制度により,従来は個別に許諾が必要であった非同期型の授業利用等においても,補償金を支払うことにより各権利者の許諾を得ることなく著作物を利用することができる。

・ 補償金制度では,あらゆる種類の著作物についてワンストップで一括処理が可能となっている。教育機関は指定管理団体に補償金を支払うことで,各著作権者に補償金が分配される。非営利の教育活動であっても,創作者の対価還元を維持することで,創作の活性化や質の高いコンテンツの産出につながることにご理解をいただきたい。補償金については,文化庁の定める審査基準にのっとり,料金が設定されることになる。

・ 本年度は補償金額を無料としているが,次年度は有償での制度運用としている。年内を目途に文化庁で金額の審査を行う予定である。各機関の補償金負担の軽減のため,政府方針にのっとり,概算要求への財政措置の計上など,支援に取り組んでいる。設置者においても,支払い義務を適切に果たすことが大切である。

制度の運用等(運用指針やライセンス,来年度からの補償金額案と規程案等)の説明【一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会】

・ SATRASは2019年1月に設立された日本で唯一補償金の収受が許可された団体である。教育分野の著作物等の利用の円滑化を図ることが目的であり,幅広い分野の著作者団体により構成されている。

・ これまではインターネットを用いた著作物の利用に大きな手間があったが,制度改正により補償金が設定され円滑な著作物の利用が可能となった。

・ 補償金額の算出根拠として,高等教育では学術論文の公衆送信時の使用料を,初等中等教育では教科書の使用料を参考にした。意見聴取を経て,当初の提案額から一律して80円減額することになった。大学等は「720円/一人・年」として文化庁認可申請を行った。

・ 補償金の支払いは教育機関の設置者が行う。また,支払う補償金額は,公衆送信を利用した人数によって包括的に算出する。全校生徒の数を必ず根拠としなければならないわけではなく,利用状況を把握してもらうことになる。公開講座の算出方法について,算出単位を変更し,30名1単位として10単位3,000円を算出単価としている

・ 補償金の権利者への分配について,教育機関への実態調査を行い,それに基づき権利者へ分配を行う予定である。教育機関の負担軽減を図ったうえで,サンプリング調査を行う。各機関への調査は数年に一度等の頻度で行うことを検討している。

・ 著作物の教育利用については,関係者でフォーラムを結成し,著作物の利用推進を検討している。運用指針も同フォーラムで検討している。

・ 補償金の対象とならない著作物の利用(教材の共有や授業外会議,履修期間終了後の学生に対する公衆送信など)についても,ライセンスを付与できるよう準備をしている。

・ 現在は文化庁に対して補償金の認可申請を行っている。認可審査により補償金の金額が上下することはないと思われる。12月には金額が認可される見通しであり,次年度から各機関からの申請を受け付ける予定である。5月1日時点の学生数を基準に申請してもらうことになる。

・ 今後ICTを利用した教育を推進するために著作物の利用環境を整備していく必要がある。

質疑応答

Q:設置者の判断により本制度を活用しないことはあり得るのか。

A:公衆送信を行う場合は,本制度の利用は法令上の義務である。

Q:従前は無償であった対面での著作物の利用も有償となるのか。

A:従前のとおりである。

Q:同一敷地内での配信は有償となるのか。

A:学校内部のサーバのみを介して行われる送信は本制度の対象外である。ただし,外部サーバやインターネットを利用する場合は,本制度の対象となる。

Q:外国の著作物の著作物やSATRASに参画していない著作者団体の著作物などは利用できるのか。

A:外国の著作物でも利用できる。参画していない権利者団体の著作物なども制度の範囲内で利用できる。

Q:補償金を支払えば制限なく利用できるのか。

A:運用指針等の範囲内で利用できる。一切制限なく利用できることではない。

Q:どのタイミングで著作権のことを考えなければならないのか。

A:第三者の著作物を利用する際に考えてほしい。

Q:講師自身の著作物を自身が使用する場合は制度の対象か。

A:自身の著作物を利用する場合は制度の対象外である。

Q:オンデマンド教育においてすでに全員が購入している著作物を公衆配信する場合も補償金の支払いが必要か。

A:必要である。

Q:運用指針の検討状況を教えてほしい。

A:来年度に間に合うように準備している。

Q:包括的なライセンスの検討状況を教えてほしい。

A:補償金制度を補完するライセンスは必要であり,検討を進めている。教材の共有や教職員会議などを対象としたい。

Q:本制度に罰則規定はあるのか。

A:罰則規定はない。ただし,民事的な責任は発生し,SATRASから損害賠償請求がなされる場合がある。

Q:法人単位ではなく学校単位で申請することは可能か。
A:教育機関の設置者(学校法人など)が支払いの義務者であることが法令で定められている。

Q:遠隔授業を行う学校のみの申請でよいか。

A:オンライン授業を全く行わない場合は対象に含める必要がない。

Q:オンライン授業を利用するクラスのみ申請すればよいか。

A:オンライン授業を利用する人数を申請してほしい。

Q:年度途中からの利用はできるのか。

A:年度途中から申請できる。補償金額は年額を12分割することになる。

Q:学生数の根拠はどうか?

A:5月1日の在籍数となる。非正規生が1年を通じて利用する場合は,数に含める。

Q:来年度の申請は5月1日以降となるが,4月1日以降本制度を利用した授業を行っても良いのか。

A:本制度は、申請や補償金支払いが終わる前でも利用することができる。

Q:補償金の金額や徴収方法の時期を決定するのはいつか。

A:補償金額は2020年内に認可される予定である。各機関との契約業務は2021年度以降の対応になる。

Q:2021年度に改めて申請を行う必要があるのか。

A:年度ごとに申請を行ってほしい。自動更新は行わない。

Q:実態調査に備えて準備することはあるか。

A:実態調査はすべての機関に毎年行うのではなく,抽出して調査を行う。各教員に著作物の利用状況を確認(誰のどのような著作物をどの程度利用したか)することになるため,教員が著作物の利用状況を随時記録していれば対応しやすくなるだろう。