「文科省の言うことを聞かなければ交付金を減らされる」は本当か?

 様々な場面でよく聞くのが「文科省の言うことを聞かなければ交付金を減らされる」ということです。これって本当でしょうか。私個人としては、少なくとも国立大学においては都市伝説と同程度の信憑性だと考えてます。

 冒頭の文章を二つに分けてみましょう。前段の「文科省の言うことを聞かなければ」ですが、この「文科省の言うこと」とは法的根拠がある指示と行政指導に近い有象無象な任意の指導等に分けられます。前者はともかく、任意の指導等に従うかの決定権は大学にあるはずなのに強制のようになっている現状もあり、だからこそ「文科省の言うことを聞かなければ」というフレーズには悲観的なニュアンスが含まれているのでしょう。学内での十分な検討を経ずに任意の指導等に従わざるをえないことは現状でも生じていると思いますし、このようなニュアンスになることも理解できます。後段の「交付金を減らされる」について、これは国立大学運営費交付金文科省により恣意的に削減されるということを意味するのでしょう。このような状況が生じる可能性があるのか、運営費交付金の構造を確認します。

 弊BLOGでは、以前から国立大学運営費交付金の構造について言及してきました。国立大学運営費交付金は、大まかに分けると一般運営費交付金、特別運営費交付金、特殊要因経費の3つに区分できます。なお、平成28年度予算案では各区分の名称や性質が平成27年度と若干変化しています(下図参照:出典は「平成28年度文教・科学技術予算のポイント」(平成27年12月 奥主計官))が、恣意的な運用が可能かどうかを検討するに際し大きな変化ではないこと、また実際の運用が未だ不明であることから、この3区分で検討を行うこととしました。その他、文科省から国立大学に措置される比較的大きな補助には施設整備費補助金などがありますが、これも今回のフレーズにある交付金という性質とは言い難いため、検討から除外しています。

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 まず特殊要因経費ですが、これは教職員の退職手当に相当する経費(年俸制導入促進経費を含む)やPCB処理経費などが含まれています。これらは通常の教育研究活動とは異なる特殊な処理のために措置された経費であり、文科省担当者が恣意的に削減するということは考えにくいです。シラバスをちゃんと書いていないからといって退職金が減額されないのと同じだと考えればいいでしょうね。(現状では国立大学法人は継承職員分の退職金の積立はできませんので、この「文科省から退職金を措置される」ということになんとも言えない感情を抱きます。)

 次に特別運営費交付金ですが、これは各国立大学が行う特別な教育研究等活動に措置される、いわゆる競争的なプロジェクト分の経費です。これの選定過程は明らかになっていませんので、調書以外の文科省担当者の過度に恣意的な判断が生じる可能性は否定できません。ただ、特別運営費交付金はプロジェクト型ですので、「減らされる」というよりも「つく/つかない」という方が正しく、ニュアンスが異なる気がします。また、要求額の査定も行われるため大抵減額措置になると思いますが、査定自体はどこでも行われていることなので、減額措置を以て直ちに「交付金を減らされた」と判断するのはちょっと違う感もありますね。なお、平成28年度予算からは後述の一般運営費交付金の一定割合(機能強化促進係数の割合)を捻出し特別運営費交付金に加える形になりますので、より特別運営費交付金(機能強化分及び共通政策課題対応分)の獲得が重要になるのだろうと思います。

 最後に一般運営費交付金ですが、通常運営費交付金や国立大学の基盤的経費と言うとこの一般運営費交付金を指すことが多いという印象ですね。既にご承知の通り、法人化以降目に見えて削減され続けているのがこの一般運営費交付金です。これはざっくり言うと予定費用(人件費や教育研究経費)から予定収入(学生納付金)を引いて算出されます。そのため、恣意的に削減され得る余地はないと考えています。なお、平成28年度予算からは、この一般運営費交付金の中に新たに学長裁量経費分が設定されますので、今まで学内に機械的に配分していた分が削減され各大学ごとに何らか一定の配分ルールが設けられる可能性が高いでしょうね。

 ここまで運営費交付金の構造を確認しましたが、確証を持って「必ずない」「ありえない」というほどは断言できないながらも、文科省の担当者が恣意的に運営費交付金を削減できる可能性は極めて低いと考えています。私個人の勝手な感覚としては「ある研究分野の御大の悪口を言ったらその分野に出した科研費に落ちた」と同程度の信憑性ですね。100%ないとは言えないけどまぁないよねーという感じです。

 今の状況を見ていると、文科省の言うことを聞こうが聞くまいが、良いことをしようが悪いことをしようが何もしないでいようが運営費交付金は削減されると考えた方が無難です。その上で、特別運営費交付金や各種補助事業、外部資金等でどのように取り返していくのかということが大切になるのでしょう。それが大学の質向上になるとは必ずしも思えませんが、今あるいは近い将来までの状況を鑑みると、そのように考えた方が現状認識としては合っている気がしています。

 平成28年度予算では前年度並みの予算が確保される見込みですが、これは以前弊BLOGでも言及した平成23年度予算編成と全く同じ状況です。もし同じような展開を辿るのであれば、優しさの揺り返しとしての厳しい政策が平成29,30年度に来るはずです。また、第3期中期目標期間では4年目までの業務実績をもとに国立大学法人評価があり、その結果を踏まえ、平成32,33年度には国立大学法人法第31条の4にある文部科学大臣による中期目標の期間の終了時の検討が行われるはずです。

(中期目標の期間の終了時の検討)

第三十一条の四  文部科学大臣は、評価委員会が第三十一条の二第一項第二号に規定する中期目標の期間の終了時に見込まれる中期目標の期間における業務の実績に関する評価を行ったときは、中期目標の期間の終了時までに、当該国立大学法人等の業務を継続させる必要性、組織の在り方その他その組織及び業務の全般にわたる検討を行い、その結果に基づき、当該国立大学法人等に関し所要の措置を講ずるものとする。

 つまり、第4期に各国立大学法人がどのような形で存続できているのかは、それまでに実績をもとに平成32,33年度に決まるということですね。

 最後の方は冒頭の提示から離れた話になりましたが、なんにせよ、「文科省の言うことを聞かなければ交付金を減らされる」という言説が流布していることは配分者側にとって有利な状況であることは間違いないと思っています。

(思いつき)活躍している職員のジョブディスクリプションを作成してはどうか。

京都で開催された高等教育研究会・2015年度大学職員フォーラムに参加しました - Clear Consideration(大学職員の教育分析)

 2015年度大学職員フォーラムの参加録が出ていました。ぼちぼちと眺めていたのですが、ジョブディスクリプションという話が提示されていますね。

職務記述書 - Wikipedia

ジョブ・ディスクリプションは、職務内容を記載した雇用管理文書である。労働者の職務を明確化することによって「働きの度合い」と「賃金」を繋げる役割がある。成果主義、成果給を導入する際には不可欠なものであり、企業の人事考課方針などに使用される。英語では「job description(ジョブ・ディスクリプション)」といい、評価制度が一般的であるアメリカやヨーロッパでは、雇用管理の土台となる文書として広く用いられている。

 大学職員のジョブディスクリプションについては、以下の論文が公表されていました。

NAGOYA Repository: 大学職員のジョブ・ディスクリプションの可能性と課題に関する考察 : ワシントン大学バセル校における事例と調査をもとに

本論文は、大学職員の職務記述書(以下、「ジョブ・ディスクリプション」とする)の有効性について、アメリカの事例と日本の大学における事務分掌規程中心の業務分担とを比較し、新たな日本型事務組織の構築や職員の働き方について一つの視座を示すことを目的としている。

 ジョブディスクリプションを組織として作るのは難しいだろうなと直感的に思います。欧米の例を見ると最も適切なのは部署ごとに作成することなのかもしれませんし、そうなると採用権限も組織ごとに与えるということになるのが自然なのでしょうね。

 記事を読んでいて、全く別のことを考えていました。組織として作るのが難しいのならば、今活躍している職員の方の現在の働き方をもとに逆算的に個々のジョブディスクリプション的なものを作成してみるのはどうでしょうか。こうすれば職員としての働き方のロールモデル集のようなものもできるでしょうし、その中からコンピテンシーを抽出して帰納的に職員としてのより高度で効果的な働き方の像を描くことも不可能ではないかもしれません。

 弊BLOGでも触れてきましたが、中教審で行なわれている職員高度化に関する議論はあまりに演繹的過ぎて、誰のために何がどう良くなるのかという実際の働き方が見えないことが非常に不安です。演繹的では見えないのならば帰納的に攻めてみるのも一つの手かもしれませんね。

2015年の大学業界を(いまさら)振り返る

 12月は文字通り四六時中働いていたので、今更ではありますが、このタイミングで大学業界の2015年を振り返ります。

 新聞記事データベースの検索結果をもとに、大学に関係あるトピックを抽出しました。大学(特に国立大学)全体に関係ありそうなことや個人的に気になったことを並べましたので、全てのニュースを網羅しているわけではありません。

1月

2月

  • 理化学研究所が小保方氏の処分を公表
  • 国家戦略特区による医学部新設について日本医師会などが反対申し入れ
  • 2014年度設置計画履行状況調査の結果が公表され、253校に改善要求
  • 高大接続システム改革会議が設置
  • 日本学術会議が「科学研究における健全性の向上について(回答)」をまとめ、研究資料の10年間保存などの方向性が明らかになる

3月

  • 国立大学の予算に学長裁量枠を設けることが明らかになる
  • 内閣府の「国際的動向を踏まえたオープンサイエンスに関する検討会」により、公的研究費による研究成果の論文やその研究データを論文掲載後に原則公開とする方針が明らかになる
  • 教育再生実行会議第6次提言が公表され、大学の在籍年数延長や資格の取得などを目指す教育プログラムの設置などが示される
  • 大阪大学が2017年度から全学部でAO・推薦入試を導入する方針を発表
  • STAP問題に関連し山梨大学が教授の処分を公表
  • 東京大学が研究費不正取得により教授を懲戒解雇したことを公表
  • 文科省に「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」が設置
  • 文科省の「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する有識者会議」の審議まとめが公表
  • 理化学研究所の野依理事長が退任し後任に松本前京大学長が就任
  • 大阪桐蔭中高の不正流用を受け大阪産業大学補助金2割減額処分

4月

  • 桜美林大学がパイロット養成施設指定を返上
  • 科学技術・学術政策研究所の調査により大学教員の研究時間が減少していることが明らかになる
  • 日本医療研究開発機構(AMED)が発足
  • 実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度づくりを中央教育審議会(中教審)に諮問
  • 聖マリアンナ医科大病院の精神保健指定医が資格を不正取得していたことが発覚
  • 北海道大学が2018年度入試から国際バカロレアを活用することを発表
  • 教育再生実行会議が教員採用試験の筆記試験を国が全国統一で行うよう提言
  • 文部科学省が大学が設置する社会人の学び直しのためのプログラム「職業実践力育成プログラム」(BP)の認定制度を開始
  • 文部科学省が学校法人「幸福の科学学園」に対し大学などの設置を5年間認めないことを決定

5月

  • 2016年9月にハノイに日越大学院大学を開講することを決定
  • 教育再生実行本部が教員免許を国家資格にすることを政府に要請
  • 司法試験合格を年1500人にする政府案が発表

6月

7月

  • 卓越大学院や卓越研究員に関する素案が明らかになる
  • 高大接続システム改革会議の中間報告に向けた素案が明らかになる
  • 神戸大学が2017年から国際文化学部と発達科学部を再編統合し新学部を設置することを発表
  • 内閣府、文部科学、厚生労働が千葉県成田市での大学医学部の新設を認める方針を決定

8月

  • 中教審が次期学習指導要領の骨格案を了承
  • 文科省が国立大学の学長裁量経費を2016年度予算から一律5%にすることを発表
  • 文科省が2016年度から地方私立大と中小私立大に限定した地域産業・文化の研究費助成制度を創設することを発表
  • 高大接続システム改革会議が大学入試改革を高校の次期学習指導要領と連動させる中間まとめ案を了承
  • 佐賀大学が地域デザイン学部を新設することを発表

9月

  • 司法試験の内容漏洩が発覚
  • 司法試験合格者が1850人
  • 文科省法科大学院への2016年度の補助金算定に向けた5段階評価を公表
  • 文科省複数の企業が2000万円以上の研究費を出す場合に同額を補助する事業を開始することを発表

10月

11月

  • 第5期科学技術基本計画に成果目標を盛り込むことが明らかになる
  • 文科相が新共通テストの導入先送りを示唆
  • 国立大学法人評価結果が公表され、3大学に重大な改善事項があると判明
  • 大阪大学係長が宿泊料を着服したとして懲戒解雇

12月

 2015年度に公表された答申等の一部は、以下のとおりです。

中央教育審議会

教育再生実行会議

総合科学技術・イノベーション会議

 こうして見ると、教員養成改革に関することや高大接続テストに関することは年間を通じて何らかあったことをがわかります。後半では、人文社会科学系に関することと就活日程に関することがよく取り上げられていました。そういえば、G型L型の話も2015年でしたね。

 2014年多かった研究不正については2015年は比較的取り上げられていませんが、最後の最後にJST-ERATO研究総括という大きいものがきました。岡山大学の研究不正の動きも気になるところです。平成24年度補正予算第1号である産業競争力強化法に基づく出資の話も2015年に本格稼働し始めましたね。

 2014年に話題になったネット出願や100円朝食などはあまり取り上げられていませんが、取り組まれなくなったというよりは、ニュースバリューがなくなるほど一般化したと考えています。個人的には、国家戦略特区の医学部設置が千葉に決まったというのが印象的でした。神奈川県も実験動物中央研究所がある羽田空港対岸に誘致を進めていたと聞いていたのですが、千葉県が一歩先んじた形になりましたね。

 2016年は国立大学法人の第3期中期目標期間の開始年度であり、新たな予算配分方式や第2期の評価も含め色々動きがありそうです。また、地方創生と大学との関係もより実質化していくのでしょう。中教審等で審議されている3ポリシーに関連した大学教育や職員の高度化、実践的な職業教育を行う教育機関の創設も気になりますね。

日本学術会議新春緊急学術フォーラム「少子化・国際化の中の大学改革」に参加してきました。

http://www.scj.go.jp/ja/event/pdf2/222-s-0107.pdf

少子化、国際化、理科離れ、実践的教育の重視論等、わが国の高等教育をめぐって種々の環境変化や動きが顕在化している。一方で、高等教育は人材育成の最終過程であるとともに、大学において行われる研究活動を通じて、産業・社会の革新がもたらされる。時代の展開において、わが国の大学は何処に向かって舵をとるべきかを、大学人、政治・行政、経済界、メディアを代表する識者による問題提起と討論によって探る。

 日本学術会議のフォーラムに参加してきました。告知期間が短かったにも関わらず、会場には目測で200名以上が参加し、だいぶ盛会な印象を受けました。会場には文部科学省関係者も来ていたようですね。

 以下に、フォーラムでの発言を記します。なお、あくまで私が理解できた部分を一部のみ掲載していることに留意ください。

開催挨拶・趣旨説明(大西 日本学術会議会長)

  • 日本の18歳人口は右肩下がりで推移しており、2060年には63万人になる。一方、世界の状況として、18歳人口は今後ほぼ横ばいになる予想があり、18歳人口は安定的で数が多い。世界の18歳人口は日本の人口程度であり、その意味では日本の大学は広島市のみを相手にしているのと同じ。世界の留学生は400万人程度であり、世界に目を開くことが大切である。
  • 日本の大学が置かれている状況は厳しい。国立大学に対する運営費交付金を減少させよという声もある。また、私立大学に対する国の補助は運営費全体の10%程度であり、50%という目標から乖離している。OECD諸国で比較すると、高等教育への公財政支出は日本は低い状況にある。
  • 日本の大学をいかに世界に開いていくのかというのは、今後の大学をめぐる大きな論点である。

講演:里見進(国立大学協会会長、東北大学総長)

  • 国立大学は高度な高等教育を日本各地に届けるという役割がある。修士課程、博士課程と進むにつれ、国立大学の学生割合が増加している。また、都市部以外における国立大学の果たす役割は大きくなっている。
  • 研究力の維持も国立大学の役割の一つである。ノーベル賞受賞者も国立大学の出身者が多く、最近では地方国立大学の出身者も受賞している。地方における教育研究の良い循環が見られる。ただ、ノーベル賞は2,30年前の業績を対象としていることに注意が必要であり、大学ランキングの中には順位が低下傾向にあるものもある。つまり研究力は低下しつつある可能性がある。海外からの学生の受入は国立大学の大学院において果たす役割が大きく、研究者の交流も国立大学の比率が大きい。
  • 運営費交付金は減少傾向にあり、このまま減額が続くと人件費が賄えなくなる。現状でも、勤や若手の教員が減少傾向にある。大学院進学者も減少している。これは若手の意欲を削ぎ、日本の研究力を大幅に低下させる可能性がある。
  • TOPシェアの論文数が減少しており、難しい課題や時間がかかりそうな研究よりも短期的に結果が出る研究へシフトしているというアンケート結果がある。他国は支援金額を増加させているが、日本はそうではない。附属病院についても、診療時間が増え研究時間が減少し、論文数が減少傾向にある。
  • 日本は教育にかける家計の負担が大きく、このまま国家予算の支援が少なくなれば、学費を上げざるをえない状況にある。国公私立大学の代表が集い文部科学大臣及び財務大臣へ陳情に伺ったことも影響してか、平成28年度予算では国立大学運営費交付金は前年度と同額という結果になった。
  • 国立大学では、新たな学部設置や教育プログラム創出、COC+事業、COI事業など、各大学で様々な改革に取り組んでいる。今後とも国立大学は多様な役割を果たしていく。国公私立大学は違いを乗り越えてインフラを共有するとともに、国家として高等教育のグランドデザインを策定することが大切。

講演:永田恭介(国立大学協会副会長、筑波大学学長)

  • 国立大学協会は国立大学の将来ビジョン・アクションプランを策定し、第3期中期目標期間中は多様な入学者受入と大学間の協働を進めていく方向性を示した。
  • 18歳人口は減少するが将来の知的基盤を支える人材は必要であり、社会人の学び直しや海外の学生受入などが考えられる。たとえば、筑波大学では、省庁を超えた機関連携や企業の参画により、産官学のプラットフォーラムを形成している。とびたてJAPANの研究版とも言えるような取組も構想している。
  • 海外の大学との付き合いも継続してやっていかなければならないが、事務処理など様々に困難なことが発生している。これを緩和するため、国大協が間に入って、海外諸機関との交流を進め、シンポジウムや海外研修を大学共同で実施している。特に、ベトナムと連携した大学院大学の設置を進め、9月に開校する予定である。また、マレーシアとも同様の枠組みで連携を進めている。JANETやJAANなど、国内の大学が協力して海外の大学と交流する事業も進めている。
  • これまでの国際協力支援は個人がきっかけとなっていたが、新たなスキームとして産業界や相手国と関係を持つ大学などをつなぐコンソーシアムを形成し連携を進めていくことを考えている。概算要求でも官民協働プラットフォームとして提案し予算がついた。
  • 皆で高等教育のグランドデザインを考えることを提案しており、今後はそれに取り組んでいきたい。中教審大学分科会では個別の案件を審議しているが、グランドデザインの検討は現在明確に取り組まれているわけではない。学校教育法制定以降、社会の趨勢に合わせ、中教審は様々な役割を果たしてきた。H10の大学審議会答申には、開かれた大学運営や大学の責任、大学は未来への先行投資であること、高等教育支出の増加などが触れられている。ただ、大きく高等教育を方向付けるものはこれ以降出ていないと考えている。次世代、次次世代を考えた高等教育の将来像やプランを作っていかなければならない。

講演:須藤亮(産業競争力懇談会実行委員長)

  • 経団連では、イノベーションとグローバリゼーションが日本再生への大きな鍵であるとしている。このため、IoTやAI、ロボットなどを中心とした新たな基幹産業を育成しなければならない。第5期科学技術基本計画では新しい未来という言葉があるが、それを作るためにWhatを共有した上でHowとしての大学との連携が必要だと考える。産学官の連携強化として、オープンイノベーションの推進や研究費支援の改革などが必要だと考える。サイバーとフィジカルな技術の組み合わせにより価値を創造していく。
  • 大学改革は実現されつつある事項もある。今後の期待として、資金配分の競争的部分の増加や基礎研究・応用研究・実用化研究が一体となったオープンイノベーションの推進などがある。社会実装には、技術者のみではなく、人文社会科学系などの知見が必要である。また、共同研究の大型化も鍵である。そのためには、大学から企業へのプロジェクト提案や大学本部の契約事務能力の向上などが課題である。
  • 人材育成について、理工系人材の減少や女性比率の少なさ、企業と大学とのミスマッチは課題である。機械電気系の企業では、就職後再度講義を行っていることが多い。企業に入ると忘れていることも多く、大学側でカリキュラムを検討した方が良い。基礎応用実装をプロジェクトとして進展できる人材がイノベーションに必要である。
  • 企業側も研究開発に対する挑戦やSIPなど国家プロジェクトへの参入、異業種間連携なども進めていく必要がある。大学の現状や変化に対する理解を求めていく。産業界に対してもアピールしてほしい。

講演:帯野久美子(インターアクト・ジャパン代表取締役

  • 和歌山大学で理事・副学長を務めていた。経済界で最大の問題は経済界から大学が見えないことである。経営者は大学のことを知らない。個々の大学教育のメニューも外部から調べてもわからない。大学の情報公開は文部科学省のために出しており、社会や企業のニーズが分からずにいると考える。ただ、社会や企業のニーズも変化する点には注意が必要である。
  • 日本の産業界は競争力が失われており、留学生の採用を進めることでグローバル化を進めてきた。産業界を取り巻く環境は激変しており、大学も産業界の二ーズを考え時にともに今後の展開を考える必要がある。ベトナムの大学も企業のニーズがわからず悩んでいる。
  • 国際的な活動をしている日本の団体は日本人ばかりのことが多く、現地の価値観にうまく適応できない場合もある。今後は多様性が重要である。大学は多様な社会を構成している場である。ただ、国立大学の女性学長は3名であり、運営上は多様性が少ない。これで多様な教育ができるのか。
  • 今の大学で一つのことを変えるということは、大学全体や大学文化を変えなければならないほど大仕事である。大学に非常勤を増やし現役の経済人を大学の経営に携わらせてはどうか。今の給与システムでは難しいところもあるが、企業が持ち出しをしても大学に人を送り込むこともできる。多様であることは強くなることであるという意識が必要。

講演:鈴木寛文部科学大臣補佐官)

  • 文部科学省は高大接続一体改革を進めている。PISAの調査によれば、日本の初等中等教育は質が高い。その教育を受けた者を高校大学でしっかりと教育できているのかということである。どのような若者を育てれば良いのかはOECDも悩んでおり、思考力判断力表現力に加え主体性多様性協調性が重要であるという方向にシフトしている。また、メタ認知の重要性も提唱されている。OECDでは、協働して問題を解決する力を持っているのかということも新たに調査を始めている。高等学校学習指導要領の改訂では、アクティブラーニングや公共科目などへの対応を進めていく予定である。大学においても3ポリシーにまつわる改革などを進め質保証を示していく方針である。
  • 戦後の教育は総じて大量生産大量消費社会を支える人材を育成してきた。今、技術の進歩を踏まえ、Creative Collaborative Art Workerや人工知能では対応できない問題を解決する人材を育成しなければならない。社会の要請とは何なのかということを熟議する必要がある。今の社会の要請ではなく、混迷の度合いや不確実性が加速していく中で、問題が困難化していく社会で大学が果たす役割を考えて欲しい。市民の育成する中では教養が大切である。
  • 群馬大学の片田教授の防災教育では、1想定にとらわれることなく対処せよ2どんな時でもベストを、最善を尽くせ3率先して引率者になれというものがあるが、教育を設計する上でも応用できることである。
  • 理系教育と文系教育という軸で再度問題を整理することが必要ではないか。理系教育に対する投資の成果もあり理系教育はある程度の水準まで到達していると考えるが、文系教育については検討と改革が必要ではないか。文系教育は90年代当初までは企業から人材育成を期待されていなかったと思うが、その状況は変化している。特にST比の改善は急務でああり、文系は国際水準に到達していない。産学間の人材イメージもなかなか共有できていない。投資の絶対的不足が長期化している。
  • いかにして高等教育予算を減らされずにすむかということを日々考えているが、未だに「大学が多すぎる」という話がある。まずは同僚・隣人に知ってもらうところから始めないといけない。大学人も「研究が役に立たない」と言うのはやめてほしい。研究の方法論は世の中の役に立っている。文科省の中の状況も変わっており、時代錯誤的権威主義者はもはやおらず、財務省に予算を減らされないように大学の代弁者になっている。
  • 市民のための教育、市民のための振興に誰が投資をするのかという問題は議論しないといけない。どう公的資金を守り民間資金を獲得するのかということが考えていきたい。改善の実績を世の中へ発信し、大学への投資がいかに世の中のためになるのかということの理解を進めていかなければならない。日本で普通の家庭の子女が高等教育へのアクセスする機会を失うということの危機感をどのように社会に理解してもらうかということが大切。
  • Q:カリキュラムデザインは重要である。起業に向けた教育はどのように考えているのか。
  • A:社会と連携した教育は増えているが、それにはとてもコストがかかる。受講したい学生はたくさんいるが、受け皿が十分ではない。トータルの人件費をどのように確保していくのかは熟議が必要。
  • Q:大学入試について答案を電子データとして受け取るような取組はありうるのか。
  • A:基礎学力テストはCBTで行いたい。その状況も見ながら、大学入学希望者学力評価テストも段階的にCBT導入を進めていきたい。
  • Q:ST比の改善をするためには授業を上げないと対応できないのではないか。国立と私立の格差も大きい。
  • A:若者一人育てるためには500万円かかるという認識を世の中でシェアすることが必要。原資は税金か社会からの貢献か個人負担しかない。わが国はこれまでサービス残業や奉仕の精神を持って何とかしのいできたが、それは持続可能なものではない。アメリカは税金、社会からの貢献、個人負担の比率が1:1:1程度だが、日本がバランスが悪い。特に社会からの貢献が少なく、人材育成の意義を社会に理解してもらうところから始めていかないといけない。
  • Q:企業の人材育成能力をどのように考えれば良いか。
  • A:大学と企業の両者相まって人材育成をしなければならない。

講演:柳澤秀夫NHK解説主幹)

  • 大学改革を進めていく上では、学生が何を考えているのかという点も考えていかなければならない。今の学生は入学後すぐ就職のことを考えなければならず、かわいそうに感じる。世の中は変わってきており社会のニーズに応える必要があることはわかるが、大学がそのニーズに応えるだけの場になってはならない。採用時点で見てもわからないこともあり、可能性を内包している者が組織を動かすこともある。寛容性や幅広い視点で学生を見ていかなければならない。

講演:清家篤(日本私立大学連合会会長、慶應義塾長)

  • 大学を取り巻くステークホルダーはたくさんいるが、学生が一番大切なステークホルダーである。大学が産業界の要請に応える必要があるというのも、学生の多くが産業界に進むためだと考える。私立大学は建学の理念があるが、建学の理念が実現できない大学は潰れた方が良い。
  • ハーバード大学学長だったジェームズ・コナントは、学問の進歩・教養教育・専門教育・健全な学生生活の4つが大学で大切なことであり、どれもが無視されても圧倒的になってもならずバランスが大切だと説いている。併せて、過度にどれかが強調される危険性に警鐘を鳴らしている。
  • 大学とは学生の将来のためになる場であるとすると、4つの要素をバランス良く大学で達成することが必要である、学生は顧客ではなく、大学を卒業した後も気になる存在である。子供に母校を勧めるか、死ぬ時に母校でよかったと思ってもらえるのか。
  • 福澤は、学者は長期的に物事を考える存在であるとしている。大学においても、今のニーズに対応するのではなく、社会が変化したとしてもその変化に対応出来る素養を身につけさせることが大切である。OECDの国際成人力調査では日本はダントツのトップである。このような基盤を作るのが大学である。
  • 良き伝統を守りながら、必要な改革を行っていることになる。大学は綿々と続いてきた存在ではなく、革命ではなく改革である。蓋然性の中で良いものを選択することが良い改革になるだろう。トレードオフの関係では乱暴なことをやりがちだが、教育や国の方針決定ではそれはやってはいけないことである。様々な選択肢の中でより良いものを選択をすることが公智である。

パネルディスカッション

  • (黒田)大学の在り方が大きく変化していることに、大学の中の人が気づいていない。学生と研究者との間のミスマッチが大きくなってる。教育プログラムをしっかり作っていかなければならない。研究者の意識改革が必要である。併せて、細分化した研究活動を支援する組織が必要である。
  • (黒田)教育費が増大しており、それをどのように調達するかということが問題になっている。教育奨学のためのファンドを作って奨学金を支給してはどうか。高等教育に関するグランドデザインがないことも気になる。アメリカではCDIO(Conceive(考える)、Design(設計する)、Implement(実行する)、Operate(運用する))という考え方があり、金沢工業大学もCDIOを実現する工学教育の団体であるCDIOイニシアチブに加盟した。欧米と同様に、日本でも学位や資格の枠組みをどのように構築していくかということを考えなければならない。
  • (司会)資金配分の競争化など、経済界からの要請をどのように考えるのか?
  • (里見)一般運営費交付金を削ると大学の本来の姿を失うのではないかと危惧している。
  • (永田)社会資本を大学へ投入する風土と仕組みが欠けている。大学に欠けている部分があれば努力しなければならない。
  • (清家)資金の分配にメリハリを効かせるというのはその通りである。自然科学系は投入額とパフォーマンスの相関があり、人文社会科学系は投入額はあまりなくともパフォーマンスは出るという印象がある。予算配分権を通じてリーダーシップを発揮できるが、人事権でリーダーシップは発揮できない。企業では役職就任はご褒美かもしれないが、大学では罰のようなものである。
  • (司会)国立大学学長としてはリーダーシップやガバナンスはどう考えるか?
  • (里見)大きくは変わらないが、留保金額を配分することはできるようになった。
  • (永田)ヒトモノカネは限界だが、教育研究のガバナンスやマネジメントという点では国立大学の学長もリーダーシップを発揮できる。
  • (司会)分野を超えて大学全体として適正な資源配分をどのように行えば良いのか?
  • (永田)文系を圧迫するという形ではなく、大学総体で分野にメリハリをとって行う形になっている。総体としてパフォーマンスを上げていくことが大切である。
  • (司会)大学側のプレゼンテーションや意見をどう思うか。
  • (須藤)国立大学の運営費交付金が大変だということがわかっているが、他者と話をすると大学はもっと競争原理を導入できないかという話は出てくる。企業と大学が一緒になって議論できる場が必要であり、そのためにも今の資金配分を変えても良いのではないか。
  • (帯野)学長のガバナンスは強化されたが、次は組織自体が変わっていかなければならない。足元の一つ一つを変えていくことが大学の力を変えていくことになるのではないか。国立大学の競争的資金の配分決定などについては情報開示が必要。大学の関係者だけが今回のシンポジウムのようなことを言っても仕方なく、社会に発信していかなければならない。
  • (柳澤)大学が抱えている問題は国民に伝わっていないのではないか。学問を究める場として何に苦悩されているのか、あまり明らかになっていない。既成概念的に出来上がった大学像があるが、今の姿は伝わっていない。
  • (司会)大学で養成すべき人材像をどのように考えれば良いのか。
  • (黒田)MITでは学生が社会に出てからどうなるかということが重要だと言っている。金沢工業大学では入学した学生を死ぬまで面倒を見ると言っている。卒業生にインタビューをしており、これをしないとCDIOイニシアチブのメンバーにはなれない。単に技術者を養成する機関ではなく研究も重要であり、その中でリベラルアーツをどのように位置付けるかということが大切。
  • (清家)学生も多様でなければならず、特定の人材像だけを育成することには違和感がある。自分の頭で考えられる人間を育てれば良い。
  • (司会)企業内の人材育成についてはどう思うか?
  • (須藤)産業界と大学教育とのミスマッチが生じていると思うが、即戦力が欲しいという意味ではなく、基礎的な学力を身につけてほしいということである。長期的な観点から基礎研究をやってほしい。
  • (帯野)すぐに役立つ人材を求めるわけではなく、大学側が思っていることと企業側が思っていることはそんなに大きく違わない。しかし、時代の流れに教養教育などが対応できておらず、リベラルアーツの在り方を産業界と大学で考えていく必要がある。
  • (司会)国公私立大学の関係をどのように考えるのか?国立大学の人文社会科学系の位置付けについてはどうか?
  • (清家)学部学生の8割程度が私立大学に通っている。国立大学のみで見れば、OECD程度に高等教育財政負担がある。国立大学の授業料値上げの話にも違和感があり、すでに私立大学は国立大学よりも高い授業料で教育に取り組んでいる。機関補助ではなく個人補助にすること、研究費に共通基盤経費をつけるなど、法人に対する助成ではなく学生本人や研究者本人に助成する仕組みがありうるのではないか。
  • (里見)高等教育への支出を増やしていきたい。今の日本の家計状況では400万という話は現実的ではない。
  • (永田)理系は物が作れるが、文系はモノが言える。学問を進め社会実装を行う上では、理系も文系も関係ない。日本では学位の名称についての議論がなく、ディプロマの意味を考えていかなければならない。
  • (司会)最後に一言づつ。
  • (清家)法人に金を出すのではなく、個人に奨学金を払うようにすれば、学校間の競争も促進されるのではないか。
  • (永田)国立大学と私立大学の格差という話もあったが、資金からではなく各々の特性や機能から考えていきたい。
  • (須藤)人文系と産業界との連携はあまり進んでいない。技術者だけでは未来を作るのは無理がある。産業界も文系の教員にアプローチしていきたい。
  • (里見)国の予算編成のあり方を考え、過去への投資ではなく未来への投資を考えていかなければならにあ。
  • (黒田)日本の技術はすごいが、素人が使えないものが出てくる。文系の人が入って人間のことを考えたものづくりをしなければならに。機関補助を確保した上で奨学金を充実させてほしい。
  • (帯野)人文社会科学系から社会に対し情報発信ができていない。できていないというところから始めて、ゼロベースで考えていかなければならない。大学と同様に企業も多様であり、たくさんの企業の声を聞いて大学と考えていける場があれば良い。 

所感

  • 少子化・国際化」と銘打っていたにも関わらず少子化や国際化に関する話題がほとんど出なかったのは残念でした。一方で、国大協がいろいろと新しいことに取り組んでいることが知ることができたのは個人的に収穫でした。
  • 「大学」「社会」「産業界」など主語が大きく、「多様である」と言っておきながら一つの概念に押し込もうとしているような感じであり、大雑把すぎるような印象を受けました。場の設定自体がそのようなものであったのだろうと思いますが。。。
  • 国立私立の支援額の格差は歴史的制度的にも考えるところがあり、単純に金額の多寡だけで話せないのだろうと思いました。このあたりは不勉強ですが、国立大学の学費を単純に私立大学と同程度まで上げるという「皆不幸になりましょう」みたいな話は、感情的にイヤですね。

国立大学の学費値上げには反対です。

   現行の制度では学費を値上げしてもその分(あるいはその分以上に)運営費交付金が削減されます。つまり、学費を値上げしても、国立大学の教育研究等活動の質向上につながる可能性は極めて低いです。これを考えると、つまり学費値上げが誰の得になるのか、もうお分かりですね。

大学業界のギョーカイヨーゴ

 他業界と同じく、大学業界にも様々な業界用語がありますね。特に、省略しているためにカタカナ語に聞こえてしまうようなギョーカイヨーゴもいくつかありますね。パッと思いついた限り、並べてみます。なお、解説部分は私見であり、正しさを保証したものでありません。

  • マルゴー:マル合。大学院における研究指導教員もしくはその資格のこと。詳細は弊BLOG記事を参照。大学院設置時にはこの数値と嫌というほど付き合うことになる。
  • ゴー:合。大学院における研究指導補助教員もしくはその資格のこと。詳細は弊BLOG記事を参照。
  • ニューテー:入定。入学定員のこと。学部や学科あたり一年間に受け入れる数。この数値と入学者数との比率が入学定員充足率となる。通常、設置申請書や大学HPに掲載されているが、留学生は別枠とする場合など細かい部分の扱いはめんどくさい。国公私問わず、最近は入学定員通りの数を入学させよという国からの圧力が高まっている。
  • シューテー:収定。収容定員のこと。学部や研究科に全体として受け入れる学生の数。通常、入学定員に標準就業年限を乗じたものであるが、3年次編入や学生募集を停止した学部、医学部の入学定員微増などを考えると、算出はめんどくさい。たいていの大学は学則に明記されているので、それを参照することが一番てっとり早い。入定や入定充足率に比べるとあまり言及されない印象。
  • ボテイ:募停。学生募集停止のこと。その大学や学部、学科等に入学する学生を募集することを辞めること。たいていの場合そのまま学生を入学させず廃止になるが、稀に再び学生を募集し始める場合もある。
  • セッチキジュン:設置基準。大学設置基準のこと。大学や学部・学科を新設等する際の基準。大学院設置基準や専門職大学院設置基準などを合わせて設置基準と呼ばれることが多い。設置基準には大雑把にしか書かれてないため、設置業務の際は省令の確認や文科省への相談を通じて細い部分を詰める必要がある。各省令等は(公財)文教協会が出版する大学設置審査要覧にまとめられているが、読んでいると嫌になってくる。
  • セッチシン:設置審。大学設置・学校法人審議会のこと。申請した大学や学部等の新設等を審査する機関。たいていの場合、設置審に書類を提出する前には文科省大学設置室や国立大学法人支援課での「相談」を経るため、ある程度整えられたものが設置審に提出される。とは言え、結構意見が付される場合がある。大学設置を巡るいろいろな騒動はまだ記憶に新しい。
  • モンカショー:文科省文部科学省のこと。中央省庁のうち、教育や科学技術などを担当している。マル文とも言う。特に多くは語るまい…
  • ケイサンショー:経産省経済産業省のこと。中央省庁のうち、産業振興やエネルギー政策などを担当している。外郭団体にはNEDO新エネルギー・産業技術総合開発機構)やAIST(産業技術総合研究所)などがあり、特に工学系には研究公募などで関係深い。また、モノの輸出や留学生への情報提供など安全保障貿易管理もここが所管しているため、グローバル化には避けて通れない。そういえば社会人基礎力もここ発祥だったな…
  • チューキョーシン:中教審。中央教育審議会のこと。文部科学省に設置された審議会であり、複数の分科会が設置されている。詳細は弊BLOG記事を参照。
  • チューモクチューケー:中目中計。国立大学法人が6年間の中期目標期間に行う取組を明記した中期目標中期計画のこと。国立大学法人法上、中期目標は文部科学大臣から提示され、中期計画は各法人が作成し文部科学大臣から認可を受ける。この変化の大きい時代において6年も前に立てた目標計画にどの程度価値があるのかは不明。
  • ジンカン:人勧。人事院勧告のこと。公務員の給与水準に関する勧告であるが、国立大学法人職員の給与もこれに準拠する場合がほとんど。人事課などはこれへの対応が大変、遡及とかあると特に。
  • ロー:ロースクール法科大学院のこと。ホウカ(法科)とも言う。法曹に関する能力養成に係る専門職大学院。最近続々と学生募集を停止している。他専門職大学院と異なり、標準就業年限は3年間であることに注意が必要。
  • キョーショク:教職。1.教職大学院のこと。教員養成に係る専門職大学院。国として増加させる方針にある。教育委員会との関係が何よりも大切。2.教職課程のこと。教育職員免許法に定める教員免許取得のための科目配置であり、文科省へ科目認定を受ける必要もあるため、大学設置基準と相まって大変ややこしい。
  • カケンヒ:科研費。科学研究費補助金のこと。全ての学問分野において、日本学術振興会での申請審査に基づき研究費を配分する制度。研究者番号を持っていない者でも奨励研究に申請できるので、職員でも科研費に申請することは可能。一部基金化されたこともあり、科学研究費助成事業と名前が変わった。採択されると紫色の科研費シールがゲットできるらしい。
  • コーローカケン:厚労科研。厚生労働省科学研究費補助金のこと。厚生労働省が公募する研究費。研究費を補助するという意味では科研費と同じようなものであるが、経費使用について科研費よりも厳しい場合が多い為予算執行には注意が必要。
  • コクダイキョー:国大協。国立大学協会のこと。全ての国立大学法人及び大学共同利用機関法人で構成されている組織であり、「質の高い成果を挙げるための環境作りを行い、もって国立大学法人の振興と我が国の高等教育学術研究の水準の向上及び均衡ある発展に寄与すること」を目的としている・・・らしい。学内LANなどから見られる会員専用ページは各種審議会資料やデータなどが掲載されていてお得感がある。事務局は学術総合センターにあるが、狭い。
  • エーシー:AC。設置計画履行状況等調査(アフターケア)のこと。設置認可等をした大学等に対し、開設後きちんと運営できているかを設置審が書面や面接、実地により確認する。結果は公表されるが、読むとなかなか面白い。

 私の職務経験等に基づきごくごく一部を示した程度に留まっています。もっともっとありそうなので、砕けた感じのギョーカイヨーゴ辞典を作ってみても面白いかもしれませんね(他力本願)。普段何気なく使っている言葉であっても、改めてその意味を考えてみるものたまにもいいものです。

職員としての言葉遣いのこだわり

 大学職員として働く上で、どうでもいいほど些細なことですが、言葉の遣い方に対するこだわりがあります。

「本省」と言わない。

 法人化以前ならともかく、今更文部科学省のことを「本省」と呼ぶ道理はないだろうということで、「本省」という言葉は言いません。たいていの場合、「文科省」と言っています。なお、「本省」という言葉を言っている者に対しては、私の中のポイントがほんの少し下がります。

「先生」と「教員」を言い分ける。

 「先生」とは本来個人に付随する敬称であるため、不特定多数の教員の集合体を指す場合は「教員」もしくは「先生方」、特定の者を指す場合は「先生」と言っています。教員集団を「先生」と表現するのは、個別事例をすぐさま一般化しているような感じや無遠慮に教員集団を画一的に見ている気がして、なんとなく使いたくないですね。

「考える」と「思う」を言い分ける。

 これは以前弊BLOGでも言及しましたが、何かしらの事実に基づく場合は「考える」、自分の感情や思い・根拠のない推測を含む場合は「思う」と言っています。

 

 極力正確な言葉遣いを心がけているのは、それが自分自身の文書作成に意識的無意識的に反映されると考えているためです。正確でわかりやすく後世にも意味が伝わる文書を作成するためにも、まず自分自身の認識を整理しそれに基づく運用を行い、言葉と状況に対する感性を高めていかなければならないと思っています。