美大予備校では東京藝術大学の出願資格を得られない可能性がある。

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「高校進学することなく、中卒後即座に大手美大予備校の昼間部に所属し、3年間誰よりもデッサンと色彩構成と立体制作に明け暮れ、現役で東京藝術大学デザイン科に合格する」
という事をキャリアパスとして考えています。
この進路の舵取りは一般的に考えて極論中の極論だとは思いますが、この事の是非を質問として問いたいです。いかがでしょうか。

 結論から言うと、将来の夢はともかく、東京藝術大学の入学者選抜試験を受験できない(試験を受けて不合格になるのではなく、そもそも出願資格を得られない)可能性があるため必要な行動を慎重に考えたほうが良いですね。

 以下、現在の状況を踏まえて、もし私が同じ質問を受けたたらどのような根拠でどのように回答するかという視点で整理します。なお、当該者が受験するであろう令和5年度入試に同じ状況であるかは保証しません。

1.大学入学者選抜に係る法令等

 各大学で実施される大学入学者選抜は、好き勝手なんでもできるわけではなく、入学できる者や選抜方法の大枠が法令等により決まっています。各大学は、これらも踏まえ、入学者選抜試験を実施しています。

学校教育法

第九十条 大学に入学することのできる者は、高等学校若しくは中等教育学校を卒業した者若しくは通常の課程による十二年の学校教育を修了した者(通常の課程以外の課程によりこれに相当する学校教育を修了した者を含む。)又は文部科学大臣の定めるところにより、これと同等以上の学力があると認められた者とする。

2 前項の規定にかかわらず、次の各号に該当する大学は、文部科学大臣の定めるところにより、高等学校に文部科学大臣の定める年数以上在学した者(これに準ずる者として文部科学大臣が定める者を含む。)であつて、当該大学の定める分野において特に優れた資質を有すると認めるものを、当該大学に入学させることができる。

一 当該分野に関する教育研究が行われている大学院が置かれていること。

二 当該分野における特に優れた資質を有する者の育成を図るのにふさわしい教育研究上の実績及び指導体制を有すること。

学校教育法施行規則

第百五十条 学校教育法第九十条第一項の規定により、大学入学に関し、高等学校を卒業した者と同等以上の学力があると認められる者は、次の各号のいずれかに該当する者とする。
一 外国において学校教育における十二年の課程を修了した者又はこれに準ずる者で文部科学大臣の指定したもの

二 文部科学大臣が高等学校の課程と同等の課程を有するものとして認定した在外教育施設の当該課程を修了した者

三 専修学校の高等課程(修業年限が三年以上であることその他の文部科学大臣が定める基準を満たすものに限る。)で文部科学大臣が別に指定するものを文部科学大臣が定める日以後に修了した者

四 文部科学大臣の指定した者

五 高等学校卒業程度認定試験規則による高等学校卒業程度認定試験に合格した者(旧規程による大学入学資格検定(以下「旧検定」という。)に合格した者を含む。)

六 学校教育法第九十条第二項の規定により大学に入学した者であつて、当該者をその後に入学させる大学において、大学における教育を受けるにふさわしい学力があると認めたもの

七 大学において、個別の入学資格審査により、高等学校を卒業した者と同等以上の学力があると認めた者で、十八歳に達したもの

第百五十一条 学校教育法第九十条第二項の規定により学生を入学させる大学は、特に優れた資質を有すると認めるに当たつては、入学しようとする者の在学する学校の校長の推薦を求める等により、同項の入学に関する制度が適切に運用されるよう工夫を行うものとする。

第百五十二条 学校教育法第九十条第二項の規定により学生を入学させる大学は、同項の入学に関する制度の運用の状況について、同法第百九条第一項に規定する点検及び評価を行い、その結果を公表しなければならない。

第百五十三条 学校教育法第九十条第二項に規定する文部科学大臣の定める年数は、二年とする。

第百五十四条 学校教育法第九十条第二項の規定により、高等学校に文部科学大臣が定める年数以上在学した者に準ずる者を、次の各号のいずれかに該当する者と定める。

一 中等教育学校の後期課程、特別支援学校の高等部又は高等専門学校に二年以上在学した者

二 外国において、学校教育における九年の課程に引き続く学校教育の課程に二年以上在学した者

三 文部科学大臣が高等学校の課程と同等の課程を有するものとして認定した在外教育施設(高等学校の課程に相当する課程を有するものとして指定したものを含む。)の当該課程に二年以上在学した者

四 第百五十条第三号の規定により文部科学大臣が別に指定する専修学校の高等課程に同号に規定する文部科学大臣が定める日以後において二年以上在学した者

五 文部科学大臣が指定した者

六 高等学校卒業程度認定試験規則第四条に定める試験科目の全部(試験の免除を受けた試験科目を除く。)について合格点を得た者(旧規程第四条に規定する受検科目の全部(旧検定の一部免除を受けた者については、その免除を受けた科目を除く。)について合格点を得た者を含む。)で、十七歳に達したもの

入学者選抜実施要項:文部科学省

令和2年度大学入学者選抜実施要項について(通知)

標記の要項について,国公私立大学関係者及び高等学校関係者等の審議を踏まえ,別紙のとおり定めましたので通知します。

先月末に公表した「大学入学者選抜の公正確保等に向けた方策について(最終報告)」を踏まえたルールや調査書の電子化について,関係の諸事項を加えております。

各大学においては,本要項に基づき大学入学者選抜を適切に実施するとともに,引き続き入学者選抜方法の工夫・改善を進めるようお願いいたします。

2.東京藝術大学の出願資格

 東京藝術大学の2020年度(令和2年度)入学者選抜要項によれば、出願資格は以下のとおりです。

次のいずれかに該当する者で,本学の学部・学科で定める2020年度(令和2年度)大学入学者選抜大学入試センター試験(以下「大学入試センター試験」という。)の教科・科目のすべてを受験した者とする。【〔表3 〕9頁・〔表4 〕10頁参照】

(1)高等学校若しくは中等教育学校を卒業した者及び2020 年3 月卒業見込みの者

(2)通常の課程による12年の学校教育を修了した者,又は通常の課程以外の課程によりこれに相当する学校教育を修了した者及び2020 年3 月修了見込みの者

(3)高等学校を卒業した者と同等以上の学力があると認められる者及び2020 年3 月31日までに,これに該当する見込みの者

ア 外国において学校教育における12年の課程を修了した者及び2020年3 月31日までに修了見込みの者,又はこれに準ずる者で文部科学大臣の指定したもの

イ 文部科学大臣が高等学校の課程と同等の課程を有するものとして認定した在外教育施設の当該課程を修了した者及び2020 年3 月31日までに修了見込みの者

ウ 専修学校の高等課程(修学年限が3 年以上であることその他の文部科学大臣が定める基準を満たすものに限る。)で文部科学大臣が別に指定するものを文部科学大臣が定める日以後に修了した者

エ 文部科学大臣の指定した者

オ 高等学校卒業程度認定試験規則による高等学校卒業程度認定試験に合格した者(旧規定による大学入学資格検定に合格した者を含む。)及び2020年3月31日までに合格見込みの者で,2020年3月31日までに18歳に達する者

カ 本学において,個別の入学資格審査により,高等学校を卒業した者と同等以上の学力があると認めた者で,2020年3月31日までに18歳に達するもの

 (1)は、通常の高校や中等教育学校(ざっくり言うと中学校と高校が一体化した学校)の卒業生が該当します。

 (2)は、学校教育法逐条解説(コンメンタール)によれば、特別支援学校卒業生や高等専門学校3年次修了者が該当するものと考えられるようです。

 (3)について、今回のケースに該当すると考えられるのは、ウ・オ・カです。

 ウは、文部科学大臣指定専修学校高等課程一覧に該当する学科等を修了した者が該当します。美術系の専修学校高等課程も散見されますので、場合によっては、美大予備校でも出願資格が認められるかもしれません。

 オは、高等学校卒業程度認定試験高認試験、昔の大検)に合格した者が該当します。美術予備校に関するウェブページでも、高認試験の受験を勧めています。

高卒資格がないけど美大にいきたい!美大受験に備えて何が必要?

美大だけに限りませんが、大学へ進学するためには高卒資格が必要です。すでに退学したのであれば、「高卒認定」を取得しておきましょう。高卒認定試験は毎年8月と11月に行われ、合格すると「高校卒業と同程度の学力を有する」と認められた証となるものです。16歳以上で受けられるため、18歳を待たずに取得できます。
高卒認定試験は全8科目を一度に受ける必要はありませんが、全て合格する必要が。そのため、美大合格に欠かせない基礎的な画力を伸ばす前に試験勉強に取り組む必要があります

※一部誤解を招く表現があります。「16歳以上で受けられるため、18歳を待たずに取得できます。」とありますが、試験の合格に関わらず、合格者と認められるのは満18歳の退場日の翌日からです。そのため、オには「2020年3月31日までに合格見込みの者で,2020年3月31日までに18歳に達する者」という表現があります。

 カは、東京藝術大学が行う資格審査に合格した者が該当します。この審査は、「東京藝術大学個別入学資格審査に関する実施要項」に則り行われますが、審査の要件として高等学校相当の学習歴3年以上、学習歴の内容が高等学校学習指導要領に準ずると認められることが定められています。美術予備校がこれに該当するかは、ちょっとわからないですね。

3.東京藝術大学美術学部デザイン科の入学者選抜

 東京藝術大学の2020年度(令和2年度)入学者選抜要項によれば、美術学部デザイン科の入学者選抜方法は以下のとおりです。

大学入試センター試験:3教科3科目または4科目(国語及び外国語は必須)

個別学力検査:鉛筆写生、デザインⅠ(色彩)、デザインⅡ(形体)

●1次:個別学力検査等の成績により合否を判定する。●2次:2次個別学力検査等までの成績に,大学入試センター試験成績と出願書類(調査書等)の審査を加え,総合的に判定し,合否を決定する。

センター試験成績がどこまで重みづけされるのかはわかりませんが、それなりに勉強が必要なのかもしれません。

同要項によれば、平成31年度入試のデザイン学科の結果は以下のとおりです。

入学定員:45

志願者数:665

受験者数:646

合格者数:44

入学者数:44

受験倍率:14.8

4.東京藝術大学の出願資格を得るためには

 以上を踏まえ、美大予備校に通うという前提で東京藝術大学の出願資格を得るためには、以下の進路が考えられるかと思っています。2は限りなく少ないだろうと思うので、1か3が妥当なところでしょう。

  1. 高等学校に進学し、美大予備校にも通う(ダブルスクール
  2. 文部科学大臣指定専修学校高等課程一覧に該当する美大予備校に進学する
  3. 文部科学大臣指定専修学校高等課程一覧に該当しない美大予備校に進学し、高等学校卒業程度認定試験に合格する

 あるいは、大学が独自に行う個別の入学資格審査について東京藝術大学に問い合わせ、過去に美大予備校修了者に入学資格を与えたことがあるのか、具体的にはどの美大予備校かを聞いてもいいかもしれません(おそらく、個別事例なので教えてもらえないかもしれませんし、予備校では「高等学校相当の学習歴3年以上、学習歴の内容が高等学校学習指導要領に準ずる」と認められないのではないかと思いますが)。

 いずれの進路にしろ、高等学校学習指導要領に準拠した教育を受ける/学習を行うことは必要ではないかと感じています。