セミナー「学長のリーダーシップとその能力養成」に参加してきました。

名古屋大学 高等教育研究センター

第91回客員教授セミナー

講演題目:学長のリーダーシップとその能力養成

講演者:両角 亜希子 氏(東京大学大学院教育学研究科・准教授)

日時:2018年9月26日(水)15:00~17:00

場所:名古屋大学 東山キャンパス 文系総合館5階 アクティブラーニングスタジオ

講演概要

近年のガバナンス改革では、学長のリーダーシップを強化するために、その権限強化が図られてきた。大学が教育活動の質を維持・向上させていくために学長の役割が重要であるのは確かだが、学長のリーダーシップとは具体的にどういうことなのか、そうした手腕を学長たちはどのように身につけてきたのだろうか。発表では、教育改革を進めていると思われる大学の学長に対するインタビュー調査等の結果から、この問題を検討する。

 名古屋大学高等教育研究センター第91回客員教授セミナー「学長のリーダーシップとその能力養成」に参加してきました。平日の午後ということで参加者は必ずしも多くなかったですが、遠方からの参加者や理論から実務レベルまで活発な質疑応答など、参加者の問題意識の高さが感じられました。

 以下に、私が理解できた範囲でのみですが、記録を示します。なお、今回の発表は学長へのインタビュー調査が元になっておりますので、インタビュイーが特定されないよう、発表及び質疑応答の一部を記録からカットしています。

発表

  • 学長のリーダーシップへの期待は大きい。政策的には20年ほど同じ議論を行っている。大学教員も執行部には高い期待を抱いている。学部の専任教員への調査では、学長に対し、自大学の理解とビジョンの提示、構成員の調整などが期待されている。
  • 政策的には、学長への権限の集中が図られ、法改正など通じた制度面の支援と補助金など予算面の支援が行われ、学長がリーダーシップを発揮しやすい環境の整備が図られてきた。
  • 学長は業務の範囲が広く、業務に必要な能力も多いことが調査により明らかになった。昔ならば名誉職であったが、現在は非常に難しい仕事に取り組む専門職となっていると考えられる。
  • 諸外国の研究では、学長には合意形成を促すリーダーシップが必要であることやそのリーダーシップの多様性等が指摘されている。リーダーシップとはフォロワーシップとの関係で成立するものであり、権限強化だけでは成しえない。
  • 現在では上級管理職向け研修も多くある。個人的には、他の設置主体と比較しても国立大学はより厳しい状況に置かれていると思うが、そのためか国立大学の上級管理職向けの研修が増えてきている印象である。研修内容も高度化している。ただ、参加しているのは一部の大学・上級管理職であり、リーダーシップの更なる発揮のためには人材育成という観点は不可欠であると考える。
  • 学長は自身のリーダーシップをどのように考えているのか、どのように身につけてきたのかを明らかにするため、10人の学長に対するインタビュー調査を行った。
  • (以降、インタビューの内容等への言及は省略)
  • インタビュー調査をまとめると、リーダーシップには個人差もあるが、その発揮には大学の置かれた環境によるところも大きいと考えられる。外部環境が厳しい大学は学長が引っ張っていかざるを得ない。改革の方向性についてあらかじめ構成員の賛同を得ておくと、後々やりやすくなる。
  • 学長と必要な能力を整理すると、やりきる力(胆力)や自分の考えをわかりやすく短時間と伝える力、丁寧に話を聞く力が重要であると各者が認識していた。大学の方向性を理解してもらうためのコミュニケーションが大切である。
  • 執行部や学部長経験は学長の業務に有効であったようだが、ただ漫然と業務をこなすのではなく、それぞれの立場で独自の勉強をしていた点が大切である。
  • 仲間を作ることは将来のトップを育成するうえでも有効である。資質のある者をどのように育成していくかという課題もある。
  • 各大学の事情にあった質の高い学内経験が重要であり、経験をいかに積ませるのかという発想が必要である。
  • ガバナンスが多様な私学だからか、私学の学長研修が手薄であるという印象である。

質疑応答

  • Q.インタビューを行った学長は職員に対し大学運営にどのようにコミットしてほしいと言っていたか
  • A.教員は教育研究に専念し、職員は管理運営に積極的に関与してほしいと言っていた。大学運営から職員が除外されている文化を変えていきたいようだ。
  • Q.学長の選抜方法についてどのように考えるか。
  • A.選抜方法が就任後の学長としての在り方に影響を与える可能性はある。今回のインタビューでは学部の利害代表者のような意識をもった学長はいなかった。推薦者が退職し後ろ盾がなく苦労した話も聞いた。誰が学長である自分自身をサポートしているのかという視点は、どのような改革を行えるかということに影響を与えているのかもしれない。
  • Q.学部長の選抜方法として、学長が指名すべきか、学部から選出されるべきか、どのように考えるか。
  • A.一般論で言えば、学長が指名することにより一貫した改革が実現できると考える。学部長の選抜方法を変更した大学もある。ただ、大学による文化の違いも重要であり、自分たちで選んだということを重要視する組織文化もあり得るだろう。教員の自律性を育てながらそれを引き出していくことが大切であるという発言をした学長もいた。
  • Q.インタビューを踏まえて学長の現状をどのように認識しているか。また、私立大学長へのインタビューが多く、昨今の国の政策を踏まえると、国立大学長への調査もさらに行うべきではないか。
  • A."学者のリーダー"から"大学の顔"という立場の変化は強くなっており、学長自身もそれを自覚しているように感じた。ただ、併せて、実際には"学者のリーダー"としての個性を持った者が選抜されているようにも感じた。個人的には、国立大学の学長は政策で示された方向性に対応しているのみに感じており、ビジョンを打ち出して実現する学長のリーダーシップについてはどのように把握すべきか検討が必要だと思う。
  • Q.副学長との業務分担などで特徴的な事例はあるか。
  • A.副学長を新たに設置した学長もいた。副学長の配置や役割は多様であり、大学ごとの特性や学長自身が何を実現したいかにもよるだろう。学長が副学長を指名できることが大切だと考える。
  • Q.副学長をどのようにうまく活用していけばよいか。
  • A.副学長への権限の委譲が行われていないことがある。副学長にどのような仕事をしてもらうのかを明確にしていくことが必要。
  • Q.学長へのフォロワーシップはどのように考えるのか。
  • A.フォロワーとは大学の構成員を考えている。構成員は学長のブレーキ役足りうる場合もある。
  • Q.学長選抜の宗教的条件(クリスチャンコードなど)についてどのように考えるのか。
  • A.選抜が非常に限定的になってくると、選抜条件を変更することもあり得るのではないか。
  • Q.学長や学部長の任期はどれほどが適切だと考えるか。
  • A.学長の任期が4年では短く、6年くらいはあっても良いのかもしれない。学部長の任期も2年が多いが、学長からすれば短いという意見もあった。
  • Q.学長へのインタビューにおいて今の高等教育政策への意見はあったか。
  • A.私学の学長が多かったからか、そのような意見はなかった。ただ、法改正などで学長の権限を強化しても大学内の文化は変わっておらず、丁寧にやっていかなければならないという意見はあった。

所感

  • 両角先生が(理由は不明ながらも)国立大学がもっとも環境が厳しいと言っていたのが印象的でした。一方で、国立大学が国の施策に対応しているのみという点は、(もし「国立大学の経営」という言葉があるとすれば)国立大学の経営の限界を感じさせるところだと思いました。
  • 副学長がいない大学があることに驚きました。国立大学では複数名の副学長がそれぞれの役割(〜〜担当)を担っていることが多いです。

参考文献