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「教学マネジメントの改善と学修成果」シンポジウムに参加してきました。

『教学マネジメントの改善と学修成果』~学生支援型IRの可能性〜

 大学間連携協働推進事業による教学マネジメントシステムに関するシンポジウムに参加してきました。当日は関西学院大学でグローバル大学創生支援シンポジウムが行われている中、目測で100名以上の参加者がいました。各大学の事例もそうですが、特にパネルディスカッションが時間を超過するほど白熱したものになっており、なかなか興味深く聞くことができました。義本審議官の言葉からはこの先の展望も聞けましたので、それは良かったです。

 一部分だけですが、私の印象に残った発言を以下に記載します。正確に発言を書き取った訳ではなく、内容は全て私の私見が加わっている可能性がある点に留意願います。なお、文中言及がある「ハイインパクトプラクティス」とは、「能動的学修法や教室外プログラムなどを構造化し、学生に強いインパクトを与えるように工夫された教育プログラムの総称」とされています。

基調講演「主体的な学習者育成のための教育改革」(小笠原 大学教育学会会長)
  •  平成24年度の中教審「質的転換答申」では、学士課程教育の在り方が述べられている。高等教育の求められている社会的な役割が変化し、パラダイムがシフトしていることは関係者が認めるところ。情報革命により、講義の役割が変わったことは認めなければならない。しかし、この主体的な教育のあり方は、基礎学術分野においては昔から言われたことではないかという思いもある。質的転換答申は、昔の大学の雰囲気を取り戻せということであり、目指す方向性は昔の大学のパラダイムと変わらないのではないか。
  •  高等教育ツールは多様化しているが、それぞれに発展の経緯やカテゴリーがあり、階層化して考える必要がある。これらツールの概念は昔と変わらない。ツールは発展しているが、それをどう使うかは教育目標や学士課程の性格次第である。
  •  日本の大学は職業系(法科大学院看護学など)、基礎学術系(理学など)、実学系の3種類に分類できる。実学系は日本固有であり、工学部の土木系分野など一定の職業を想定したスクールが該当する。ただ、戦後は学術化した実学系が発展して、必ずしも職業分野を特定したものではなくなってきている。
  •  日本の高等教育は「追いつき追い越せ型」である。明治以来、国家による政策誘導が行われ、学術的課程と職業的課程が未分離で進められてきた。しかし、カリキュラムの構成原理は両課程で異なり、だからこそ学科名が580もある状況になった。このような状況は、基礎学術分野の教育の脆弱化や学科の自給自足主義などにつながり、教職員の過重負担を招く。
  •  基礎学術分野の教育戦略について。潮木のフンボルト理念に関する論文によると、フンボルト理念とは研究中心を指すのではなく、研究的な環境のもとに学生を教育するものである。これは現代の大学に当てはまる近代大学の理念であり、高等教育のポイントである。
  •  基礎学術系のパラダイムは昔と全く変わらない。ラボワークやアカデミックプログラムなど。欧米の有力校の学生は非常によく勉強するが、それは常に試験の成績につきまとわれているため。ディスカッション等のツールは基本的には試験対策である。
  •  職業分野の教育戦略について。職業的レリバンスがカリキュラムの構造を決めるため、外部の資格試験等がカリキュラムを定めることになる。現場と密着した実技実習が必須であり、PBLなど分野により確立された手法がある。また、これらを評価するシステムも必要である。職業系の課題は教養教育の構造化にある。例えば、医療系大学における教養教育は倫理問題と関係している。職業倫理と密着した教養教育の構造化が可能ではないか。
  •  実学的分野の教育戦略が問題。分野範囲が広く、卒業後の進路も多様である。教育目標が拡散し、カリキュラムが過重になる。また、達成目標が設定しにくく、カリキュラム管理がやりにくい。
  •  実学的分野の実際のカリキュラムを見ると、3年生に詰め込みすぎて破綻している。恐らく、複数ディシプリンが内包されており、すべてのディシプリンを並べてしまったためだろう。必要性はわかるが、実行不可能である。教育目標が拡散しカリキュラムが過重になっている。
  •  カリキュラムは特定型か汎用型かのどちらかにしなければならない。ただ、この判断はなかなか難しく、カリキュラムは一般的に総花的になる。特定の科目を重点化することも難しい。就活による卒業研究の蚕食やコースワーク配分の不均衡などの構造的な問題も考えられる。ハイインパクトプラクティス化やアクティブラーニング化のためには避けては通れない問題であり、全体で考えてどのように設計するかを検討しなければならない。
  •  横軸にディシプリン、縦軸にコンピタンスを整理し、それぞれの達成レベルを調整することで、縦横のネットワーク化による職業的レリバレンスの獲得をすることができるのではないか。
  •  ハイインパクトプラクティス化について。基礎学術分野か実学的分野かなどの学部学科の性格の把握が必要。また、教育学習戦略の選択や教育課程のスリム化による教育目標の明確化、卒業研究の位置付け・単位配分などを考える必要がある。大型クラスの学習支援がポイントである。さまざまな方法でアクティブラーニング化するために、さまざまな支援ツールを選択する必要がある。このようなツールを使えば、経験上、200名まではアクティブラーニング化できる。教育負担を考慮した改革が必要である。
各連携校より本取組の中間報告
  •  ハイインパクトプラクティスに関する取り組みは、教室外授業プログラムと教室内授業プログラムに分けて取り組んだ。教室外について、各大学で統一したプログラム要件を作成し、学習目標、活動、評価を三位一体として明確に設定することを心がけた。また、遠隔指導システムを開発し、インターンシップ等に教員が引率せずともモニタリングできるようにした。実習前後におけるアセスメントテストも行っている。システムの趣旨などを学生に伝えきれていない部分があり、今後改善の必要がある。
  •  グローバルスタディ(海外体験型プログラム)に参加した学生を見ると、参加の有無によりGPAや学習面での適応度なども異なる。うまくシステムを活用している者と乗り切れなかった者で別れていると考えられる。乗り切れていない者に対するなんらかの支援が必要である。
  •  ルーブリックによる学修成果の評価を重点的に行った。ルーブリックの科目での使用も広まってきている。今後は、ルーブリック自体の作り方をマニュアル化することを考えている。授業外プログラム(実習系科目)にはルーブリック使用を推進している。教員にアンケートをとると、学生の学習意欲の高まりや能動的学習への効果も若干見られた。ルーブリックは形成的評価がメインになる。一人一人にフィードバックすること、再提出の機会を設定することで効果が高まる。ルーブリックは目標である。それを達成するためのアサインメントを授業で出していく必要がある。
  •  全国の大学の副学長・全学教務委員長に対し、教学マネジメント調査を実施した。回収率33%であった。
  •  アクティブラーニングは全学に十分周知はされているとは言えない状況。アクティブラーニングへの取組状況も、スタートしつつある状況であることがわかり、課題であると考える。アクティブラーニングによる効果としての学生の学修時間増加はあまり確認できない。主体的な学びへの転換もまだこれからである。
  •  ルーブリックは各大学でほとんど実施されてない。アセスメント・ポリシーの策定やそれに基づく評価はほとんど対応できていない。ラーニング・ポートフォリオやティーチング・ポートフォリオもほとんど対応できていない。GPAやCAP制度への対応状況は分散している。科目ナンバリングはあまり対応できていない。
パネルディスカッション「教学マネジメント改革と学修成果の可視化」~その可能性と課題解決に向けて~
義本 文部科学省大臣官房審議官(高等教育局担当)
  •  各大学での取り組みは、平成24年に出た質的転換答申がきっかけになっている。認知は広まっているが、実際に取り組むことにはまだまだ課題があるという認識。文部科学省が平成24年度に行った調査では、一部の取り組みはまだまだ進んでいない状況であった。特にルーブリックについては、実施割合が極めて低く、根付くにはまだまだである。学習成果として調査する項目も各大学で模索中であることがわかる。
  •  APにおいては、学習成果の可視化は工学系からの提案が多く、人文社会系からはあまり提案されていない。また、規模が小さい大学からの申請が多かった。大規模私学から提案が少ないのは非常に残念。分野や規模に偏りがあり、取り組み状況は限定的であるという印象。今後は、学習成果の可視化の定着が大切。取り組みを行う大学の分野や規模も考慮しないといけない。また、認証評価など大学評価の活用も考えられる。
  •  高大接続については、高校教育と大学教育を合わせ、評価や学習方法の観点を強調することになる。高校段階は、今後学習指導要領が改正されることになるが、目標と学習方法、学習評価をセットとし、指導要領の構造を変えていく。高校段階における、より考えさせる授業の推進も大きなテーマである。高校と大学を一体で改革し、より考えていくような選抜方法を進めていく。
  •  アクティブラーニングやアセスメント・ポリシーについては各大学はあまり取り組んでいないが、卒業要件124単位などには取り組んでおり、これは設置基準に書いてあるためだと考える。設置基準上に3つポリシーを位置付けるということも考えられる。ただし、アセスメント・ポリシーは現状の定着を見ると位置付けが難しく、どのように対応すべきかバランスを考えて議論していきたい。個人的には規範的な仕組みが必要だと思っている。
  •  主体的学びとはなにか。質的転換答申では、予測できない事態が生じたときに活かせるように主体的に学ぶ必要があるとしていた。アクティブラーニングという言葉は学習指導要領にも頻繁に出てきている。最近はアクティブラーニングの双方向性のみが前面に出てきており、形だけが広まっていくのではないかという危惧がある。
  •  学習意欲をもたらすものは、自己決定性、自己効力感、随伴性認知である。これらを促進させるためには、学習共同体による人的ネットワークが一要因になる。
  •  学修成果の可視化とはなにか。量的指標で表現することと捉えられていが、活動が複雑多岐にわたる大学において、それだけで良いのか。一次元化するということはその他の要素を切り捨てるということになる。どんな感じで取り組みを行っているのかは見えてこない。量的指標の背景には質的情報があるという認識は大切。
  •  量的指標は、その質的な背景を共有するコミュニティにおいて価値がある。コミュニティ外に対しても、一定のアカウンタブルな機能は持つ。一人で求める量的指標は学びにはならず、コミュニティを形成することが必要。
  •  学修成果をどう評価するか。大学入試センターが開発したテストは、到達度を学修成果と位置付けていないため、実証的な検証が必要。学修成果とは、それぞれの領域の背景のもとで開発・確認していくことが原則であり、領域の共同体の中で検討していくことが良い。ルーブリックは、評価の厳格化ではなく、教員間や学生とのコミュニケーションの中で使用できるツールである。
濱名 関西国際大学学長
  •  学修成果の捉え方について。学修成果の可視化の必要は強く求められるようになってきたが、教員任せにはできない。大学・学部・学科レベルのアセスメント・ポリシーが必要になる。学修成果とはなにか。同じ言葉を使いながら違うことをイメージしている場合は多い。学修成果には、大学として、学科として、科目として、履修学生としてなど様々な観点がある。可視化は難しいが、エビデンスを活用して学生自身や社会を納得させるものである。また、可視化することにより、教育改善に使えるようになる。
  •  学生を学びに集中させるためには、学科単位での方策が必要。学科間の連携交流はなかなかうまくいかないが、連携するためのテーマを設けた方がうまくいくと考えている。連携は手段である。教員にとっては、科目の狙いなどを学生に伝えるようにした。教員の主体的な学生への関わり、Deep Learningの効果、難しい課題への挑戦、学生が多様な人々との交流が重要である。
  •  学生の行動経験が学修成果の予見に有効であるという前提で取り組みを行っている。うまくいっている学生や取り組みの謎解きをしている。学生の声を聞く重要性も大切。何を変えてみることで得られるリアクションを把握することが重要である。評価のツールはたくさんある。アセスメントすることのみではなく、そこから何を生み出すかが大切。
  •  学生に達成させたいものを発揮させ、学修成果を可視化すれば、できていることを見せることができる。学生は学修の専門家である。Deep Learningをどう実践し、身につけてもらうか。
質疑応答(会場からの質問シートへの回答)
  • (小笠原)日本におけるディシプリンとは何かという問題があるが、今この場では深く話せない。アクティブラーニングの問題とは、突き詰めると評価の問題、つまり教員の課題設定能力の問題である。教員が課題設定する際はネットと戦わざるを得ない。評価は教員と教員とのコミュニケーションであるが、人手と時間がかかる。組織的にどう解決するかを検討しないとできない。アクティブラーニングについて、必ずしも理系がやりやすく文系がやりにくいわけではない。文系は、これまでやってこなかったから、できないと思っているだけだろう。
  • (義本)評価と教学マネジメントの関連については、繋がっていないという徒労をどう解消するかということが大切。認証評価は手間がかかる。やらなければいけないところもあるが、データを持って語っていく点は簡素化できるのではないか。量的な目標、定性的な目標の設定の両方あるが、KPIの把握にはインフラの整備が必要なところもあり、支援する仕掛けや専門家の養成が大切である。大学マネジメントにかかる専門家をどう位置づけるかを設置基準に明記する。国の税金を使っている国立大学には、IRは全大学でやってもらうことが必要であり、第3期中期目標・中期計画に盛り込んでいくことになる。
  • (大塚)大学評価は、もともと大学間を比較しないというところから始まったが、それは非常に手間がかかる。定員問題など、各大学の事情を踏まえずに数値化することにより、数値が一人歩きしていくこともある。大学評価のための活動になってしまう。京都大学はAPの応募条件を満たせていない。組織的なIRについて、全学でどのような数値がどのような意味を持つのか気をつけないといけない。背景を含め、集団ごとの特性にそった統計値をうまく引きだす工夫が必要。
  • (濱名)インターンシップ等に適応しない学生について、アドミッションポリシーで明らかにしないといけない。本学は万人にとって良い大学ではない。非常勤講師に対しては、ハイインパクトプラクティスのうち簡単なものからやってもらっている。学生間のルーブリック評価について、組み合わせによって、可能性はある。全学教育のPDCAについて、アセスメント・ポリシーは必要であり、それによりPDCAサイクルの中に大学の特色を加味できる。このような取組を活性化するためには、学内での認識と方法論の共有しかない。知らないよりも知ってから反発された方がマシ。何を大切にしているかということが学内で共有されないといけない。
  • (義本)やらない理由を探し出す天才はおり、規範化など国が悪者になってやらないといけないこともある。学内の取組についても、一部部局の取組に留まっているなど、全学的にやっていないことはその旨を公表すべきである。情報を外部に出していく中で改革を進めることもありうる。国立大学の文系の改革を進めていく必要がある。
  • (大塚)大学教員の負担が増えている。運用上できることもあるのではないか?
  • (義本)ルールをどう円滑に運用していくかという点が大切。負担の問題について、様々なリソースの活用が必要。事務スタッフも含めた形でどのように協働していくのかが鍵になる。
  • (小笠原)就活の問題もあり、4年生の夏休みはないと同然である。なんらかの形で夏休みを作らないといけない。
  • (義本)4学期制の導入は増えているのは、その点が理由としてあるのではないか。インターンシップは今後中教審でも議論になる。企業とどう連携していくかということがポイントである。
  • (司会)多様な活動を多元的に評価していく中で、社会に対する大学の活動をどう見れば良いのか?
  • (義本)卒業生がどれだけ活躍しているのかに尽きると思う。いろんなものを組み合わせてやっていくしかない。また、情報発信を盛んにしていく必要はある。エピソードとストーリーは非常に意味があり、学生自身が変容していく姿を伝えることは効果がある。