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博士論文の疑惑に思う 〜学位授与と大学院教育〜

大学一般

小保方さんの博士論文、早大が本格調査へ : 科学 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

 理化学研究所小保方晴子ユニットリーダー(30)が早稲田大に2011年に提出した博士論文に、無断引用の疑いが見つかったことなどを受け、早大は、外部の有識者を交えて不正の有無を本格的に調査する方針を固めた。

 しばらく前から世間を騒がしているSTAP細胞に関する研究事案(以下、「本件」と言う。)ですが、論文著者の学位授与元である早稲田大学が博士論文の調査に乗り出すようです。本件について、早稲田大学HPでは公式のプレスリリースはありませんでした。公正研究の推進などの側面がある本事案ですが、幣BLOGでは本件を枕として「大学院教育」を考えてみます。

 まずは、法令から確認しましょう。大学院設置基準では、博士課程の修了条件について、以下の通り定めています。

大学院設置基準(昭和四十九年六月二十日文部省令第二十八号)

(博士課程)

第四条  博士課程は、専攻分野について、研究者として自立して研究活動を行い、又はその他の高度に専門的な業務に従事するに必要な高度の研究能力及びその基礎となる豊かな学識を養うことを目的とする。 

(博士課程の修了要件)

第十七条  博士課程の修了の要件は、大学院に五年(五年を超える標準修業年限を定める研究科、専攻又は学生の履修上の区分にあつては、当該標準修業年限とし、修士課程(第三条第三項の規定により標準修業年限を一年以上二年未満とした修士課程を除く。以下この項において同じ。)に二年(二年を超える標準修業年限を定める研究科、専攻又は学生の履修上の区分にあつては、当該標準修業年限。以下この条本文において同じ。)以上在学し、当該課程を修了した者にあつては、当該課程における二年の在学期間を含む。)以上在学し、三十単位以上を修得し、かつ、必要な研究指導を受けた上、当該大学院の行う博士論文の審査及び試験に合格することとする。ただし、在学期間に関しては、優れた研究業績を上げた者については、大学院に三年(修士課程に二年以上在学し、当該課程を修了した者にあつては、当該課程における二年の在学期間を含む。)以上在学すれば足りるものとする。

 第4条では、博士課程の目的が書かれています。本件について言うと、「研究者として自立して研究活動を行い」という点が関係してきそうな気がしています。第17条では、括弧書きが多く一見しただけではわかりにくいですが、博士前期課程と併せた5年間で30単位を取得し博士論文の審査及び試験に合格することが、博士課程の修了要件であると書かれています。

学校教育法(昭和二十二年三月三十一日法律第二十六号)

第百四条  大学(第百八条第二項の大学(以下この条において「短期大学」という。)を除く。以下この条において同じ。)は、文部科学大臣の定めるところにより、大学を卒業した者に対し学士の学位を、大学院(専門職大学院を除く。)の課程を修了した者に対し修士又は博士の学位を、専門職大学院の課程を修了した者に対し文部科学大臣の定める学位を授与するものとする。

2  大学は、文部科学大臣の定めるところにより、前項の規定により博士の学位を授与された者と同等以上の学力があると認める者に対し、博士の学位を授与することができる。 

学位規則(昭和二十八年四月一日文部省令第九号)

(博士の学位授与の要件)

第四条  法第百四条第一項 の規定による博士の学位の授与は、大学院を置く大学が、当該大学院の博士課程を修了した者に対し行うものとする。

2  法第百四条第二項 の規定による博士の学位の授与は、前項の大学が、当該大学の定めるところにより、大学院の行う博士論文の審査に合格し、かつ、大学院の博士課程を修了した者と同等以上の学力を有することを確認された者に対し行うことができる。

(学位の授与に係る審査への協力)

第五条  前二条の学位の授与に係る審査に当たつては、他の大学院又は研究所等の教員等の協力を得ることができる。 

 大学院設置基準で博士課程の修了要件を定め、同要件を満たした者に対し、学校教育法及び学位規則に基づき、大学は博士の学位を授与できます。なお、学校教育法第104条第2項及び学位規則第4条第2項は、所謂論文博士を想定しているものと考えます。

 早稲田大学では、博士課程の修了要件や学位授与要件について、どのように定めているのでしょうか。

早稲田大学 主な規約

早稲田大学大学院学則(1976年4月1日教務達第1号)

(博士課程の修了要件)

第14条 博士課程の修了の要件は、博士課程に5年(修士課程に2年以上在学し、当該課程を修了した者にあっては、当該課程における2年の在学期間を含む。)以上在学し、各研究科の定めた所定の単位を修得し、所要の研究指導を受けた上、博士論文の審査および試験に合格することとする。ただし、在学期間に関しては、優れた研究業績を上げた者について当該研究科運営委員会等が認めた場合に限り、博士課程に3年(修士課程に2年以上在学し、当該課程を修了した者にあっては、当該課程における2年の在学期間を含む。)以上在学すれば足りるものとする。

(博士学位の授与)

第15条 博士課程を修了した者には、博士の学位を授与する。

早稲田大学学位規則(1976年4月1日教務達第2号)

(博士学位授与の要件)

第4条 博士の学位は、大学院学則第14条により博士課程を修了した者に授与する。

2 前項の規定にかかわらず、博士の学位は本大学院の博士課程を経ない者であっても、大学院学則第17条により授与することができる。

学位論文

第10条 博士、修士および専門職学位学位論文は1篇に限る。ただし、参考として、他の論文を添付することができる。

2 前項により、一旦受理した学位論文等は返還しない。

3 審査のため必要があるときには、学位論文の副本、訳文、模型または標本等の資料を提出させることがある。

(審査料)

第11条 第9条の規定により、学位論文を受理したときは、学位の申請者にその旨を通知し、別に定める審査料を納付させなければならない。ただし、一旦納付した審査料は返還しない。

(審査員)

第12条 研究科運営委員会は、第7条第2項の規定により、学位論文が審査に付されたとき、または第8条および第9条の規定により、学位の審査を付託されたときは、当該研究科の教員のうちから、3人以上の審査員を選任し、学位論文の審査および試験または学識の確認を委託しなければならない。

2 研究科運営委員会は必要と認めたときは、前項の規定にかかわらず本大学の教員または教員であった者を、学位論文の審査および試験または学識の確認の審査員に委嘱することができる。

3 研究科運営委員会は必要と認めたときは、第1項の規定にかかわらず他の大学院または研究所等の教員等に学位論文の審査員を委嘱することができる。

(面接試験)

第14条 第8条の規定により学位の授与を申請した者については、博士論文の審査のほか、面接試験を行う。この試験の方法は研究科運営委員会において定める。

2 前項の規定にかかわらず、研究科運営委員会が特別の理由があると認めたときは、面接試験を行わないことができる。

(試験)

第15条 大学院学則第14条による試験の方法は、研究科運営委員会において定める。

学位論文の判定)

第18条 前条の審査の報告に基づき、研究科運営委員会は無記名投票により、合格、不合格を決定する。ただし、特別の場合には、他の方法によることができるものとし、その方法については、研究科長会の承認を得なければならない。

2 前項の判定を行う研究科運営委員会には、当該研究科運営委員の3分の2以上の出席を要し、合格の判定については、出席した委員の3分の2以上の賛成がなければならない。この場合の定足数の算定に当たっては、外国出張中の者、休職中の者、病気その他の事由により、引き続き2か月以上欠勤中の者、および所属長の許可を得て出張中の者は、当該研究科運営委員の数に算入しない。

3 前項の規定にかかわらず、研究科運営委員会が必要と認めたときは、当該研究科運営委員以外の第12条に規定する審査員を学位論文判定の審議に加えることができるものとする。

4 研究科運営委員会が第1項の合否を決定したときは、研究科長はこれを総長に報告しなければならない。

(学位の授与)

第19条 総長は、前条第4項の規定による報告に基づいて学位を授与し、学位記を交付する。

2 学位を授与できない者には、その旨を通知する。

教育課程や単位、卒業の要件などに関する情報|早稲田大学情報公開

 博士課程の修了要件として、「各研究科の定めた所定の単位を修得し、所要の研究指導を受けた上、博士論文の審査および試験に合格すること」となっています。早稲田大学先進理工学研究科では、博士前期課程で30単位以上の単位取得を修了要件としており、そのまま博士後期課程に進学した場合は取得単位数は0でも修了できるようです。

 また、早稲田大学学位規則には、細々とした学位授与要件が定められています。本件にてハーバード大学教授が博士論文審査の副査を務めたのは、同規則第12条第3項に基づいたことであり、つまり研究科運営委員会の同意の上で行われたことなのでしょう。(余談ですが、第11条にある「博士論文審査料」(博士論文審査手数料)というのは、立ち位置や徴収意義がよくわからないなと思っています。博士課程の修了要件に「博士論文の審査および試験に合格すること」とあるのならば、博士課程授業料の中に含まれるのが然るべきではないでしょうか。おそらく論文博士審査への対応が主目的だとは思いますが、課程博士審査との兼ね合いがうまく整理できないところです。)

 早稲田大学は、2006年に(公財)大学基準協会による大学機関別認証評価を受審し、大学基準に適合していると認定を受けています。当時の自己点検・評価報告書を確認すると、理工学研究科生命理工学専攻(当時)の教育体制や博士論文の基準等について、以下の通り記載されています。なお、当該研究科は2007年に現在の研究科に改組されていますので、現在とは状況が異なる可能性があります。

2005年度自己点検・評価報告書

ⅡA群  博士課程(一貫性)の教育課程における教育内容の適切性 

 博士課程においては、各専攻・分野において研究指導を受け、博士論文を作成する。博士論文作成に至るまでの過程における、研究者として自立して研究活動が行える素養を身につけるための指導は適切である。修士課程と博士後期課程は、同一の研究指導を受けることが基本となっており、研究の内容は連続的である。

ⅡA群  課程制博士課程における、入学から学位授与までの教育システム・プロセスの適切性 

 博士後期課程を修了するには、「博士後期課程に3年以上在学し、本研究科の定めるところの研究指導を受けた上、博士論文の審査および最終試験に合格しなければならない」と定めている。第一線級の独創的な研究を通じて、次の時代を担う研究者を育成・輩出すべく適切な指導が行われている。優れた研究業績を上げた者については、本研究科委員会が認めた場合に限り、この課程を1年以上在学すれば足りるものとしている。博士後期課程を修了した者には博士(工学)、博士(理学)、および博士(建築学)の学位を授与している。 

ⅡB群  教育・研究指導の効果を測定するための方法の適切性 

 生命理工学専攻では、学位論文に対する指導は指導教員を中心として行われている。修士学位論文では生命理工として、抄録集をつくり他分野の生命理工教員も参加して発表を実施し、審査している。博士課程に関しては、自らの出身学科の二階建て構造の専攻基準に合わせて論文を受理し、その後論文審査にあたる審査員を中心として審査を行い、専攻内で審査報告書の説明に基づき合否を決定している。生命理工学の専門分野は多岐にわたるので、学位論文はその学生が通じる基礎となる専門分野の基準を基本的に適用している。広い分野であるため、単なる発表論文数にのみ判断をとらわれることなく、研究指導を通じて学生が得た知識や研究能力を見て、将来性を判断している。

ⅡB群  学生の資質向上の状況を検証する成績評価法の適切性 

 修士課程・博士課程ともに作成した論文(修士論文、博士論文)が最も重要な評価対象となる。論文の審査にあたっては各専攻において基準が設けられており、この基準に照らし合わせて評価が行われる。博士課程では学会誌への掲載状況等の業績も論文提出の基準となっており、このことによって審査の客観性が担保されている。

ⅡA群  修士  博士の各々の学位の授与状況と学位の授与方針・基準の適切

 博士課程の修了要件は、大学院博士課程に5年(修士課程に2年以上在学し、当該課程を修了した者にあっては、当該課程における2年の在学期間を含む)以上在学し、研究科の定めた所定の単位を修得し、所要の研究指導を受けたうえ、博士論文の審査および試験に合格することとしている。 

博士学位の授与基準は別表(P63 以下)にまとめたように専攻ごとに基準が異なる。他大学研究科における基準と比較しても適切であると判断している。 

ⅡB群  学位審査の透明性・客観性を高める措置の導入状況とその適切性 

 「早稲田大学学位規則」によって学位授与に関する事項を規定している。第 14 条(面接試験)、第 15 条・第 16 条(試験)、第 17 条(審査結果の報告)、第 18 条(学位論文の判定)、第 20 条(学位論文の公表)が該当する。 また、「学位審査に関する内規」(1975 年3月 13 日)で、(Ⅳ)公聴会、(Ⅴ)論文審査と資格検定、(Ⅵ)審査分科会による合否判定、(Ⅶ)研究科運営委員会による判定、(Ⅷ)大学および文部科学省への報告など、学位審査の透明性、客観性を高める措置について明文化している。 要約すれば、研究科運営委員会によって学位受理を承認し、審査分科会は構成員の3分の2をもって成立し、無記名投票によって審査分科会としての学位授与の合否を判定する。この判定結果を資料として、最終的な合否判定を研究科運営委員会において行う。学位申請者は必ず公聴会を行わなくてはならない。また、論文概要は大学院理工学研究彙報により、論文審査報告書は早稲田大学広報によって印刷広報されている。以上のように、学位審査に関して透明性、客観性を高める適切な措置がとられていると判断している。 

また、筆者は「早稲田大学グローバルCOEプログラム 「実践的化学知」教育研究拠点」にも一部参加していたようですので、その教育も受けていたのかもしれません。

 当該報告書を確認すればわかるとおり、教育体制や基準など、専攻によってかなり異なっていることがわかります。これは早稲田大学に限った話ではなく、国立大学も含め、すべての大学院研究科に共通するのではないかと考えています。

 前期課程後期課程を含んだ大学院教育は、研究指導など研究室での教育(以下、「研究室教育」と言う。)を基本としていると考えています。これは、ボローニャ大学からの流れを汲む"ギルド"的な教育体制の名残であるとも言えるでしょう。ただ、現在の多様化細分化した研究分野においては、研究分野=研究室=担当教員というタコツボ化が進んでいるとも想定できます。

 一部報道では、筆者が修了した早稲田大学の研究室におけるコピペ文化についても、言及があったところです。(飛躍はあると自覚しつつも)既存の研究室教育における研究室の文化というとは、つまり担当教員の文化でもあると考えられないでしょうか。講座制の廃止などに伴い、固有な文化が過度に定着し、自浄作用が働かなかったとも想像できます。当該研究室の実情を詳しく知らないため、あくまで想像の域を出ないところですし、そうではないと考えたいところです。しかし、研究室教育を前提とするならば、どこの大学院研究科でも起こる可能性のある問題です。

 今夏に京都大学で行われた高等教育質保証学会第3回大会で、熊本大学GSISの鈴木教授が「自分の授業の空間に他人が出てくるのが許せないという教員が一番問題だ」という発言をしていましたが、大学院教育においてもそれに近いものがあると感じています。

 長くなりましたので、国が大学院教育に対してどのようなアクションを起こしているか、各大学院がどのような教育体制を取っているかなどは、また次回以降に。